0021.最悪の失敗
ダンジョンの第二層で偶然、銅路以外の吸血蝙蝠達と出会ってしまっていた。
10mは離れているが、こちらの事がばれてるな。
考えてみれば相手も探知が使えるなら当たり前か。
探知はフレッドの眷属としては当たり前の能力なのかも?
隠れている岩から顔を少しだし見てみると、素っ裸な三人が見える。女も一人いて何も隠していないから欲望が沸き上がって来るかと思ったが横にいる男の裸で相殺されたみたいで逆に盛り下がった。
女の胸はおっきくてまあ魅力的ではあったが裸の男がいるせいで欲情することは無いようでよかったと割と心の底から思う。
奴らの視線ははっきり此方に向いており隠れている事が無駄だとはっきりわかる。
なので俺は諦めて奴らの前へでて質問してみた。
「あなた方も吸血蝙蝠なんですか?」
あまりみっともない姿をさらすのもまずいので毅然とした態度で睨んでみる。
まあ、こそこそと隠れていたのですでに時遅しかも知れないがな。
髪を逆立てているヤンキーなにいちゃんが顔を不機嫌にゆがませ怒鳴る。
「あん? こいつ現地民じゃねえぞ!」
これまたヤンキーで紫頭で、でかいピアスを付けた、派手な化粧やボディペイントをしたねえちゃんが茶化すように笑い言った。
「ね~、マジ現地民じゃないならやっちまおうよ~。あ~し、もうつかれちゃったし~パパッと済ましちゃおうよ~」
すると、いかつい〇―さんみたいに見える強面なおっさんが真面目な顔でドスを効かせ話す。
「まあまて、こんな所に無傷で居るのだ。御同胞かも知れんだろ」
「いや、こいつアンデッドじゃ無いし~マジビビるんですけど~」
紫頭のヤンキー姉ちゃん煩いな。
いや、しまった現地民の振りが正解だったのか。
「なんで現地民だとやらないんだ?」
俺が聞くと。紫頭が。
「マジうける~、勇者とかくっから怖いっしょ~」
なるほどね、一理ある。
しかし、こいつら何故いまだに襲ってこないんだ?
まあいい、話に付き合ってくれるなら質問するいい機会だ。
「じゃあどこで血を吸ってるんだ?」
「こいつ馬鹿じゃね。日本に帰ってからに決まってるだろ。無抵抗な家畜ばっかだぜ! ハッハッハー!」
俺を指さしバカにして笑う。
とんがり頭の野郎もかなり煩い。
「あっちにも退魔師とかいるかも知れないだろ?」
「ふむ、こいつの言う事も分からんでは無いな。銅路も連絡が付かなくなったらしいし」
「あいつはバカなんだよ、ギャッハッハ」
顔がゆがみっぱなしのとんがり頭はかなりバカっぽいな。
「だがな、我らは血を吸うことが正義なのだ! どこかで吸わねばならん」
「フレッドは最初、動物の血で済ませていたぞ!」
「フレッドとは誰だ?」
「俺たちを攫った吸血鬼だ」
「あいつフレッドなの、マジうける~。動物の血なんてきもいっしょ。ニャハハハ」
派手な紫頭の胸が笑いに揺れ目がついそちらに行ってしまう。
「まさか家族の血を吸ったんじゃないだろうな?」
「我らは吸血鬼だ家族など居ない! 居るのは食料だけだ」
その言葉に家族を手に掛けた後悔などの感情はまったくなく、淡々と当たり前の事のように語る姿がとても気持ち悪い。
吐きそうになる。
「殺したのか」
「ああ、血は美味しいからなあ途中で止められんな」
「気づいたら死んでるよな。くっくっく」
「家畜はあ~しらの為に死んで当たり前っしょ。マジキモイんですけど~」
そう言うヤンキー女の目はごみを見るような目で何もない虚空を見ている。
今まで血を吸った人たちを馬鹿にしているようにも見える。
「あの吸血鬼の事を知っている! お前は何者だ?」
それか聞きたいのは。
「さあね、その辺の現地民さ」
「怖いもの知らずだなお前は! 我らに勝てるつもりなのか?」
「キャハッ弱いくせに力んじゃって、マジバカ~」
「いっぺん死んでみるかおら!」
ヤンキーどもの俺を馬鹿にした面がムカつくが、ここは情報を得るために穏便に話を進めなくてはと我慢する。
「俺は強いかもしれんぞー」
精一杯強がってる様子で言ってやった。
「はったりだ、こいつそんなに怖いのか、笑えるぜ。うっぷっぷっぷ」
とんがり頭はビビりながらも虚勢を張る。
しかし、奴らはすぐに襲って来るかと思いきや襲ってこずに話をしている。
そうか、俺の力が分からないから探りを入れているのか。
あのいかついのの指示かな?
他の二人よりは優秀そうに見えるし。
「お前ら蝙蝠なんて何人いても怖くないね。いくらでも呼ぶが良い」
と、俺があおりを入れてやると一番バカそうなとんがり頭が引っ掛かった。
「俺はお前より強いぞ。それが6人もいてその上「止めろ、佐武木」えっと、すまねえ言いすぎた」
いかついや〇さんふうのおっさんが途中で止める。
くっ、その上何が居るのか聞きたかったのに。
「プークスクス、佐武木怒られてやんのマジダッセー」
笑うたびに胸の揺れる紫頭もアホそうだ。
煽ってやれ。
「なるほど、そいつにいいように使われているのか、お前らダッサイな!」
「なんだと~、人狼なんかに使われてたまるか」
「お前らなー! ふう頭痛いぞ……」
いかつい顔のおっさんが顔をしかめヤンキーどもを睨む。
「あ~ごめ~ん、許して~、てへぺろ」
こいつら馬鹿だ。しかし人狼が生き残っているのか。
「こいつ殺しちゃえば問題ないよね?」
紫頭の女はふざけた顔でニヤッと笑いこちらへ駆け出した。
攻撃してくるならこちらも反撃だ。
聖光斬
シュッ
指先が少し削れ痛いが気にしない。
しかし、飛び出してくる彼女の膝の手前辺りで聖光斬は消えた。
えええ~~~! そうか射程距離があるんだな。
5mか6m位なんだ。
人を馬鹿にしている場合じゃ無かった。
俺がバカだった。
「わっと、びっくりするじゃん! マジか~」
「む、あれは聖巫女の放つ光に似ている! やばいかも知れん? 二人とも逃げるぞ! 魔法を放ちながら散開だ」
いかつい顔のおっさんが的確な撤退指示を出した。
「マジこわ~、了解」
「やべーのが居るぜーファイヤブラスト!」
「炎よ」
「ファイヤ~」
各自掛け声は違うが同じ火魔法を放ちながら3方向に逃げていく、俺は避けるのに忙しくとても追うことが出来なかった。
「あちいっあちい」
魔法がかすったズボンが燃えるので、慌てて手で叩き消すと再生により焦げたズボンと軽い火傷が治る。
でも延焼したね、これは俺の火魔法と根本的に違いそうだ。
おかしいな、元は同じ蝙蝠のはずなのに?
奴らが気配を消しながら探知範囲外に逃げていく。
奴らは器用にも気配を消すことで反応が薄くなり、探知範囲内でも発見できなくなった。
ここがダンジョンでなかったら転移で追えるのに。
奴らが逃げた反対側から、ケイがほっとした表情でやって来た。
「タカ様御無事で何よりです」
「あいつらには逃げられてしまったよ。これでは隠れられてしまう! くそっ! このせいでどれだけ被害が増えるか!」
「タカ様は、頑張られました。わたくしは凄いと思います」
「俺が聖光斬の射程さえ知っていればきっと殲滅できたはずなんだ。あんな人でなしの蝙蝠どもを逃がすなんて」
己のふがいなさに涙が溢れてくるのだった。
「タカ様……」
今のままじゃだめだ! 対策を考えないとその度に逃げられてしまう。
もっと強くなってやる!
俺の愛する者達が住むあの町を奴らの好きにさせてたまるか!
「疲れた、ここに居ては奴らも出て来はしないだろう。帰るぞ。ケイ、ありがとう」
「はい、タカ様」
聖光の射程を伸ばす方法を考えないとな。
しかし、気配を消せるのは便利な能力で、俺達にもできそうだ。
これからは気配をいつも消す事にする。
落胆しながらも第一層まで帰ると先ほど殲滅したはずの魔物たちが復活していた。
こいつら何処から湧くのかね?
家に帰ると妹が玄関に仁王立ちで待ち構えていた。
「おそいっ! お兄ちゃん、こんな時間までなにしてたの?」
「お前には、関係ないだろ」
「妹様はずっとここで待っていたのでしょうか?」
『さあな?』
ああ、ケイは俺を諭してくれたのか。
『ケイありがとう』
「わたくしはなにも」
「そう、睨むな悪かった、これからは遅くならないようにするから」
「ならいいわよ、許してあげるわ。お兄ちゃん夕食準備できてるわよ」
そう言ってにこっとする妹。
そんな表情長い事兄妹やってるが見たことねえぞ。
あざとい笑顔が出来る妹に驚愕しながら食卓へ向かう。
説教されることも無く食事が終わり、今日の事件を検索してみる。
行方不明、殺人、不思議、謎、吸血鬼、など関連しそうなワードで検索するが、中々新しいニュースにヒットしない。
人狼、狼男、む、なんかヒットしたぞ。
“△△市□□町北部の県道○○号線付近で、狼男目撃される。見かけて驚くとすぐいなくなったらしい”これは隣りの市だな。
人狼か?
だが何もせずにあいつらは逃げ出すだろうか?
人狼も吸血蝙蝠と同じく邪悪だったはずだ。
はやりに乗ったデマかも知れないが他に情報もない。
何よりも本当ならば、かなり危険だ。
人狼は日中も出歩けるし、何より元あっちの世界の獣人だから色々な価値観も違うだろう。
何をするか予想も出来ないな?
調べに行き可能ならば滅ぼそう。
え~っと狼男の特性は力が強く素早い。
満月を見ると狼男になるは違うな、通常から人狼だし。
人化しても獣人だから見た目は違うだろうし、聖光で倒せるのかな。
銀の弾丸で殺せるというのもあるが、眉唾っぽいな。
ふむ弾丸か! 遠くを攻撃できるのは銃だよな、
でもエアガンしかないし。
BB弾に聖光を込められないかな。
いいアイディアだ。
よしやってみよう!
ベース付近でやるのがいいかな。
ついでに火魔法の射程も調べよう。
奴らの火は30m以上も飛んできてたが違う魔法みたいだし。
他には目新し情報は確認できなかった。
魔法の実験後に狼男目撃された辺りに行ってみよう。
次の日も昼食が要らない旨を伝えて、俺達はベースへと向かった。
まずは火魔法、奴らは飛ばしていたが俺は任意の位置を燃やせる。
どこまで遠くを燃やせるか試すのにベース前の空き地に50cm間隔でその辺の目立つゴミを並べていく。
「タカ様今日はダンジョン行かないのですか?」
そう言えば予定を伝えて無かった。
今日はダンジョンに行くつもりがないので、普段着のままだ。
『ごめん、今日はまず魔法の実験と、狼男が出たと言われている辺りに行ってみるんだ。その後時間が有れば行ってみよう』
「魔法の実験ですかワクワクしますね!」
『ケイもやってみるかい?』
「はい、でも狼男は怖い感じがします」
そうだな、圧倒的な身体能力が有りそうだし、手強そうだな。
ポッポッポッ
手前から3つゴミを一回の魔法発動で焼失させた。
どうやら3ヶ所同時に遠隔発動が可能だ、恐ろしい便利さだな。
3回目は1つしか燃やせなかったので射程は3.5m位で奴らの魔法の射程より相当短い。
このままでは戦力にならない。
そうそう手前に発生させて飛ばすと6mくらいまで飛ぶことも確認した。
短いし駄目だな。
周りも巻き込むし。
ケイは飛ばすタイプだけ使え射程は6mと俺と同じだった。
聖光漸も6mまでしか届かない。
聖光は怖くて出力を上げられないがケイに遠くから見てもらうと6m位の球状の光だったそうだ。
6m以上は光が薄くなり10mくらいまで何とか光が届いていたかも、とのことだ。
現状の魔力が届く範囲が6mなのであろうか?
吸血鬼たちと戦うには心もとないな。
何か考えておかねば。
聖光は出力を上げて行けばもっと遠距離へ飛ばす事も範囲を広げる事も可能かもしれないが、前述のように怖いのでやれない。
今も全身ひどい火傷で死にそうなんだから。
次回更新は20時になります、よろしくお願いいたします。
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