0002.考察してみる
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1/30 夢部分追加
俺はやっと一息ついて吸血鬼になる前と何も変わらない自分の部屋をぼーっとしながら眺めていた。
窓から流れる見慣れた光景。
静かなようでもなにがしか聞こえ、明かりが灯り人々の営みを感じる人の世界。
先ほどまでの不思議な時間はやはり夢だったのではなかろうか?
その光景を見てもなお未だに現実感を感じない思いとは別に、俺も実は周りに居た蝙蝠達と同じ吸血蝙蝠じゃないのか?
人を襲い血を吸ったりするのではないか?
などという人じゃない事に伴う漠然とした不安と恐怖を感じている。
ミルスやアルバ、ニノや襲っていた男を見ても別に吸血衝動など起こらなかったんだからと自分に言い聞かせいる。
しかし、この不安や恐怖はなかなか薄れてはくれない。
そう、なぜか吸血衝動ではなく苦痛に近い程の性的衝動を強く感じてしまっていた事も不安を掻き立てる。
俺は一体何になってしまったのか?
今も艶やかなミルスの神々しいのに巨乳がエロいアンバランスな、でも絶妙なバランスでとても美しい姿。
背中に当たったニノの胸のふゆんっとした柔らかな感触。
そしてちらと見えたニノの少し大き目でぷっくりとした乳輪が脳裏に蘇り性欲が何度もリフレインする。
だが、それ程強い性欲が湧きたっているのにピンクだったな、げへへへと楽しむ余裕は今の俺には無かった。
余裕はないが体は正直で大きくなりすぎて面積が足らなくビチビチに張った皮がつっぱって痛い。
何とかしないと辛いな。
しかし、不安に思考を止めても何も変わらないと不安や性欲を心の底へ何とか押し込み、今までの事を振り返ってみた。
あそこは何処だったのだろうか?
日本ではなさそうだが、外国か?
しかし、魔法がどうとか言ってたよな。
すると異世界かな?
そう考えるといろいろとつじつまが合い納得できそうだった。
だいたい今はいつだ? あれからどの位たっている?
パソコンやスマホで確認すると丸1日ほどこの世界から居なくなっていたようだ。
これはさすがに家族が心配してるかもしれない。
まさか俺と同じように攫われていて家には誰もいないとか無いよね?
その事に気づいた俺はまずは自分の事より家族の事が心配になり、いろいろな検証より先に2階の自室から1階に降りて両親の様子を見ることにした。
今は高校1年の夏休み中だから検証時間はその後からでもたっぷりとれるさ。
なれた階段を降り、食堂兼居間を覗くと両親は無事な様で真剣にテレビのニュースに見入っていた。
「……と答弁する大臣に対して、野党からは怒号が飛び交い。国会は一時騒然と……」
いつもと変わり映えの無いニュースが淡々と聞こえる。
どうやら変わりないようだ。
いやあ、まあほっとしたな。
後は妹の様子が見れればまああいいだろう。
そしてTVから聞こえる音や両親の姿からいつもの平穏な時が流れているのを肌で感じる。
ああ、生きて帰って来たんだな俺は。
俺はやっと自分が生きている事を夢ではないと実感した。
ぐう~!
そう言えばお腹すいたな。
安心したとたんこれだ。
俺ってやつは節操と言うやつがないな。
いや丸一日何も食べてなかったならお腹が空いて当たり前か。
「母さん」
と俺は声を掛けた。
お母さんはびっくりして俺の顔を見ると。
「貴志今までどこに行ってたの? 心配したのよ!」
と大きな声で応えた。
おや? 少し大げさじゃないか?
俺が高校に入る少し前位から両親は時間に無配慮な俺の無法な行いにも慣れてきていて、最近は一日くらい無断外泊してもさほど気にしなくなってきていたんだがな?
父さんも俺の方をびっくりした顔で見ていたがすぐに気を取り直し説教を始める。
「いつ帰ってきたんだ貴志! いったい今までどこで何していたんだ? ……人助けも良い事だとは思うが、今この町では大量に行方不明者が出ているんだ。お前も同じようにいなくなったのかと、母さんと心配していたんだぞ。大体時々何も言わずに出かけおって心配する身にもなれ!」
父さんの説教は長い。
だがそれすら懐かしく感じる。
どうやら大変な事件が起こっていたようで心配を掛けてしまっていたようだ。
俺の事が心配で怒っている。
そこに悪意は存在しない。
異世界での体験はそれほど長く辛く感じていたようだ。
「まあまあお父さん、そのくらいにしましょうよ。無事でよかったじゃない。貴志お腹すいてない? 何か食べたの?」
そう言えばお腹がすいていたんだった。
「何かある? お腹すいたよ!」
妹の姿が見えないな。
自室かな? と、妹を思っただけで心の奥底から熱いリビドーが湧いてくる。
馬鹿な! 妹だぞ相手は。
今までこんなことは無かったはずなのにどうして?
妹の入浴姿が一緒に入っていた頃から現在の想像上の裸体まで、艶めかしい動きに変換されて頭の中を駆け巡り酷い興奮状態になる。
畜生こんなはずではないのに。
俺は湧いてくる欲望の元を蓋をするように塞ぐのであった。
「ふーっ! ふーっ! ふーっ!」
危ない。
いくら興奮したからと言っても両親がすぐそばにいる食卓で一発抜くわけにはいかないぞ。
治まれ俺! 何か別の事を考えるんだ。
いい国作ろう鎌倉幕府1192年。
泣くようぐいす平安京794年。
コックさんだよ聖徳太子593年ってこれじゃ摂政まるで関係ないじゃん。
「ふう~」
荒い息が続くがなんとか落ち着かせた。
しかし、大量失踪か。
まさか異界の洞窟に沢山いた吸血蝙蝠たちじゃないだろうな?
いや、あり得るのかも。
突然あの吸血蝙蝠達の姿が大勢の人々の姿と被ってフラッシュバックする。
とてつもなく恐ろしくて身震いが止まらない。
しかし、状況から判断すると全員亡くなってる可能性が高いかも?
吸血蝙蝠が洞窟の地面にはいつくばっている様子が人の生々しい死体に変わっていく。
余りの事に恐怖と不安がぶり返し吐きそうになるが何とか抑え込む。
うわっ俺って運が良かったのかもな?
心の中で蝙蝠達の冥福を祈った。
しかし、もし吸血蝙蝠が殲滅されていないとしたら?
あいつらは俺の様に飛べない出来損ないじゃないアンデッドだ。
攻撃魔法すら操り人を襲い血も吸うだろう。
人外の身体能力も持っているはずだ。
圧倒的に今の俺より強い。
半端者の俺でもこの世界に帰ってこれたんだ。
しかし、まさかな?
考えるのも嫌だ。
でも、もしかしたら?
気を付けるのに越したことはないか。
だが今の俺ではなにも出来ないぞ!
あの勇者を呼んだりできないかな?
いやそれは俺が滅される可能性の方が高いか。
そうだよな俺ってどう見てもモンスターに見えるよね。
悩んでいる間にお母さんがカレーを準備してくれたので美味しくいただいた。
「ごちそうさま! おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
日常どおりのあいさつを交わし今この場に居られる幸運に感謝しながら自分の部屋に戻る。
2階に上がっているとパタパタとスリッパで急ぐ足音が2階の廊下辺りからして、妹の部屋のドアがバタンとしまる音がする。
どうやら妹はちゃんといるようだ。
もしかして隠れて様子でも見ていたのかな?
いや、あいつ、俺に全く興味ないから違うだろうなと思う。
こんな事態の中、行方不明の兄が帰って来ても、顔も見せない妹に失望に近い思いが巡り。
「はあっ」
と深いため息を一つ吐いた。
それでもまあ無事にいてよかった。
パソコンで調べると、昨日の夜この町から老若男女問わず250人位の人々が何の物証も目撃情報も無く煙の様に消えたようだ、と書いてあった。
ただ部屋から消えた人たちの部屋の窓は皆開いていたらしい。
現代のとんでもミステリーとして動画サイトやニュースサイトでお祭り騒ぎになってる。
俺も窓を開けるまでの記憶が有るので背筋がぞっとした。
やはり皆あそこに攫われたのだ! そして吸血蝙蝠に……。
その後、考察を開始したが俺の頭では。
あそこはたぶん異界、あれらはたぶん吸血鬼、何故か言葉が分かる、何故か蝙蝠になれる、ミルスは美人だった。
何故か主様の顔は思い出せないし、それ以上の考察も出来ない。
つまり情報が少なすぎて今は何も分からないので諦めてふて寝するのだった。
周りに薄くだが煙が充満している。
ここはどこだろう? 隣に赤ちゃんがいて血を流しぐったりしている。
このままでは今にも死んでしまいそうだ。
俺は彼女に手を伸ばした。
出す手がとても小さい。
俺も小さい幼児のようだ。
周りは血の色で真っ赤だ。
誰かが俺に覆いかぶさっているがそれが誰かは思い出せない。
大切な人の様な気がする。
すでに、どんどん冷たくなっていくその誰かはすでに手遅れだ。
赤ちゃんはまだ生きているのでまだ助かる。
手を強く握り俺が死なせはしない、と力む。
が、俺の気もどんどん遠くなっていく……。
ジリジリジリ
朝一番覚醒する前に夢心地の中、肉が焼けるいい匂いがする。
何の肉が焼ける匂いだ?
おかげでお腹空いてきたよ。
「うぐうっ!」
左の手が異常に痛いので目が覚めた。
なんと日の光が当たっている所からジュー! っと音がし煙が出ていた。
そして強烈な痛みが俺を襲ってくる。
「ぎゃー痛い!!」
おっ俺が焼けている!
「熱い熱い~ぐわー!」
慌てて陰に転がり込んでみると体の約半分位がよく焼けた焼き肉のような火傷みたいになっていた。
なぜか灰になっているわけでは無かったが俺はそこまで気が回らない。
「えっとどうしたら!?」
と慌てていると
「えっ、なんでっ? もう痛くない?」
シューと音を立て治っていった。
ああ、いい匂いだと思ったのは俺が焼けた匂いだ。
臭いの元が分かったら途端えずきそうになった。
うっ気持ち悪い。
「うええっ!」
これは陽光が弱点か! そして再生。
間違いなく吸血鬼だな。
「ふう、何か夢を見ていたようだが、ショックで忘れてしまったな。何か忘れてはいけない大切なことな気がする。まあいいか、夢だし。ふむ、それよりも鏡だ! 鏡っと」
たしか、吸血鬼は鏡に映らないって聞いたことが有るのを思い出したのだ。
鏡を見るが。
鏡に映るし、牙はない、吸血衝動もない。
中途半端なようだ。
そう言えば飛べないし。
後有名な能力としては霧化か。
霧になれと思ってみたら、何と無く存在が薄くなったが霧にはなれなかった。
着ている甚平まで同じようになるのはすごくいい。
だが物はすっとは体を抜けない、ぬるっと染み込むように抜けていく。
なんか違うが役に立たない能力じゃなさそうだが。
そうだな霧ではなくて液体化が一番近いだろうか?
霧っぽい液体、霧水化と名付けよう。
う~む、吸血鬼と言う訳でもなさそうだが、吸血鬼? と言った所かな?
なんだかよく分からんが、一つ言えるのは、俺はもう人ではないのだろう。
やっぱりモンスターなのかな?
急に寂しくなって泣けてきた。
負けるな俺。
頑張れ俺。
「ぐすん」
いや、落ち込んでいても物事は良くはならない。
流れる涙を腕でぬぐい考察を再開する。
日の下に出れないのでは人として生活できない。
当面は深夜のコンビニでバイトでもして昼間外へ出なくてもいつまでもごまかせない。
学校も始まる。
日に下に出れないでは学校にも、もちろん通えない。
しかし分からないことが多すぎて考察もなにも出来ないな。
これでは対策のしようがない。
俺が日常を謳歌する為には、あの世界に戻り調査する必要があると思った。
元に戻るなり、日の光を克服するにしても情報が少しでもほしい。
日が暮れるのを待って再度異世界に行ってみることにした。
決してミルスをもう一度見たい訳ではないだろうたぶん。
それからも色々考えたがもう少し情報がないとらちが明かない。
夕暮れと同時にあの世界に行って見たら、まだ太陽が出ていて全身が焼けた。
「ぎゃああ!」
すぐこちらに戻ってきたがかなり痛い。
シューと回復する体を見ながら。
回復し始めると痛くないのは助かるな~と思った。
次いつ行こう? 時差ぐらいあるよね俺のバカ!
もう一度だっ!
試しにその一時間後もう一度行ってみたら日はとっぷり暮れていた。
「よし痛くない」
村の様子は静まり返っている。
人はどの位住んでるのだろうか?
おっなんか分かるぞ!
人の気配の様なものが分かる!
結構人数いるなこの村。
この中にニノもいるのだろうか?
分からない。
なぜニノは突然あんなことを。
ニノを思い出しても熱い何かがグッと鎌首を持ち上げてくるが全力で抑える。
だが、ちらっと見えたニノの大きめで綺麗な胸のふくらみと乳輪の映像が脳内に再度蘇りさらに欲情してしまう。
なんでだ?
ニノには裏切られ、あんなひどい目に逢わされたというのに?
だというのによりにもよってニノに欲情って!
ああ! 本当に俺はおかしい。
若く美しい女性の姿を思い浮かべるただそれだけで別にエロい恰好でなくても、何故かエロい格好に変換されたりして欲望が溢れる。
今にも射精しそうだ!
蝙蝠になれるだけでなく精神も何か変えられているのだろうか?
今のままだと、とにかく無性に辛い。
妹やニノやミルスとの淫羅な妄想が頭の中を無限ループする!
「外だろうが何だろうが構うものか! もう耐えられない」
今日はずっと淫欲を押えこんできた。
だがもう限界だ。
なので俺はその辺の木の陰に隠れてとりあえず何発か抜いておいた。
「はあっはあっ、とりあえず落ち着いたけどまだいくらでも行けそうな気がするんだが。いったいどうなっているんだ?」
どうやら精力が今までと段違いに強くなっているようだな。
これも吸血鬼? になったせいなのだろうか?
そうか〇液も再生されてるのかもしれないな。
これだと魔力が続く限り弾切れはないと言う事になる。
自慰行為によって何とかムラムラ感は解消できるが、ぬたっとした欲望はそれほど解消できずに溜まっていっているような感じがする。
しかしこれからは無意識にでもこの熱いリビドーを抑えれるようにならなくては極度な変態の烙印を押され、たとえどこに行ってもまともな生活は出来なくなってしまうだろう。
なぜか、この欲求は俺には治せないなと思った。
抑えるしかないと。
さて、なんだっけ? そうそう気配が何と無く分かるような? これも能力かな。
分からない能力が結構あるな。
そう言えば未だに甚平のままだな。
部屋着で異世界をウロチョロするのも危険そうなので帰って着替えよう。
俺はサバゲーが大好きだ!
だから準戦闘用に使えそうな装備を持っているぞ。
しかし、ただの雰囲気盛り上げ用の見た目重視の装備なのだが無いよりましだろう。
まさかこいつらがサバゲー以外の実践で役に立つ日が来るなんて思ってもみなかったぞ!
誤字報告ありがとうございます。確かにワニ革の革ジャンなんて無いかもしれませんが、目立つ革で上等そうな見た目と言う事でチョイスしました。許されてくださいね。よろしければ以降も誤字報告宜しくお願い致します。
次話を11時に更新予定
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