0169.再びゲレナンド
キセラの案内でゲレナンド王国のハマナイに来ていた。
小さな城下町風の所だが、城壁と障壁はしっかり張ってあって町の外のあまり人の見えない所を選んで転移して来たのだ。
町の中に直接転移する事も今は出来るが、ここはマナーとして障壁内や街中や人の多い所への直接転移を避ける。
魔法ありのこの世界でも転移出来る者は少ないので、転移して現れる姿を見れば少なからず騒動が起こることが有るそうだ。
えっ? なら地球でもちゃんと法を守れって?
いや、地球の他国への入国は厳しく管理されていて記録がしっかり残ってしまうからなんかいやなんだよね。
特に地球では身バレしたくないし。
はっきりとした国境も無く身分証明見せるだけでほぼフリー入街可能な異世界とは違うんだよ!
やっぱ飛行機ってのは面倒だし時間の無駄が長いし値段も……。
「なんだか、雰囲気のいい所だな」
ぽつぽつと趣味のいい感じの家が点在し、地味だがおしゃれな街路樹が良い仕事をしている。
牧歌的な解放感を醸し出していて、遠くに見える背景には切り立った険しくも高い山脈が綺麗なコントラストを見せていた。
「ダロ、ソレガシも気に入っていル」
まあ、歩いたり作業をされている方々の肌の色は緑でそこは少し落ち着かない所ではある。
馬か牛か分からないずいぶんと大きな動物が畑を耕すであろう大きな道具を引いている。
そう言えば家畜を見るのはこの世界に来出して初めてかもしれない。
いや、空車を引く馬の様なのは見たか。
あれも家畜なはずだ。
城壁の入り口で身分証明して町の中に入っていく。
騒ぎになるかと心配もした。
しかし担当者は証明書を見て少しぴくっとしたが、そのまま普通に入れた。
キセラによると俺を見かけても騒がない! 迷惑を掛けない! と言うお触れがゲレナンド王国内に出されているらしい。
正直助かるな。
ハム、ナイスジョブ!
でも肌の色を緑色に変えておこう。
騒ぎが起こる確率は少しでもなくすのだ。
目立つのは好きだが、悪目立ちや目立ちすぎて動けなくなるのはどうでもいい。
目的の場所は城門より少し離れた何でもない住宅街にあった。
「こんにちハ、キセラダ! お客さんを連れてきタ」
ここは店舗ではない。
普通の4階建て集合住宅3階の一室にキセラは俺を連れてきてくれた。
肌の色はもう元に戻すとする。
防具を作ってもらえるかもしれないんだ。
最悪騙す様なマネととられるような事はしない。
長く付き合うかもしれないんだから信頼が一番さ。
へーこんな何でもない所に隠遁してるんだな。
「カギは掛けてない。入れ」
中からめんどくさそうなのがありありと分かる女の生返事が返って来た。
玄関を開けるとそこはゴミの山だ。
ここに人が住んでいるのか?
どこを歩くんだ?
するとゴミをかき分けながらキセラが力任せに進んでいく。
「うん? キセラ! この魔力はキセラに違いないが。隠し方が異常に上手くなっているな。……見た目も違うようだが何かあったのか?」
机の前に座って何か研究でもしていたような女性。
ストレートヘアなのにぼさぼさの頭、化粧っ気のない顔に片目拡大鏡の様な物を付けたお姉さんが振り返り言った。
薄っぺらい白衣の様な物をだらしなさそげに着こなし、怪しげに光る金色の瞳と緑色の肌がまるで爬虫類を連想させる。
そう言えばこの異世界は今の所どこに行っても少し暖か気だな。
皆薄着だ。
しかしよく見るとこの人は薄着すぎるぞ。
涼しそうな横のスリットから分かるんだが白衣の下に何もつけていない。
大事な所はかろうじて隠れているが色々と酷い。
色気はないけど。
いくら何でもパンツ位は履こうよ。
「おかげさまデ、ソレガシこの度進化出来ましテ。悲願である仇討ちを終えましタ」
キセラが丁寧に頭を下げる。
あのキセラが珍しいな。
「ほう、それは良かったな。かなり難しいと思っていたが……で、進化ってどうやったんだ?」
その女性は興味津々な素晴らしい笑顔を浮かべキセラに聞く。
「えっト、ソノ、ソレガシハ」
助けを求めるように俺を見てくるキセラ。
「この方は信用できるのかいキセラ?」
「ソッ、それはもウ! 口も堅いシ。何の得もないのにソレガシを長年応援してくれた方でス」
なるほど。
「わかった。キセラまずはそちらの殿方を紹介してほしいな……私にも何者かさっぱりわからんよ」
「あの、その」
キセラが俺、いやケイに気兼ねしているのか言いよどむ。
「キセラいいよ。ちゃんと話してあげて。いや! 待てよ。初対面でぶしつけなんですが、探知しても良いですか?」
「ああ、いいとも。私は何も言わずに君を探知したしね」
俺は彼女を人魔隠しをしていないか? 洗脳や呪いなどの異常状態にないか? 悪意はないか? など調べた。
「ほほー凄い威力の探知だ……なかなかに興味深い」
彼女の目が一瞬光ったような気がする。
「キセラ、説明をしてあげて」
「まずはその殿方の事を聞きたいな?」
「この方は異世界人で木戸貴志。タカ、ダ」
「ふむ、世知に疎い私でも何か聞いた事があるぞ……なんでも、闘技会で騎士団長を倒したとか。ああ、その時お前も負けたんだったなキセラ」
「そうダ、負けタ。その時タカの強さを見込んで弟子になったのダ」
「なるほど、で彼の教えで進化したと?」
「マア、そんな感じダ」
「はっはっは、そうかなるほどね! 進化ってあったんだな。伝説の戯言かと思っていたよ! ……それで、私になにか用が有って来たんだろ?」
「実はフェル。フェルにタカの装備を作ってもらおうかと思って来たのダ」
「ん?」
フェルは俺をジトーっと見ると。
「十分いい装備を着ているように見えるがねえ?」
と訝しんだ。
「魔力を流すと、ギシギシときしみ始め壊れそうになるんだ」
「ふむ、それは変だねえ……どれどれ、見てあげようじゃないか。上着を脱ぎな」
装備の上着をフェルに渡すと、フェルは探知を使いながら拡大鏡を使って、色々な角度から装備をじっくりと見る。
そして分析用とみられる魔道具にかけさらに詳しく見ていく。
「ほお~、魔力限界値ギリギリまで使った形跡があるね。よくもったなこの装備」
感心したように言い。
「この装備、真祖でも中堅ぐらいまでは問題のない魔力限界値を持ってる最上級品だ……人間ならこれをここまで使える魔力など逆立ちしてもないはず。いかな、最強種でもね。君はいったい何者なんだね?」
「えっと、母さんが人で、父さんが俺らの世界の創生神」
「エエッ! タカ、半神人だったのカ?」
「ああ、キセラには言ってなかったっけ。ほら、最後に進化した時。あの時に創生神に話を聞いてね、分かったんだ」
キセラは驚き、フェルは目を閉じ考え込む。
「たとえ半神人でもここまでの魔力は私の知ってる中の記録には無いね。鍛えなければ半神人とて、普通の人と大差ないはずだし。急激に強くしようとしても体が耐えきれず死んでしまうはずだ。他には?」
おお、この人詳しいぞ。
「俺は吸血鬼に攫われ、吸血蝙蝠にされかかった。吸血蝙蝠にはならなかったけどその際に再生能力を得てる」
「なるほどっ! 再生能力か! 魔物の能力を併せ持つことで際限なく強くなれていると……いや凄いね君は、とても研究したい格別の素材だ」
あ~この人、ハムとさほど変わらないや。
大丈夫なのだろうか?
いつも読んでくれてありがとう。