閑話 退魔と降魔
「いい加減にしろ! 俺たちがやると言っている」
「しかし、吸血鬼はとんでもなく強い。我々ですら勝てるかどうか分からないんですよ?」
地下街を吸血鬼が占拠したと聞いてすぐに、我々瑪瑙家や未確認事件班そして退魔機動隊の面々が対策本部に集まっていた。
「我々退魔機動隊を舐めてもらっては困る。最新の退魔技術で犯人を必ず捕らえる、古臭い陰陽など出番はない」
「しかし危険だ! 自衛隊退魔班の到着を待ってからにした方が」
「くどい! そう言ってる間に被害者は死の恐怖にさらされているのだ。一刻も早く我々が解決する。あなたたちは人数も少ない。バックアップをお願いする」
最大戦力で行っても勝てるかどうかだ。
確実に勝てそうなのは娘の聖だけだと言うのに!
これだから、退魔をかじった一般人は困るのだ。
ただ功を焦っている訳ではないのも分からないわけでもないが。
大した実戦経験がない上に自分には魔力がない為、魔力を比べ実感する事が出来ない。
なので、相手の魔力の大きさが全く分かっていない。
「まあまあ、隊長。機動隊が準備できているのは分かりますが。やはり、自衛隊を待っては?」
「未確認事件班班長、あなた方の判断ミスも遅れている原因なんですよ。分かっているんですか? 集団行方不明の時から我々の出番ではないかと打診していたでしょう。黙ってもらえませんか。国民の命が掛かっているんですよ! 迅速が一番。そうではないんですか?」
「吸血鬼は古い事例しかありませんが、記録によるとただ事の強さではありませんよ」
「だから最新の装備で立ち向かうと言っている。この、退魔エネルギー銃と電子結界の威力をお見せしよう」
私から見ればがばがばに見える電子結界とやら本当に役立つのか?
だが役に立つと思い込んでいる輩には何を言っても無駄だろう。
退魔機動隊は単独で地下街に突入していく。
無事帰ってこられればいいのだが。
悪い予想は当たる物で、退魔機動隊は最悪にも誰一人帰る事も無く連絡を絶った。
「我々で突入する!」
くっまるでデジャブ―を見ているようだ。
退魔機動隊の全滅を受け急遽許可が下りてやって来た自衛隊退魔班の班長は到着するなり言い放つ。
なぜ、公務員は協力と言う事が出来ないのか!
これも縦割り行政の影響なのか?
いや、単に我々の事を信用していないのか?
「我々の装備の威力は機動隊の比ではなく強力だ」
確かに重機関砲やロケットランチャーにビームバズーカなど、機動隊より装備は充実してそうだが場所は地下街なんだぞ!
あまり威力のある武器は使えないのでは?
「退魔機動隊は誰も帰ってこなかったんですよ! 出来るだけ警戒してかかるべきだ。吸血鬼は魅了や眷属化など厄介な術を使います。退魔機動隊が行方を遮る可能性が有る。そう言った場合、我々なら気配を消して侵入できますが、あなた方は可能なのですか?」
「むう、気配を消す装備はまだ開発中だ」
「なら最悪を想定して動かないと。我々が負ければ後が無いのですよ! あなたは責任が取れますか?」
高い地位にいる者ほど責任に弱い、それは今まで恐ろしいほどの努力によって得た地位を軽く手放す事態に陥りやすいからだ。
辛い努力をしてきた者ほど、保身に走りやすく責任など取らないように動く可能性が高い。
「むむ、分かった。何かあれば責任はあなたがとれよ!」
ふふ、何かあったら生きてはいないことに気づけないとはな、愚かな。
私たちは共同作戦で地下街へ入ることが決まった。
まだ高校生の聖にはあまり仕事をさせたくはないのだが、誰よりも魔力が大きく神馬様を受け継いだ一族最強の娘だ。
強敵との戦いには必要不可欠。
親としては情けないが、こういった場合は頼らざる得ない。
娘も入れた一族で魔力が多い者12人と自衛隊隊員達が地下街入り口に集まる。
「皆、ここからは吸血鬼の領域だ。気を引き締めるように!」
自衛隊隊長が皆に声をかける。
「よし、行くぞ!」
自衛隊退魔班が先頭を切って地下街に侵入していく、すると見えてくるのは退魔機動隊の面々が敵対行動に入る姿だった。
だが、彼らは死んではいない。
ただ操られているだけのようだ。
「彼らは操られているだけだ殺さないように注意して引き付けてくれ。我々は気配を消し奥へと侵攻する」
「ちっ、恐れていた展開だな。分かったここは任せてもらう」
だが、敵の実力を見誤っていたのは我々瑪瑙衆も同じことだった。
まさか、聖を除く全員が魅了されてしまうとは? 私までも魅了され娘の言霊の邪魔をする事になろうとは! 無念である。
だが、やってはならないと理性が訴えても、本能を魅了され奴らの言うとおりに動く自分が恨めしい。
結局事件は退魔師でも降魔師でもない仮面をつけた恐ろしい魔力を持つ誰かが解決したのは、皮肉としか言いようがなかった。
私にも仮面の若い男の記憶はある。
軽く吸血鬼どもを殲滅する実力には驚愕した!
聖は隠しているがどうも知り合いのようだ。
何とか味方に引き入れられない物だろうか?
だが若くして大きい魔力を持つ者はえてして不安定な場合が多い。
そして、無理に制御しようとすると反発し負の面に転がる可能性が高いのだ。
変に刺激してそれ程の術者が人類の敵にでもなったら大ごとだ。
だから出来るだけ刺激せずゆっくりと外堀を埋めていくとする。
それよりもそうだな、聖の魅力で落とせれば最高だな。
最大限のバックアップをしよう。
頼むぞ聖!
ふふふ、最強の孫の誕生が今から楽しみだ。
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