0003.再度洞窟へ
「むふふ」
俺はサバゲーの趣味用にコツコツと揃えた動きやすい軍用服の上に見栄え重視だが普通の服よりは強靭なワニ革混じりのカッコいい革ジャンを羽織る。
あとエアガンと自分で多少研いで切れるようになった元刃引きの軍用ナイフレプリカを腰にセット。
たとえ元刃引きでもごついので結構な殺傷力は有る。
服も多少だが防刃性能があるはず。
顔を覆う弾避けのプロテクターは流石に不気味だろうから装備しない。
俺は戦争にでも行くつもりなのだろうか?
まあいいや、吸血鬼なんかが居る世界に行くのだ安全に越したことはない。
甚平よりはましだろうと自分を納得させて非常食を持ち、台所にあったチョコを準備。
頑丈なブーツを部屋内で履いた。
準備OK!
まあエアガンは脅し位にしか使えそうにはないけどね。
雰囲気だよ!
今度はあの洞窟に戻ってみよう。
入り口は見張られているかもなので、このチョコでも差し入れて懐柔しよう。
さあ張り切っていこう!
寒村前に転移して洞窟の近くの見つかり難い木の陰まで移動すると、ちょっと離れた場所に松明が辺りを煌々と照らす洞窟の前が見える。
あれっ! この前は松明がなかったような気がするな。
テントがいくつか並んでいて、ちょっとした村のようだ。
この前お世話になったアルバさんが歩哨をされているのを見つけたたので明るく声を掛けてみた。
「こんばんは~」
「君は昨晩洞窟から出てきて保護された下人。いや、しかし、その恰好は、……中々に立派なお召し物ですね。下人扱いしたとは、これは失礼いたしました」
アルバさんは服を見ると急に態度を変えそう言って頭を下げた。
ははーあの甚平が悪かったのか。
確かに薄茶の無地だし地味だし水でビシャだったしで、ぼろきれにしか見えなかったのかも。
しかし、この対応の変わりよう。
この世界では高級衣料品はステータスの証明なのかな?
地位在る者として見られるならそれ相応の態度で臨むべきかも?
「いやいいよ助けてもらったしね。それより見張りご苦労さんだね。陣中見舞いと昨日のお礼に差し入れを持って来たんだよ」
少しエラそうな振りをしてみる。
「それはご丁寧に、よろしければお名前をお願いします」
「タカシ・キドと申します」
おや? 仲良くしようと相手を見ていると、俺からなんとなくだがおかしな力が出ているような気がしなくもない。
何だこれは?
分からないな。
考えても分からない事は仕方ないのでまあいいかと放っておく。
今の所取り立てて変化らしい変化は周りに見受けられない。
まあ気のせいなのかもしれない。
「タカシ・キド様ですね。では主を呼んでまいりますのでしばしお待ちを」
ミルスにまた会えるかと思うと、それだけで俺は欲情し体の一部が酷く元気になるのであった。
いけない! 抑えなければ。
ミルスに変質者扱いされた日には立ち直れないかもしれない。
アルバは少し贅沢なテントの中にミルスを呼びに入った。
「ミルス様、昨晩洞窟から出てきた御仁は下人ではなかったようで、豪華な服を着て陣中見舞いに来られました」
アルバはテントの中に入るがミルスの様子が直接見えないようになっている衝立の様な物の陰から声を掛ける。
このテントがミルスの現状において生活の場となっているからには、ミルスが今どんな格好をしているか分からないからだ。
なぜこんな事になっているかと言うと。
魔物などがいるこの世界の良いテントは外部からの危険から守るために各種結界が展開されている場合が多い。
このテントはさらに贅沢にも居住性向上の為緊急時以外に周囲の音は聞こえない結界も張ってあるのだ。
つまり、テントの外からは普通に声を掛けても聞こえない。
ちなみに叫び声とか戦闘音は緊急とみなし聞こえる優れものである。
もちろん特注品で値段も高く一般的にはそこまでの物は出回ってはいない。
(だから、違うんじゃないかと私は言ったのに!)
ミルスは簡易ベッドで身を休めていて、ほぼ半裸の体を起こしながらだるそうに答える。
「ほほ~、で名前は聞いたのか?」
御客と在っては寝起きの汗だくでは会えないなとミルスは上半身を桶の水に浸かっていた絞り布で丹念に拭き始めたが、まだ眠くて不機嫌そうだ。
「はいタカシ・キド様と伺いました」
ミルスは大きくてしかも形の良い胸周りをしっかりと拭く。
「聞いた事がないな。だが豪華な服を着ているとなるとただ者じゃないな。少し待ってもらえ。準備出来次第会おう」
(……昨日のあの人ね、私こんなテント暮らしで臭くないかしら?)
そう思うとしっかり目が覚めた。
ミルスは慌てて全裸になって体中をより丹念に拭くのであった。
「すまないが、キド殿こちらで少々お待ちください」
テントから出てきたアルバさんは俺をタープの下にある簡易な机に案内し椅子に座って待つように勧めてきた。
少々待つとテントからびしっとおしゃれに決めたミルスが出て来て、周りにいる騎士たちからも注目を浴びている。
よく見ると騎士だけじゃなくてシスターの方々も多数いる。
ここには結構な人数いるんだな。
「やあ、良くいらっしゃいました。キド殿」
鷹揚にミルス様は俺を迎えた。
「タカシ・キドです。この前はお世話になりましてありがとうございます」
俺は立ち上がってミルスにお辞儀をする。
やっぱり美人だ! 俺の好みに100%いっちするな。
またもや欲望が湧いてくるがあまり意識せず抑える事に成功した。
これならば大丈夫そうかな。
俺の向いにミルスは座り微笑む。
「私は聖女ミルスと言います。お座りくださいな。どのようなご用向きでいらっしゃったのですか?」
俺が好意を持っていてもミルスは俺を無視したり、目をそらしたりせず、話しかけてくれるのだった。
俺は恋愛対象に入る年頃の女性に嫌われる。
さらに悪い事に俺が好意を持てば、それこそ目も合わせてくれないし、簡単な会話すら困難になる。
俺がおばさんだと思う年以上の女性や、幼女には特に嫌われはしないのだが。
ニノもミルスもだがこの世界の女性には俺が好意を持っても嫌われないのだろうか?
いい世界だな。
「はい、昨日助けていただいてお礼にこのお菓子を聖女様に献上しようと思いまして寄らさせて戴きました」
俺は金色が多い箱に一粒ずつ梱包されているチョコを差し出した。
銀紙の梱包はこの際めんどくさいのですべて取ってはあるが。
「それは、わざわざありがとうございます」
ミルスはとりあえずそうは言ったが食べるか悩む。
それはなんと書いてある字は読めないが金色に輝く箱だった。
(たかがお菓子にこんな上等そうな箱を! 中も上等なのか? こいつはバカなのか?
だが、なんとなくだが良い人に見えてくる。不思議だ)
「はい、とは言ってもほぼ初対面の私からのお菓子は心配でしょうから。私が一口食べますね」
そう言って俺は箱を開けチョコを一つ、つまんで口に放り込んで食べて見せた。
「うん美味しい、お一つどうですか」
と箱を差し出した。
「え? ええ」
見たこともない食べ物にミルスは困惑する。
(何だこれは? この黒いのは食べ物なのか? だが彼が食べてみせ差し出したものを食べないのは失礼だ)
ミルスは意を決して一つ口に入れた。
もぐもぐと口に含むと刺激的な甘さが舌を直撃した。
パーッと目の前が明るくなった感じがする。
「これは、甘い! こんな味食べたことないわ! すごく美味しいわ~。……はっ! おほん、これをいただいても?」
「はいどうぞ舶来品の上物でございます」
俺は出来るだけ大げさに言い恩を売ろうとやっきになる。
「そ、そうか。舶来品か」
ミルスはその未経験の甘さに驚きを隠せない。
(こんな、王侯貴族でも食べられそうもない珍しいお菓子を献上するとは、こいつはいったい何者だろう? 軽くは扱えんな。いい男に見えるしって、何考えてるのだ私)
「今、少し疑問に思ったんですが何故ここで洞窟の見張りをされているので?」
「ふむ、あなたは中にいて何があったかはご存じでないのですか?」
「いやお恥ずかしながら、気を失っておりましてね。気が付いたら真っ暗な場所にいて、迷いながらやっと出てこられた次第でして。何が起こったのかさっぱり分からなくて不安で不安で」
ミルスは思った。
(なるほど、それで様子を聞きに来たのか。それにしてもいい男。いかんポ~っと見蕩れてる場合ではない)
ミルスはコホンともう一度咳払いをして話を進める。
「実はな、昨日なんだが勇者様と聖巫女様がこの洞窟に隠れていた吸血鬼を倒されてすぐ旅立たれたのだ。後のことを私たちに託されてな。だが中の事は我々には全く分からないので手を拱いていたのだ」
(さっきから私はおかしい。タカシ・キドと名乗った彼に見つめられると心拍数が上がり顔が上気してくる。そして躰も今までにない快感に襲われている。これが殿方に惚れると言う事なのだろうか?)
「それは大変ですね」
(ああ彼の笑顔がまぶしい。私は生まれながらに聖属性を示していたのでほぼ周りを女性で固めて聖女然として育てられたの。教会に居た時も周りはシスターさんで固められていたわ。そして今私が団長代理をしている聖北騎士団の皆は女性に興味がわかない聖なる男のみで構成されているし、正規の騎士たちは吸血鬼退治でほぼ全滅してしまっていて、ここにいるほとんどは現役復帰した年のいったおじさんばかりだし。なのでこのような思いは初めてなのよ。乳首ってこりっとして立つ物だったのね。知らなかったわ)
「ふむ、私は洞窟をかなり迷っていたのですが、その時にはそんな物騒な者は何も見ませんでしたよ」
あれっ? 何かおかしい彼女の顔は真っ赤でおどおどし始めた。
俺からの力が何かしら影響を与えてる?
そんなふうに感じもするな。
そうだこれは魅了の力か!
これはまた吸血鬼っぽいな。
そうか、魅了の力が俺の女性に嫌われる何かを相殺してくれているのかも?
ならこの魅了の力、俺にとっては救世主かも知れない。
だが効きすぎてる気がする。
ちょっと止められるかな?
うん止められそうだ。
「私が案内しますので中を調べられては? 見張りも終わりますよ」
「そうだな、それもいいかな」
(ああ、何故か股間がぬるっと湿ってきていて体を少し動かすたびに布に擦れる乳首が気持ちいい。考えがまとまらないわ。こんなの初めて。いろいろ情報がオミットされていてもこの躰の反応が如何わしい事だってなんとなくわかるわ。でも私は聖女! しっかりしなければ。こんな恥ずかしい状況バレるわけにはいかないわ)
聖女様はかなりぽわぽわしてらっしゃるが大丈夫か?
周りを見ると騎士たちもシスターも皆ぽわぽわしている。
男にも効くのかこれ?
なるほど誰も聖女様を止めないはずだ。
この能力は主様の完全服従よりは弱そうだが結構効いてるな。
ミルス様は聖女なのに、こんなに耐性無くていいのかね。
「では、皆の者洞窟探索だ準備しろー」
「はいー畏まりましたー」
どうも気合の抜けた感じで洞窟探索が始まるのだった。
「なんで、私たちは洞窟に入っている?」
洞窟に入って5分も経っただろうか、突然ミルスは正気を取り戻したようだ。
魅了効果効いてる時間が短いな。
実は大して役に立たないのか?
そうか、もしかして魅了効果が切れたから俺はニノに崖から落とされたのか?
「なんでってミルス様が決められたじゃないですか」
「あっアルバ? そ、そうよね私ったら。キド殿、道は間違いないですか?」
ミルスは突然不安に駆られ前を歩くキド殿に聞いた。
(こんなに入り組んだ洞窟、私たちだけじゃきっと迷子になるわ)
「はい、これでも覚えはいい方でして、あっ、こっちですよ」
魅了効果が切れても話はしてくれるようだ。
魅了は関係ないのかな?
それとも一度魅了すると大丈夫になるのかな?
わからない。もっといろいろ試してみないとな。
何にしろ俺が好意を少しでも持った女性に特に嫌われる変な体質の改善になるかもしれない。
そう、俺が好意さえ持たなければ多少なら女性も話をしてくれるのだ。
機会が有ればどんどん魅了を使っていく事にしよう。
効果時間も短いようだし問題ないだろう。
俺は皆を先導して狭い洞窟をどんどんと進んでいった。
そういえば誰かが魔法で照らしているのだろう、ほのかに明るい。
さてそろそろ、主がいた場所かな。
主の居た場所が近づくと聖なる気が薄く残っているのか一瞬体中がひりひりと焼けて来て痛かったが、再生が始まったらしくもう痛みは感じない。
主の椅子がある広い空間に俺たちはやって来た。
「これは! 聖巫女様の聖浄化魔法の残滓があるわね。すごい威力だったんですわ! まだ感じる事が出来るなんて。この付近にはアンデッドなんて存在自体今でも出来ないかもですね」
「ミルス様、こちらには勇者様の雷魔法の跡が残ってますぞ!」
「ここに違いないわね決戦の場は。ではここをベースとして周辺の様子を探りましょう。あまり遠くまで調べなくていいわ。3人ずつで班を組んでください。30分間も探索しここに集まりましょう。迷わないようにしっかり探知し記録しながら進んでください。キド殿、あなたはどうしますか?」
12人で4班か、4方向一辺に調べればすぐ済むだろう。
「ミルス様、私は足手まといにならないようにここで待ちますよ」
主様が居たここを調べたいからね。
「では、お待ちください。皆行くぞ」
「はい」
さて、皆が行ってる間にここの調査だ。
何かあるかな?
探知能力に何か引っ掛る気がして奥の壁に行く。
裂け目があると探知では分かるのに、そこには立体映像のような岩肌が見え、触ると少し抵抗がある。しかし俺の手は岩を素通りする。
そこには巧妙に隠された岩の裂け目が有る事が分かった。
その奥に部屋らしきところを発見。
おおこの探知能力、人の気配以外も分かるのか!
そこにはベッド、机、椅子があり、まるで安ホテルの部屋みたいだった。
周りを探知しながら探したのだが。
着替えなどは見つかったが、本やノートなどの情報源は全く見当たらない。
くっそ外れか!
次話 13時 更新予定
想もしっかり受け付けておりますよ。
何卒よろしくお願いいたします。