0026.人は慣れる生き物
俺は麻生さんと街中を走り回り尾行を撒いて道路沿いのベンチに腰を掛け俺は麻生さんに謝ろうとしていた。
「でぇ、それが何で謝ることになるん?」
俺って結構、重大な話をしたと思ったんだけど? 反応は薄い。
「あれ? 驚きませんね」
「もう、いろいろ驚いた後や! そうは驚かんやろ」
「俺は、銅路の同類に近い、人でない者なんです!」
俺も吸血鬼かも知れないよ! と暗に言っても反応は薄いまま。
「それで?」
「俺も魅了の力が使えるんです! 使い方や機能がよく分からなかったんで、色々試行錯誤している時に、麻生さんにも魅了を掛けてしまったんです。許してください」
と俺は頭を下げた。
「その魅了とやらを他にも何人か掛けたん?」
と、多少むっとした表情で聞いてくる。
えっと、何かがすれ違っている気がする。
こうなって来ると驚くのは俺の方だ。
麻生さんは、なんで魅了を掛けられたと言うのに怒らないんだ?
「へっ? えっと、異世界で聖女と御付の男十数人と、妹と、コンビニであの苦手だったおばさんと、コンビニ店長と、倒れた時の入院先に居た看護師体験中の女子高生、位だったはず。あっあと幽霊の少女、あれも魅了に近いはず」
「妹に魅了とか信じれへんな、あと看護師てなんなん?」
「えっ食いつく所そこ?」
「異世界とか、もうどうでもええねん! 銅路に攫われてからもう不思議時空に引き込まれてる自覚あるさかい。さあ答えてもらいましょうか?」
不思議時空ってまた。
「妹に魅了を掛けてしまったのは、壁に向かっていつまで魅了が使えるか持久テストをしていたら、壁の向こうに妹が居たので壁を越えて効いてたみたいな。女子高生は言いがかりを生意気な口調でかけてきたのでムカついてつい? かな」
「で、うちにはなんで?」
「美人なお姉さんだったので、小さい力で魅了を掛け続けたらどの位で魅了状態になるかのテストで」
「うち、未だに魅了状態なん?」
「いえ、あの頃の俺が掛けた魅了の状態異常はすぐ解けるみたいで」
「ならよし、許したる!」
「ええっ! でも魅了は解けても記憶は消えないのが後から分かって、影響は残っているんですが?」
「良いゆうてるやろ!」
何故か麻生さんにはえもいわれぬ迫力がある。
「はい」
「うちな、木戸君には非常に感謝しとるんや。ボロボロになりながら戦う姿に感動したんや、その位で怒ったりしないよ?」
そんな闘いだったかな? かなり地味だったような、ボロボロになったのは確かだけど。
「なんで最後疑問形なんですか?」
「ははは、多少意趣返しや」
麻生さんは少し意地悪気な笑顔を見せた。
「で、なにが起こっとるん? うちにはもう知る権利があると思うんやけど」
確かにここまで巻き込んでおいて説明しないのはまずいのかもしれない。
「えっとね、今起こっている事は、最初の事件で吸血鬼に攫われて吸血蝙蝠になってしまった奴らの中の生き残りと言うか、アンデッドなので死に残りの数少ない幾何かの奴らが、こちらの世界で悪さを始めている。ですね」
「奴らってことは他にも居るん?」
「今判明しているだけでも6人、銅路も入れると7人かな?」
「死に残るってまた……なんで他の大勢は助からんかったん?」
「250幾人も攫って吸血蝙蝠にした吸血鬼が居たんだけど、向こうで悪さしまくっていて、勇者と聖巫女に吸血鬼が退治されたんだが、その前に勇者たちと戦う戦力として召喚されてたので、ほとんどが戦って消滅させられたと思う」
「そんな悲惨な!」
「あとは、現地の獣人が人狼になっていて、蝙蝠と一緒にこちらに来ている可能性が高い」
「なるほど、分かった。けどな木戸君。うちが、特に聞きたいのはあんたの状態や!」
「俺ね、俺の事はよく分からない事も多いんだけど、元は皆と同時期に召喚されて蝙蝠になっていたんだ。しかし、なんでか分からないけど中途半端だったみたいで、たぶん俺だけ死んでなくてね。勇者たちとの戦いには一人飛べなくて参加できなかったんだ! それで生き残ったんだ!」
「って! 木戸君も蝙蝠になれるの?」
「うん、なれるんだ。人でなくてごめんね。でも吸血とかしないよ! 俺生きてるので」
「ややこしい事になってんねんな。今度見せてなあ蝙蝠」
「いいよ」
「言いにくい事を正直に教えてくれてありがとな木戸君。ほんに酷い事があるもんやな。こう見えてもうち怖かったんやで。あの時親友だったチャーが銅路に殺されて、またあんな事があるんじゃないかと眠れない日々やった。なんでうちはチャーを救えなかったんやと自己嫌悪にも陥るしタカが生きているかも心配やったんや」
普段あれほど明るい美香の顔に影が差し辛さが伝わって来る。
こんな時俺はなんて声を掛けたらいいのだろうか?
「木戸君が生きていてくれて、うちを助けてくれてほんにありがとう。色々分かってすっきりやわ。そいでな、話は変わるんやけど」
クルっと表情が明るく戻り。
「うち、なんとなく分かんねんけど、そこになんか居るやろ」
強い人だな麻生さんは。
「ただいまです、タカ様」
『おかえり上手くいった?』
「はい完璧です」
『ありがとう』
「麻生さん、よく分かったね」
「それか、魅了した幽霊少女って?」
「魅了じゃなくて彼女は眷属化なんだけどね。あと、それとか言ってはいけない。紹介が遅れたけど名前は五条恵子。俺はケイって呼んでいる」
麻生さん、幽霊を恐れないなあ。
もしかして見えないからピンと来ていないのだろうか?
「ああごめんなー、ケイちゃん。って、眷属化って何?」
「彼女に魔力渡して消滅を防いだり、魅了効果が出たり、とかかな?」
「タカ様、魅了効果はあまり出ていませんよ」
『そうなんだ』
「うちも話したいな~」
そうだなあ、ケイが皆と話せればいいのになあ、何か方法はないもんかねえ?
考え付かないなあ、まあ考えとこ。
「そうだ、魅了はしてないけどあと一人、関係者を保護してるんだ」
「へえ、保護ってことは子供かな?」
「そう、あちらの世界の獣人の女の子でね、両親が人狼になっちゃって、一人ぼっちでこちらの世界に来ていたもんだからね」
「えっ? 獣人おるん、会ってみたいわー、リアルファンタジーや! お願いや! 会わせてーや」
(なんか雰囲気の盛り上がらん色気の無い感じのデートやったけど、これで帳消しや! モフモフやで! 獣人の女の子をモフモフできるんやー!)
えっ急にテンションがあがったぞ?
「いいけど、これから家にくる?」
「行ってええの? うれしいわ~」
「あの人の家に行って、ダミー発信機魔法で電波を仕掛けてから家に帰った方がいいと思います」
『なるほど、ケイは頭いいね。ありがとう』
「麻生さん、どこに住まれていますか? 家にダミー電波仕掛けておきたいんだけど」
「++町のあたりのアパートや」
「おっと、それなら家からそう遠くないな。では寄って行っていいですか?」
「案内するで、こっちや!」
そうか同じコンビニでバイトしていたんだし近いのは当たり前か。
「お~い! 置いて行くで~」
「ちょっとまってくださいよ~」
麻生さんの部屋は新築の2階建てのアパートに在った。
「なかなかいい所ですねえ」
俺が言うと麻生さんはどや顔で笑って見せた。
「せやろ、気に入ってんねん。2階の奥の角部屋や! (しもた、うちちゃんと部屋かたずけとったっけ?)」
「ケイが部屋に入って魔法を仕掛けてくるけどいいかい?」
「え? ああ、ええで」
「ケイ頼む」
「おまかせあれ」
「終わりました」
「早いな、ありがとう。じゃあ、麻生さん家に行きますか」
「お、おう、まかしときいや」
何を任せればいいんだ?
次回更新は明日17時になります、短めの閑話ですがよろしくお願いいたします。
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