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0023.新しい家族

 その日、俺は一人の少女を助けた。

 虎獣人からアンデッドの吸血鬼である人狼へと堕ちるのを防いだのだ。

 俺が助けたその少女は、比類稀な精神力で邪悪な侵食と闘い抑える事でアンデッド化を免れていた、凄い少女だった。

 すっかり、魅了されていた俺にはまねできなかったことだ。

 少女は強い! たとえどこでも一人で生きていける! そう思るほどだった。


「そうだ、アンは、これからどうするんだ」

「ここにいても仕方ないニャ、にいちゃんは、やさしそうだから連れていってほしいニャ」


 すがるような目でこちらを伺うアン。


「分かったよ、こっちだ。付いて来て。手をつないで」

『ケイ、帰るぞ』

「はい」


 すうっとケイは俺の肩辺りへ移動した。


 少女はもう大丈夫だ、悪しき存在でも無かった。

 だがここは、少女にとっては異世界だ不便もあるだろう。

 姿かたちも違う。

 あの世界に帰してあげるのがいいかも知れない。


 俺は周りから見えにくい場所に素早く移動し肩にケイが手にはアンが掴まっていることを確認し、ベースへと転移した。


「ニャー、びっくりしたニャ! 何が起こったにゃ? ここは何処にゃ?」


 アンがうろたえる。


「あー、ごめんごめん、転移したんだ。ここは探索ベース、とりあえずは誰も来ない安全な場所だよ」

「よかったニャー、吸血鬼のもとに戻ったのかと思ったニャー」


 安堵の笑顔を見せるのだった。


「あの吸血鬼は退治されてるから、もう大丈夫だよ」

「よかったニャー、あんな化け物が居なくなってほっとしたニャ」

「アン、元の世界に送ってあげれるけど、どうする?」


「帰っても誰もいないニャ。一人ボッチは寂しいニャ! もう一人は嫌だニャ! 父ちゃんも母ちゃんも一緒の所をあの吸血鬼に、えぐっ、襲われ、えっえぐっ、て、完全に、えぐっ、人狼になっ、えっえぐっ、てしまったにゃ、うえっえっえーーん、えーん、父ちゃーん、母ちゃーん、びえーーーん!!」


 泣き出してしまった。


 失念していた。

 いくら精神力が非常に強くても、アンはまだ子供だったのだ。


 両親が人狼になって、一緒に攫われたのか?

 人狼になってしまっていては記憶すら消えて吸血鬼に従っていたはずだから、あの異常な空気の中で一人、どれだけ心細かっただろう。

 だが、俺は無力な高校生だ。

 これは、家族に真実を話し家族として引き取るか、それが無理なら俺が異世界でアンと暮らす覚悟を決めないと駄目だな。


 家族は真実を受け止めてくれるだろうか? 

 不安だ、はたして信じてもらえるかな? 

 まあ、アンの姿を見れば信じやすいか?


 泣くアンをしっかと抱きしめ、頭をなでてやろ。


「大丈夫だ、一人にはしないよ、俺にまかせとけ!」

「ひっく、にいちゃん、ひっく。本当ニャ?」

「本当だよ、まかせなさい」

「グスッ、タカ様に任せればきっと大丈夫よ」


 ケイも泣いていた。

 同じような境遇のアンに自分を重ねたのかもしれない。


 フレッドとんでもない事をやっているな。

 いや吸血鬼になっているのが悪いのか、吸血鬼許すまじ。

 蝙蝠達も決して放ってはおけない、でないと悲劇がまた増えていく。

 心を鬼にしてでも、何とか出来そうな俺が何とかしなければ。


 まずは親の説得からだな。


 ひとしきり泣いてアンが落ち着いたので、自宅へと転移する。

 もう、周りは暗くなっていて皆が家で俺の帰りを待っていた。

 アンを連れて食卓に居る家族の所へ行く。


「お帰り、貴志。あら、連れているその子は誰なの?」


 母さんがアンを見て訝しむ。

 まあ、ぱっと見には、髪の毛の色が変わっている娘にしか見えないので誰も驚きはしない。

 俺は覚悟を決め切り出した。


「あの、父さん母さん話があるんだ。実は…………」


 俺は今までの事を搔い摘んで家族に説明した。

 異世界や俺の状態の事もだが、見えてはいないケイの事やアンの事などを包み隠さず話す。

 父さんも母さんも妹も凄く驚いていたが、最後には真剣に聞き入ってくれていた。


「じゃあ、実は集団行方不明に巻き込まれていたと?」

「うん」

「で異世界から帰って来たと。その子は異世界の獣人で被害者だと?」

「そうなんだ、父さん、放ってはおけないだろ」

「お兄ちゃん、部屋からいなくなってたのにはそんな理由が!」


「理由は分かったし、お前はダメだと言ってもやめたりしないだろう。しかし、さすがに高一では子供の面倒など見られないだろうから、アンちゃんは家で預かろう。心配するな、大丈夫だ。父さん達に任せておけ。だが、気を付けるんだよ。お前は無理をするんだから」


「そうよ貴志は、歯止めが効かないんだから。ケイちゃん、そこに居るのよね。貴志が暴走しないよう頼みますよ」

「はい、お母様」

「はい、だって」


「そお、いい子ねケイちゃん。アンちゃんも自分の家だと思ってね」

「はい、お母ちゃんニャ」

「だが、耳と尻尾は目立つなあ、いい方法ないかね母さん」

「そうねえあなた考えてみるわ」

「ケイちゃんとアンちゃん、私杏子、よろしくね」

「「よろしくお願いします」ニャ」


 うちの家族はいい家族だ! 文句も言わずにアンを引き受けてくれた。

 よし、俺も頑張るぞ!

 せっかく死に残った蝙蝠には悪いが。

 悪意に染まっていて救う方法が無いからには残念ながら滅ぼさせてもらう。

 奴らが引き起こす惨劇を出来るだけ防ぎたい。

 俺も鍛えながらだが精一杯捜索はする。


 しかし、奴らの気配が捉えられないからには少々探しても発見など無理かもしれない。

 あまり被害者が出る前に尻尾を出してほしい物だ! 

 夕食が始まりアンがとてもお腹がすいていたらしくものすごい勢い。


「美味しいにゃ~! 美味しいにゃ~!」


 と感激しながら食べていた。

 おや、メールが来てる!

 

 “今度会えませんか”麻生さんからだ。

 “明日会いませんか”と返しておいた。


「あ~タカ様がニタニタしてます」


 目ざとくケイが揶揄する。


「お兄ちゃんいやらしい」


 妹よ、兄に向かっていやらしいとはなんだ、失礼な。


「何だニャ、アンも混ぜるニャ」

「なんだなんだ俺が何したって言うんだ?」


 なぜか皆の目が怖い。


「ふう、まあいいわっ。あのね、お兄ちゃん私異世界って行ってみたいな」

「杏ちゃん、行ってはダメです!」


 すかさず父さんが妹を止めた。

 しかし、妹は父さんを軽く無視している。

 行く気満々だなこいつ。


「そうだ、アンちゃん、私と一緒にお風呂に入りましょう」


 妹がアンを風呂に誘う。


「嫌にゃ、風呂は嫌にゃ!」

「いいえ洗わないと駄目です!」

「助けてニャー」


 嫌がるアンを妹がお風呂に引きずっていった。


 楽しい夜は更けていく。

 ネットで検索すると、銅路の名前で話題が溢れかえっていた。

 最初の集団行方不明の被害者で、銅路の家宅捜索すると家族全員の血のない遺体が発見されていた。


 吸血鬼説が大々的に浮上し他の被害者宅も調べるべきとの声が多く上がっていた。

 つまり、最初に吸血鬼に攫われた連中は皆怪しいと言う訳である。

 結構ネットも核心に近い。

 普段は迷走することも多いネットの集団知も侮れないなと思った。


 これでは蝙蝠達は自宅には隠れられなくなるな。

 奴らがどう出るか心配だ。


 しかし、奴らの暗躍につながる話は見つけられない。


 ちなみに麻生さんとは午後3時に某喫茶店で会うこととなった。


 さて、今から奴らを探しに出てみるか。

 市内のあちこちに転移し全力で探知してみるが引っかかりはしない。

 もっと広範囲を探さないと駄目かな? 

 近くに居さえすればいくら気配を殺していても見つかるはずなんだが? 

 どこに居るのだか、範囲が広すぎてさっぱり見当がつかない。


 闇雲に探しても無理だな。

 少し考えて動かないとかな? 

 俺は探すのを諦め自分の部屋に戻る。

 しっかり考えてもっと探す場所を絞り込む必要があるな!


 もう、家族に秘密はないので、ダンジョンへ様子見とパワーアップを兼ねて少し行ってみる事にする。

 そうだ、魔法開発もしないとな。


「これから、あちらの世界吸血鬼が居た洞窟に行ってくるがアンはどうする?」

「にいちゃんに付いていくニャ。吸血鬼は滅びたんニャ」

「だが、死に残りの吸血鬼に影響を受けすぎてる蝙蝠やら人狼に遭う可能性もあるぞ。それでもいいか?」

「そんなのが居るにゃ?」


「ああ、アンと同じ方法でこちらに来て残った連中がな」

「もしかしたら、父ちゃん母ちゃんも居るかもかニャ」

「すまん、ないとは言わないが。希望があるような事を言ってしまって」

「いいニャ、ほとんど諦めているニャ。もし、死に残っていても、それはもう元の両親じゃないニャ。悲しい事にゃ」


「アンは偉いんだね」

「そんなんじゃないニャ。でも、狂って残っているならアンの手で」

「アンの選んだ道は厳しいぞ」

「分かってるつもりニャ」


 最初会った時、俺よりかなり多かったアンの魔力も、今は俺より少なくなってる。

 なぜだろうか?


「そう言えば、ケイは何で裸でいるニャ?」


 あっ! 確かにケイは全裸だ! 

 ケイの全裸にも慣れてきてしまって気づかなかったよ。

 そう言えばアンがいるのになんでだ? 


「さあ? なぜでしょうか? アンが居てもなぜか自然な感じで落ち着くからでしょうか? アンも試しますか? 全裸は気持ちいいですよ」


 えっケイはなにを言ってるのだ? 


「アンもかニャ?」

「そうです。アンもです」

「ちょっと、恥ずかしいニャ。でも考えてみればすでに全部見せてたニャ。なら、いいのかニャ?」

「いやまて」

「いいに決まっています。さあ、アンもわたくしと共に全裸の世界に!」


 ケイは俺の言葉にかぶせるように話アンを引き込もうとする。

 なんでケイはこんなに必死なんだ? 

 何がケイを裸族へと駆り立てるのだろうか? 


 おや~、まるで変な宗教みたいになってきたぞ? 


「それよりもダンジョンに行かないか?」

「分かりました。行きましょう」

「ダンジョン行くニャ!」


 その後俺たちは3人でダンジョンに向かい、殲滅したはずなのにすっかり元通りに湧いているスライムや蛇相手に魔法の練習を始めるのだった。

次回更新は明日20時になります、よろしくお願いいたします。

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