0016.ケイとダンジョン
『どうやら、俺は吸血鬼に襲われて異世界に連れていかれていたんだ』
幽霊のケイに状況の説明を続けていた。
「それは、帰ってこられて良かったですね、異世界ですか、わたくしも行ってみたい」
『行ってみるか? 見た目は大して変わらないけど』
そうか夜中に行けば誰にもばれないはずだったのに気が付かないなんて、なんてバカ。
『今晩皆が寝静まったらな』
異世界への移動だが何回もやっていると、なんとなく原理みたいな物が解って来た。
世界を分ける次元の壁は実は非常に薄いが強く固く各世界を覆っている。
その間に何かどろりとしていると言った方が良い様な緩衝材の様な空間が有り。
そこを少し移動する事で、違う世界の違う場所に出られる。
世界を隔てる壁は、変わった魔法の波長で体を変調する事でするりと抜ける事が可能で、行先の座標とその波長の魔法さえ解れば、魔力はほんの少しで移動できる。
体の変調は霧水化と同系統の能力だな。
でも魔法(魔力)を送る波長と物体を送る波長が違うのでフレッドは帰れなかったのだろう。
魔法を送る方法の方が、簡単で分かり易いんだ。
フレッドもきっとしっかり研究すれば吸血鬼なのだから出来ただろうに。
でも、可哀そうだが帰って来ても血を吸う怪物だからな、困った事案になっていたが。
しかし、俺は向こうに行くときに、それを何故か覚えてしまったので移動できるのだ。
俺はその時の感覚や座標を本能で覚えているので迷わないが。
座標が感覚的に解らないと緩衝材に流されてどこの世界に行くか分らないので、あの世界の人が壁を超える魔法が使えても偶然以外では地球には来られないだろう。
まてよ、と言う事はそれを応用すればいい魔法が使えるのでは。
長考していると夕飯の時間だ。
夕食時ケイに父さんと母さんを紹介した。
『そこに並んで座っているのが父と母だよ』
「優しそうなお父様とお母さま、御挨拶できないのをお許しくださいませ」
と可愛く礼をした。
「で、タカ様、妹様はなぜあんなにもじもじされているのでしょう?」
『あれは、俺が魅了のテストを壁に向かってやったんだが、壁の向こうの杏子にも図らずも効いてしまって、それまで何とも思っていなかった俺が気になって困っているんだと思う』
「まあご自分の妹に魅了とは鬼畜なタカ様」
『いや、ちゃんと聞いていたか、図らずもって言ったろが!』
「おほほ」
まったくもう!
そして皆が寝静まった後、ケイを連れて洞窟へ行く。
方法は簡単ケイに俺の肩を触ってもらった状態で転移した。
まあ幽霊なので肩を触る感触は無かったけどね。
「あら、防空壕と似た感じの場所、でも居心地がいい。それに、わたくしにも異世界転移出来そうです」
「そうなのか」
「はい、ここは、なにか力が湧くと言うか、存在しやすいが正解でしょうか」
「洞窟から出てみるか」
「はい、憑いてまいります」
「字が違う気がするのは気のせいかな?」
近くの村まで行ってみよう。
「さて洞窟を出てみたが変化はあるかい?」
「いえ、存在のしやすさは変わりません。ここはただの山の中ですね」
歩いていると村が見えてきた。
ここまで周りに魔物の反応はない、ダンジョンにしか魔物は居ないのかな。
「これは、ひどい寒村ですね、周りの畑が少ないです。ちょっと見て回りますね」
ケイはふわふわと村に飛んでいき各家に入って回った。
そうか幽霊だからね出入り自由なんだ。
「タカ様、この村はひどい状況です。皆まるで餓死寸前のように痩せこけています。そして子供はいません」
そうか、下人って言ってたもんな。
そして、吸血鬼のいる洞窟の傍だ、犯罪者とかが生け贄に住まわされているのかもな。
可哀想だとは思うが、事情も分からないし。今は救う術がない。
ニノも、犯罪者か何かなのだろうかここにいるという事は。
「タカ様、あの坂を越えた先に町が見えますわ。行ってみますか?」
「いや、まだその時期ではない。聖属性に耐性がもっと付いてからだな。せめて聖水を浴びても大丈夫なくらいには」
ちょっと不審に思われれば簡単にほろぼされてしまうからな。
そう簡単なんだ、普通の人は濡れるだけなんだから、相手はなんの忌避感もなく聖水を少量でもチョイっとかけるだけで済む。
「これから、帰りますか?」
「いやダンジョンを覗いてみよう」
「ダンジョン?」
ああそうかダンジョンは分からないよな、彼女が生きていた時代にはRPGもライトノベルも無かったのだから。
ケイに、ダンジョンの説明をしながら。ダンジョンに向かった。
「へえ、面白い設定の読み物が有るんですねえ。その読み物みたいな所が本当にあるってびっくりしますわ」
「まあ、俺の考察だからね、本当にダンジョンかは分からないのだけど」
「理解しましたわ、魔物とやらが居る不思議な所ですね」
「ああ、そうだね」
ダンジョンに着くと。
「本当に洞窟の中なのに明るい不思議な場所、とても居心地がいいですわ。あっ、あちらに何かいる」
とスライムの近くを飛び始めた。
「危ない……ぞ?」
スライムはケイが居る事は分かっているような反応はしているが、敵対しなかった。
「タカ様、なんか倒せそうですわ。倒してもいいですか」
いったいなぜスライムは敵対行動をしない?
「えっああ、やってみてごらん」
「はい」
ケイがスライムに手をかざし生気吸収をするとスライムが消え核だけが残った。
ケイが倒したのだが魔力が俺にも入ってくるのを感じた。
その後ケイはかなりの高速度で飛びながらすり抜けざまに蛇やスライムや果には周りの木々まで消していく。
俺も横の木に手を当て生気吸収をしたら木が消えた。
ケイってここの魔物の天敵すぎないか?
そうか魔物を倒して魔力が入って来ていたのは無意識に生気吸収を使っていたからなのね。
短時間で一気に多大な魔力が俺に流れ込んで来た。
ケイが魔物を吸収し魔力を送ってくるため加減が出来ない。
いっきに体が熱くなりシューっと煙が出だした。
頭がくらくらする。
周りを見ると見える範囲の生物っぽい奴らがすべて消えていた。
『ケイもういいぞ、帰ってこい』
『はい了解で~す。骸骨も狼も簡単です』
そう言いながらニコニコ顔で帰ってくるケイを呆然と見ていた。
「タカ様! 体から凄い煙が?」
ケイが近づいて俺を見てビックリしたようだ。
「ああ、ちょっと力を吸収しすぎて処理できないようだ。寝て休むと処理が終わって強くなっているよ」
「そうなんですか、わたくし心配です」
「大丈夫だが、多少つらい、家に帰るよ」
「はいタカ様」
家に帰ってみたが、さすがに妹は部屋に居なかった。
甚平に着替えながら。
『そう言えばケイは、夜どうするの、寝られるの?』
「いえ寝られません。タカ様が寝ておられてる間は周りの探索でも、やっています」
『もしかしたら、やばい奴が居るかも知れないのでよく注意してやるんだぞ。世の中は知らない事だらけなんだからな。本当に強い異世界勇者並みの奴もどこに隠れているか分かったもんじゃないからな』
「異世界勇者って?」
『ああ、あっちの世界にいたんだよ、俺を吸血鬼? にした吸血鬼を瞬殺した奴』
「世の中にはそんな方もいらっしゃるのね、しっかり気を付けます」
『逢ってしまったらすぐ逃げるんだよ。すまんもうだめだ眠気に逆らえない』
「はい、おやすみなさい」
俺がやっと床に就いたのはもう夜明けが近かった。
ブックマーク、評価ともにありがとうございます。やる気に勢いをもらった気分です。
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