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第十章:紅い一つ星

-1-

「え…何者…って…」

いつになくイネ=ノの真剣な顔が目の前にあった。

思わず息を飲む。

一瞬鏡でも見つめているのではないかと言った錯覚に落ちそうになる。


「なぜ、」

イネ=ノは僕の肩をつかんだまま続ける。


「なぜここでオリオンの名前が出てくるんだ。

僕は君が現われた時からずっと気になっていたんだ。

教えてくれ、君は一体誰なんだ?!

なぜ僕の前に現われた!?」


肩をつかむ手に少し力が加わる。


「ちょ…ちょっとイネ=ノ…どうしたの…急に!!」


「だってそうだろ?!

このタイミングでその名前が何故出てくる?!

教えてくれ!

一体どういうことなんだ!!」


珍しくイネ=ノが興奮している。

言葉が出てこない。

だって、出るはずないだろう。


答えがないのだから。


庭の静けさに包まれた。

静かに夜風が流れてゆくだけで

他には何もない。


星も花も音を発することなく静かに眠っているようだ。


ただ、イネ=ノの鋭く熱い視線が僕の瞳を射抜いている。


何が起こったのか全く理解できなかった。


「イネ=ノ…?」


やがて僕の両肩からするりとイネ=ノの手がすべるように離れた。


小さな声でつぶやくように言う。

「ごめん…」

イネ=ノは謝って見せたがそのまま下をうつむいて何も言おうとしない。


「…一体…どうしたの?僕何か変なこと言ったかな…」

恐る恐るイネ=ノの顔を覗き込むようにして聞く。


イネ=ノの大きなため息が聞こえた。


「君の世界にもあるんだ、その名前の星座が…。」


「え……あ…うん。」


「そう。」


またため息をつくと僕の隣の椅子に腰を下ろした。


「すまない。ただあまりにもタイミングがよすぎたもので…」


「………どういう…事?」


タイミングとは何のことだろうか?


イネ=ノは両手を組むと俯きながら答えた。


「オリオンは、キク=カに殺されたんだ」



「………え?」


「先ほど、オリオンの墓に行って花を手向けてきたところなんだ。

だから…まさか君の口からその名前がでるとは思わなかったから…つい。

すまない。」



「…いいんだよ。別に。その…」


なんと言ったらいいのか言葉が見つからず思わず黙り込んでしまう。


「君にちゃんと話すべきだったね。

キク=カに会いに行った時ももっとちゃんと話しておけば君もあれほど

取り乱すことはなかっただろうし、今のオリオンの話だって…。」


「………」


「やっぱり君には話しておこう。

君が異世界からやって来て、その指輪をしていたのも

何かの縁なのかもしれない。

いや“縁”という一言では簡単にくくれないくらい何か大きな意味があるのかもしれない。

だから、話を聞いてくれるかい?」


そこにはいつもと変わらぬ穏やかなイネ=ノの紫色の瞳があった。


「解った…。僕も聞きたかったんだ。キク=カの事とか色々…。」


イネ=ノを安心させるためににこりと微笑みながら頷いてみせた。



-2-


外では寒いということになり僕らは室内に戻ると

ソファに落ち着いた。

アキレスに温かいお茶を入れさせ、それで体を温める。

暫く沈黙が続いた。


イネ=ノはすこし沈んだ顔をしたままティーカップに口をつけている。


僕はベッドにおいてあったカーディガンを肩に引っ掛けるようにして羽織った。

イネ=ノはよそ行きの服のままソファに座っている。

コートだけをアキレスが持って部屋の外へと出て行った。


「始めに会ったときに少し話したと思うけど改めて詳しく話させてもらうよ。

僕は射手座守護神としてここで星座の星々を守護している。


最初から僕一人が守護していたのではなくて先祖代々がこの地位を受け継いでいく形になってる。

君がバイオリンで病人を治したように僕にもそのような力が備わっていてね、

この力でさまざまな人や神の病を治しているんだ。


あと、僕の一族はケイローンと言ってね、

一番最初に僕と会ったときの姿を覚えているかい?

上半身は人間だが下半身は馬であれが本来の僕の姿なんだ。

森でも同じようなものに会ったと思うが種族がちがう。

少し乱暴な正確をしたのが一般的にケンタウロス。

僕のように人間と同じ知性を持って行動するものをケイローンと読んで区別している。」


“ケイローン”?

どこかで聞いた覚えが…。


あ…

そこでメグサがケイローンを神と呼んでいたのを思い出す。

そうか、ケイローンというのはイネ=ノのことだったんだ。


「実を言うとキク=カも僕と同じようなもので、キク=カの場合はサソリ。

蠍座守護神と言うだけあってもともとの姿は大きなサソリなんだ。

蠍座守護神の場合は、射手座と同じように先祖代々が神位を継いで行くんだけど

射手座と違うのは、親である神を殺して新しい神となるしきたりみたいなものがある。


だから、キク=カは今の神位を自分の父親を殺すことによって得たものなんだ。

もともとサソリ族は戦いを好むもの達でね…生まれたときにまず母親を殺して

その血で育つという話もあるくらいだよ。」


思わずその話に音を立てて生唾を飲んでしまった。

背筋が冷たく感じ口の中に鉄の味が一瞬広がったような感覚を覚えた。


キク=カが…自分の母親と父親も殺していた?!


キク=カと明人の顔が重なる。


明人が自分の両親を……


いやいや!!違う。

違うんだ…。


慌てててキク=カと明人を頭の中で引き離す。


「キク=カはあれでいて蠍座族の中ではかなり温厚なほうなんだけど…それでも

間違いなく蠍座の血が流れている。

アルテミスと言う名の女神がいるんだが、そのアルテミスと仲良くなってね。


互いの宮殿を行き来するまでの仲だったらしいんだがオリオンもアルテミスの事を

気に入っていてね、言ってみればアルテミスの取り合いとでも言うのかな?


それで…キク=カは自分の友達でもあったオリオンを殺してしまったんだ…。

神様が自分の思い通りにならないからと言って人を殺したらそれは大罪だ。


だから大神の怒りに触れてキク=カは病にかかった。

僕でも治せない、じわじわと死を待つしかない病に。」


「………」


言葉が出なかった。


蠍座族のことにも驚いたがキク=カが好きな人のためにライバルを殺した?!

あの弱弱しい瞳の中では僕が予想する以上に強い意志が宿っていたということなのか…。

とてもそんな風には見えないが…。


「あの…キク=カが死んだら…次の蠍座守護神は誰になるの?」

「キク=カは死ねないんだ」

「え?」

「まだ次がいない。

蠍座守護神は代々自分の子供に神位を継いでいるがキク=カには子供がいない。

だからどんなに辛い病気にかかって意識が死んだとしても体は死ねないんだ。」


「どういう事?」


「蠍座守護神がいなくなると守護範囲の星も消滅してしまう。

だから蠍座の星々がキク=カの体を守っている。

するとキク=カは現われることのない次期蠍座守護神を待ち続けて永遠に苦しむことになる…」


「ひどい…

確かに…キク=カのしたことは許されないことかもしれないけれど…

それじゃ…永遠にキク=カは病気に苦しんだままなの?」

それに子供って…。

ぼくよりも幼く見えるキク=カに子供も何もない。

キク=カ自身がまだ幼い子供だというのに…。


「そういう事になる。

だからどうにかして別の道はないかと今考えているところなんだがなかなか良い答えがでない…

ただそこで君が現われた。

しかも指輪までして…。

そして君の弟さんがキク=カにそっくりと来たもんだ…。

何故ここまでして話がつながってしまうのか、とにかくそれが不思議で仕方がない。

君が救世主であってほしいと今は願わずにいられない。

情けないね、神様が救世主を求めるなんて」


「そんな事ないよ!

僕に出来ることだったらなんでもするよ!

あ、もう一度バイオリンをキク=カの前で弾いてみてもいいかな?

昨日はあまりにも弟に似ていたものだからすごく動揺しちゃって…。」


「……そうだね…やはり望みは捨てられない。

そうだ、その前に夜が明けたら君にもう一人会ってもらいたい人がいるんだ。

君のそのバイオリンの音色で癒してもらいたい人がいてね。

その人も守護神だ。

もしバイオリンの効果があれば同じ守護神キク=カへの効果もより期待できるだろう。

ああ、そうそう…君に見せてもらったあの絵の女の子に似ているよ」

「え?」

絵なんてみせただろうか?

一瞬理解できず小首をかしげる。

ああ…携帯の画像か…


え?!


「そ…それってもしかして…」

「テンミョウジコスモスちゃんとかいう名前の子さ」


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