0036.なんでバラすかなあ
ショウと冬二の追及は放課後にも長時間続き熾烈を極めたが、何とか追及をかわしつついつもより大分遅くなって家に帰ってくると、玄関の靴がやたら多い事に気づいた。
「あら、おかえりお兄ちゃん、遅かったわねえ。お客さんがお待ちよ!」
2階から降りてきた妹は、ぶーたれ顔で言った。
お客さんって誰だ? 部屋に行くと、ケイ、アン、麻生さんと瑪瑙さん! なぜここに? とあと一人、誰だっけ? おかっぱ頭の可愛い子が居た。
「やあ、タカ約束通り来たよっ」
瑪瑙さんがわけわからんことをのたまった。
「へっ! 約束って何?」
「タカは冷たいな~、またねって言っただろう」
何言ってるんだこの子?
「あっあの、お兄さん私は、この前コンビニで助けていただいた。結城芽衣です。お兄さんのおかげであれから誰も苛めてこなくなりました。あの時は恥ずかしくて簡単にしか謝れなかったので、今日ちゃんとした挨拶がしたくて、お邪魔させていただきました」
結城さんは恥ずかしそうに下を向きながら話した。
ああ、そう言えばこの子も魅了してたね、忘れてたよ。
それで、えっと。
「俺のお蔭で虐められなくなったってなんで?」
俺あの時ちょっと怒鳴っただけだよね。
「皆お兄さんには逆らいたくなかったみたいで」
おやっ? 結城さんが何を言っているのか分からない。
「お兄ちゃんうちの中学でも有名人だからね。とんでもない先輩としてだけど」
妹からの衝撃の告知であった。
まさか、母校で変人扱いされているとは! ショックだ……。
泣いてもいいですか?
「分かった。結城さん、わざわざありがとうね」
「それでね、お兄ちゃん怒らないで聞いてほしいんだけど」
妹はまだ告白することが有るのか?
「内容によるな。いったいなんだ?」
「えへっ、私、芽衣ちゃんにダンジョンの事しゃべっちゃった。てへぺろ」
「ほほー、それは聞き捨てならないなあ、タカ。僕もそのダンジョンとやらに興味があるなあ」
瑪瑙さんは目ざとく話の根幹へと入ってくる。
「あちゃっ! この人知らなかったの?」
なんて、うかつであざとい妹なんだ。
「お兄さん、私もダンジョンに行ってみたいです」
もちろん結城さんも黙ってはいない。
ずずいと迫ってくる。
近い、近いって! ほら当たる! 当たるって!
「もちろん僕も招待願えるよね」
ああ、瑪瑙さんめんどくせえ! はあ~、どうしてこうなった?
「分かった、分かった。降参だ。だが非常に危険だ。それを理解したうえで、俺の言う事は聞いてもらう!」
俺はもう色々と諦めた。
秘密など簡単には守れないのだと。
「まあ、致し方無かろう」
「はい、聞きます」
「それと、杏子お前いい加減にしろよ。どういうつもりだ?」
「あのねー、芽衣とお兄ちゃんの話をしてたらついね。アハハ」
(だって芽衣の話を聞いてるとお兄ちゃんたら、芽衣を念入りに魅了してたのがわかったんだもの。あの日まで芽衣ってお兄ちゃんの話なんて一ミリもした事もなかったのに、急にめちゃめちゃ惚れてたんだよ! いくらお兄ちゃんがモテるって言っても流石にあれはないわ。私も可哀想になっちゃったんだよ。仕方ないじゃない。でもごめんねお兄ちゃん)
「杏子、もうこんな事はないよなあ?」
「あはは、もうしないよ。ホント! ごめんなさいお兄ちゃん」
「分かればいいよ。ホントにもう」
「だからお兄ちゃん好き!」
杏子は飛びついてきて俺の頬にキスをした。
「おいおい、兄妹仲がいいのもいいんだがねえ。僕達もいるんだが?」
瑪瑙さんはあきれたように言い。
「うちもいるんよ!」
今まで静かだった麻生さんも乗って来て。
「あっ! アハハ皆ごめんね」
妹がその場をごまかそうとしたら。
「キョウちゃんは、甘えっ子ニャ!」
アンが止めを刺した。
「アンちゃんにまで怒られた?」
妹は流石に少し落ち込んでいた。
「で、聖、せっかくここにいるから聞くけど、今回の騒ぎその後どうなってるんだ?」
「ああ、あの後、魅了されてた人が全員気絶してな、病院搬送でたいへんだったよ。
父さまはあの店で気絶してるおっさんで間違いなかったよ。
父さまを助けてくれてありがとう。
犠牲者は、今分かる範囲では、15人程度で、血を抜かれているか、体のほとんどを食べられていたね。首謀者全滅で、僕が首謀者全員をやったことになってるが、いくばくかの人は君たちを覚えていて、あれは、何者だと論議を呼んでいるよ。
超法規的な処置で彼らは人間でないと認定されたから害獣駆除の扱いになってて、殺人には問われてないよ。後は、警官隊の人たちや、うちの父さまや門弟たちが、魅了されている間の記憶が残っていて。
全く役に立たないどころか犯人たちの為に数々の非道な事をやったってんで、すっかり落ち込んでいてねえ。その上に、国から文句を言われるもんだから、すっかり自信を無くしている位かな。
そのせいか、僕の発言力が強くなりすぎちゃってさ、ちょっと困ってるんだよね。さあて、ちゃあんと約束を守り君たちの事は何も言ってないよ。
僕だけには、君たちの正体を教えてほしいなあ。もちろん誰にも言わないよ、約束する」
彼女が嘘をついていない事は探知で分かった。
俺の探知を誤魔化すには、ある程度以上の魔力が必要だと感じるので信用できるのだろう。
「ちょっと、杏子こっち来い!」
部屋の外に妹を連れて出て聞いた。
「結城さんは、どこまで知っている?」
「実は、ぜえーぶ話しちゃった」
「俺が行方不明被害者の事も?」
「うん」
「吸血鬼? なことも?」
「うん」
「お前口軽過ぎるだろう」
「あっはっは、ごめんねえ、お兄ちゃん。他には誰にも言ってないから」
全くもう。
すると、瑪瑙さんだけ事情を知らないのか。
彼女はあれで責任感が強そうだし信頼できそうだからいいかな。
何かの時には助けてくれるかも知れないしね。
俺は部屋に戻って瑪瑙さんに説明することにした。
「聖、俺も彼らと同じ初回大量行方不明の被害にあった者なんだよ」
「じゃあ、タカも吸血蝙蝠なのかい?」
「いや、何故か同じじゃなくてね。アンデッドじゃないし、吸血衝動もないんだ」
「変な話だね。同じく攫われたなら同じ存在になるのが当たり前だ。なぜ、タカだけ違うのか? 考察の必要が有りそうだ。おっと、話の腰を追って済まない。続けて」
俺はその後の出来事を話した。
「……と言う事なんだよ」
「ふうん、すると、大元の吸血鬼は滅んでいると?」
「そうなんだよ」
「ふむ、他の奴らがこちらに来ている可能性も否定できないが、増殖する可能性だけはかなり低いな。それだけでも、かなりの吉報だ」
「でも、奴に吸血鬼にされた人達もいたんだよ?」
「今聞いた話が事実だとすると吸血蝙蝠や人狼に吸血鬼化の能力はない。だとすると、同格でも吸血鬼の方が魔力が高いとしても、吸血鬼化能力はないと判断できる。
まあ例外もあるので絶対とは言えんが。その勇者と聖巫女だっけ、がちゃんと仕事していれば。人狼や蝙蝠と違って。より危険そうで、滅びれば即灰になる吸血鬼の撃ち漏らしはないはずだ」
「ふうん?」
なるほどねえ。
「タカやアンちゃんがアンデッドにならずに済んだのは、その体に宿る聖なる気のお蔭だろう。運がよかったねえ」
流石、専門家! 説得力があるな。
次回更新は明日21時になります、よろしくお願いいたします。
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