0159.宇宙へ
「行ってきます」
翌日、俺は張り切って学校へと急いだ。
よし! オーランが聖を口説いてる間に入って俺の女だと言ってやろう。
皆びっくりするだろうな。
その様子を想像するとなんとなくワクワクして来たぞ。
びしっと決めてやるぜ。
「おはよー」
教室に勢いよく入っていく。
「タカ、おはよう。なんかスッキリした顔だのう」
「そうかな」
開き直ったともいう。
周りを見るとオーランはもう来ていて、女性に囲まれ談笑している。
聖はどうせ遅刻ギリギリだから。
勝負は休憩時間だな。
がっちり言ってやるぜ。
しかし、その日、オーランは聖に全く関わってこなかった。
あれ~オーランの奴もう諦めて他の娘にすることにしたのかな?
モテているようだし。
聖との交際宣言をオーランにしようと張り詰めていた俺は、すっかり肩透かしを食らったような変な感覚に襲われてしまったよ。
オーランが何もしなくても聖は俺の女だ宣言しないといけないのだろうか?
何も無いのに突然の告白はかなり唐突だから頭おかしい奴だと思われそうだな。
やっぱり何か取っ掛かりがほしい所である。
なにかチャンスがあるまで待とう。
それからオーランは何もしなかったから、もうしばらく何もないかなと思っていると事件は全く別の所で発生した。
俺は1日2回、朝起きてからと寝る前に太陽系外周までの探知を練習を兼ねて行っている。
外周とはハレー彗星の軌道よりももっと外苑の太陽による重力の影響がほぼなくなる位の距離である。
どう考えても現在の人類がたどり着ける場所ではない。
そんな所まで探知可能だとはさすが神の力だと感心する。
流石に感度は低く小さい石とかまでは探知できない。
もちろん映像や形なども捉えられない。
その日も朝起きて探知を行っている時、変な反応がある大きな物体が多数、太陽系を囲む障壁に近づいてきていることが分かった。
その移動速度と軌跡は、まだ太陽系を覆う結界に届くのにも数カ月以上かかる様に見えるが、そいつらが何であるか分からない内は何があるか分からない。
奴らからは魔力を感じないが生気は感じ取る事が出来た。
ただの巨大生物とでも言うのか?
『ガウ、こんな反応を見つけたのだが。何か分かるか?』
『タカ殿すまないが分からないビャ。ただ、ポキの知識には遥か遠くにも怪獣と言った存在があるかも、とはあるビャ』
『わたくしが夜中に探知した際にはそんな存在は見つかりませんでした。速度を見るに突然現れたとみるべきでしょう』
俺と同等な探知能力を誇るケイがそう言うならそうなんだろう。
ワープとかテレポート、最悪俺の使うような異界を介した転移でやって来たのだろうか?
『ケイ、ガウ留守番を頼む俺とアン、キセラで近くまで行ってくる』
『タカ様、お気をつけて』
『こっちは任せるビャ』
まっ、簡単に太陽系外周までと言ってる時点でかなり変だ。
だが行けるようになってしまったのは仕方ない。
地球の危機なら未然に防ぎまますよ俺。
まずはアンとキセラに凄天虎と神龍になって貰う為に月の裏側に転移し、二人がビーストモードに体の形を変えてから俺は二人と結界の手前ぎりぎりに転移した。
「うーん、まだ遠いな」
「もっと近くに行くニャ?」
「ソレガシガ、先に行って攻撃しようカ?」
「いや、良く調べもせず攻撃するのは不味い。もしかしたら友好的な相手かも知れない。まだ距離がある。それを確認してからでも遅くはない」
結界は弱っていると言ってもそれは神レベルでの話だ。
まだまだ、簡単に越えられる物じゃない。
転移も出来ないようになっていてこちらからは出られても普通は帰ってこられない。
だが俺の知識の中には選んで通す方法も必要な力も、創生神からもらった魔力に付随していた神の知識にあったので持っている。
何も言わず俺にどこまでさせる気なんだ?
俺がいて対応しないと科学の進歩で太陽系外に人類が進出しても帰ってこられないぞ。
責任重大だな。
神の知識は暇があれば少しでも精査しないと駄目だな。
そう、神の知識も吸血鬼の知識も自分で得た知識では無いので読んでない分厚い教科書が頭の中にある感じだ。
必要な時にはまるで知識が自己主張するかのようになんとなく分かる時も有るが、事前に知るためには基本勉強するかのように調べておかないと何もわからない。
しかし、大丈夫とは聞いてはいたが実際宇宙空間で普通に行動できているのは、高級防具で身を包んでいるとはいえ人間離れしているなあ。
いくら大丈夫だといってもあまりに広い空間にポツーンと浮かんでいるのはかなり不安だ。
次までには何か乗り物を用意できるといいな。
頭の片隅でどこにでも乗っていける魔道船の設計を始める。
話が大幅にずれてしまった。
今は結界を越える事を考えなければ。
俺はまず一人で結界を越えてみる事にした。
「それは危ないニャ。アンに任せるニャ」
「ソレガシなラ、この空間に何年でも無事にいられまス。お任せヲ」
いや、キセラお腹はすくだろ。簡単には死なないだけで動けなくなるぞ。
「いや、こちらに帰ってくる魔法はまだ使った事の無い神の魔法だ。まずは俺が使ってみるのが一番だ。だから俺がまず越えてみるから、2人はここで待つこと」
「兄ちゃんは言いだしたら聞かないニャ。アンはそれでいいニャ」
「そうカ、だが何かあればすぐ行くからナ」
俺はまずはゆっくりと結界の外に出た。
まあ、出るのは誰でもできる設定だから当たり前、後はちゃんと帰れるかどうかだ。
予定通り帰れないとなると力づくで結界を越える事になる。
そうなると越えた後の結界がどうなるかが問題だ。
今の俺の力ならたぶん力づくでも越えられるはずだ。
まあ、その前に異界を介しての転移を試すのも忘れてはいけない。
神の知識からは異界へ行く方法は意図的に抜かれてる様なんだよな。
まさか俺が異界への壁を越えられるとは親父も思ってなかったのかもしれない。
この世界において異界転移はタブーなのかもしれないのだ。
神の知識からわざわざ異界転移の情報を抜く理由はそれしか考えられない。
おっと、余り考え込むと二人が心配するのでとっとと結界の中に帰ろう。
またゆっくりと結界に向かって進む。
結界に触れたところで神の知識による結界やぶりを試すとなんの障壁もないように結界内に入る事が出来た。
神の知識は正確で問題ないな。
だが、神の知識はわざと削除してある部分があることが判明したわけだ。
今回、接近している不明物体のデータもたぶんわざと消されているのだろう。
そんな事をするのは何故だ?
地球を守るためにはそう言った情報はちゃんとあった方がいいはずだ。
神たちは何を考えている?
親父が意図的に抜いたとは考えたくはないが……。
もちろん神たちに関する情報も限られたものになっている。
いろいろな神がいて、その神たちが決めた規定に沿った知識が俺に与えられているとあり、それ位しか分からない。
これで不審に思うなと言う方が無理だ。
しかし、神の意図が何であれ、接近してくる奴等を何とかしなければならない事は確かだ。
俺に損でない内は神の意図に乗って動いてやるとする。
また、来週!