0155.養豚場
「吸血蝙蝠の残党が発見できたので行って来るよ」
俺は、皆でダンジョンに行く前に探知の能力を試していたら、吸血蝙蝠を一体発見していた。
「まだいたんだな吸血蝙蝠、僕も行こうか、タカ」
「聖はいいよダンジョンで頑張ってくれ」
「アンが付いて行くニャ。にいちゃん一人で行かせられないニャ」
そうだな、俺一人で行かせたら、ケイが黙っていないだろうからな。
『ケイ、アンと新たに見つけた吸血蝙蝠の所にいってくる』
『了解しました。皆の所にはガウを行かせます。お気をつけて』
『ああ、分かった』
俺とアンは皆をダンジョンに残し、吸血蝙蝠を見つけた辺りに転移した。
直接行っても何があるか分からないので少し離れた見えづらい場所に転移する。
「結構山の中だな」
「周りは木がいっぱいニャ。そしてなんか臭いニャ」
ん、臭い? ああ、アンの鼻は性能が良かったんだっけ。
思ったより離れていたみたいで、山道を歩いて向かっていると。
「駄目ニャ。近づけば近づくほど臭いニャ。これでは集中力が散漫になるニャ。緊急対処が難しいニャ。ガウと変わるニャ、兄ちゃんごめんニャ」
目標に近づいてくると確かに何か臭い始めた。
「ああ、無理はするな。交代しておいで」
「ごめんニャ」
とアンは言い転移していった。
アンの弱点は臭いか。
弱点を放置しているとそのせいでどんな危機に陥るかもしれない。
臭い匂いを防ぐ為の魔道具がいるかな?
何か考えないと。
その後すぐにガウがやって来た。
「ポキがお供しますビャ」
「臭いはどうだ?」
「ポキは状態異常には強いビャ」
臭いのも状態異常なのかは少し疑問だが、ガウは平気そうだったので山道を進んでいくと錆錆でボロボロの畜舎っぽい物が見えてきて、看板には雲見畜産と書かれている。
関係者以外立ち入り禁止とあるので、俺は変装用魔道具で透明化して、中へと入っていく。
ガウにも透明化してもらう。
中はし尿の匂いがひどく、足元がどろどろに滑っていて、進むたびにヌチャヌチャと音がする上に足跡が残るので仕方なく、黒い翼を広げ浮いて行く事にした。
ガウは入った時から浮いている。
俺も早く浮けばよかった。
靴がどろどろ、もう、駄目かなこれ。
忙しく働く従業員の姿も散見するが彼らは皆長靴を履いていた。
畜舎に近づくと見えない俺達の匂いでも感じるのか、豚がブーブーと騒ぎ寄ってくる。
ここは養豚場だったのか。
吸血蝙蝠は何でこんな所にいるのだろうか?
畜舎の奥へと入っていくと、そこには、しっかりと柱に括り付けられて身動きできなくされている豚が目に入った。
その周りに、赤子を抱いた女の人と男の人、そして、どこかで見たことのある金髪娘がいた。
あっちゃー、もう会う事無いと思っていたのにこんな所で出会うとは。
吸血蝙蝠は赤子だ。
生気気が全く無い。
アンデッドだ。
フレッドの野郎赤子まで攫ってたのか。
手当たり次第に攫ったんだなあいつ。
吸血鬼となってからのあいつの行動には虫唾が走るな。
正義に燃える賢者だったのに。
記憶って大事だよね。
と考えている内に、抱いている赤子を縛られた豚に近づけ赤子が咥えているおしゃぶりをとると、赤子は迷わず豚に噛みつき吸血を始めた。
なるほど今まで豚の血を吸うことで人の血を吸わずに存在していたんだな。
そう言えば、フレッドは人の血を吸ってから壊れていったよな、人の血を吸わなければ悪意の侵食を大なり小なり防げるのか?
『タカ殿、それだけじゃないビャ。吸血鬼にされたときに植えつけられる人への悪意は、もともとの悪意がないと魂への侵食は難しいビャ。アンデッドは成長しないビャ』
『なるほど、赤子だから意識がほとんどない。つまり負の感情もほぼ無かった。なら、その悪意取り除けるかもだな』
『そうびゃ、吸血鬼の悪意に染まった魂では体を修復して生き返しても、生気と順応できないのですぐアンデッドに戻るビャ』
魂の浄化が可能なら、アンデッドも救えると言う訳か。
『魂も防衛本能で侵食には抵抗するビャ。侵食される期間は人の意志力等によってまちまちだビャ』
『つまりどこまで浄化できるかは試してみるしか無いわけだ』
『そうビャ。タカ殿の力が強ければ強いほど浄化能力も上がるはずだビャ』
そ、そうか、きついなそれは、助けられない=俺の力が、努力が足りないと言う事になる。
運が悪かったと割り切れないと俺の心がもちそうにない。
『普通の人は多分数分で侵食されるビャ。善性が強い人でも大半は1日が精いっぱいビャ。いくらタカ殿でも侵食が完全に終わった魂の浄化救済は無理ビャ。気にしてはいけないビャ』
『ありがとう、ガウ』
つまり手順としては魂を浄化して、体の再構成を行えばいいんだな。
と見ている間に赤子の吸血が終わった。
豚はまだ生きている。
死ぬまで吸い切ってはいないようだ。
男の人が急いでおしゃぶりを咥えさせた。
俺が助けるためには直接触れるしかないらしい。
何故かと言うと先ほどから遠隔で試してはいるが出来ないからだ。
赤子なら抱いて魂の浄化に挑戦するのがいいだろう。
俺は意を決し背中の羽をしまい透明化を解いた。
「あの、こんにちは。どうか落ち着いて聞いてください」
「だっ誰だ貴様!」
「きゃっ」
「!」
3人とも驚き後ずさった。
「俺は決してあなた方の敵ではありません。落ち着いて聞いてください」
「あなた!」
「しずこ」
二人は夫婦のようで俺を恐れ警戒しながら寄り添った。
まあ、いきなり信用しろと言われても無理だよね。
もう一人の金髪女は怪訝そうな顔でこちらを静かに見ていたが。
「……思い出したぞ、お前は社会見学実習の時に入院していた男だな」
と、金髪ヤンキー風な看護師だった女が叫んだ。
「お前のせいで学校への報告、無茶苦茶書かれたんだぞこの野郎!」
(なんだ! アタイの妄想だったかと思い始めていたが、こいつちゃんといるんじゃねえか! 不感症からの逃避で見た白昼夢じゃなかった。こいつを見ただけで躰があの時を思い出して熱く濡れてきやがった。こんなのあの時以来だ。よし見つけたからにはもう逃がさねえ。不感症のアタイにあんな快感を教えたあげく放置した責任を取らせてやる)
金髪女はにやりと口角を上げた。
いや、それはお前が悪いし。
しかし、この現状でまずそれを言うのかこいつ。
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