0022.隣の市までチョット
俺はケイと探索ベースの入り口手前の雑草に囲まれた周りから見えにくい空き地で現段階での魔法の仕様を確認作業中だ。
火魔法や聖光の使い勝手の確認はほぼ終わったのでBB弾に魔力を込めてより遠距離に効果を飛ばすことが出来るかを検証する事にしよう。
これが出来れば吸血蝙蝠達への切り札として使えるかもしれない。
まあいろいろ工夫しないと当たりはしないとは思うが。
俺は魔力加充填での暴発が怖いのでBB弾を魔法の届く限界3.5m程度俺から離れた所に置き火魔法の力を込めてみよう。
なんで聖光じゃないんだって?
そりゃ聖光だと遠くには発現出来ないんで失敗すると全身火傷になって長時間苦しむからだよ。
今制御できる最低魔力でBB弾に火魔法を込めようとしてみる。
おっ入るぞ!
何の問題もなく火魔法を発現するギリギリ手前の状態の魔力をBB弾の中に流し込める。
これでBB弾に少しの衝撃でも受けると火が吹き出るはずだ。
こんな利用方法を思いつけるなんて俺は天才じゃないか?
ふっふっふ。
「わたくしには難しくてできません。流石はタカ様」
「だろっ!」
「えっ、ええ……」
俺の鼻息の荒さにケイが若干引いている。
その様子を見たら舞い上がっていた気持ちも冷め少し恥ずかしくもなり頭も冷えた。
少しずつ込める量を増やしていく。
するとBB弾内の魔力圧力が限界を迎えたようだ。
ボンッ
BB弾がはじけて半径2m位の火の玉が燃え上がった。
この位の魔力量が限界なんだな。
爆発後を見ると深さ2mの穴が開いていた。
危ないな! 威力がもう少し強ければ俺も燃えていたかもしれない。
しかし、この蒼い火は土も燃やすのか? これはもう火魔法とは言い難いな。
そうだな、焼失魔法とでも言うのが正しいかもしれない。
これはここで実験するには威力が有りすぎるな。
異世界の洞窟でやろう。
洞窟の直線が結構長い所を探して移動し、エアガンに装填されているBB弾に焼失魔法を先ほどの1/4程込めて40m程先の岩を狙い打つ。
レベルアップで遠くまでよく見えるようになった目のおかげでこの位の距離は余裕で狙える。
だが、狙えることと当たるかどうかは別物で、弾は予想以上に浮き上がり後ろの壁に当たり爆発した。
しかし、飛んでいくBB弾を目で追えるのは凄く便利だな。
しかし何度か撃っても当たらない。要練習だな。
凄い動体視力を得たもんだ。
それでも50cm以上の穴が岩の壁に空き、まずまずの成果を見せた。
その時の振動で洞窟のあちこちがガラガラと音を立てて小さく崩れるのが分かる。
おっと洞窟が崩れても嫌だから練習はもう少し弱めにした方がいいかな?
さて、次にやることは新魔法の開発だ。
焼失魔法が使えるなら他の魔法も使えるかも知れない。
冷凍とか電撃とかカッコよい魔法を覚えたいな。
いやもう昼だな。新しい魔法開発はまた今度にしよう。
「ケイあちらに戻って昼食にするよ」
「はいタカ様、わたくしも食べてみたいです」
そうかそうだよね。ごめんね目の前で飲み食いしちゃって。
「いえ、気にしないでください。言いすぎました。幽霊ですから諦めています」
「ごめんね、きっと体を与えれるほど強くなるから」
「はいお待ちしていますわ」
ケイはニコリと微笑むが、食べられないのはやっぱりつらいだろう。
放っておけば自然に消えていく定めを捻じ曲げたんだ、責任は俺にあるよね。
それでも俺はお腹が空くので昼食を食べには帰るのであった。
魔法の確認は一段落したので次の予定である人狼探しに出る事にした。
隣りの市は結構遠いので電車に乗って40分近くは揺られることになる。
その間ケイははしゃぎまくっていた。
「わあ~わたくし汽車に乗るの初めて! 凄い! 凄い! 早いな~」
電車だけどそんな無粋は言わない。
「すごーい、風景が後ろに飛んでいくわ」
今どきそんな言葉を聞くことが有ろうとは。
新幹線に乗ったらどうするんだろう?
その内電車内では我慢できなくなったらしくケイは屋根に上がり景色を楽しみ始めた。
『お~い着いたので降りるぞ~』
「タカ様この汽車煙が出てませんでした」
『電気で走ってる電車なんだよ』
「そうなんですね」
おっと反応が薄くなってる!
流石に慣れて来たかな。
そこからバスに乗り換え揺られる事15分程度。
その間、ケイはもう騒ぐことは無かったが嬉しそうではあった。
しかし、こんな事が続くなら移動手段にバイクとかが欲しいな。
お金も免許もないけど。
バスはあまり家の無い田んぼが多い地域にさしかかる。
確か噂ではここら辺だな。
ピンポーン
俺はバス降車ボタンを押す。
「タカ様何を押したのですか?」
『これを押さないと停留所にバスが止まらないんだ』
「そうなのですね」
バスを降りてすぐ俺に出来る最大範囲全周全力探知を一瞬行った。
んっ、かなり近くに俺より大きい魔力反応。
反応のあった辺りを詳しく探知しながら視線を向けてみる。
そこは俺達が乗っていたバスの上であった。
「ふにゃ~あ」
とあくびをする魔力を持った子猫を見つける。
虎縞の子猫?
まさか人狼ではなく日本古来からいる妖怪か何かか?
とにかく走り出すバスを追いかけようとして跳ねるとバスの上に飛び上がってしまい、ふわっと着地出来た。
うわっ! 本当に俺人間やめてる。
瞬間すっと手を伸ばして驚く子猫の首筋を掴みバスから飛び降りる。
「お見事です。タカ様」
「にゃにゃにゃ、にゃにゃするニャ、はにゃせ!」
吊るされてパニックになったのかジタバタと騒ぎ暴れる子猫。
「お前は何者だ?」
探知では半死の状態だとわかる。
半死ってなんだ?
「答えるにゃから、はにゃすニャ!」
「逃げるなよ」
「分かったニャ、だからはにゃすニャ」
子猫は諦めたのかすっかり大人しくなったので離してやると、子猫がフシューと変身しケイよりも幼い毛むくじゃらな小さい女の子が現れた。
可愛い顔に体全体が虎柄の毛並み。
よく見れば猫のように毛があるとがった耳、もしかして猫? いや、尻尾が太い。
虎獣人の子供か?
なぜか胸の辺りだけ毛が薄くて見る所に少し困るな。
「アンはアンだニャ。吸血鬼にゃ襲われて気が付いたらこうにゃってたニャ。にゃんでここにゃいるにゃかわ分からにゃいニャ」
人型になっても言葉が分かりづらい。
まるで舌が麻痺でもしているかのようだ。
「アンは人狼なのか?」
「そうニャ。アンは人狼にゃもにゃれるニャ」
そう言うとアンはフシューと茶色い人狼になった。
がどうも大きくも無ければ迫力もない出来損ないのような人狼だった。
「アン、吸血鬼が怖くて怖くて逃げてたニャ。すると傷だらけの死にそうにゃ蝙蝠さんが飛ばされて来てニャ。かわいそうにゃんで、助けていたんだニャ。2回遠くで大きな光が光ったにゃが見えたニャ、そしたら周りが暗くにゃって、ここに来たんにゃ。でも蝙蝠さんは日にゃ当たって灰にゃにゃったニャ……」
この子凄いな、フレッドの支配から逃れていたんだ。
俺の本能が教える。今はまだアンデッドになり切っていない。
アンデッドでない方が気持ちいいぞ。
しかし、このまま放っておけば近いうちにアンデッドとなって完全な人狼になってしまうと。
そうなれば助けられないと。
ゆっくり神気と生気を流し込めば生き返ると。
でも神気ってなんだ?
生気は何と無く分かるが。
そう思い自分を探知すると、俺の体は神気、生気、悪気の三つの気によって構成されていた。
今なら解るフレッドは悪気と無しの半悪気だったのだと、他のアンデッドは気と呼べるものが無かったと、しかし、解ったのに何の事やらさっぱり分からない。
モヤモヤする。
だが、俺は彼女を助ける事が出来るようだ。
ちなみにアンは神気と生気の半神気だったが神気と生気が減っていって無しになろうとした。
そのせいで今の状態になっているようだ。
気が無くなるとアンデッドになるって事は生体維持に必要なエネルギーなのかも知れない。
しかし、なぜかケイは体がないのに神気と悪気で構成されている。と言う事は違うのかな?
分からんな。
もしかしたら幽霊とはまだ死んではいない状態なのかもしれないとすると多少つじつまが合う?
「アン、このままだと、君は完全に人狼になってしまう。俺が生気と神気をゆっくり君に送り込めば人狼化を止めることが出来る。お願いだから俺に治療させてもらえないか?」
「アン、人狼にゃにゃりたくはにゃいニャ! 止められるにゃらお願いするニャ」
「分かった」
俺は彼女に目線を合わせ、両手をとり、ゆっくりと神気と生気を体になじませながら流していく。
「にゃ~体にゃ楽にゃにゃっていくにゃ~」
あれっ? 流し込む生気が足りない感じが。
すると足りないところは勝手に悪気が補充されてしまった。
ありゃ、とは思うが仕方ない。足らない物はどうしようもない。
アンデッドになるよりはいいだろうか?
まあいいか。
「ふわっ、体が暖かいニャ! にゃなーなーにゃああ、くるっくるニャ~!なぁ~~お、にゃっにゃ~~~っ!」
(き、気持ちいいニャ! 母ちゃんがアンに言い聞かせていたニャ! 子造りしたらとても気持ちいいのニャ、早く孫の顔が見たいからアン頑張れニャ! って言ってたのはこれかニャ? アンが寝ているとき隣でお父ちゃんとお母ちゃんが気持ちよさそうだったのは? これが子造りの気持ちよさだニャ! 体中が熱くってすごく気持ちいいニャ! とろけそうだニャ~。こんなに気持ちよくされると虎獣人のメスとして本能でこの兄ちゃんの子が欲しくなるニャ~。なんっ、なんかくるニャ凄いの来るニャ~!)
「ニャっ、ニャっ、ニャっ……」
アンの荒くなった息などが落ち着いていく。
少し体が育ったようで妹よりちょっと小さい位になっている。
胸なども育ってきたのでどんどん目のやり場が無くなってくる。
何か幼いのに吐息が漏れていて妙に色っぽい。
そして、半死の反応が無くなっていた。
アンは体の毛がほとんど無くなり、美しい裸体をさらすこととなった。
髪の毛は黄色と黒のまだらで頭の上に丸みのある耳があり虎らしい容姿を残している。
猫耳だと思っていたとがった耳は狼の耳だったようだ。
所々に生え残る黄色と黒の毛でどう見ても獣人にしか見えないがとてもかわいくそして美しい。
俺はついボーっとアンの裸体を眺めていた。
そして、はっと正気に戻る。
いかん、これは!
俺は慌てて俺のシャツを羽織らせた。
「ニャニャ、気持ちよかったニャ! ……もっ元の姿に戻ったニャ! ありがとうニャ。でも誰ニャ?」
しっかりとした発音でよく聞き取れるようになっている。
「ああ、すまん。まだ名のってなかったな。俺は木戸貴志だ」
「わたくしは、ケイですわ。よろしく」
「アンニャ。よろしくニャ。まともに話せるようにもなったニャ!」
しかし、語尾にニャは変わらないのか?
これはまたベタ過ぎるだろう。
「もう虎の姿なんかにはならないニャ」
フシューと猫に戻りシャツは脱げた。
「ニャー、虎ニャ! ぜんぜん治ってないニャ。でも人狼にはならない筈ニャ」
フシュー
「ニャー人虎になったニャー! あっ! でもあの気持ち悪さは無くなったニャ。良かったニャ。もう人狼じゃないニャ」
さほど大きくはないが強そうな人虎がそこにはいた。
顔は虎そのもので、体は毛皮で覆われ、鋭い爪が長い。
かなり怖そうになったな。
「ぎゃー! ワータイガーだー!」
と叫んで、少し離れた所に逃げていく人が見えた。
まずい周りの探知がおろそかになっていたな。
もうこれ以上ここに長居は出来ない。
アンはシューっと元の姿に戻っていく。
また素っ裸なアンを見て欲望が出てきそうになるが。
その前に急ぎ少女の姿に戻ったアンにまたシャツを着せる。
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