0034.辛い戦い
「むっそこに居るのは、アンか?」
「父ちゃん! 久しぶりニャ、会いたかったニャ」
父ちゃんも記憶が戻っているようニャ。
アンは凄くうれしかったニャ。
でも、父ちゃんからは、なんだ、アンか……位にしか気持ちが伝わってこないニャ。
嫌な予感しかしないニャ。
「そうか、迷い込んだ子供はお前か。警備の奴らは何処に行った!」
父ちゃんは、アンを見ないで周りを見回すニャ。
「それは教えられないニャ」
「ふむ、まさかお前までこの世界に来ているとはな。人狼には見えんが、どうなっているのかな?」
「知らないニャ」
「だが、よく無事だった。母さんは助からなかったが、お前が無事で父さんは嬉しいぞ」
母ちゃんはもう消滅していたのニャ。
でも、父ちゃんは嬉しいって言ったニャ。
アンの不安は小さくなっていくニャ。
「父ちゃん悪い事は止めるニャ」
「悪い事とはなんだ?」
「人を殺したり、食ったりしてはいけないニャ!」
「ふむ」
「父ちゃんお願いだからやめてほしいニャ!」
「アンお前は生きているのだな?」
「そうにゃ、でも父ちゃんも人を食べなくても消えはしないニャ。生きてさえいれば他の動物でもいいはずニャ!」
「くっくっく、そうだな、俺は人を食うのをやめるよ」
言葉とはうらはらに殺気が強くなってきてるニャ。
何でニャ?
「父ちゃん本当ニャ?」
アンが父ちゃんを信じられなくてどうするニャ!
信じるニャ。
「ああ本当だ、アン、こちらにおいで」
「父ちゃん」
アンは走り寄って抱き着こうとしたニャ。
グサッ!!
「グフッ! ゴホッゴフウ、父ちゃん……これはニャ?」
お腹に手刀が刺さってるニャ!
とても痛いニャ。
「クックック、娘としては親の血肉になれれば光栄だろう?」
「父ちゃん、アンを食べる気にゃ?」
「蝙蝠どもにはもったいないので、分けてはやらんがな」
「父ちゃん、アンに嘘を吐いたニャ! 食人を辞める気はないのニャ」
「ああ、こんなおいしそうな物食べずにはいられないな」
「残念ニャ……やはり父ちゃんは死んでしまっているんニャ。アンはとても悲しいニャ!」
お腹の痛みとは別に、目から涙が溢れ出て来るニャ。
これは、父ちゃんに似た別物ニャ。
「さようなら、父ちゃん。アンの手で冥途に送ってやるニャ」
「ふん、今のお前に何ができるか? 負け惜しみを」
父ちゃんの口がアンを食べようと大きく開いた。
アンは、とん! っと、父ちゃんを軽く蹴ってお腹に刺さった父ちゃんの手刀を引き抜き少し離れたニャ。
「焼失魔法ニャ!」
ポッと父ちゃんの手に蒼い火が灯るニャ。
「ぎゃあ! 熱い何をした?」
「ごめんニャ、父ちゃん。にいちゃんみたいに強い魔力で一気には消せないニャ。アンは皆より放出系魔法が苦手なせいもあるけどニャ、獣人種は魔法耐性が高いから、父ちゃんにも魔法は効きにくいニャ。長引くニャ。ごめん、……ごめんニャ父ちゃん」
「この野郎止めろ!」
父ちゃんは、アンに殴りかかって来たニャ。
でもアンから見るととても遅いニャ。
それじゃアンを捉えられないニャ。
「俺が燃えるだと? 俺に火魔法など効かない筈じゃ!」
「それは、火魔法じゃないニャ。焼失魔法ニャ」
火は炎となり父ちゃんの全身を包む。
「うぎゃあ! 熱い、熱い! 獣人がこんな、強力な魔法を使えるなんて、反則だ! あああ、熱いいい~!」
そうニャ、獣人は、魔力の放出が普通は苦手で強力な魔法は使えないニャ、でも。
「アンは普通の獣人じゃないニャ。人虎ニャ。だからこんな傷もすぐ治るニャ」
父ちゃんに無傷のお腹を見せるニャ
「そそそおそんな馬鹿なななああああ~! ……」
父ちゃんは跡形もなく燃え尽きてしまったニャ。
アンの頬をつたう涙は当分止まることが無かったニャ。
「人狼はアンに任せた。彼女のやりたいようにさせる。俺は裏から攻め込む。瑪瑙さんは逃げてくる蝙蝠達に備えて、いつでも神馬を召還できるように準備をしておいてくれ。ケイも同じく逃げる蝙蝠を仕留めてくれ。アンが人狼を片付けてまだ戦えるようなら手伝ってもらえ」
「分かったよ」
と、瑪瑙さん。
「分かりましたわ」
ケイも応える。
「では行ってくる」
俺は、裏口を入った所まで転移し、奴らの様子を伺うと。
モダンな作りの可愛い机に脚を投げ出したり、ぐたっともたれかかったり、その上全裸なので周りの雰囲気にとてもそぐわない態度で座っている吸血蝙蝠達がいた。
机の上に足を投げ出しだらッと開いているので色々見えてはいけない物がが丸見えだ!
男たちが居なければ俺も欲望が発露してしまい現状を忘れ、ただただ昂奮してついもっと長く眺めていたかもしれない。
あんな格好でくつろぐなんて!
奴らには羞恥心など全く無くなっているんだろうな。
「人狼のおっさん、早く子供捕まえてこないかな。楽しみなんだけど!」
と今にもよだれを垂らしそうな顔の中年風な女。
「がっつくなよ、すぐ帰って来るさ」
おっ、や〇さん風のおっさん。
6人は俺の侵入に気づくことなくゆったりとしている。
「もしかして、一人で独占してるかもしれないぜ! いっしっし」
なんか、イカレタ奴が居るな。
ナイフを舐めてやがる。
「まさか、俺達6人を敵に回すほど馬鹿じゃねーだろ?」
むっこいつは佐武木。
とんがり頭のヤンキー男。
「でっでも、わっ分からないよ?」
線の細い神経質そうな男だな。
「その時はその時だ、周りに食糧はいっぱいいるんだ! そんな事で揉めるんじゃない!」
〇―さん風なのに真面目だ。
「そう言えばそうよね~・皆、せこすぎてまじうけるんですけど~」
紫頭もいるな。
間違いないここに居る奴らはダンジョンで逢った連中とその仲間だ。
うん? 他にもぼやっとだが誰かいる?
「ご主人様、先ほどより微かですが、この店内に違和感が有ります。何か侵入してきたかもしれません」
おおびっくりした。
魅了された人が気配を遮断して中に居たんだな。
「侵入者だと? 一体どこだ? 探知でき無いが」
「いっしっし、そんなのどこに居るんだ?」
「ビビり過ぎだぜそんなのいね~って!」
「だが、魅了してあるんだ。嘘ではあるまい。皆気を付けろ!」
「今ここに侵入者なんて? マジ信じられないんですけど~!」
どうやら、スルーしてくれそうだ。
降魔師か?
これは厄介な。
今魅了を解いても、気絶すると思うが。
万が一騒いで殺されるか、再度魅了されて俺の存在がばれ盾にされかねん。
一発聖光をかますか? この距離ならある程度は効くだろう。
でも、陰になって助かる奴もいるかな。
そうか、聖光弾で中ほどの天井に当てれば上からの光だ、きっと全員食らうだろう。
問題は隠れているカウンターの陰から体を出せば見つかりそうだよな。
素早く打てばいいか。
俺はエアガンを持ち、聖光を弾に込め始める。
「やはり、侵入者です! バックドアの方に居ます」
「くっ!」
俺は聖光を込めている途中のBB弾を急ぎ天井に向かって撃ち、カウンターの陰に素早く隠れた。
「ギャワ~!」
蝙蝠達は苦しんではいるが、聖光としての威力はなく目くらまし程度で重症ではない。
カウンターの影から飛び出し、聖光漸を手前のとんがり頭ヤンキー男に飛ばし両断する。
同時に魅了も飛ばし部屋の隅に立っていた降魔師に当てた。
「うぎゃあああ!」
ヤンキーが消滅していく。
「やばい! 奴だ、皆逃げろ!」
やー〇ん風おっさんが言うと、紫頭のヤンキー女ともう一人の中年女はおっさんと一緒に一目散に出口へ向かい、変な男は。
「やってくれたな、このやろう。弱そうなくせに! いっしっし」
とナイフを振りかざし俺に向かってきて。
あと一人はその場で
「えぇっ? えっ!」
と固まっていた。
この距離なら当たる!
「焼失魔法」
「消えていく? 熱いな! いっしっし、こんな最後もわるかねえ。いっししいい…………」
向かってきた男は、焼失魔法をもろに食らい蒼い炎に一瞬で包まれてあえなく燃え尽きていった。
「くっくるな! くっくると、こっこいつを、こっころすぞ!」
さっきの間に気絶している降魔師が人質となっていた。
くっ、パニくってる風なのに素早い判断と行動だ!
俺はズボンのポケットに手を入れる。
「おっおい! ずッズボンから、てっ手を出せ。てっ手を、あっあげろ! こっこいつを、こっころすぞ! ほっほんき、なっなんだぞ」
本気だって?
知ってるさ、お前らにとって人間の命など紙屑以下の価値だってな。
それでも、消えたくないと強く思う気持ちが震える奴から伝わってくる。
俺だって元は人であった者を消すのは嫌だ!
だが人類と彼らの共存は許容できるものではない!
無理だ!
それが人類の傲慢さだとも分かっている。
だがやっぱり無理だ!
だから俺は吸血鬼どもに対して非情に徹する事にしたのだ。殲滅しかないと……。
俺は手を挙げながら、聖光をかなり弱めに込めた込めたBB弾を指ではじき奴のそばに飛ばした。
「そっそんなもの。あっ当たるもんか!」
と奴は手でBB弾を叩く。
そこでBB弾がビカッと光った。
「わぎゃぎゃ~!」
奴は、ほぼ半壊の様子だった。
俺も結構なダメージを負ったが構わずに。
「止めだ。聖光斬」
真っ二つになった気弱な男は。
「じにだくないよ」
の言葉を残し灰になる。
俺はすぐさま外を目指して走り出した。
「ちっ、死にたくないのは皆同じなんだよ」
体がシューっと音を立て回復していく。
次回更新は明日21時になります、よろしくお願いいたします。
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