0048.強くなる理由
「やっぱり、この服超高いし返しにいこうや」
と、麻生さんは今日買った装備の値段に恐縮していた。
「まあ、いいよ。ダンジョンも異世界も危険だから、皆の安全には替えられない。それ着ててね」
「ありがとうな。でもなんでタカは、そんなにお金持っとるん?」
「ああ、それね、えっと、俺達を攫った吸血鬼。フレッドって言うんだけど、そいつの隠し財産を見つけたんだ」
「なるほど、消滅した吸血鬼の持ち物か」
と瑪瑙さん。
「ラノベみたいです。憧れます」
結城さんは揺るがない。
「それなら、タカの物でいいと思うよ。不特定多数の被害者からの奪取品で元の持ち主なんか分からない、と言うか死んでるだろうし。国に渡す必要もないと思う」
瑪瑙さんは専門家としての意見だろうし為になるなあ。
「そやな」
「宝箱は見つけた人の物です」
結城さんは力説する。
「日本だとそうはいかんがな」
とは俺。
「バレなきゃいいだろう。もしばれても証拠の一つも見つからんさ」
それな~、そんなもんだよな瑪瑙さん。
あれ、大金貨が多数だったからいくらあるか想像もつかないけどね。
まっいいか、気も楽になったし。
「さて、これからなんだが。俺は一人この先の町まで行ってみるので、皆はダンジョンの第一層でレベル上げしててもらえる?」
「アンは付いて行かなくていいのニャ?」
「一人で行ってみるよ。アンはケイと皆を見ていてほしい」
「分かったニャ」
「ええねんけど? なんか、あやしいで。……目的は聖女様やね!」
えっ、麻生さん! なぜバレた。
「さすがです! タカ様、これだけの女性に囲まれながらも、新たな女性に会いに行くとは。英雄の器ですね」
それって、褒めてないよケイ。
「まあ、聞いてみなや。うちな、不思議に思っとったんや。うちらの世界で暴れとった蝙蝠達を軽く一蹴する力は、もうもっとるやんか。なのに、まだ強くなることに必死な所がや。で気づいたんや! まだ救いたい誰かが居るんやないかと。うちらの世界じゃあそんなに強くなる必要がなさそうやから、異世界に居るんやろうなと考えると、タカが魅了した中に居た聖女が最もあやしいな? と推理できたんや。どや、あっとるやろ!」
今日の麻生さんは鋭い! まさか偽物?
「その顔は図星やな。言いとうないんやったらええわ、うちらの事は気にせず頑張ってきいや」
「なるほど、それを聞いて僕にもタカの事が少しずつ分かってきたよ。結構めんどくさい奴なんだね君は」
「お兄ちゃんは、人助けが趣味なんだから」
「趣味って、……変わった奴やったんやな」
「タカ様は、素晴らしいお方です」
ケイの信頼が重い。
俺そんな良い奴じゃないよ。
ただ、欲望に従って生きてるだけなんだよ。
俺の得になるからやってるんだ。
「すると、想定される最後の敵は、そのフレッドとやらを吸血鬼にした。吸血鬼の親玉か!」
瑪瑙さん突然の飛躍止めてください。
確かに、考えないでもなかったけど、実はそこまでやる気はないんだ。
許してください。
「いや、そんなのと戦う気はないよ! ほんとだよ!」
「まあ、そう言う事にしといてやるよ。ふふふ」
いや、ほんと、そういうのじゃないから。
好きでやってる人助けだけど、確かに俺は目立ちたがり屋なんだけど……、目立ちすぎると時々こんなデメリットが有る。
皆の期待が妙に高まってしまって、逃げるに逃げられなくなるのだ。
コンビニ強盗の時も、や〇さんの事務所に特攻した時もそう。
そこまでやる気は無かったのに、逃げられなくなっていた。
俺その頃、別に特別強いわけでもない普通の中学生だったんだよ。
すごく怖くて逃げたくて、死ぬかと何度思った事か。
今回もそんな流れが来るのか?
全力で避けねば。
吸血鬼の親玉となんか戦えるか!
フレッドでも無茶苦茶強いのに。
それより遥かに強いはずだ! 吸血鬼の親玉は。
俺がビビッて脂汗を流していると。
「お兄ちゃんが、そこまで責任を感じる必要なんてないのよ。吸血鬼の親玉なんかどれほど強いか想像もつかないじゃない。皆お兄ちゃんを追い込まないで」
ああ、さすが妹だ、分かってらっしゃる。
「そうだな、杏子俺は戦わないよ」
「お客さん、何語で何を大きな声で話しているのかわかりませんが。周りの迷惑です。食べ終わっているようなので、お勘定を済ませて出てもらえますか」
そこには怒りを我慢しながら話す店員さんが居た。
「すみませんでした!」
俺たちは代金を支払って早々に店を出るのであった。
「恥ずかしかったニャ。あの店に当分いけないニャ」
「ごめん、アンちゃんつい興奮してしまって」
「すまん僕も大きな声で言い過ぎた」
「いいニャ。大事な今後の為のお話だったニャ。聖女様は助けるがそれ以上はしないでよかったかニャ?」
よし、アンいいまとめ方だ。
「その方針で行くと思う。まあ聖女、おっと名前はミルスな。の危機は状況からそうも考えられるのであって、確定ではないんだがな」
「吸血蝙蝠達が、来ていて暴れるのもあり得るかも? で動いていたんだろう? それと同じなんだから問題はない。逆に外れる方がいいさ」
と、瑪瑙さん。
「そうやな、でもうちら、まだ弱くって役に立たんやろうからダンジョンで鍛えてるわ。きっと、役に立つほど強くなってみせるで」
麻生さん、何てけなげ。
「ふふ、僕は役に立てるよ。でも隣町は遠そうだ。着いたら呼んで。働くよ」
「ぐぬう!」
悔しそうな麻生さん。
瑪瑙さんはもう歩きたくないのね。
「お兄ちゃん、ミルスさんってどんな人なの?」
「ダンジョンに入る洞窟にフレッドが居たんだけど。退治が終わった後の調査隊を率いてた、プラチナブロンドの人なんだ」
「ふうん、お兄ちゃんのエッチ」
皆少しむっとしている。
なんでやねん。
皆が寄ってこそこそと話し始めた。
「(見たか? あの顔! うちらにゃ見せん顔しとったで)」
「(そうね、お兄ちゃんの本命っぽいね)」
「(にいちゃんの、本命って何ニャ?)」
「(くう、僕と言うものが居ながら)」
「(うちには、聖の自信が何処から湧くのかわからんな)」
「(お兄さん、私、諦められません)」
「(うちはまあええわ、何番目でも好きでいてもらえれば)」
「(美香さん、あまいですよ! まだどんな人かもわからないのに。すごく独占欲が強い人だったらどうするんですか?)」
「(なら、早いうちに皆でおうた方がええな)」
あの、全部聞えて恥ずかしいんだが。
そんなにデレっとしていたのだろうか?
「じゃあ、そう言う事で。タカお待たせな」
「いくぞ」
俺は皆をダンジョンに連れていった。
次回更新は火曜日21時になります、よろしくお願いいたします。
楽しんでいただければ幸いです。
もし、楽しんで頂けたなら。
下にある「☆☆☆☆☆」から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、面白くなかったら星1つ、教えていただくと指標になります!
「ブックマーク」もいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。