閑話 ニノ1
おらはドワーフのニノ。
あまり大きな声では言えないが今はスリで捕まっているだ。
普段このドワーフ口調では田舎者だと舐められると思ったので口調を変えているだ。
こっちの口調がおら本来の話し方だべ。
昨日、おらはタカと言う不思議で変な奴にあっただ。
今おらが居るところは罪人ばかりが集められた集落で、厳しく監視されていてこの周辺への出入りなど無理だと感じるだ。
あのタカと言う人物がどうやってここに来たのか全く不明だべ。
ここは険しい山々に囲まれた盆地だべ。
唯一の道を今は騎士たちが封鎖しているため誰も入ってこれない筈だべ。
騎士様でも犯罪開拓民でもないタカがここにいるのはどう考えてもおかしいべ。
こんな所に無理して忍び込む理由なんかねえべ!
おらたちは囚人のような物なので生きて行くぎりぎりの食事しか支給されないだ。
吸血鬼用いけにえの村。
吸血鬼のいる洞窟のそばなので夜はいつ攫われるか震えながら寝て、昼間には村の周りの開拓などの強制労働と言った日々だべ。
こんな曰くつきの僻地開拓しても誰が住むのかはなはだ疑問だべ。
それはまあいいだ。
まだまだ育ち盛りのおらはお腹を空かしていたので、こそうっと見張りの目を盗み毎晩狩に出ていただ。
とはいえ大体獲物は取れず、たまに見つけた苦い山菜を食べる程度が関の山だっただ。
怖い暗い森の中を長時間彷徨っても何も見つけられないことが多かっただ。
土を掘り返してミミズが見つかれば、それはごちそうな方だっただ。
火魔法でいためれば何とか食えるものにはなっただべ。
昨日はまずっただ。
こっそり出てきたはずが他の奴に見つかっていたのだべ。
最悪な事に何人も強姦し殺害して捕まったガモスに後を付けられていただ。
案の定ガモスに襲われ、おらもここまでか? 犯された上に殺される! と思った矢先にタカが颯爽と現れ、おらを助けてくれただ。
なんだか、かっこいいだ。
だが、おらみたいな半端者を体を張って助ける意味が分からないだべ。
そいでタイミングも計ったかのようだっただ。
いや、吸血鬼だとすれば処女であるおらの血を吸いたかっただけかもしれねえだがな。
だが、タカはお腹を空かしていただ。
吸血鬼がお腹を空かすなんて聞いた事が無いだ。
殴られた痕も全然治る兆候も無いべ。
まあ助けてもらった事だし多少信用する事にしただ。
ならなるべく仲良くやった方がいいべ。
その方が気が楽だべさ。
それからお互い空腹を満たす為おらはタカと狩りをすることになっただ。
タカは魔法の光を消した後の真っ暗な森の中をまるで日中のように進んでくる。
そして隠れていて見えない筈の獲物を見つけるのだっただ。
実は吸血鬼で暗視が出来るんじゃないだろうか?
そう言った疑問がおらの中で膨らんでいっただ。
見つけたウサギをタカが見事に仕留め、久しぶりにウサギを食べられるべ。
その嬉しさから不信感も忘れ、おらはタカに不用意に抱き付いてしまっただ。
失敗しただ。
その時のタカは目を剥いた何とも恐ろしいくもいやらしい形相でおらを見ただ。
怖いだ!
タカもいい人そうに見えてやっぱり恐ろしい男だと思っただ。
奴らとなにも変わらねえ。
おらを信用させてから隙を見て襲うつもりだか?
おらは警戒を強くしただ。
でも警戒したことがバレれば問答無用で襲い掛かってくるかもしれねえだ。
気を付けて行動しねえと。
それにやたら弱い回復能力すらない吸血鬼である疑いも強くなってくるだ。
ゾンビの親玉みたいなもんだべな。
忘れていただ吸血鬼の人狼は食べる事が出来るべ。
お腹空いても不思議はねえべ!
その後も表面上は何事もないかのように狩りを続けると、タカが狩ったはずの獲物が消えたと騒いでいただ。
黒い獲物だったとタカは言うだ。
しかし、人種の中でも夜目が効く方のドワーフでさえこの暗さの中で黒い獲物など見えないだ。
どう見ても基人にしか見えないタカには黒い獲物なんて絶対見えない筈だべ。
「(おい、タカどうした?)」
なんだこいつ! 顔の腫れがいきなり引いてないだか?
おかしいべ?
だが、おらは別の事にとらわれていてここでピンときただ。
殺した後に消えるのは獣では無く、魔力で体を構成していると言われる魔物だと。
魔物なら倒した後に消え高価な魔石が残るはずだべ。
先ほどから引っ掛かっている疑惑が強く思い浮かび、おらを困惑させるだ。
きっとタカは吸血鬼だべ。
吸血鬼なら殺すべきだな!
殴られた痕さえすぐは治らない弱い吸血鬼ならきっとおらにでも殺せるだ。
魔石はおらが見つけたしおらの物だべ。
吸血鬼は強くなる前に滅するのが一番だで。
その上おらのおっとうとおっかあの仇も撃てるし一石二鳥とはこのことだべ。
おらはタカを崖に誘導し最後には土魔法で操作した土の塊をぶつけたら落ちていっただ。
この崖は二階建ての家より遥かに高いべ。
ここから落ちればあんな弱そうな吸血鬼、助からんだろうと思うだ。
一夜明けて、吸血鬼も倒されたと目算され罪の重さから段階的に比較的罪の軽い者を解放するというので、罪状がスリのみのおらは女で危険も高かったことから給金までもらって解放されただ。
おらは近くの村で給金を使い身なりを少し良い物にしただ。
魔石を売るのに着ているもので舐められないようにする為だべ。
おら頭いいべ。
「この程度の魔石なら、銀貨一枚だな」
「そんなはずないぞ。おらを馬鹿にするな! 魔石は高いはずだろ?」
「それは、もっと強い魔物を倒して手に入れた魔石の場合だ。場合によっては大金貨数枚の価値がある魔石もあると聞くが。大して強い魔物じゃないだろこの魔石。こんな魔力値の低い魔石、これでもうちは高く買い取っている方だぞ。いやならよそで売りな」
そんな、バカな?
魔石がたった銀貨一枚!!
おらはがっくりと項垂れるだ。
そう言えばタカは別に強そうでもないのに魔物を軽く倒していただ。
確かに魔物は弱かっただ!
おっとうは魔物を討伐して魔石を売れば大金持ちになれると言っていたので魔石は全て高いと勝手に思い込んでいただ。
そう考えるとタカは本当に吸血鬼だったのだか?
と不安になって来るだ。
おら、たった銀貨一枚の為にもしかしたら吸血鬼ではない、人かもしれない者を殺したのだか?
襲われそうになっていたところを助けてくれた恩人でもあるのに?
おらはおらが怖くなってきただ。
おらまだ人だべ? 人魔なんかには堕ちてないべ?
男専門のスリを生業にする屑なおらでも、さすがに人は辞めたくはないべ。
突然の閑話の割り込み更新楽しんでいただけらば幸いです。
軽いざまあは実はもっと先ですあしからず。
通常更新は日曜日です。
よろしくお願いいたします。