0072.勇者協会主力
聖巫女のマリーさんが説明を始める。
「あちし達蒼天の剣は勇者協会で主力の一角を担うパーティーでなし。分からないでしょうけど、この世界では強い影響力を持つと自負するなし。あちし達に認められればどこに行こうと異世界人であろうと、咎められないなし。でも、あちし達が邪悪であると判断した場合はなし。その時はおとなしく自分の世界に帰り、この世界にはもう来ないでほしいなし。今回は邪悪であろうと何もしないなし。ですが、次に来たときは抹殺するなし」
おお恐い!
続けて勇者のシンディさんが補足を入れた。
「主力と言っても異世界人のお前には分からんか。勇者協会はな効率的に魔物どもを滅するためにある程度の実力で段階的に分けていて各段階に呼び名が付いている。主力とは文字通り主な戦力つまり最高戦力だ。次に次戦力、三次戦力とあって、中堅戦力、初戦力、見習いと続く。一番人数が多いのが中堅で、初戦力、見習い、三次戦力の順で人数が減っていくのさ。主力ともなると世界で十数人しかいないんだぜ!」
シンディさんがふんっ! と胸を張る。
筋肉質で無駄なく鍛えられた体だが、その割にはきゅっと上を向く形のいい結構大きい胸が際立ち美しい。
ああいかん俺のおっぱい星人がつい出て来てしまう。
さっき怒られたばかりだと言うのに性懲りにも無い。
もしかして俺って救いようもないバカ?
「分かりました。でもどうやって邪悪か調べるんですか?」
「あんさんをちゃんと探知させてほしいなし。あんさんは結構複雑な結界で隠されていて表層の一部しか探知できないなし」
「そうだぞ、お前! 見ればすぐ解ると思っていたのにくそめんどくさい奴!」
勇者口悪いなあ。何か知ってる人物に被るような気が。
ああ、あの金髪看護師か。
「では、解きます」
俺はあの吸血蝙蝠達の使っていた気配の消し方と、陰陽師が使っていた消し方を融合して開発した独自の気配消しの力を解いた。
すると彼女らは俺をまじまじと見つめ探知し始めた。
「あんさん、中々の力持ちだったんですねえ。それならあの劣悪魔を倒すことができたことにもうなずけますなし」
「こいつ、うちの中堅どころよりよっぽどつええじゃねえか! ふふふ、腕が鳴るぜ!」
「シンディはん、今回は何もしない約束なし》!」
「分かってるって! 今回はな。ふふふ」
今回はなって、次は何する気ですか?
「あんさんは、たぐい稀な資質をお持ちなし。おもろい存在なし。普通皆が持つ自然属性魔力が感じられ無いなし。これじゃあ自然魔法は使えないなし。あとは、なにかフレッドはんの魔力が感じられるなし」
「フレッドの魔力ねえ? もしかしてお前、吸血蝙蝠の生き残りか! いやでもアンデッドじゃないなあ?」
「悪気も持っているようですけど、神気も持っているので相殺されてる感じなし。邪悪な心は属性だけじゃあ、ないですけど。邪悪をほとんど感じられないなし。これは、……フレッドはんの記憶が入念に封印されて奥底に有るなし!」
「なあ、お前、本当は吸血蝙蝠じゃあないのか? 正直に答えろ!」
ここは下手に隠すと不味い事になりそうだ。
「フレッドの所にいた吸血蝙蝠達は俺たちの世界から召喚された人たちだったんです。俺は、あの時、俺らの世界から召喚された人たちの一人です。でもなぜか吸血蝙蝠にはならなくて、蝙蝠になれる別の何かになったんです」
「なるほどなし。神気と聖属性が強いですからそのおかげでアンデッド化を免れたなしなあ。……そうですか。あの沢山いた吸血蝙蝠達は……それは、あんさん達の世界の方々にも多大な迷惑をかけたなし。でも吸血蝙蝠は皆邪悪だったなし。滅ぼさないわけにはいかなかったなし」
「それは解ります。俺も俺たちの世界に逃げて来ていた吸血蝙蝠と人狼を滅ぼしてますし」
「そうですか! 生き残りが居て逃げた奴らが居たんなし。それは多大な迷惑を掛けたなし。ごめんなし。封印されてる記憶はフレッドが人間だった時の物なし」
「ちい、見逃しがあったのか。ミスっていたんだな。すまなかったなこっちできっちり滅ぼすべきだった」
それまで横柄な態度だったシンディさんはまるで違う人の様に恐縮して頭を下げた。
追随してマリーさんも頭を下げる。
「まあ、うたぐって悪かったな。その償いになるかどうかわからんが、何か問題があったなら遠慮なしに俺達を頼ってくれ」
「ありがとうございます。そうさせていただきます」
「話は変わるなしが、あんさんに封印されてる記憶はフレッドが人間だった時の物なしなあ」
「フレッドが人間だった時?」
「そうなし。フレッドはもともと勇者協会の賢者だったなし。一緒に仕事したこともあったなし。それがあんな事になってなし」
そうか、それでフレッドは最初理知的だったんだな。
「フレッドの記憶の封印を解いてみようと思うなし。いいですか?」
人間だった頃のフレッドか、興味あるな。
「ええ、いいですよ。よろしくお願いします」
二人は真剣な表情で封印に挑んでいるようだ。
「ダメなし! 封印複雑すぎるなし。少し解けかけまでにしか出来なかったなし」
「これを掛けた奴はよっぽど高位な吸血鬼だったに違いない」
高位の吸血鬼か出来るだけ会いたくない存在だな。
「あんさんは、邪悪な存在ではないのがわかったなし。お手間とらせてひどく迷惑かけたなし。それでなし、迷惑ついでに良かったら劣悪魔との顛末を教えて貰えないなし?」
「まあいいですけど」
「で、いつ頃気付きましてなし?」
勇者が静かに睨んでいて話しにくいが。
「劣悪魔の仕業なんてわかったのは解決の一週間前ほどですが、陰謀自体が有るなと思ったのはフレッド退治の後、洞窟を出てすぐに水を掛けられて、掛けた水をミルス様が聖水を掛けたと言ったのを聞いた時でした」
「そんな前からでしたなし」
その後の調査と戦闘の成り行きを説明していると。
「話に出たお前の眷属と虎人の子供に興味がある。何もしないので会って話が出来るか?」
「本当に何もしないのですか?」
「ああ、探知で見る位だ。協会に誘ったりしない。神に誓って」
するじゃないか、探知。
「分かりました。本人がいいと言うなら連れて来ましょう」
でも、この人たちを敵に回してはいけないと危険を察知した本能がささやく。絶対にだ!
「では、行ってきます」
俺はダンジョンへと転移した。
「しかし、実際見ても信じられんな」
「そうなし、まさかこの転移防止結界の張り巡らされた聖北騎士団から転移出来るとは!」
「原理や方法自体が何か違う気がするな」
「そうなし」
そう、普通我々の言う転移とは、自身の存在を魔力に近づける事によって、超高速移動プラス壁抜けと不可視を可能にする超高等魔法技術で、ほぼ光に近い速さで移動可能。
しかし、魔力を乱す結界を間に置くことでその先へ転移出来なく出来るはずなのだが。
しかも、転移可能な範囲は自分の探知範囲内のみだ。
それ以上は自殺行為だ。
「あの方は、自然に転移しなさりましたなし」
ふふふふ、相反する属性を多数持つだけでなくこんな技術まで持つとは、侮りがたし異世界人タカ。
腕試しが楽しみだ。
次回更新は金曜日になります、よろしくお願いいたします。
楽しんでいただければ幸いです。
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