0014.事故物件
次の日、俺はコンビニに謝りに行ってないことを思い出して行くことにした。
あの店長に叱られそうな気がするが素直に謝ってこよう。
「おはようございます~」
コンビニに入って店員さんに。
「店長さんおられますか? 前にバイトしていた木戸と申します」
茶髪の店員さんが対応してくれる。
「奥にいるから入りなよ」
軽くOKをくれた。
だがまさか最中では?
と思い探知で店長一人なのを確認してからバックスペースに入っていった。
「おはようございます」
と店長に声をかける。
「うん、君は? ああ、この前店で倒れたバイト君か」
「この前は大変ご迷惑をおかけいたしました。すみませんでした」
「ああ、いいよ、君も働き過ぎは良くないよ。これからも気を付けなさいね」
と微笑んだ。
「ありがとうございました。失礼いたします」
おお、なんかフレンドリー!
この前と感じが全然違うわ。
まあ、いつもあんなじゃ店長なんてやれないか。
「おっとちょっと待った」
店長が慌てて呼び止めた。
「はい?」
俺は結局怒られるんじゃないかとビクリとした。
「君が来たら渡してくれと頼まれていたんだ」
と可愛いイラストの入った封筒を差し出してきた。
「ありがとうございます」
「これだけだよ、じゃあね」
とにっこり。
「失礼します」
ふう、何事もなく終わった。
なんだこの封筒?
コンビニを出て開けてみると麻生さんの連絡先だった。
「やっふー!」
俺は麻生さんのメールアドレスを手に入れたのがうれしくて即行動する。
“こんにちは、木戸貴志です。コンビニのバイト以来ですね。これから、よろしくね(⌒∇⌒)、サバゲーあったら誘いますね( ´∀`)b”
とメールを送った。
それから俺は法務局へ行って小山の所有者を調べるのだった。
今の持ち主に当たる人は大分前に外国へ移住していて連絡がつかない。
なので未だに亡くなった方の名前になっていた。
ちなみに登記簿に載っている名前は御条喜助、公家の血筋に当たる金持ちだったそうだ。
おお、これもラッキー!
山は持ち主不明な場合が多いと聞いてはいたが、あの小山もそうだとはね。
これはあの防空壕にほぼ決定だね。
あの防空壕、変に豪華だったのは金持ち用だったんだ。
さもありなん。
午後には掃除用具を一式持って防空壕へ。
いつまでも防空壕はカッコ悪いので、探索ベースに呼び変えよう。
ベースの掃除を終えバ〇サン2本炊きで虫の排除も完了。
折り畳みの椅子と机を置いたら結構快適空間になった。
暗視が有るから平気だけど、暗視を止めたら真っ暗な不気味な空間だね。
これは良い所だとはしゃいでいると急に背中になにかゾクッと冷たい物が走る。
慌てて振り向くが何もいない。
はて? いったいなんだ?
「だっ誰かいるのか?」
俺の声が狭い中で反響するが何も答えはしない。
流石に怖くなり周りを見渡すがこの狭い防空壕の中にはやっぱり何も見当たらない。
「ふう、気のせいか」
と思いながらもゾクゾクする気持ち悪さが収まらない俺は無意識にかるく探知を発動していた。
「……」
すると時々探知に小さい魔力反応が有るのだ。
いったいなんだ?
実は日本にも魔物が居るのか?
俺は探知精度を上げて魔力が現れたところを探ると。
そこに何かがいるようだ。
探知に力を込めていくとうっすらと見えてくる。
「魔物なのか?」
緊張が高まり戦闘の心構えをする。
そこに、にじむように見えてきたのは、焼け焦げ破れたモンペに血まみれの防空頭巾、焦げてヨレヨレだが元はかわいい刺繍が豪華に見えるブラウスを着、その恐々しい雰囲気とは裏腹に可愛い赤いポシェットを肩にさげ膝を抱える少女。
「ここから出ていけ!」
それはちらと顔をこちらに向けかすれた低い声で叫ぶ。
はっきりとは見えないが、顔の半分は焼けただれペロンと皮が垂れ下がる大きな火傷があり、防空頭巾からはみ出すほどの長い漆黒の髪、明滅する幼い女の子が……。
「!!!!」
ぎゃあ~と、悲鳴を上げて逃げそうになるのを震えながらグッと耐え観察すると、向こうが透けて浮いて見える小さい女の子。
もっもしかして、こっこれは幽霊!?
体がガクガクと震え、たらりと冷や汗が流れていく。
考えてみれば俺も吸血鬼? なので、こう言うことも有るよねと、自分を落ち着かせ意を決して声を掛けてみた。
「どっ、どうしてここに居るの?」
暗い目の女の子は泣きそうになりながら
「お母さまを待っているの」
うわぁ~! こっ怖い! ちびりそうだ。
時間が少したったおかげで思考が回ってくる分怖さが増してくる。
これはやばい逃げなくては!
だが、吸血鬼? の本能が教えてくれる。
この霊はこのままでは間もなく消滅する。
しかし、魔力を与えれば消えないで済むと、眷属に出来ると、力が付けば疑似体すら与えれると。
俺は本能の警告のおかげで幾分か冷静になりじっと女の子を見つめ考える。
「眷属かっ……」
確かにこのまま放っておけば、彼女は遠からず自然消滅するだろう。
既に切れかけの蛍光灯の様に明滅を繰り返している。
眷属化の能力にも興味がない、と言えば嘘になる。
自分の能力を知りたい。
そんな我儘な好奇心が強くなる。
「お母さま何処?」
「ここから出ていけ!」
と繰り返す、今にも消え去りそうに揺らぐ彼女を見ていて、結構可愛い子だったのでテストの意味も込めて眷属にする事に決めた。
そして、俺は眷属化を始める。
ゆっくりと少女に負担を掛けないように魔力を少女に注ぎ込み始めた。
「あ‶っああ、あ‶っ、ううん、お‶お‶、あっ、ああ、ああああ~、あっあっあっ!」
えっと、大丈夫なのだろうか?
しかし、少女の存在が濃く強くなっていく。
これで間違いはないと思うのだが?
すると突然少女は
「がああぁぁ~!」
と叫び、俺は幽霊の少女が悪霊にでもなってしまったのかと凄くびっくりした。
「お、お‶おお思い、だだ出すわわわ、いいい色々と」
いつのまにかかぶっていた防空頭巾が消え黒く美しいたおやかな長い髪の毛がふわりと現れ、焼け焦げた服が修復されていき、顔の火傷もいつの間にか消えていた。
その後、ぼろぼろと涙をこぼし少女は泣き崩れ。
明滅を繰り返していた体も段々とはっきり見えてくる。
「ああ、おおお、お母さま、そう言えば、ば、ば、ば、ひひひ火だるまになってた。お母さま、お母さま、わ~~、そのあと、そのあとあああ、わ、わたくしも」
今までよく見えなかった目がばっと見開いた。
俺の心臓がドキンと跳ねあがる。
しまった辛い事を思い出させてしまったようだ。
少し静かになったが、さめざめと泣き続ける。
どうやら、眷属化が終わったようなので魔力を注ぎ込むのを止めた。
ある程度泣くと。
こちらを見て、ぷかぷかと浮きながらこちらに向かって来る。
「あなたがわたくしを助けてくれたのね、ご主人様」
おや何故かご主人様呼びだ。
「わたくしは御条恵子、ケイとお呼びください」
ああそうか俺がフレッドを主様と呼んでいたのと一緒か。
すると俺が死ぬまでこんな感じだな。
またやっちまったかな。
「俺は木戸貴志。タカと呼んでね」
「はいタカ様」
とケイは微笑んだ。
「ここは、御条家の専用防空壕でした。わたくしはここに空襲から逃げ込む途中に大やけどを負い、ここまでは来たけれど助かりませんでした。ここに来る者はもう20年余り誰もいません。わたくしはご主人様にここをお任せいたします」
ご主人様が来るまで、わたくしはとてもさみしかった。
わたくしはこの防空壕にずっと、とらわれていて、外には出られなかった。
戦後この場所は長い間、逢引の場所として近隣の人が入れ代わり立ち代わり、いろんな方が使ってましたわ。
でもわたくしが居る事が分かる人は誰も居ない。
こんな所でするなと怒鳴りつけても反応はないの。
それもさみしかった。
彼らの話で外の様子をある程度知る事が出来ているわ。
戦争に負けたことも、その後発展したことも。
そしてどの位月日が流れたのか、いつしか誰もここに訪れなくなった。
さみしかった。
だんだん記憶も思考も薄くなっていき、このまま消えてなくなっていくものだと諦めていた。
そのうちに、わたくしは何もわからなくなっていった。
でも、ご主人様はそんなわたくしに気づき、救ってくれました。
そして今はご主人様との間に強い繋がりを感じます。
その繋がりからご主人様の思いや状態などが流れ込んできて、まるで一心になったようにも感じます。
あまりにも多い主様からとめどなく流れ込んでくる情報量に、わたくしには整理がつかないというか分からないことがいっぱいですけれど……。
けれど今のわたくしにもこれだけは分かる。スッパな表面の言動の奥に隠されたご主人様の圧倒的な優しい温かさ。
でもそんなご主人様の中にわずかに存在するそれに反する悪意ともいっていい、ご主人様ではない何か分からない、いびつで醜悪な、そう全く別なご主人様とは違うと感じる存在をわたくしはご主人様の中に感じるわ。
そこに危機感を強く感じたわたくしはそれとご主人様の関係の理解にいつのまにか一生懸命になっていたわ。
そんな危うさも一部垣間見えるご主人様ではありますが、わたくしは決意いたしましたわ。
これからはご主人様から離れませんわ。
だから、さみしくなんてありませんわ。
でも、わたくしの見たところ童貞の様ですねご主人様は。
しかし、わたくしにはわかりますよ。
ご主人様の持て余している異質で恐ろしい、どう考えてもご主人様本来の持っていないはずなリビドー。
何かはわかりませんがとてもよくないものです。
じわじわとご主人様を蝕んでいる悪意と性欲。
それを、凄い努力で抑え込まれていることが。
でもこれ抑え込まれても溜まる一方ですね。
溜まるほどに勢いを増しているように見えます。
これは、ご主人様の性欲を適度に散らさないとだめですね。
わたくしもリビドーの発散に使かっていただければよいのですが、姿形は子供故きっと色香が足りません。
残念です。
でも多少は大丈夫かもです。
ちらちらとわたくしの胸にご主人様の視線を感じます。
子供ですがわたくしも女なのですから。
女でよかった。
膨らみかけたこの貧相な胸でもご主人様の役に立つことが出来そうです。
分かりました!
わたくしにお任せください!
そして、性欲発散の邪魔になっている常識も少しずつ変えていきましょう。
今のままそのリビドーを押さえていれば、遠からずご主人様は壊れてしまいます。
救っていただいたお礼も兼ねて、わたくしはあなたを救いたいです。
そして、その強大な精力でも相手に困らない一大ハーレムをご主人様の手中に必ずわたくしが作り上げて差し上げますとも!
うふっ♡ これはご主人様に内緒ですわ。
ご主人様、いえ、タカ様。
俺が吸血鬼に支配されていた時と違うのは自我がしっかりある所だな。
「じゃあケイ、君はここから出られそうかい?」
「それは、出てみないと分かりません」
「眷属になった事による繋がりは分かるかい?」
「はい分かります」
「そうか、俺は試しにちょっと異世界に行ってくるその間、魔力が繋がっているか感じてみてくれ」
「えっと異世界ですか、まあどうしましょうか、どうすればタカ様を正気に」
「いや待て俺は狂ってはいない、と思う。まあ見てな」
俺は異世界の洞窟にある主様の隠し部屋に転移し10数えて帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
「どうだった」
「はい、お消えになられた時はびっくりいたしましたが、繫がりは感じましたので大丈夫でした」
異世界でも大丈夫ってことは少々遠くても繋がってそうだな。
「では一緒に外へ出てみよう」
「はい」
ケイと一緒に防空壕の外に出てみたが変化はない。
「わたくし死んでから外に出るの初めてです」
ケイは嬉しそうに空に舞い上がりくるくると回っている。
ケイの姿って他の人に見えるのかな?
俺何もいない空間に話しかける痛い人になってないか?
これはまずいと思い、眷属の繋がりを利用して思考を伝えてみる。
『聞こえるかい』
「わっびっくりしました。頭の中に突然響きました」
『どうやら聞こえるようだね、普段はこれで行くよ』
「はい、タカ様」
スマホでケイを撮影してみるとよく見ないと分からない位薄く映った。
これは町を歩いて様子を見るしかないな。
写真は写す人の能力も関係すると聞いた事あるし。
次話 明日 20時更新予定
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