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ギャルと陰キャの純愛生活

作者: 紫龍院 飛鳥


序章



「…香純かすみさん、起きてください…もう朝ご飯できましたよ」

「う、う〜ん…あー、おはよう愛斗まなと

「おはようございます…」


私、『乾 香純』 高校二年生…私は今、わけあって彼と二人で暮らしています。

と、いうのも私と彼は互いの親同士が認めた『許嫁』なのです。


時は少しだけ遡って数日前…あれは、高一の三学期が終わり明日から春休みになるってウキウキしてた時のことだった。


「たでーまー」

「『ただいま』だろ、それぐらいちゃんといいなさい…」

「るせぇクソハゲ親父、んな細かいことばっか気にしてっから頭頂部大変なことになってんじゃん…」

「ったく、お前は相変わらず減らず口を…まぁいい、ちょっと話がある、そこへ座りなさい」

「何?急に改まって?」


急に真剣な面持ちになる父、私はちょっとだけ不安になる


「明日から春休みだろ?実は父さんな、お前にある人(・・・)を紹介したいと思っててな…」

「ある人?まさかお父さん、再婚でもすんの?」

「いや、そうじゃない…」

「だってさ、よくこういうタイミングでそんな話持ち出されたら再婚するって言うって思うじゃん?」

「バカなことを言うもんじゃない!それに父さんはまだ死んだ母さんのこと今でも愛してるんだ!」

「へぇ、そりゃ良うござんした…で?再婚じゃなかったら何なのよ?」

「まぁいいから、そのことは明日説明するから…とにかくそういうことだから、頼むぞ」

「へぇい」


…一体誰を紹介するつもりなのかな?再婚でもないとしたら、もしかしたら内緒で他所で作った隠し子とか!?

いや、あのお父さん(ハゲ)に限ってそれはないか…なんせお母さんが生きてた頃なんてウザいぐらいにラブラブだったもんな…だったら誰なんだ?うーん…でもま、明日になれば分かることだし、あんま深く考えんのやーめよっと。




【翌日】



私はお父さんに連れられてちょっと高級そうな料亭に連れて来られた

そこの個室の一室で相手が来るのを待つ。


「失礼します、お連れ様が到着致しましたのでお連れしました…」

「いやぁ『カッちゃん』ゴメンねぇ〜待たせて!」

「『ナオちゃん』!いやぁ久し振り!元気だった!?」


と、現れたのはお父さんと同い年ぐらいのおじさんとその奥さんと思しき女性…お父さんのこと『カッちゃん』って呼んでたけど、お父さんの昔の知り合い?


「紹介しよう、彼は父さんの子供の頃からの大親友の『佐渡 直斗』さんとその奥さんの『愛子』さん!二人とも仕事の都合で十年ぐらい東京から離れてたんだけどつい先日こっちに帰ってきたんだ」

「君が香純ちゃんかい?初めまして!佐渡です!」

「は、初めまして…」

「まぁ綺麗な子!お人形さんみたいね〜!」

「は、はぁ…」

「まぁ見ての通りこんな金髪で派手な見た目の子ですが、根は優しい子なんでよろしくしてやってください」

「よ、よろしくって、てゆうかお父さんこの人達、何?」

「ん?だから父さんの子供の頃からの大親友だって…」

「いやそれは分かったけど、どういうこと?この人達が私に紹介したい人?」

「いや、そうじゃなくて…あれ?まだ来てないの?」

「いや、一応一緒に来てはいるんだがな…」

「ほら!『愛斗』!いつまでそうしてるの?早く入ってらっしゃい!」


と、おばさんが廊下の外にいたであろう人を引っ張って連れてくる。


「紹介するわね、ウチの息子の『佐渡 愛斗』」


そう言って連れてこられたのはやたらと背の高いモジャモジャの天然パーマで死んだ魚のような目をしたマスクで顔を隠した大人しそうな私と同い年ぐらいの男子だった。


「………」

「ほら、ちゃんと挨拶しなさい!」

「…(ペコリ)」


と、おばさんに促され無言で会釈する


「ゴメンなさいねぇ、ウチの子ちょっとシャイなとこあって…」


ちょっとシャイ?そんな可愛いレベルじゃないっしょ!?完全にコミュ症レベルじゃん!私が言うのもあれだけど、私と全く逆じゃん!

てか、この流れってまさかと思うけど…


「実は父さんな、ナオちゃん…直斗さんと子供の頃に『お互い結婚して男の子と女の子が生まれたら結婚させよう』って約束してたんだ」

「えっ!?嘘でしょ!?ま、まさか…」

「そ、そのまさかさ!」

「今日から君達は、親公認の『許嫁』だよ!」


(う、嘘でしょぉぉぉぉぉぉ!!)




第一章 突然の許嫁



突然父に紹介された父の大親友とその息子、まさかまさかの父親同士で自分達の子供達を結婚させようと考えていたなんて誰が想像できたことか…。


「いやぁそれにしても約束覚えていてくれて嬉しいよカッちゃん!」

「当たり前だろ?俺が一度でもナオちゃんとの約束忘れたことあった?ないだろう!ハッハッハッ!」


親同士で勝手に盛り上がっている…

一方で当の本人はずっと俯いて黙ったままでいる、てゆうか会ってからまだ一言も喋ってないなコイツ…。


「ほら、あなたも黙ってばっかりいないで香純さんと話でもしたら?」

「………」

「もう、しょうがないわね…ゴメンなさいねぇ、この子緊張しちゃってるみたいで…」

「い、いえ…お構いなく」

「でも、これだと将来結婚するっていうのにとてもじゃないけど心配だわ…」

「うーん…おっ!良いこと考えたぞ!」

「??」

「この際だ、どうせ将来結婚して一緒に暮らすことになるわけだからな、今の内から二人で一緒に暮らしてみるっていうのはどうだ?」


「「!!?」」


「おっ!ナイスアイデアじゃないかナオちゃん!」

「そうね、流石だわアナタ!」

「はぁっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!お父さんも何考えてんの!?普通賛成する?こんなイカれた提案!」

「何言ってんだ、いいじゃないか同棲…父さんだってな母さんと結婚する前三年間一緒に暮らしたもんだぞ!」

「それとこれとは話は別!てゆうかアンタもずっと黙ってないでなんか言えば!?」

「!?、えっと、あの…」

「か、香純ちゃん!気持ちは分かるけどどうか抑えて!」

「そ、そうだぞ香純!落ち着け!なっ?」


…その後、一時間ぐらい親達に説得させられ、結局上手いこと丸めこまれて私達は一緒に暮らすこととなった。



・・・・・



数日後、これから二人で暮らしていくことになるマンションに引っ越して来た。


中はそこそこ広くて住みやすそうな感じで家賃などの生活費の方は卒業までの間は互いの親が負担するそうだ。


それを差し引いたとしても、会って間もない男といきなり許嫁にされていきなり同棲って…どうかしてるよ


肝心の向こう(愛斗)もほとんど喋らないから何考えてるか分かんないし、ずっとマスクしてるから顔だってちゃんと見えないし…この先思いやられるよ全く。


…と、荷解きも全て終わり急にどっと疲れが出てきてうとうとと眠ってしまった。



…目を覚ます頃にはもう既に夕方になっていた。



“グゥ〜…”



「…お腹空いた」


するとその時、キッチンの方から料理をする音ととてもイイ匂いが漂ってきた。


「あっ…」


キッチンの方へ行ってみると、愛斗が夕飯の支度をしてくれていた

すごいイイ手際でフライパンで食材を炒めている、


「…あっ、どうも」

「あ、うん…料理、できるんだ?」

「…まぁ、ウチ両親二人とも共働きだったから」

「ふぅん…」


思えばウチも片親しかいなくてお父さんと二人で暮らしてたけど、私もお父さんも料理の腕前は壊滅的でいつもご飯はコンビニ弁当か出前ばっかりだったっけなぁ…

ガチの誰かの手料理ってホントに久々かもしれない…。


「…できました、お口に合えばいいんですけど」


と、出てきたのは美味しそうなオムライス

オムライスなんてほとんどファミレスのお子様ランチでしか食べたことなかったっけな…。


「じ、じゃあ…いただきます」


早速一口食べてみる…すると食べた瞬間信じられないぐらいに美味しくて自然と顔が綻んだ。


(な、何コレ!?超美味しい!オムライスってこんな美味しかったっけ!?)


「あ、あの…」

「ん?あぁゴメンゴメン!美味しい!すごく美味しいよ!」

「よ、良かった…」


美味しいと言われて安堵したのかホッとした表情を見せる愛斗、マスク越しなのに何故かそれだけは分かった。


「あれ?アンタ食べないの?」

「あ、えっと…僕は後でいただきます」

「ふぅん、そう…」



・・・・・



…そして、あっという間に春休みも終わり、今日から二年生だ。


「…あれ?アンタその制服!」

「あ、あぁ…」


見ると愛斗はウチの学校の制服を着ていたのだった。


「嘘、アンタも私と同じ学校通うの!?」

「あ、まぁ…」

「マジで…」


家でも一緒で学校でも顔合わさないといけないとかサイアク…


「あのさ、これだけは約束して!私とアンタが一緒に暮らしてることも私達の関係のことも一切秘密にして!いーい!?」

「は、はい…」

「ならよろしい!」


と、まぁこんな感じで学校まで急ぐ



…始業式も終わり、二年生最初のホームルームが始まる


「はーい、みんな進級おめでとう!また今年度もこの同じ顔ぶれのクラスで一年間やっていくわけなんだが…実はな、今日からこのクラスに一人、転校生が入ることになった!」



“ザワザワ ザワザワ”



転校生と聞いて騒つく一同、無論私はその倍は心が騒ついていた…もう、嫌な予感しかしない。


「はい、じゃあ入って!」


ガラリと戸が開いて入ってきたのは見覚えのあるモジャモジャノッポのマスク男…紛うことなき愛斗だった。


「紹介します、転校生の佐渡 愛斗君だ…みんな仲良くするように!」


「何?女子じゃないの?」

「なんだ男かよー!」


「背ぇ高…でも顔見えない〜」

「でもちょっとカッコ良さげじゃない?」


「はいはい静かに!じゃあ佐渡君、何か一言挨拶を…」

「…佐渡です、あの…よろしく」


…ホームルームの後、愛斗はクラスメイト達に囲まれる

転校生によくありがちな質問攻めだ。


「ねぇねぇ君身長何cm?もし良かったらバスケ部入らない?」

「なんか趣味とかある?彼女は?」


「え、えっと…あの…」


クラスメイト達のあまりの質問攻めに困り果てた顔をする愛斗

…仕方ない、ここは私が助け舟を出してやるか


「はいはい!もうその辺にしてやんな!佐渡君困ってるでしょ!」

「あ、そっか…ゴメンな佐渡君」

「また後でゆっくり話そ」

「…あ、あの」

「礼には及ばないよ、私このクラスじゃ発言力強い方だから…また困ったらいつでも言いな」

「は、はい…」


『(小声)言っとくけど、約束(・・)…ちゃんと守ってよね』


「…(コクリ)」



…それから三日が経った、愛斗は一部の男子のクラスメイトと馴染むようになり普通に会話している。

その一方で女子と話す際は相変わらずキョドったり目が泳いだりしてる…

思えば、私と話す時も目があったことなんて一度もないし男子とは普通に話すのに私も含む女子には全て敬語だ…

どうやら愛斗はただのコミュ症というわけではなく、極端に女子が苦手なだけかもしれない…。



ある日の帰り道…。


「愛斗!」

「あ、香純さん…」

「どう?その、クラスには馴染めた?」

「あー、まぁ…はい」

「見たところだと一部の男子達とは仲良く喋ってたみたいだけど?」

「はい…」

「もしかしてさ、女の子…苦手的な?」

「…はい」

「やっぱし、私とも会ってから一回も目合わせたことないもんね」

「…すみません」

「別に謝らなくてもいいよ、これからゆっくり馴染んでけばいいじゃん」

「………」




【夜】



「はぁ、いい湯だった…愛斗は、もう寝たのかな?まぁいいや、テレビ見よ」


テレビをつける、するとそこでたまたま映ったのは『イジメ』について特集した番組だった。


『そうですか…では、出かける時などは常にマスクを?』


『はい、そうなんです…なんかもう、マスクなしだと人の視線とかが怖くて怖くて…』


(常にマスク…そういえば、愛斗も四六時中ずっとマスクつけてるよね?ご飯だって、私の目の前だと絶対に食べないし…まさか、愛斗も?)


思い返せば思い当たる節だらけだった、人前じゃ絶対にマスクを外そうとしなかったし…きっと愛斗もこの人と同じように人の視線に恐怖を感じるほど酷い目にあってきたのかな?

…だとしたら、私にも何か愛斗の為にしてあげれることあるかな?



・・・・・



【日曜日】



「あのさ、愛斗…今日天気イイしさ、その…良かったら外一緒に出かけない?」

「えっ…」


突然の私の誘いに戸惑いを見せる愛斗


「…まぁ、香純さんが行きたいというなら」


ということで、愛斗と一緒に外へお出かけすることに…


「さてと、何する?」

「そうですね…んー、映画…とか?」

「映画!イイネ!アタシ映画好き!行こ行こ!」

「あっ!ちょっと!」


映画館に到着、二人してみたい映画を選ぶ


「愛斗って、普段映画ってどんなジャンル見るの?」

「何でも見ますよ、アニメ映画やアクション映画に洋画も少々…」

「あ、私も洋画好きだよ!お父さんが洋画好きでさ、実家にいっぱいブルーレイあるんだ!洋画だけじゃなくて他のも見るけど、あっ…ていってもホラーとかスプラッタ系はマジ勘弁!夜寝れなくなる…」

「意外と、繊細なんですね…」

「悪かったな!これでも一応乙女なんだぞ!」

「す、すみません…」

「まぁいいや…あ、これとかどう?めっちゃ面白そうじゃない?」

「アメリカのコメディー映画ですか…いいですね」

「よっし、じゃあチケット買ってこよ!」



【上映中】



「うわっはっはっは!」

「…プッ、フフフ!」


私が隣で爆笑する中、愛斗も私の隣で静かめにめちゃくちゃ笑っていた。



「あー、面白かった…笑いすぎてお腹よじれるかと思った!」

「途中、ほとんど香純さんの笑い声しか聞こえませんでした…」

「あ、ゴメン…うるさかった?」

「あ、いえ!字幕版だったからそれで十分楽しめましたし…」

「そか、にしてもいっぱい笑ったから腹減ったな…お昼にしようよ!」

「え、あぁ…そうですね」

「??」

「………」

「あー…えっと、あっ!あそこのラーメン屋どう?あそこカウンター席だからお互い向き合わないから顔見えないし!」

「え、えぇ…」


「へいらっしゃい!二名様ご案内!」


カウンター席に座る、二人とも味噌チャーシュー麺を注文して食べた。


「ありがとうございましたぁ!」

「美味しかった、やっぱりラーメンは濃厚な味噌しか勝たんね!」

「そうですね、僕もラーメンはどちらかと言えば濃い目の味噌派です」

「おっ?分かってるじゃん!絶対あっさり系の塩とか醤油派だと思ったけど…」

「いやまぁ、そっちも決して嫌いではないんですけど…」

「冗談だよ、私だってたまには塩も食べるし」

「…あの」

「ん?」

「いや、やっぱりいいです…」

「何よ、言いたいことがあるならはっきり言いなよ」

「…じゃあ、いつから気づいてたんですか?僕が人に顔を見られるの苦手だって…」

「あー、ね…まぁ最初に会った頃からなんとなくそんな気はしてたけど、前にテレビでイジメの特集番組みたいなのやってたの見てさ、その人も他人からの視線が怖くてマスクが手放せないって人でさぁ…もしかしたら、愛斗もそうなのかも、って」

「………」

「何があったかはいちいち詮索するつもりはないから安心して、人間誰しも話したくない過去やトラウマの一つや二つあるもんでしょ?でもさ、せめて私にもなんかできることないかなー?って思って、こうしてアンタを外に連れ出して一緒にパァっと遊べば少しは楽しい気持ちになるかな?って思ったけど…正直なとこ、どう?今日楽しかった?」

「えぇ、もちろん…僕、昔からあんまり友達いなかったからこうして誰かと一緒にお出かけしたり、外で一緒にご飯食べるの初めてだったから…とても、嬉しかったです!ありがとうございました、今日は一日付き合ってくれて」

「ま、まぁ…これでも一応、曲がりなりにも許嫁だし」

「香純さん…」


すると、その時だった。


「あれー?カスミンじゃん、こんなとこで会うなんて超奇遇じゃん!」


(ゲッ!?)


そこへ現れたのは私の友達でクラスメイトの『ミカリンとチャンまき』だった。


「うぃーすカスミン!こんなところで何してんの?」

「あれ?佐渡君もいるじゃん…てことはもしや、二人でデート?」

「!?」

「はぁっ!?」

「えっ?何ナニ!?カスミンと佐渡君ってそういうカンケーだったの!?」

「いや、違うし!まな…佐渡とは、たまたま?バッタリ?偶然会っただけだし!ねぇ佐渡!」

「えっ、えぇ…そう、です、ね…」


急に女子が増えたせいか、滝のような汗を垂らし溺れてんじゃねぇかっていうほど目が泳ぎ出す愛斗


「んー、なんか怪しい…ホントはなんか隠してんじゃないの?」

「え〜?なんのことぉ?全然知らないよ!」

「そう、です…僕、達、何も、知らない」


コイツ段々悪化していく!テンパりすぎて言葉も変な片言になってるし!私も大概だけど愛斗も絶望的に嘘つくの下手すぎない?


「さ、白状しなさい!さっきから白々しいのよ!観念しなさい!」

「く、くぅ…」



・・・・・



と、まぁその後色々あって私達は二人にカラオケボックスに連行されてそこで洗いざらい吐かされた。


「「えぇ〜〜〜!?二人は許嫁な上に現在絶賛同棲中!?」」


「…まぁ、そうなるよね」

「マジで!?いつからよ!?」

「春休みから、一緒に暮らしてる…」

「マジか!?お前ら少女漫画の世界の住人かよ!父親同士が親友同士でお互いの子供を許嫁にして二人暮らしさせるとかリアルで初めて見たわ!」

「………」

「で、実際のところどうなの?もう既に恋が芽生えちゃったりして?」

「!?」

「いや!ないないない!だってまだ一緒に暮らし始めて数週間とかしか経ってないんだよ?そりゃまぁ、出会った頃は『何なのコイツ?こんな奴といきなり一緒に住めとかありえない!』とか思ってたけど、料理は上手いし…好きなものとか食べ物とかの好みもやたら合うって分かったし、最初の頃よりは嫌じゃなくなってきたっていうか…」

「おぉ…第一印象は最悪だったからの〜!一緒に暮らし始めて垣間見える相手の新たな一面にキュンときちゃうパターン!どんだけ少女漫画なんだよお前ら!もうそのまま実写化しろ!」

「そうだよ!うらやましすぎるぞコンニャロが!」

「………」



…結局その後、夜まで二人に付き合わされて帰る頃には少々クタクタになっていた。


「あー、疲れた…今日はなんかゴメンね、まさかあの子らと鉢合うとか予想外だったからさぁ…疲れたっしょ?」

「えぇ、まぁ…でもカラオケボックスなんて行ったの初めてだったので楽しかったです」

「あ、そうなんだ…」

「すぐ夕飯の用意しますね」

「ありがと、でも今日はもう遅いし愛斗も疲れてるっしょ?出前でもとろうよ!ピザ!ピザ頼もう!」

「えっと、じゃあお言葉に甘えて…」

「おけまる!じゃあ早速注文するね!」


ピザを頼んだ後、暫しの間沈黙が流れる。


「…あの、香純さん」

「ん?」

「その、昼間話した僕がマスクで顔を隠すようになった理由…」

「えっ?話してくれんの?無理しなくていいよ?」

「いえ、ゆくゆくは話そうと思っていたので…」

「愛斗…」


それから愛斗は、何故自分がこうなったのかを赤裸々に話してくれた。


愛斗は子供の頃から女の子と話すのが苦手で、おまけに極度の緊張しいですぐに顔が赤くなってしまうのだという…。

そんなある日、小学校六年の頃にクラスの女の子からこう言われたそうだ…

『佐渡君はエッチなことばかり考えてるからいつも顔が赤いんだ』と…それからは卒業するまで毎日のように変態扱いされてクラスのみんなからからかわられて過ごしてきたという。


それ以来、人に顔を見られることに段々と恐怖を覚えるようになり、中学生になる頃にはずっとマスクが手放せないようになったとのことだった。


そのおかげで性格も内向的になり、中学時代はほとんど友達が作れずにいたという。



「そう、だったんだ…」

「おかしいですよね、笑ってください…」

「笑わないよ?言ったじゃん、トラウマになるくらい苦手なことの一つや二つ誰にだってあるって、例えば私なんて子供の頃犬に手酷く噛まれてからそれからもう犬絶対無理だし、後暗いところとか雷とかも嫌いだし…それに」

「ありがとうございます、もう大丈夫です…」

「とにかく、これからまた徐々に慣れていこうよ!私も協力するからさ…」

「香純さん…」



“ピンポーン!”



と、丁度そこへ頼んだピザが届いたようだ


「…とりあえず、ピザ食べよっか?」

「…はい」



「いっただきまぁす!」

「………」

「?、愛斗も一緒に食べようよ!美味しいよ?」

「…は、はい…じゃあ」


と、初めて私の見てる前でマスクを外す愛斗

キリリとした口元にキュッと引き締まった輪郭にシュッとした高い鼻…そこそこ綺麗な顔立ちをしていた。


「…なんだ、わざわざ隠すほどの顔でもないじゃん」

「あ、あまりまじまじと見ないでください…恥ずかしい」


と、顔が真っ赤になる


「照れんなって、それより早く食べなよ…ピザ冷めちゃうぞ」

「は、はい…」



…その日から、愛斗はウチで食事する時だけはマスクを外して私と一緒に食べるようになった

ほんの少しだけ、前に進めた…ということだろうか?。





第二章 心の距離感



六月になり、そろそろ期末テストも近づいてきて今日は学校の図書室で愛斗と二人でテスト勉強


愛斗は前の学校でも成績はそこそこ良く、いつも授業も真面目にノートを取っていて家に帰った後もちゃんと勉強の予習復習をきっちりとやっている。


一方で私はというと、正直成績はあまり良い方ではなく…どちらかと言えば『下の上か中』くらい…

毎回テスト前になって一夜漬けで何とかギリギリ乗り越えてきたけど、二年になって更に勉強が難しくなり正直キャパオーバーで頭パンクしそうである。


なので今は愛斗に教わりながら必死にテスト勉強をしている。


「…お、終わった…マジで頭使いすぎてパンクしそう」

「お疲れ様です、でも後でちゃんと復習しといてくださいね?」

「はぁい…」



“ピチョン ピチョン…パラパラパラ”



すると、外は急に雨が降り出してきた。


「嘘っ、雨降ってきたし!」

「大変だ!早く帰って洗濯物取り込まないと!」

「やばっ!早く帰ろ!」


本降りになる前に急いで全力ダッシュで家まで急ぐ

服も靴もびしょ濡れになる中、ただひたすらに雨の中を走った。


「…ふーっ、ギリギリセーフ!そんなに濡れてないや…」

「油断してました…そろそろ梅雨入りですもんね」

「ホント、全身ずぶ濡れだよ…へくちっ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「え?うん、これぐらい平気…へ、へくちっ!」

「すぐお風呂沸かします!このままじゃ風邪を引いてしまう!」


お風呂であったまり服を着替える、そしてとうとう雨は激しさを増して大豪雨になった。


「すごい降ってきた…こうなる前に早く帰って来れてラッキーだったね」

「ですね…」


すると、その時だった…



“ピシャン!ゴロゴロゴロゴロ!!”



急に大きな雷が鳴った


「ひゃあん!」

「!?」


私は雷の音にびっくりして、反射的に側にいた愛斗に抱きついてしまった。


「あっ!ご、ごめん!びっくりしてつい…」

「い、いえ…全然!そ、それにしてもかなり大きな音でしたね…相当近くに落ちたのかも…」



“ピシャン!ゴロゴロゴロゴロ!!”



「ひゃあん!」


そして次の瞬間、家中の明かりが突然消えてしまった。


「!?、停電!?」

「う、嘘…やめてよマジで、怖い」


突然の停電と雷に私の恐怖はマックスに達してしまい腰が抜けて動けなくなってしまった。


「スマホの電波も圏外だ、この部屋は三階だから浸水の心配はないにしても、今外に出るのは危ないしな…」

「ま、愛斗ぉ…」

「香純さん?」

「怖い…怖いよぉ、うわぁぁぁん!」


私はとうとう堪えきれなくなって泣いてしまった


「あわわわ!か、香純さん…お、落ち着いて!大丈夫、絶対大丈夫ですから!」

「愛斗ぉ…うぅ…」


(困ったな…香純さん相当怯えてるみたいだ、何とかして安心させなきゃ…でも、どうしたら?)



“ピシャン!ゴロゴロゴロゴロ!!”



「ひゃあん!あぁんもう、怖い怖い怖い!助けて、愛斗…」

「香純さん…」


次の瞬間、愛斗は私をそっと優しく抱き締めてくれた

愛斗の温もりが肌を伝ってくるのを確かに感じた。


「愛、斗…?」

「小さい頃、雷の音で怯えていた僕をこうしてよく母がギュっと抱きしめてくれたんです…大丈夫、安心してください…僕がついてますから!」

「愛斗…」


愛斗にそう励まされて、不安と恐怖に満ちていた私の心は段々と穏やかになっていく

その半面、今度は心臓の鼓動が段々と早くなっていくのを感じた。



“ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ”



(何々ナニこれ?なんか、すごく…ドキドキしてる!もう怖くはないはずなのに…心臓の鼓動が、早すぎる!まるで全身が心臓になったみたい…このドキドキって、もしかして!?)


…その後、抱き合ったまま何時間も経過し、雨も漸く穏やかになり電気も復旧した。


「…どうやら収まったみたいですね」

「う、うん…そう、だね」

「…はっ!す、すみませんでした!安心させる為とは言え不用意に抱きしめてしまって!」

「い、いいのいいの!おかげでちっとも怖くなかったから!そ、それに…」

「それに?」

「…やっぱ、何でもない」

「??」


…ヤバい、愛斗の顔がまともに見れない…多分私、愛斗のことガチで好きになっちゃったかも…



・・・・・



期末テストも無事に終了し、私はギリギリではあるが何とか赤点は免れた…

そして終業式が終わり、明日からはいよいよ夏休みとなる。


「明日からさ、いよいよ夏休みだね…」

「そうですね…香純さんは何か予定あるんですか?」

「私?私は明日友達とプールに行く予定だけど…愛斗は?」

「僕は、夏季講習に参加する予定です…」

「夏季講習?あぁ、確か夏休みの最初の一週間だかに希望者募ってやってるお勉強会かぁ…わざわざ夏休みだってのに学校行く意味が分かんないよね…アンタガチで行くの?真面目かっ!」

「……っ」

「そっか、とりあえずじゃあ夏休みの最初の一週間はお互い別行動かぁ…」

「すみません…」

「いいのいいの!気にしないで!私は大丈夫だから!」

「は、はい…」



【翌日】



私はミカリンとチャンまきと一緒にプールに来た

今思えば、愛斗と一緒に暮らすようになってからこれが初めての別行動だ…

今まではずっと一緒にいるのがほぼ当たり前のようになってしまっていたせいか、ちょっぴり物足りなさと淋しさを感じていた。


「カスミン?どうしたの?今日ずーっとボーッとしてるけど?元気ないじゃん」

「えっ?そ、そうかな?」

「そうだよ、さっきから見てたら三回もため息ついてたし!」

「えっ?えっ?嘘…」

「はは〜ん、さては愛しのダーリン(佐渡君)がいないから淋しいんだな〜?」

「なっ!?そ、そんなんじゃないしっ!」

「ハハッ、ホント嘘が下手だよカスミンは!」

「ホントホント、すぐ顔と態度に出るし!」

「……っ」

「で?正直なところどうなの?」

「…あーもう!そうだよその通りだよ!ここ最近愛斗が一緒にいるのが当たり前のようになってたからそれで、なんか物足りないっていうか、心にポッカリ穴が開いたような…」

「…もう好きじゃん、大好きなんじゃん佐渡君のこと」

「はぁ!?ちげーし!茶化すなバカぁ!」

「フフフ、赤くなっちゃって可〜愛いっ!」

「……っ!」



「ただいまー」

「おかえりなさい、今日実家から大量にそうめんが送られてきまして…食べませんか?」

「うん食べる!…ん?」


ふと郵便受けを除くと、一通の封筒が入っていた


「何コレ?ウチのお父さんからだ…」

「香純さんのお父さんから?」

「うん、開けてみるね」


封筒を開けると、中には遊園地のチケットが二枚と手紙が入っていた

手紙には『折角の夏休みなんだから二人でエンジョイしてきな!』と書かれていた。


「ったく、あのハゲ…余計な気ぃ回してくれなくてもいいのに」

「遊園地のチケット?」

「そうみたい、まぁ折角用意してもらっておいて無下にするのもアレだし…折角だし愛斗の夏季講習終わったら行ってみる?」

「えぇ、もちろん」


ということで二人で遊園地に遊びに行くことが決定した。



・・・・・



【一週間後 遊園地デート当日】



「遊園地とかくっそ久しぶりなんだけどー!めちゃ楽しみすぎてヤバい〜!」

「そうなんですね…」

「愛斗は?」

「僕は、実は遊園地ってあんまり行ったことなくて…幼稚園の頃に一回行ったくらいだからあんまり覚えてなくて…」

「へぇそうだったんだ…じゃあ今日は目一杯楽しもう!」

「はい」


園内へ入場する、やっぱり夏休みシーズンだけあってどこも家族連れやカップルなどで賑わっていた。


「やっぱ人多いねー、ほとんど家族連れかカップルばっかじゃん…」

「そのようですね…」

「わ、私達ってさ…側から見たらカップルに見えてんのかな?」

「た、多分…」

「だよね〜、でも実際はカップル通り越して許嫁なんだけど、とか言ったりして…えへへ」

「………」


自分で言っておきながら超恥ずかしくなった。


「と、とりまなんか乗る!?」

「そ、そうですね…あ、コーヒーカップとかどうですか?割りかし空いてるみたいですし…」

「あぁいいね!乗ろう乗ろう!」


と、二人でコーヒーカップの列に並ぶ


「アッハッハッハ!それそれそれ!」

「ちょ、香純さん!あんま激しく回さないで!あわばば…」


「あぁ、まだ少し回ってる気がする…」

「ゴメン、ちょっと調子乗りすぎた…」

「いえ、なんとか大丈夫です」

「次何乗ろうか?おっ?フリーフォールだって!面白そう!」

「あれってたしか、一旦高く上がって急降下するってやつですよね…僕、高いところはちょっと…ましてやあんな高さから落とされるなんて…」

「平気平気♪一緒に乗れば怖くないっしょ!さぁ行こっ!」

「え、ちょっと!」



「いぎゃあぁぁぁぁ!!」

「アッハッハッハ!イェーイ!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!む、無理ぃ!助けてぇ!ぎゃあぁぁぁ!!」



「…死ぬかと思った」

「アッハッハッハ!そんな大袈裟だって、つかめっちゃ叫ぶじゃん!ウケるんだけど!」

「笑えませんよ、ホントに怖かったんですから…」

「もう、だらしないなぁ…」

「…分かりました、じゃあ次は僕がアトラクション選びましょう…」

「…へっ?」



…ということで、私は愛斗に連れられて『お化け屋敷』へと来てしまった。


「やだやだやだ!お化けだけはホンっトに無理なんだってば!勘弁して!」

「それじゃ不公平ですよ!僕だって高いとこ苦手なのにあんなの乗ったんですから!ここは平等にいきましょう!」

「無理無理無理!さっきのはマジで謝るからそれだけはマジ勘弁してぇ〜!いやぁぁぁぁ!!」


結局そのままお化け屋敷に連れ込まれて散々怖い目にあった…


「ぐすんぐすん…愛斗の鬼、悪魔…私はやだって言ったのに無理矢理入れるなんて酷い…しくしく」

「あの、その言い方だと誤解を招き兼ねないんでやめてくれません?」

「私も悪かった、ゴメン!今度はちゃんと平和なやつ乗ろ!」

「はい!」


それからは普通に遊園地を満喫した、私も愛斗も終始笑顔ですっごく幸せな時間を過ごした。


「あー楽しかった!次何乗ろっか?」

「そうですね、ん?」

「どしたの?」

「いや、あの子…」


見ると、男の子が一人で泣いていた。


「あれ、迷子かな?」

「ちょっと行ってきます」

「あっ…」


と、愛斗は迷わず男の子のもとへ駆け寄り声をかけた


「君、大丈夫?お父さんかお母さんは?」

「…ううん」

「そっか、じゃあお兄ちゃんが一緒に探してあげるよ」

「…ありがと」

「というわけですみません、ちょっと待っててもらえますか?」

「う、ううん!全然いいよ!早く見つかるといいね!」

「はい、たしか入り口の近くに迷子センターがあったはず…」


と、男の子を抱きかかえて迷子センターへ向かう


デートの最中なのに見ず知らずの迷子の為に親を探そうとするとか…めっちゃ優しいじゃん!もう好きすぎるんだがっ!


すると、その時だった…


「ねぇねぇお姉さん一人?めっちゃ可愛いじゃん」


チャラチャラしたナンパ男が話しかけてきた


「は?何なのアンタ?マジキモいんだけど、どっか行ってよ!」

「つれないなぁ…ねぇいいじゃんいいじゃん!俺と遊ぼうよ、へへ…」

「ちょ、ウザい!離して!私今彼氏待ってんの!」

「いいじゃんちょっとぐらい、なんならその彼氏よりも俺が楽しませてやんよ…へへ」

「ちょ、離して!」


ナンパ男に手首を掴まれて逃げることもできない…愛斗、早く助けて


「ちょっと!何してるんですか!?」

「!?」

「あ?」


愛斗が颯爽と現れた、どうやら迷子は無事に送り届けたみたいだ…


「香純さん!大丈夫!?」

「愛斗!」

「すみません、離していただけますか?彼女嫌がってるじゃないですか!どうかお引き取り願います!」

「なんだよテメェ、彼氏かなんか知らねぇけどすっこんでろよモヤシ野郎が!」


と、男は愛斗の胸ぐらに掴みかかった

けど愛斗は顔色一つ変えずに男に向かってこう言い放った。


「殴るつもりですか?でしたらお好きにどうぞ!僕は暴力には決して屈しません!」

「へっ!いい度胸じゃねぇか!なら遠慮なく…」

「ただし!もし本当にあなたが僕のことを殴ったとしたら僕はこの場で即刻警察に通報します、暴行罪の現行犯であなたは即刻逮捕されるでしょうね?これだけの人間が見ているんです…どう足掻こうと言い逃れは不可能です、もし実刑判決が出たとしたらそうですね…二年以下の懲役もしくは三十万円以下の罰金、それとあなたが僕を殴って怪我を負わせた場合は傷害罪となり更に罪は重くなります…十五年以下の懲役もしくは五十万円以下の罰金…それでもいいというのならば、どうぞ煮るなり焼くなり好きにしてください」

「…っ、も、もう知るか!冗談じゃねぇよクソッタレ!」


愛斗に論破された男は手を離すとそそくさと逃げていった。


「大丈夫ですか香純さん!怪我は?」

「ううん、平気…それより愛斗こそ大丈夫なの?」

「全然平気、って言いたいところですけど…すごく怖かったです、今もまだ足の震えが止まりません…」

「…ったく、無茶するんだから…でも、ありがと」

「いえ…ふーっ、無事でよかった」



…その日の帰り道


「あのさ、そういえばあの時さ…懲役何年がどうのこうのって、よく知ってたね」

「まぁ、一応弁護士志望なんで…」

「弁護士!あーまぁ、愛斗めちゃ頭いいしね…そっか、愛斗はもう夢とか進路とか決めてるんだ…」

「えぇ、まぁ…」

「そっかぁ…私はまだ何もないかな、何がやりたいとかどんな仕事がしたいとか全然決まらなくてさ…」

「焦らなくていいんですよ…ゆっくり自分の道を探せばいいんです…僕も協力します」

「あ、ありがと…」



・・・・・



夏休みもそろそろ終盤に差し掛かった

今日は夏祭り、もちろん私は愛斗と行く約束をした。


実家にあったお母さんの浴衣をお父さんに送ってもらい、祭りに行く支度を整える


「愛斗ー、準備できた?」

「は、はい!お待たせしました!」


甚平姿で出てきた愛斗、愛斗のお父さんが若い頃に使っていたのを借りたらしい、それにしても…似合いすぎる!超カッコいい!ヤバい、超ドキドキしてきた。


「じゃ、じゃあ行こっか!」

「はい」



祭りの会場に着く、既に多くの人で溢れかえっていた。


「着いた!さて、早速なんか食べようよ!」

「そうですね、じゃあ…」


「「チョコバナナ!!」」


「あっ…」

「アハっ!かぶったね!」

「はい…」


そして二人でチョコバナナを買って食べた。


「美味しー!やっぱお祭りの屋台はチョコバナナしか勝たんわ!」

「それ、分かります…美味しいですよねチョコバナナ、僕も大好きです」

「マジで?やっぱ愛斗とはよく好みが合うなぁ」

「そうですね、やっぱりいいなぁ…こうやって誰かと一緒に好きなものを分かち合うのって…」

「それな!ねぇねぇ、折角だから勝負しない?三回屋台のゲームで勝負して負けた方が焼きそば奢りね!」

「えぇ、いいですよ…やりましょう!」


それからは愛斗と勝負をした、水ヨーヨー釣りでは私が勝ち、次の射的では愛斗が勝った

最後の型抜きでは二人とも失敗して結局引き分けになった。


「くぅ、引き分けか…」

「でも、楽しかったですね…」

「うん!」


「あれぇ?カスミンと佐渡君じゃん!」

「ミカリン!チャンまき!いたんだ!」


「おー、アンタらもいたんだ…相変わらずラブラブですな!」

「もう!だから茶化すなって!」

「冗談だって、水注しちゃ悪いしウチらいくねー」

「じゃあねお二人さん!また来週学校で!」

「うん!じゃあね!」

「では…」

「…そっか、そういえばもうすぐ夏休みも終わりだね」

「そうですね…」

「あーあ、来週からまた学校かぁ…ダルいなぁ」

「でも、そうも言ってられません…勉強は学生の本分ですから」

「真面目かよ、流石は未来の弁護士先生は言うことが違いますな!」

「いやぁ、そんな…」

「でもさ、楽しかったよね…夏休み」

「えぇ、色んなところに行って遊んだり…僕の中で最高の夏休みでした」

「それな!…痛っ!」

「!?」


すると、私の足は草履の鼻緒で擦れて赤くなってしまっていた。


「大丈夫ですか!?」

「イッタ…歩けない」

「それは大変だ…さ、乗ってください」


と、愛斗は自分の背中に乗るように私を促す


「いいの?私結構重いよ?」

「大丈夫です、乗ってください」

「あ、ありがと…」


愛斗は私をおんぶして家までの道のりを歩く


「フフフ、目線超高いねー!愛斗って身長いくつくらいあんの?」

「えっと、184ぐらいですかね?」

「デッカ!?私も167cmあって女子の方じゃデカい方なんだけどいいなぁそんなにあって…」

「いや、ありすぎても困りものですよ…」

「フフ、贅沢かよ!」

「…さ、着きましたよ」

「うん、ありがと…ごめんね家まで運んでもらっちゃって」

「いえ、いいんですよ…」

「ごめんね、来年からは気をつけるからさ!」

「来年…そうですね」


そう言って愛斗はマスク越しにニコッと笑った。



・・・・・



9月18日にウチの学校ではもうすぐ球技大会が催されることになる

そしてその次の日の9月19日は私の17歳の誕生日だ。


私はその日、早速愛斗にデートしようと誘ってみた…もちろん答えはOKだった


しゅきぴと一緒に過ごす初めての誕生日、楽しみが止まんないぜ♪ウフフ〜♪


私は球技大会そっちのけで誕生日デートを指折り数えながら楽しみにしていた。



【球技大会当日】



「よぉし気合い入れていくぞぉ!二年B組ぃファイト!」


「オォーーー!!」


「愛斗!」

「香純さん」

「愛斗はこの後バレーに出るんだよね?頑張って!応援するから!」

「はい!」

「あ、張り切りすぎて怪我とかしないでよ!?明日は私の誕生日なんだから…」

「えぇ、もちろん分かってますよ…じゃあ、行ってきます!」

「うん!頑張って!」


男子のバレーを観戦する、ウチのクラスは愛斗の無敵のブロックで一切の失点を許さなかった。


「ゲームセット!勝者、2-B!」

「オォォォォ!!」


結局そのまま無失点のままストレート勝ちした


「よっしゃ!いいぞ佐渡!ナイスブロック!この調子で頼む!」

「うん!」


クラスの男子達から称賛される愛斗、とても嬉しそうだ


(愛斗、やっぱ超カッコいい…)


「佐渡君ヤバいよね…ちょっとカッコいいかも」


と、横で観戦してたクラスの女子がヒソヒソと話している


「アンタやめときな、佐渡君はね…もう既に大事な人がいるから…」

「えーマジ、超ショック…」


(へへ、ナイスフォローだぜ!ミカリン!)



・・・・・



そして今度は私の番、私はバスケに出る

私はそこそこ運動神経はいい方だし他の女子からも結構期待されている。


「ではこれより!二年B組と二年D組の試合を開始する!」


試合が始まる、観覧席には愛斗も見に来てくれている…カッコ悪いところは見せられない!やるからには勝つよ!


…と、試合は順調に進み、ウチのクラスが若干のリードを保っていた。


「よし、このまま逃げ切るよ!」

「おぉ!」


試合再開


「チャンまき!パス!」

「うん!…うわっと!」


あっという間に相手チームに囲まれるチャンまき


「チャンまき!こっちパス!」

「カスミン!」


ボールを受け取って全力でドリブルしてゴールを目指す


(これで、決める!)


だが、次の瞬間…ボールを奪おうと取りに来た相手チームの選手が勢い余って私と衝突してしまい、私は激しく転倒した。


「!?」

「痛っ…!」


立ちあがろうとした瞬間、左足に激痛が走り立つことができなかった。


「香純さん!!」


真っ先に愛斗が私のもとへ駆け寄ってくれた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「うん、でも…ちょっと足が…」

「それは大変だ、急いで保健室まで行きましょう!」

「でも私…」

「心配いりません、僕が運びます!」


すると愛斗は私のことをお姫様抱っこで抱え上げた


「ま、愛斗!」

「しっかり捕まっててください、急ぎます!」


愛斗が私を抱えて走る中、クラスメイト全員が注目する

正直ちょっと恥ずかしいけど、悪い気はしなかった。



【保健室】



「…軽めの捻挫ね、一週間は安静にしてれば問題ないから大丈夫よ」

「そ、そうでしたか…ありがとうございました」

「お大事にね」


保健室を後にする、愛斗に支えられながら体育館へと戻る


「ありがとう、ごめんね…また心配かけちゃって」

「いいんですよこれくらい、それよりも…あまり大事に至らなくて幸いでしたね」

「うん、でもこの足じゃ明日の誕生日デート無理だよね…」

「…あっ!そうでした!」

「ごめんね、自分で怪我すんなって言っときながら自分は怪我しちゃって世話ないや、情けない…」

「そんな、滅相もない…香純さんは全然悪くありません!」

「でも、私のせいで楽しみにしてた誕生日デートできなくなっちゃって…」

「安心してください、そこは僕に任せてください!」

「えっ?」

「明日は一日、『お家デート』しましょう!」

「…愛斗、マジで嬉しい!アンタマジ天才かよ!」

「えへへ…明日は家で目一杯楽しみましょうね!」

「うん!」


デートがなしになるかと思いきや、素敵な提案をされて俄然元気が出てきた。


そして、体育館へ戻ると


「乾さん!大丈夫だった?」

「カスミン大丈夫?」

「うん、ほんの軽い捻挫だったからあんま大したことないってさ」

「よかった〜」

「その、ごめんなさい…私がぶつかったせいで」

「気にしないでいいよ〜、私は平気だから…ねっ?愛斗」

「えぇ」

「あのさ…こんな時にあれだけど、乾ちゃんと佐渡君って…付き合ってるの?」

「…まぁ、そういうことになる、のかな?」


「えぇぇぇぇ!?そうなのぉ!?」


「ちょ、そんな驚く?」

「だってさ!知らないの?佐渡君って一部の女子からそこそこ人気なんだよ!」

「えっ!?」

「ずっとマスクつけてるから顔分かんないけどそれが逆になんかミステリアスな感じでいいよね!とか、家庭科の調理実習で手捌きがプロすぎてヤバいとか、それと今日のバレーの試合もめちゃくちゃ活躍しててカッコ良かったし!」

「え、えっと…」


みんなに褒めちぎられて照れて顔が赤くなる愛斗


「あっ!顔赤くなってる!照れちゃって可愛い〜!」

「はい!もうおしまい!愛斗は私のダーリンだもん!取ったりしたらダメなんだから!」

「キャアァァァァ!ダ、ダーリンだってぇ!!」

「うぅ…もう行こ愛斗!」

「あ、あぁ…」


一気に恥ずかしくなりついその場から逃げ出してしまった。


「あの、香純さん!さっき言ったことって…」

「…そ、そうだよ!私、いつの間にか愛斗のことがガチで好きになっちゃった、最初はあんなにいやだったのに…今はもう好きで好きで大好きすぎて、自分でも分かんないぐらい好きで、もう頭おかしくなりそうなぐらい愛斗のことが超好きっ!」

「香純さん…」

「ごめんね、いきなりこんなこと言われてびっくりしたよね?でもホントだよ?最初は親同士が勝手に決めた許嫁だったけど…今は愛斗と許嫁になれて心の底からガチですっごく幸せ!こんなに人を好きになったのなんて生まれて初めてだから嬉しくて…」

「香純さん、そんな風に思っててくれたんですね…僕も、僕もとっても嬉しいです!香純さんと出会うことができて、ほんの少しずつだけど変わることができた…香純さんには、一生感謝し続けても全然足りないぐらいです!」

「愛斗…」

「だから僕も、香純さんのこと…好きになっても、いいですか?」

「…いいに決まってじゃん!バカっ…」


と、私は愛斗に思い切り飛びついてギュウっと抱き締めた


「これからは、本物の(・・・)許嫁だね!」

「えぇ、もちろん…」


そう言って愛斗も優しく抱き締め返してくれた。



・・・・・



【翌日 誕生日当日】



「よし、できた!こっちは準備オッケーです!」

「うん!こっちも準備おけまるー!」

「じゃあ、始めましょうか?お家デート!」

「うん!」


今日は一日愛斗と家でのんびり過ごす、まずはコーラとポップコーン片手にネットで映画観賞


「やっぱ映画は映画館で見るのがベストだけど、たまにはこうしてお家で見るのもいいよね!」

「そうですね、今となってはお手頃価格でネットで簡単に楽しめますから…いい時代になりましたね」

「なんかその台詞おっさんみたいだよ?」

「そ、そうですか?」


それから二人して映画を楽しんだ、ド迫力のアクションものから笑って泣けるコメディー、そして最後はガチガチのラブストーリーものを見た。


「…面白かった」

「ですね、あっという間に見終わっちゃいましたね」

「ちょっと休憩がてらお昼にしようか?」

「はい」


お昼を食べた後は、二人でケーキを作った

料理上手な愛斗だけどケーキ作りは初めてらしく、無論私も料理スキル皆無に等しいので二人で悪戦苦闘しながら漸く完成した。


「で、できたぁ〜!」

「はい、いやぁ意外と難しいもんですねケーキ作りって…」

「ねぇ!記念に写真撮ろうよ!一緒に入ってさ!」

「えぇ、もちろん」

「じゃあいくよー!はいピース!」



“カシャッ”



「うん!上等上等!後で愛斗のスマホにも送るね!」

「はい!」

「そうだ、お父さんにも送ってやろ!多分びっくりするだろうね〜!」

「僕も、両親に送っていいですか?」

「いいよぉ!」


二人して撮った写真を親に送る、すると双方の親達からは『仲良くやってるようで安心した』と返ってきた。


「えへへ、改めて見るとなんか照れくさいな…」

「僕もです、僕ちょっと顔変じゃないですか?」

「ホントだ、笑顔ぎこちなっ!アッハッハッハ!」

「いつも写真撮る時、自然に表情作るの苦手で…つい強張ってしまうんですよ」

「あー…っね、まぁ愛斗らしいっちゃらしいけど…」

「さ、ケーキ食べましょうか!」

「うん!」


二人で初めて作ったケーキは少し甘すぎてあんまり美味しいとは言えなかったけど、これもいい思い出と思えば最高だ。


その後、また再び映画鑑賞再開して二人で思い切り笑って泣いて目一杯楽しんだ。


「はぁ、面白かった…今日が間違いなく人生の中で最高の誕生日だった!」

「それは良かった…」

「…ねぇ、愛斗」

「はい?」

「…チューしても、いい?」

「…ふえっ!?」

「ほら、折角改めてお互い好き同士になったことだしさ!それに私達、許嫁で謂わば付き合ってるようなもんじゃん?なら、チューぐらいは、したいなぁって…」

「…香純さん、まぁ…香純さんがしたいというのであれば…」

「い、いいの?じゃあ、ホントにするよ?」

「…はい」

「あ、待った!こういうのって、普通男の方からするんじゃない?」

「えっ?そうなんですか?」

「いや分かんないよ?私だって初めてなんだもん…映画とかドラマとかだと大抵男の方からチューしてるし…」

「わ、分かりました…じゃあ、頑張ってみます」


と、覚悟を決めたのかマスクを外す愛斗

私はギュッと目を瞑る



“ドックンッ…ドックンッ…ドックンッ”



心臓が壊れそうなくらいに鼓動が早まるのが感じる


「…あの、ご、ごめんなさい…やっぱりまだ、キスするのはちょっと」

「へっ?」


目を開けると愛斗はこれまでにないくらいに顔が真っ赤になっていて荒い息をしていた。


「…もう、愛斗の意気地なし…」


そう言って私は愛斗の頬にそっとチューした


「!?、◯%◆▽■※!?」

「ま、今日のところはこれくらいで勘弁してやるか!」

「…っっっ」

「うーん、チューはまだしばらくお預けかぁ…」

「すみません…」

「いいよ別に、あっところでさ!愛斗って誕生日いつ?」

「僕の?『12月25日』です」

「へぇ、クリスマスじゃん!すげぇじゃん!」

「そうですか?子供の頃とかは誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントで合わせて一つしかもらえないのがすごくショックでした…」

「あぁ…ね、それは切ないね」

「だから僕にはこれと言って誕生日に関して特別いい思い出はありません…」

「そっか、じゃあさ!今年の誕生日はいい思い出にしようよ!」

「香純さん…ありがとう」

「そん時はさ、ちゃんとチューしようね!」

「!?、が、頑張ります…」

「へへ〜、頑張れ〜!」




第三章 一生の宝物



10月になり、そろそろ『文化祭』のシーズンとなった。


ウチの高校の文化祭は10月30日と31日の二日にかけて開催され、一日目は一般公開、二日目は校内でのみの開催となり二日目の文化祭の後は自由参加の『後夜祭』が行われてそこではハロウィンということでみんなでコスプレして楽しむ『仮装パーティー』があり、コスプレしたままでビンゴゲームやカラオケ大会などで盛り上がる。


ちなみにクラスの出し物は学年ごとに決まっており、一年生は『演劇』、二年生は『縁日』、三年生は『出店』といった具合だ。


ウチのクラスの出し物は、教室全体を使って『脱出ゲーム』を企画した。


机を高く積み上げてその上から布を被せて壁を作り、それをいくつも作って迷路のようにするといった感じだ。


迷路の制作は男子達が担当し、女子達は迷路内の装飾などを担当する。


「佐渡ー、次こっちに積み上げてくれー」

「うん、任せて!」


クラスで一番背の高い愛斗は迷路の壁を作るのに重宝するらしくあちこちで呼ばれて大忙し


「いやぁ、佐渡がいてくれて助かるよ〜、俺らじゃそんな上の方まで届かないもん」

「いやぁ、僕も役に立てて嬉しいよ」

「オッケーありがとう!後は俺らだけでもできるから休んでていいよ、何回も机上げたりして疲れたでしょ?」

「うん、じゃあ遠慮なく…」



「愛斗!」

「香純さん」

「お疲れ!ジュース飲む?」

「えぇ、いただきます…」

「いや〜とうとう明日だね文化祭!楽しみだなぁ」

「そうですね」

「そっか、愛斗は今年転校してきたからウチの文化祭初めてだよね?もうね、超楽しくてガチでヤバいから!特に後夜祭が一番ブチ上がるからね〜!」

「後夜祭?あぁ、たしか…みんなで集まって仮装パーティー、でしたっけ?」

「そっ!あ、そうだ!どうせなら今日帰りにコスプレ衣装買いに行かない?私が選んであげる!」

「えぇ、行きましょうか」

「うん!たしか、『ドンチ・ボーテ』とかいけば買えるかな?」



・・・・・



【ドンチ・ボーテ】



「うーん、やっぱ衣装あるにはあるけど愛斗のサイズって中々ないね…」

「すみません…」

「いいよいいよ気にしなくて!…うーん、あっ!いいこと思いついた!」

「??」

「大丈夫!私に任せて!」

「は、はい…」



【文化祭 当日】



文化祭が始まり、校内は生徒の父兄や地域の住民などの来場者で溢れていた。


「さぁさぁ!二年B組の脱出ゲーム、やっていきませんかー?面白いですよー!」


校門の近くで看板を持って来場客に呼びかける


「脱出ゲームだって、ちょっと面白そう!行ってみようぜ!」

「はいはーい!二名様ご案内!」


と、順調に客を集めていく


「カスミン、そろそろ私代わるよ」

「チャンまき、ありがとう!後お願いね!」

「うん、佐渡君教室で待ってるから早く行ってやんな!」

「うん!」


「愛斗!」

「香純さん、お疲れ様です」

「うん、行こっか!」

「はい」

「あ、待った!どうせなら手繋いでいかない?」

「え、あ、はい…」


と、顔を赤くしながら手を差し出す愛斗

ガチで可愛いかよコイツ!


「じゃ、じゃあ…行こっか!」

「はい…」


二人で手を繋ぎながら校内を廻る、なんか心なしか人とすれ違う度にチラチラと見られている気がする…特に愛斗の方が


そういえば、愛斗って一部の女子から結構人気高いって言ってたね…そりゃそんな人が女と手繋いで歩いてたらいやでも見ちゃうよねぇ…


「…あの、なんかすごい人からチラチラ見られてる気がして落ち着かないんですが…」

「そ、そりゃだって愛斗みたいなカッコいい男子が女連れて歩いてたら注目されて当然っしょ!」

「僕が、カッコいい?」

「そうだよ!愛斗はカッコいいんだもん!」

「えっと、あ、ありがとうございます…」


顔を赤くして照れながらポリポリと顔を掻く



…それからは愛斗と一緒に一年生の演劇を見に行ったり、三年生の出店でお昼を食べたりと、文化祭を満喫した。



・・・・・



文化祭一日目が無事終わり、家に戻る


「ふぅー、疲れたぁ…」

「思いの外人気でしたね、ウチのクラスの脱出ゲーム」

「それな、特にちびっ子達が結構喜んでたわ」

「明日は校内のみでの公開なので今日よりかは出入りも少ないと思いますよ」

「そうね、あっそうだ!明日の後夜祭の愛斗の衣装さぁ、こんな感じでどうよ?」


と、ノートに描いた衣装の案を見せる


「こ、これを僕が着るんですか!?」

「そ!マジヤバいよね、これならメイクで顔も誤魔化せるからバッチリ!それっぽい衣装も買い出しの時ついでに揃えておいたし!」

「いやぁ…僕にはちょっと…」

「大丈夫大丈夫!きっと似合うから!」

「う、う〜ん…」



【文化祭 後夜祭】



…文化祭二日目も無事に終了し、いよいよこれからお楽しみの後夜祭仮装パーティーが始まる。


『この後18時から後夜祭を開始致します、参加する生徒は体育館まで集合して下さい』


「よしっ、後一時間ある!それまでに愛斗の支度済ましちゃおう!ミカリン、チャンまき!協力よろしくぅ!」

「任せなベイベ!」

「アタシらがキッチリ気合い入れて仕上げてやんよ!」

「よ、よろしくお願いします…」



…メイクが完了し、鏡で自分の顔を見る愛斗


「す、すごい…なんか、自分の顔じゃないみたい」

「へへ、上出来!」

「すごいです!ありがとうございます!…あれ?香純さんは?」

「香純は先に着替えに行ったよ、じゃあウチらも着替えてくるからまた後でね!」

「はい、ありがとうございました!」


「愛斗ー、お待たせ!着替えてきたよ!」

「はい、おかえりなさ…い?」


私が着てきたのは『小悪魔風のミニスカドレス』

変身した私の変貌ぶりに度肝を抜かれる愛斗


「どう?可愛い?ん?ん?」

「はい!とても、か、可愛いです…」

「ありがとう!愛斗もマジでイケてるじゃん!」

「そ、そうですかね?」

「ほら、もう時間なっちゃうから早く行こ!」

「はい!」


…体育館へと急ぐ、中では思い思いの仮装をした生徒達で溢れ返っていた。


「…あっ、乾ちゃんいたいた!おーい!」

「うぇーい!みんなノってるかーい!」

「ヤバい乾ちゃん超可愛いじゃん!…って、隣にいるのってもしかして…」

「うん、愛斗だよ!」


「!?」


驚くのも無理はない…何せ愛斗の仮装はあの『日本一有名な悪魔のロックミュージシャン』を意識したメイクに、ドンチで買った黒いマントを羽織らせて黒地に白い文字で『大魔王』と書かれたTシャツを着たなんとも奇抜な仮装なのだ。


「プ、プハハハ!佐渡君何そのカッコ!?超ウケるんですけど!」

「ねぇみんなちょっと見てみ!佐渡君の仮装超ウケるから!」


「え?何々?」

「佐渡の仮装が何だって?」


と、みんなが続々と集まってきた。


「わっ!ホントだヤベー!超おもしれー!ハハハ!」

「これ絶対乾がウケ狙いでやったっしょ?ヤバい!アッハッハッハ!!」


「やったね愛斗!狙い通りみんな大爆笑!」

「…恥ずかしいんですけど、すごく」

「まぁ気にしない気にしない!みんな喜んでんだからオールオッケー!」

「…は、はぁ」



…その後は、みんなでビンゴゲームやカラオケ大会などで盛り上がった。


後夜祭の後の帰り道


「いやぁ、ガチで楽しかったねぇ〜文化祭!」

「えぇ、あっという間の二日間でした…」

「…おっ?ミカリンから後夜祭でみんなで撮った写真送られてきた!ププッ!何回見ても笑える!愛斗大魔王…」

「…もうホントに恥ずかしいんであんまり蒸し返さないでください」

「照れんなよぉ、でもぶっちゃけ楽しかったっしょ?」

「えぇ、それはもちろん…楽しかったです、とても」

「よかった!んー、それにしても疲れた!帰ったら風呂入ってソッコー寝よ…」

「ですね、僕もちょっと疲れました…」

「なんなら、一緒にお風呂入る〜?」

「なっ!?か、からかわないでください!」

「冗談だって!アッハッハッハ!」

「…っっっ」



・・・・・



…二学期もあっという間に終わり、明日から冬休み

そして、来たるべく12月25日は愛斗の誕生日…一応予定として、まずは24日(イヴ)の日の夜に愛斗と一緒に外でご飯食べて、それから二人でクリスマスイルミネーションを見に行って、12時を回ったところで用意した誕生日プレゼントを渡して、いい雰囲気になったところであわよくばそこで初めてのチューを…デュフフフ、なんてことを冬休み入ってからずっと一人で妄想していた。


てなわけで、誕生日を迎える当の本人よりも私は浮かれモード全開でずっとウキウキしっぱなしなのである。



【12月24日 クリスマスイヴ】



愛斗と一緒に街を歩く、街はどこもクリスマスムード一色に染まっており、街を行き交うカップルの数もやたらと多かった。


「やっぱみんなクリスマスで浮かれてんね〜、どこもかしこもカップルばっか…」

「多分、側から見たら僕らもそんな浮かれたカップルに見えてるんでしょうか?」

「そうだろうね〜、特に私なんて相当浮かれてるように見えてるだろうね!なんてったって大事な愛斗しゅきぴの誕生日なんだしっ!」

「しゅ、しゅきぴ?」

「あぁ、『好きな人』ってこと!」

「そ、そうですか…改めて言われると照れますね」

「へへ〜♪」


…その後は愛斗と回転寿司屋さんに行ってお寿司を食べた

ホントなら夜景の見える高級フレンチレストランとかの方が良かったけど、私達はまだ学生なのでそんな贅沢はできない…精々回転寿司が関の山だ。

高級フレンチは、もうちょっと大人になるまではお預けかな?



お寿司を食べた後は街に飾られたイルミネーションを見に行った

どれもキラキラと光り輝いていて、中にはサンタやトナカイの形をしたユニークなイルミネーションもあった。



…そんなこんなで時間を過ごしている内に、時計の針がもう既に重なろうとしていた。


「…もうすぐ、12時になっちゃうね」

「えぇ…なんか、今までにないくらいドキドキしてます」

「実は、私も…」


刻々と時間が過ぎ、もうまもなく時間がこようとしていた。


「後、五秒…」

「五…四…三…二…」


「「一っ!!」」


きっかり12時を回った


「愛斗、お誕生日…おめでとう!」

「香純さん…ありがとう!」

「はいこれ、誕生日プレゼント!」

「おぉ、開けてもいいですか?」

「うん!」

「じゃあ、遠慮なく…」


私が愛斗にあげたのは、水色のマグカップだった。


「わぁ〜すっごく嬉しいです!」

「うん、あのね実はそれね…わ、私と色違いでお揃いなの」


と、私はもう一つの紙袋からピンク色のマグカップを出して見せる。


「こういうの…ハズイかな?」

「いいえとんでもないです!ものすごく嬉しいです!ありがとうございます!」

「うん!良かった!」

「…あの、実は僕も香純さんに」

「えっ!?」


と、愛斗はコートのポケットから小さい箱を取り出す


「そ、それって…まさか!」

「えぇ…お察しの通り『指輪』です、婚約指輪って言えるほど立派なものではありませんが…どうぞ、受け取ってください」


と、私の前に跪いて指輪の入った箱をパカっと開けた

中には綺麗な青みかかった銀色の指輪が入っていた。


私は指輪を受け取り、そっと左薬指に嵌めた


「嬉しい…ホントありがとう!私これ、一生の宝物にする!」

「またいずれ、ちゃんとした指輪は用意しますから…今はこれで…」

「ううん、いいよそんなの…私はこれでいいの、ううん…これがいいの!だって、愛斗が初めて私にくれた大切なものだから…」

「香純さん…」


そう言って愛斗は私をギュッと抱き締めた。


「大事にする…香純さんのこと、一生大事にしますから!」

「愛斗ぉ…」


私は嬉し泣きしながら愛斗の背中に手を回す


「香純さん…」

「ん?」

「その、えっと…キス、してもいいですか?」

「うん、今度は…ちゃんとしてよね?」

「もちろんです…では」


覚悟を決め、マスクを外す愛斗


「…召し上がれ」

「…失礼します」



“チュッ”



今正に、愛斗と私の唇が確かに重なり合った…これが、ファーストキスか…

心臓の音が聞こえそうなほどバクバクと鼓動を刻んでいるのが身に染みて感じた。


「…どう、でしたか?」

「…うん、やっぱちょっと恥ずかしいね」

「…はい、僕もです」

「フフフ、愛斗顔真っ赤だし…」

「そ、それは…か、香純さんだって」

「アハハハ!じゃあお互い様だね!」

「フフ、はい!」

「じゃあ、帰ろっか!私達の家に…」

「えぇ…帰りましょう」


…こうして、めでたくファーストキスを成功した私達

また一つ愛斗との愛が深まった、そんな気がした。



・・・・・



【1月1日 元旦】



正月になり、私は愛斗とお父さんを連れて愛斗の実家に新年の挨拶をしに来た。


「愛斗…それにカッちゃんに香純ちゃん、明けましておめでとう!」

「明けましておめでとう!ナオちゃん!」

「おめでとうございます!」

「おめでとう、父さん母さん」

「今年もよろしくね!ところで、二人の方はどうだ?もう二人で暮らし始めて大分経つけど…」

「どうって…ねっ?」

「うん、ねっ?」


少し照れながら二人で見つめ合う


「あらあら、二人仲良く見つめ合っちゃって…お熱いわね〜、このこの!」

「ちょ、母さん…」

「ワッハッハッハ!いやぁ仲良くやってるようで何よりだ!」

「うん、それで…父さん母さん、それと勝彦さん…いやお義父さん(・・・・・)

「ん?」

「えっ?」

「おっ?」

「次の僕の誕生日…僕が18歳になったら、香純さんと入籍したいと思うのですが…」

「な、何っ!?」

「まぁ…!」

「ちょ、ちょっと待った愛斗君!いくらなんでもそりゃ気が早いってなもんだ!」

「そうだよ愛斗!まだ早いって!そんな急がなくても私はどこにも逃げないよ!」

「そ、そうだぞ愛斗!まずはちゃんと大学へ行って、しっかり卒業して、ちゃんとした仕事を見つけて生活がある程度安定してからでも遅くはないぞ!」

「そうよ愛斗、それにあなた達はまだ学生なんだから…そんなに急ぐ必要はないわ」

「…そうですよね、すみません…僕としたことが、つい気持ちを急いでしまいました」

「愛斗…」

「でも、これだけははっきりと言えます!僕は今すぐにでも香純さんと結婚したいぐらい、真剣に香純さんのことを愛しています!」

「おぉ…」

「愛斗君…そんなにもウチの娘のことを、良かったな香純…愛斗君は間違いなくいい男だ、父さんは嬉しいよ…うっうっうっ」

「もう、何泣いてんのよお父さん!」

「相変わらずカッちゃんは泣き虫だなぁ…それがカッちゃんらしいけどな」

「そうね!さ、まとまったところでみんなでおせちでも食べましょう!」

「おぉ!母さんのおせち料理は絶品だからねぇ、カッちゃんも香純ちゃんも絶対気に入るよ!」

「やった!私、伊達巻食べたい!」

「ウフフ、沢山あるから沢山食べてねぇ〜」




終章



三学期、始業式の帰り道…



「あーあ、もう三学期かぁ…もう後数ヶ月で二年生も終わりかぁ…」

「そうですね、これからはみんな進路のことで忙しくなりそうですね…」

「愛斗はやっぱあれ?法律系の大学目指すの?」

「はい、そのつもりです…香純さんは?結局進路って決まりました?」

「うーん、それなんだけどね…実は私、『声優』になろうって思って…」

「声優、ですか?あのアニメとか洋画に声を当てたりするあの?」

「うん、そう…ほら、私って洋画好きじゃん?実は前々からちょっとだけ声優っていいなぁって考えてたんだよ、ホントのところ自分にできるかどうか迷ってたけど、ついに決心したっていうか…」

「うん、いいと思いますよ!僕は全力で応援します!」

「愛斗…ありがとう!」




【十年後】



私と愛斗は、愛斗が大学を卒業してから一年後に結婚

今では娘も生まれて家族三人で幸せに暮らしている。


愛斗は司法試験に合格し、弁護士の資格を得て現在弁護士事務所に務めている。


一方で私は、声優として段々と名前が売れ出してきて念願だった洋画の吹き替えにもチャレンジすることができた

今では家事や子育てと上手く両立しながら活動している。


…そして今日は、私が初めて主演を努めた映画の公開日

その日は親子三人揃って見ようと約束してたんだけど…愛斗が急な仕事が入ってしまったらしく私は娘と待ちぼうけにされていた。


「…あっ!パパきた!」

「あっ、もう…やっと来た!遅いよ愛斗!」

「ゴメン待たせちゃって!『愛香』もゴメンな…待ちくたびれたろ?」

「ううん、あいかへーきだよっ!」

「そっかそっか、偉いなぁ愛香〜」

「さ、もう時間になっちゃう!早く行こっ!」

「うん!いそげー!」

「こらこら愛香、走ったら危ないぞー!」

「パパ!ママ!はやくはやくー!」



…最初は突然に始まった私達の関係、でもそのおかげで私達の未来には大きな幸せが待っていた

この幸せを、いつまでも大切にしたい…そう強く感じた。




〜Fin〜

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