0170.伝説の素材
フェルは俺の話を聞いて喜んでいたが。
急に真面目な顔になって。
「君の魔力を見たいな。だがこの辺りでそんな魔力を放出すると大騒ぎになるな」
うーむとフェルは考え込む。
「ならいい場所が有りますよ! 転移で行けますが。特殊な場所なので秘密は守ってほしいです。行きますか?」
「ふむ、そんな場所が……行こう! 秘密は必ず守る。連れて行ってくれ」
「ではキセラにつかまってください」
「ふむ、こうか?」
フェルはキセラの腕に手を添える。
『キセラ、ダンジョン第一層入り口前の洞窟だ』『分かっタ。驚かせるのだナ。タカも人が悪イ』
「では行きますよ」
「よろしく」
ブウウンとダンジョン入り口前に転移するのだった。
実はここはフレッドの居た洞窟とは別に俺が作った洞窟で、フレッドの居た洞窟とは現在結界で遮絶されている。
そして現在探索ベースへもつながっている洞窟だ。
今はフレッドの居た洞窟からは直接ダンジョンには行けないように改良してある。
「ふむ、今のは普通の転移では無いな。私には習得できそうにない」
おやっ反応が薄い?
「あちらです」
俺はダンジョン内を指さした。
「ふむ、そこはダンジョンか! なるほどな。秘密にするわけだな……ここは絶対! 勇者協会にはばらせないな」
えっ、蒼天の剣は知ってますけど?
何かまずいのか?
まあ、シンディとマリーは信頼できる大丈夫だろう。
俺は二人とダンジョン内に向かっていく。
いや反応が予想と違うんですけど。
まいっか。
俺はフェルさんを驚かすのはこんな事では無理だと悟った。
「ふむ、ここは魔力が濃い。勇者協会のダンジョンより格が……かなり上だな。君が強いのも納得がある程度出来るな」
そして、ダンジョン内にずかずかと入っていきそのあたりにいるスライムや蛇を魔法で焼き倒した。
えっ突然何? 驚かせるつもりが俺達が驚いた。
「ふむ、思うより取得魔力量が多いな……すばらしい! くっくっくっく。これならあいつに対抗できる。ふわっはっはっは!」
いったい何に対抗するつもりなのだろう?
まあいい、人には色々あるさ。
探知での魂は邪悪ではないので悪い事ではないのだろう、たぶん、きっと。
いやいや、笑う様子は邪悪にしか見えないが。
「すまん、話がずれたな。異界人の君には関係のない事だ。では君の魔力を解放して見せてくれ」
実はまだ何か気になるが本当に関係なさそうなのでグッと我慢する。
「はい」
そう言えば当分魔力の開放とかやってないな。
俺は段々と魔力を抑えている結界を解いていく。
すると、びりびりと大気が鳴動し、頑丈なダンジョンの壁も振動を始めた。
だが魔力を完全開放し終わると振動はピタッと納まり清浄な空間へと変貌し、第一層内の魔物は全滅していた。
えっ! 俺魔力解放しただけなんだけど?
そう言えば聖属性が思ったより強く出てきている気がする。
「おおおおっ! 予想よりはるかに凄い魔力だ! 君は本当に神なのだな……君の様な神がいるとは! 君の世界が羨ましいよ」
いやーほめたって何も出ませんよ。
「タカ様、どうされました?」
ケイが異変に気付きやって来た。
「いや、装備を作ってもらうのに魔力を解放して見せただけだよ」
「おおっ! 大精霊だ……この目で見る事になろうとは。いたのだな大精霊」
「この方ですか? タカ様の装備を作っていただけるのは」
「そうだ、フェルさんだ」
「タカ様の第一眷属のケイです。お見知りおきを」
ケイは最大級の探知でフェルを調べると少し眉を上げ怪訝そうな顔をしたが。
「ではわたくし、まだ用の途中なので」
と去っていった。
ケイがあそこまで調べて大丈夫ならフェルはいい人なのだろう。
「大精霊が眷属か……やるね、君は」
とハムを彷彿させる変質的な喜び方だった。
「それでね、結論から言わせてもらうと、君の装備を作るのは……難しいと言わざる得ない。素材の元が居るか居ないか分からない伝説級のいや想像上の産物と言っていい物ばかりになってしまう」
「ちなみにどんな物か聞かせてもらっても」
「先ずは鳳凰の魔石」
ふむ、鳳凰と言えば火の鳥。あの進化したときに倒したでかい炎の鳥の魔石でどうだろうか?
あれも火の鳥だよね。
たとえ鳳凰でなくても使えるならいいよね。
「これでどうですか?」
それは真っ赤に燃えているような大きな魔石だ。
「ふむ、凄いな見せてもらおう……これだな! これほどの魔力凝縮された炎属性の魔石。これなら核として使える。……次は神龍の鱗」
へえ、魔石の色の違いってもしかして属性の違いなのか?
今まであまり気にしていなかったよ。
「キセラ、鱗いいかい」
「ああ、幾らでもいいぞ」
キセラが神龍へと変わっていく。
「キッキセラ! その真っ白な神々しいドラゴンは、神龍! まさかキセラが進化したのは超龍魔人! ……机上の空論、思考のお遊びでしかないと思っていたが本当に存在する進化先とは!」
やった! ばっちり驚いたぞ!
俺は諦めかけていた初期のいたずらが成功したようでテンション上がる。
しかし、何やってんだか。
考えてみればどうでもいい事だな。
ちょっと自己嫌悪に陥るよ。
『ソ、その辺の鱗いいヨ。そっそこなんか気持ちいインッ。あふううっン』
キセラの横っ腹から浮いた感じの鱗をぼりぼりとはがすとキセラが、なんだ? ちょっと気持ちよくなってしまったようだ。
俺が面白くなって来てキセラの鱗を取りまくっているとフェルの様子がおかしい。
フェルはがっくりと項垂れた様に肩と頭が下がる。
えっ? なにか落ち込んじゃったのかな?
「ふっふっふっふぃいふぃい! キセラが超龍魔人になれると言う事は……私は、真魔人。いや、その上の魔人神! になれると言う事だよな。ふぇっへっへっへ」
ぼりぼりと鱗をはがしながらあまりに興奮したフェルの様子を伺う。
こっこいつ、涙が出るほど笑ってやがる。
「へっへっへ! おうん、げほっ、ごほっ、ごほっ。……は~死ぬかと思った」
笑い過ぎて呼吸困難に陥ったようだが、いやお前はその位じゃ死にそうにない。
「鱗これくらいでいいか?」
キセラは気持ちよさそうに寝てしまった。
フェルは突然キリっとした顔の戻ると。
「その位で良い……つぎはリヴァイアサンの胃袋」
「それは当てがないなあ」
フェルはなんかほっとした顔で。
「そうか、流石に無いか……ふむ、最後は知る人ぞ知る。まあ、ほとんどの人が知らない。天を食らいつくすと言う。凄天虎の毛だ!」
『アン、毛繕いをしてやろう。空いていたらブラシを持って来てくれ』
『何をおいてもすぐ行くニャ!』
アンは本当にすぐ来て俺に特大のブラシを渡し金色に輝く体に大きな翼をもつ凄天虎が腹を上にして可愛く寝転がった。
「ウニャー、ゴロゴロ、ニャ~~オ、くるニャ―! なんかくるニャ―! ニャッニャォーーン!」
アンはブラッシングが凄く気持ちよさそうだ。
目はうつろな半開きで、躰を何度もビクッ! ビクッ! と痙攣させ口は涎がたれそうになるほど大きく開いている。
そこまで気持ちいいのか?
「くるニャ! くるニャ! 何度もくるニャ~! 天国だニャ~! いいニャ~」
こんなに喜んでもらえるとは!
これからはアンのブラッシングは日課にした方がいいのかな?
フェルは口をあんぐりと開け当分何も言わなかった。
アンの全身の毛繕いが終わり。
「いっぱい毛が取れたな」
「ありがとうニャ。帰ってウズラとニノと新入りのあすかの面倒を見るニャ」
そう言って帰っていった。
その三人放って来て良かったのか?
少し不安になったぞ。
「毛はこんなもんでいいか?」
「ああ、良い。後は……リヴァイアサンの胃袋が有れば制作に取り掛かれるよ」
じゃあ、リヴァイアサンを探しに行ってみよう。
「キセラ、本当に寝てしまったのか?」
「アウン、タカ~。アア、余りの気持ちよさに気が遠くなっていタ。スマヌ」
「あっあのキセラが、あうん……って。ブフッ!」
フェルを見ると口を押えて声を立てないように後ろを向いて爆笑していた。
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