0060.騎士団の事情
「そう言えば、騎士の皆さんが沢山歩哨に立っておられましたよね。
いったいなにがあったんです?」
この部屋に来るまでの通路に計10人は立っていた。
そう広くもないこの建物にはいくら何でも多すぎだろう。
「お恥ずかしい話なのですが。実は不審な者が侵入した形跡が見つかったもので」
ミルスは、俺の持ってきたチョコを美味しそうに食べている。
ほほー。
問題が発生していたか。
「私の仕事の一つに聖水の作成がありまして、毎日作っているのですが。納品先から水が届いたとの知らせが。でもちゃんと聖水を送っているはずなのに、おかしい。と言う事で調べてみると貯蔵している聖水のほとんどが水なんです。信じられません。ってなんで、部外者のあなたにこんな話を。……私相当まいっているのかしら」
ミルスは、目をつむり頭を抱えてしまった。
探知では隣の部屋に樽が並んでいる。
きっと、そこが聖水の倉庫なんだろう。
この区画は、騎士団本部のほぼ中央の中庭の様な場所内にある建物の中で、周りは騎士によって固められている。
聖水をどうこうするのは普通の人には無理だと思える。
「この厳重そうな聖北騎士団本部から誰にも気づかれず。重い水を持ち出すなんて普通では不可能でしょう。もしかしたら、操られている内通者とか、いるかもしれません」
「そうでしょうか? 私恐いです。内通者なんて信じられませんが、確かにここは見張りが居なくなることはありません。入り口は一つだけです」
防犯にはいいが防災には最悪かも、と全く違う事を考えてしまった。
「私には色々な特殊能力を持った部下がいます。私にこの件を手伝わせてください。もちろん連れてくる部下に男性はいれません」
そう、今この聖北騎士団には探知でわかる範囲では企んでいるように見える者はいない。
いるとすれば、隣の教会に居る悪意を持つ奴らが怪しい。
だが、水を運び出すのは簡単には出来ないはずだ。
水はやっぱり重いし樽は大きいので目立つ。
または、気配を探知させない悪魔のようなものかもしれない。
俺の魅了と似たような能力で思いとは別に操られているのかもしれない。
ケイとガウなら隠密行動はお手の物だ探知も得意とくる。
、見張り役としても完璧だ。
眷属の二人を倒せるほどの存在は、俺の探知には今のところ掛からない。
この街自体に強い魔力を持つ者はいないのだ。
魔力で言えばミルスはこの街で最強に近い。
油断は禁物だが俺と三人で掛かれば成功率もグッと上がるだろう。
ミルスの警備にアンを残せればもっといい。
ちょっとずるいが、じっと彼女を見つめてやる。
「わっ分かりました。部屋を一室用意させます。そこに待機していただければいいでしょう」
「ありがとうございます。お話は変わりますが、ダンジョンと言う物をご存じですか?」
「はい、ダンジョンが有ると言うのは聞いています。しかし、ダンジョンは勇者協会が独占していまして、普通の人には存在すらも明らかにされていません」
「それは又、どうやって秘密を守っているのでしょうねえ」
「なんでも、一人の転移能力者しか場所を知らなくて、転移で勇者候補などを連れて行き、訓練に使っているそうです。そして誰が転移者かは、総長しか知らないそうです」
ミルスさん大丈夫かなー。
うつむきかげんで表情はさえないし。
ぽろっと漏れればいいな位で聞いたんだが、俺の自由になり過ぎな気がする。
「私、教会の司教に求婚されていて困っているんです! 人生が長く伴侶を変える事も多いエルフとはいえ、まだ17歳の私に。タカ殿、私を攫ってください! もうこんな所に居たくはないのです。あんなヒヒ爺の元に嫁ぎたくはないのです」
ミルスは突然堰を切ったかのように泣き出し懇願を始めた。
なんだとー! それって特大のパワハラじゃねえか許せん。
必ずすべて解決してやる。
それなら彼女は俺たちの町で匿うのが一番いい。
「分かりました! 一度帰りますが。今晩迎えに来ます。この部屋にいつまでいますか」
「でもどうやって」
「それは、秘密です。楽しみにして準備してください」
「私の部屋はそこの扉の奥です。だから、ずっといます」
ぽっと頬を染め俺を熱く見る。
魅了ってこんなに効くんだな。
それに付け込むとは俺ってかなり悪だよな。
「そうだ、勇者協会ってなに?」
「えっ、知らないのですか? この大陸において魔と闘うために結成された協会で。実力のある勇者や賢者、聖女や聖巫女、魔人なども沢山所属しています。下部組織として、対魔物対策組合などがありますよ。この辺りには協会の方は居ないんですけど」
なるほど、それほどまでにこの辺りは平和と言う事か。
「では、一旦帰ります」
チリーン、チリーンとミルスがハンドベルを鳴らす。
どうやら魔道具の様で遠くまで音を届ける効果があるようだ。
だからすぐそばに待機していないのね。
この部屋に続く廊下の入り口に二人立っている。
俺も信用された事だな。少しすると。
「お呼びですか、ミルス様」
アルバではない別の騎士がやって来た。
「タカ様がお帰りです。外までおくって差し上げて」
「はい、ではこちらへ」
「ではまたいつか会いましょう」
「ええ、お待ちしておりますわ」
この騎士もぽわぽわして頬を染めながら俺を案内してくれた。
聖北騎士団本部を後にして、俺は路地に入りすぐ皆の元に転移する。
「ケイすまない、頼みたいのだが」
「はいタカ様なんでしょう」
「多分ケイは他人に化ける事も出来るよね?」
「はい、やったことはないですがたぶんできます」
「少しの間入れ替わってほしい人がいるんだ。頼めるか」
「はい、わたくしに出来る事なら」
「何かあればいつでも俺を呼んでくれてかまわないから。あとガウ、ケイの護衛頼めるか」
「何でも仰せをビャ」
「じゃあ、付いて来てくれ」
二人を連れてミルスの部屋に戻った。
「きゃっ!」
「静かに」
「タカ様、夕刻ではなかったのですか?」
「すまん、敵をだますには味方からってな。二人ともどうだ何か感じるか」
「いえ、何も感じません。その方に化ければいいのですね」
「ポキも、感じないビャ」
「ええっ、その頭の輪は天使様」
「じゃあ、いくよミルス様」
「はい、でも準備がまだ」
「大丈夫又いつでも取りに戻れるから。二人とも気を付けてお願いするよ」
「はい、お任せください」
「ポキも隠れて居るビャ」
俺は、ミルスを連れて洞窟へと転移した。
「こっここは、どこですか?」
「ダンジョンの入り口です」
「ダンジョンですって~!」
ミルスの叫び声がこだました。
誤字報告ありがとうございます。修正いたしました。今後ともよろしくお願いいたします。
次回更新は火曜日23時になります、よろしくお願いいたします。
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