閑話 吸血蝙蝠
俺は、関谷 治彦、37歳、地方の中小企業に勤める中間管理職、係長だ。
日々の仕事は忙しくともやりがいがあり、さほど美人ではないが、優しい妻と可愛い子供が長女と長男の二人。安い給料ながら、小さいながらも一軒家を郊外に買い、小さな幸せを感じていた。
強面でや〇ざと間違われ怖がられる俺には出来た幸せだ。
そんなある日、居間で家族全員でテレビを見ていると家の客室から窓をゴンゴンと叩く音がする。
「あなた、あの音は一体何、こっ怖いわ」
妻は顔色を悪くし震え。
「パパ、なに、何の音がするの?」
娘は俺に抱き付いてきた。
幼い息子はよく分からない様でテレビに夢中だ。
俺も怖かったが、家族の為には不安を取り除く必要が有る。
「任せておけ、何かが居ても俺が追い出してやる」
俺は強がり家族を安心させようと笑いながら言う。
「あなた、気を付けて」
世の中には意味不明な一家惨殺事件が無い訳でもない。
おっさんだって怖い物は怖いのだ。
俺は、学生時代から野球が好きでやっていて、最近は近所のおっさんたちとソフトボールに興じていたために持っていた金属バットを構えて用心深く周りを確認しながら客室へと入っていった。
すると、窓がまたゴンッと鳴ったので。
「誰だっ!」
とドスの効かせた声を掛けるも反応が無い。
や〇ざと間違われるくらい怖い声が出せたと思う。
しかし、窓の外に誰かいるような気配もない気がする。
忍び込もうとするものが隠れているなら慌てて動き、音がしそうなものなんだが?
窓にそろりと近寄り外を見ても誰もいない。
何か投げてぶつけているのかと思い。
窓を開けた。
そこで俺の記憶は途切れる。
「ギャワ―! いだいーー!」
体を焼き切るような強烈な痛みと共に俺は意識を取り戻した。
『ウギャー!』
『し、死ぬ~!』
『痛い! 痛い!』
周りから、仲間である吸血蝙蝠の辛い思いが頭の中に沢山響く。
どうやら皆あいつらにやられたらしい。
痛み苦しみながらも俺は主である吸血鬼の先兵として、吸血蝙蝠として戦い、変な女に羽を切り飛ばされた事を思い返す。
今俺は地面に落ちもがき苦しんでいる。
何故かなどとは思わない、俺は吸血蝙蝠なのだ。
だが、同時に関谷治彦であったことも思い出した。
もう、あんな恐ろしい女とは戦いたくはない!
痛い苦しい! 帰りたい! あの元居た世界へ!
すると、我が家の場所が分かる気がする。
帰れるんだ、わが家へ。
ブンッと周りの景色が歪み、慣れた我が家に帰って来た。
『グギャ~!』
沢山の同胞が日の光によって焼かれ死んでいくさまがなんとなく伝わって来る。
俺は家の中でしかも日が当たらない所に運よく帰れたようだった。
「きゃー! どこから現れたの! この大きな蝙蝠!」
美味しそうな匂いと共に、わが最愛の妻が俺を見て腰を抜かし逃げようとあがいていた。
その姿は心なしか憔悴し頬がこけている。
俺が居なくなって大変な思いでもしたのだろうか?
羽を切り落とされたこの姿ではうまいこと動けない、羽など簡単に修復できるはずなのになぜ治らないのだろう?
不便だ、人の姿になれたりしない物かな。
人の姿にと強く思うと。
フシューとゆっくり人の姿に変わる。
「あっ、あなたなの?」
俺は裸の姿で人に戻っていた。
右腕は切り飛ばされたようになって無いが、血の一滴も垂れていない。
咽が渇く、力が足りないもっと力を。
「俺は帰って来た」
そう言いながら腰を抜かして動けない最愛の妻だった女を抱き寄せ首筋に牙を立てた。
「あっ、あなた、なっ何を?」
おいしい! 腕の痛みを忘れるほどだ。
せめてもの手向けだ気持ちよくなりながら逝け!
催淫もついでに掛けてやる。
「あんっ、いっ、いい~~ん! あ‶っあ‶っあ‶っ」
しおしおになって、血を吸えなくなった物を横に投げ捨てると、可愛い娘だった物が震えながら立ちすくみ小水を垂れ流している姿が目に入る。
「いい子だから、パパの所へおいで」
しかし、娘だった女は、涙目になりながらフルフルと首を振り。
「いやだ!」
と言った。
家畜のくせに生意気だな!
俺は魅了と催淫を女にかけ呼び寄せ首に噛み付く。
「ふぁああ~ああ~あっあっあ~~~いい~」
子供のくせに妙に感じまくっているな、このマセガキが!
ふむ、俺は何に腹が立ったんだ?
分からんな。
それよりも美味しい、子供の血はなんて美味しいんだろう、まるで天に上る気分だ。
ふふ、もう一人この家には子供がいたな…………。
少し休むと無くなっていた腕がにょきにょき生えてきた。
一息ついた俺は。
『あー、聞こえるか? 眷属の生き残りは今夜集まらないか。今後の事を決めよう』
この様に呼びかけると、数人の男女から返答があり。
俺の家にみんな集まることにした。