0171.異界の海へ
「うん……いや嬉しいよ! キセラが幸せそうで」
フェルは最後には腹を抱え大笑いしていたが、気を取り直していた。
俺の新しい装備を作るのにリヴァイアサンの胃袋が要るとフェルが言う。
寝ていたキセラに状況を話すと。
「リヴァイアサンとやらを探さないといけなのだナ?」
「ふむ、簡単に探すというが……どうやって探すんだい?」
「それは、探知で探す!」
「ほー、魔力の大きい奴は言う事が違うね。……で、リヴァイアサンの特徴は分かるのかい?」
「海にいる大きな蛇みたいなやつなんじゃあ?」
「いや、私にはなんにも分からないよ。名前と各部の効能ぐらいしか伝わっていない」
「なるほど」
そう言う状況ならほぼ無理って言われるのも分かる。
だが他の伝説の素材は有ったんだからこれもあるよね。
俺は、リヴァイアサンの姿を俺の中にある神の知識まで参照したが分からなかった。
まあ、あっちの世界の神の知識だしね。
もちろん、吸血鬼の知識にもなかった。
でも、リヴァイアサンと訳されるんだ、似たようなものだろうとして調査を始めよう。
「タカ、ソレガシに乗っていきましょウ」
キセラの迫力のある顔が迫って来て、鼻息も荒くその興奮が分かる。
これは乗っていかないとすっかり落ち込んでしまうパターンかな?
「じゃあ、よろしく頼む」
「君、私は自分の部屋で待ちたいのだが?」
「あっ、すみません。今送ります」
なにかプンプンと怒ってらっしゃる。
第一印象では、あまり感情を表に出さないクールな人かと思っていたが、普通より感情の揺れが激しい人だったんだな。
「頼むよっ本当に!」
「では来た時にキセラを掴んだのと同じように俺を掴んで」
「まった……今ある素材を全部持って帰りたいが。いいか?」
「ああいいよ。結構量があるし。キセラ、すまないが一か所に集めておいてくれる?」
キセラは人型に戻り。
「わかっタ。任せておケ! すぐできル」
とにこやかに答えてくれた。
ブウッンと転移し、フェルの部屋に帰ってくる。
うっ臭い!
初めて来たときは緊張して匂いなどあまり分からなかったが、これは?
色々な薬品の匂いにゴミの匂いが混じり何とも言えない部屋だ。
「ふう……わが家が一番落ち着くな」
うわあ! この女、鼻が壊れているんじゃないか?
「このゴミ山何とかならないんですか?」
「大きなお世話だ! と言いたいが、私は別に気にならないのだが綺麗な方がいいのは間違いない……何なら掃除してくれ」
えっ、掃除ですか?
まあ、このままこの臭い所に何度も来るより掃除した方がいいのか?
掃除嫌いでもないし困っているなら助けるのは俺の趣味に合う。
「じゃあ、掃除しますので要る物と要らない物は教えてください」
「えっ? 掃除……するの?」
「はい、掃除は得意なので」
まずは、風魔法と転移魔法を使い匂いとその元を集め焼失魔法で焼く。
焼失魔法の制御も上手くなっていて、燃やしたい物だけ燃やせるようになっている。
今までは空間内全てを空気まで焼失していた。
それでは、焼失した後はどこに消えているのかが不安だったので、焼失する質量を出来るだけ減らせることは俺の精神衛生上大切なのだ。
すると、臭いは薬品の匂い以外はしなくなった。
「ほー、器用な物だね! 薬品の匂いがよく分かる様になって……うれしいよ」
「後はゴミとそうでない物を分けて、バラバラにしてダストシュートに捨てるだけです」
「え~、分けるなんてめんどくさいな! 臭いもしなくなったのでもういいよ。ありがと……素材探し頑張ってね」
うわー! これでいいってマジですか?
「おっと、素材は置いて行ってね」
「はいはい、分かりました」
俺はダンジョンにあるキセラが寄せ集めた素材を取り寄せた。
「ああ……そこに置いておいて」
薬品などが置かれ、かろうじてノートが書けるほど空いている机の横の棚の物をザーッと下に落として場所を作り指さした。
「はい」
「しかしねえ君、人が好過ぎるね。今そこに置いた素材いったいいくらすると思っているんだい。……先ほど知り合ったばかりの私に預けるなど常軌を逸しているね。まあ預けろと私が言ったのだが、まさか何もせずに本当に預けるとはね」
「ちゃーんと、探知でケイが深層心理まで調べてますから。それに、俺に一旦特定されてしまうともう俺から少々の事では逃げられません」
「あっ、なるほど! ……それは一本取られたねー」
「ではまた」
「頑張ってねー……待ってるよー」
俺はダンジョンへと戻り、キセラに乗って海が見えるあたりまで転移した。
この世界の海は地表の3割ほどで大地の方がよほど広いんだが。
海がとにかく深い。
水深が20kmを超える場所が多いようだ。
海を探知で調べると、いるわいるわ、魔力のくそ高い化け物がいっぱいだ。
特に深い所に多くいて無理やり映像としてとらえると、くそでっかい、イカ、タコ、カメ、貝、サメ、などに似通った魔物等が10m以上の大きさで、いやその中には100m近い個体が次々と探知に引っかかる。
地球で知られている通常では深海の生きものは浅い所に来ないが、こいつらはその巨大な魔力で浅い所でも平気で暴れまわれるようだ。
その他いろいろな魔力を持った魔物や魔獣、普通の魚まで超大量に千差万別に泳ぎ回っている。
ほえーっ!
こりゃ海にはあんまり出られんわ!
危険すぎる上に大陸は一つで島も少ない。
つまり船旅する必要はなく比較的安全な近海で漁をするのみで、冒険に出る者はいても交易に出る必要が無いのだ。
“舶来のチョコ”は、どうやら無理がある話だったように思えて来た。
いや恥ずかしい。
無知とは罪なのか?
話がそれたが、この中のいったいどれがリヴァイアサンなのかさっぱり分からない。
そして、本当に実力が高く理性的なのであれば実力を隠している場合もあると考えられる。
探知だけでの発見は無理そうなので、海の中を泳ぎ回る必要がありそうだ。
ある程度以上魔力を開放して泳いでいればあちらから近づいてくるなんて都合のいい事も有るかもしれないなどと考えてみたりする。
今日も読んでくれてありがとう!
次回も読んでいただけると嬉しいな。