0043.レベルアップの危険性
俺達は、ダンジョンの第二層で頑張り過ぎて煙を出した瑪瑙さんを連れて帰ろうとしている。
瑪瑙さんは、きっと第二層に入る前からひどく眠かったはずだ。
俺には、それが分からなかった。
瑪瑙さんの手を触るとひどく熱い。
これは冷やさないといけない。
「アン水魔法で、瑪瑙さんを冷却しながら運べるか?」
俺が運んでもいいのだが瑪瑙さんも年ごろな娘だ、俺よりもアンの方がいいだろう。
何より俺は水魔法が使えないから冷却することも出来ない。
「出来るニャ、任せてほしいニャ」
アンはにっこりと答えた。
「じゃあ任せた、帰り道を先導する」
アンが瑪瑙さんに魔法をかけると、先ほどまでかなり苦しそうだった表情が少しはましになり呼吸も楽そうだ。
こんな時には、俺の本能は何も教えちゃあくれない。
それも仕方ないか、吸血鬼の知識だからなあ。
そして、こんな時に限って前から狼の団体さんのお出ましだ!
瑪瑙さんを抱いて走っていて、魔法まで使っているアンにこれ以上負担を掛けるわけにはいかない。
俺が全部倒してやる。
掛かってこいや! ぶった切ってやる。
俺は剣を片手で構え、さらに加速した。
やって来る狼は六体。
どうやら真ん中の二体は俺狙いで、後の四体は散開しつつ後ろの二人を狙うつもりのようだ。
だが、一体も後ろにやるわけにはいかない。
躱す訳には行かないのだ。
真ん中の二体は放っておいても、俺を狙ってくるので良しとして。
まずは、散開する四体だ。
ここは、洞窟なので幅は6mほどだ。
横に広がられても、端まで魔法の射程距離内だ。
焼失魔法を三つ浮かべて、射程距離に入り次第飛ばしてやる。
見事三体に命中し、ボッと燃え上がる。
後一体が後方に向かって走る。
逃すかっ、聖光漸を後方に向かって走る狼に向かって放つ、がその間に二体の狼が俺に肉薄。
魔法を飛ばしつつ、一体は剣で真っ二つにしてやったが、残り一体は的確に俺の喉笛に咬み付いた。
「うぐうう」
俺は声も出ず唸っていると。
ゴキゴキッ!
と嫌な音が聞こえ首の骨を砕かれる。
「うがあっ!」
あっあまりの痛みに……気が遠くなりそうになるが、こっここで気絶しては~……この狼は後ろの二人に襲い掛かる……だろう。
懸命に意識を繋ぎながら剣を薙ぐ。
ギャイン!
と一鳴きし狼は消えていき、俺の痛みも治まり砕けた首の骨や咬み傷も再生していく。
「ふう」
「大丈夫ニャ? 兄ちゃん」
「大丈夫だ! それより瑪瑙さんの容態が気にかかる。急ぐぞ!」
今まであった罠の位置はある程度把握しているので、アンに注意を促しながら走り抜けていく。
いくらか矢を食らったり落ちたりもしたが、アンが掛からなければ大丈夫だ。
問題ない。
アンも聖光耐性テストをしておけばよかった。
アンが大丈夫なら聖光一発で狼どもを倒せたものを。
それから散発的に魔物が出たものの一体か二体だったので難なく倒し第一層に到着する。
「えっ! 聖大丈夫なん? 煙出とるやんけ!」
「こればかりは治療してみないと分からない。急ぎ連れ帰る」
「お兄ちゃん、お兄ちゃんならきっと助けれるわ! 頑張ってね!」
「ああ、頑張ってみるよ」
皆に家に帰る旨を伝えてアンと共に家へ瑪瑙さんを連れて帰った。
探知で瑪瑙さんを調べると、魔力を取り込みすぎて急激に起こっている体の構成改変に体力が付いて行ってなく、生気を消費し危ない状況であることが解る。
要するに瑪瑙さんは陰陽の力で実力以上の魔物を楽に倒せたのが原因なのだろう。
いくら俺達より魔力吸収効率が悪いと言っても倒し過ぎだ。
アンが冷却しているので何とか助かっている。
何とか出来ないのか?
俺には神気などと言う分からない気がある。
神の名が付くなら何か役に立ってみろ! と自分を探知しながら神気を活性化させていく。
すると、自分の使える魔力に違いがあることが分かってきた。
それは聖属性の魔力と魔属性の魔力で、比べるためにアンを調べると自然属性と魔属性の魔力を使えることが分かる。
そうか自然属性の魔力がないので火魔法や水魔法などが俺は使えないのか。
ならば、聖属性の魔法も有るはずとの結論に達し、治癒の魔法が使えるのではないかと推測した。
聖属性の魔力を練り彼女の胸に手を当て流してみる。
すると、壊れていく彼女の生体保持力の様子が解り、聖属性の魔法なら壊れていく生体保持力及び壊れた生体を再構築出来るようだ。
それならと、壊れていく生体を片っ端から元の状態へと再構築していき、レベルアップによる体構成改変が楽にできるよう力を貸していく。
そして、失われた生気をゆっくり無理なく補充していった。
「ふぁあ? ああ~、あっあっああ~!」
瑪瑙さんは生気の補充と共に体調が多少良くなって来たのか大きな声を張り上げる。
一時期の生命の危機から比べるとかなり良くなってきたようだ。
「あっああ~あああ!」
しかし、苦痛で出している声にしてはすこし艶めかしいな。
でも無意識にあげる悲鳴って実はこんなものなのかもしれない。
今の俺はそんなものに反応できない程生体の再構築に集中しているので淫欲の出番は流石になかった。
俺達は、レベルアップなどと言って気楽に魔力を取り込むために戦いをやっていたが、吸血鬼の再生能力を持つ俺でさえ倒れたのだ。
もっと考えて行うべきだった!
こんな事態に陥るなんて。
どの位時間がたったのだろうか?
瑪瑙さんの容態はやっと落ち着き、通常のレベルアップ時のように静かに眠り始めた。
ここは、これで大丈夫だろう。
「アン、すまないが様子を見ていてくれるか?」
「了解ニャ」
「ありがとう」
「問題無いニャ」
俺がダンジョンに戻ると皆不安そうな顔でこちらを見ていた。
「瑪瑙さんは大丈夫だ! 安心してくれ!」
みんな一様にほっとしたが。
「なあ、タカ。何が有ったん?」
皆を代表して麻生さんが聞いた。
「それが、瑪瑙さんがレベルアップのし過ぎて、体が吸収した魔力に耐えきれなくなり倒れたんだ。かなり辛かったみたいだよ。でも部屋のベッドに寝かしていたら楽になって来ていたんだ。今はアンが見ているので、もう大丈夫だ」
「それならええねんけど」
麻生さんは、なんとなく納得したようだ。
「お兄さん、レベルアップは体に悪いんですか?」
結城さんが不安そうだ。
確かに不安だよね。
「どうも、魔力を取り過ぎるまで我慢して戦うとまずいみたい。第二層の魔物の魔力は第一層の魔力よりかなり多いからね。皆も体が熱くなってきたり、眠くなってきたら、絶対に無理をせず休む事! いいね?」
「はい、お兄さん」
「わかったわ、あれはしんどそうやったもんな」
「お兄ちゃん。本当にそれだけ?」
妹が不審そうに見ている。
「杏子には、かなわないな。あまり皆を脅かしてもと思ったんで言わなかったんだけど、聖、実は少々危なかったんだ。俺どうも治癒系の魔法が使えるみたいで、聖を治癒したから助かったんだ」
「ちゃあんと、言ってよね! 私達も危険は覚悟をして来ているんだから」
「そうなんよ、タカ! うちらを信用してほしいなあ」
「そうです。お兄さん!」
妹も、麻生さんも、結城さんも、そこまでの覚悟を。
「すまなかった皆……もう夕刻なので一旦帰るか?」
「そうねえそうしましょう」
そろそろ、彼女らに蛇のしっぽを斬って飛べなくしてとどめでも刺させようかともと思っていたが、まだ早い止めておこうと考え直すのだった。
「皆さん、それだけ? 杏子もっと応援が欲しいな」あざとい、上目遣いで頼むなよ。
次回更新は明日21時になります、よろしくお願いいたします。
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