0150.古墳
いったい、なにが聞こえたんだ?
俺達は初詣の帰り道中だ。
周りは田んぼでは人の気配などない。
しかし俺には変な声が聞こえたんだ。
『ジィ……ジジジ…………ム……イ』
途切れ途切れの通信のような声がまた聞こえる。
「ケイ、俺は声のする方へ行ってみる。ウズラをみんなの所へ頼む。ガウ一緒に行こう」
「わかりましたお気をつけて」
「はい、ビャ」
「にいたん行ってらっしゃーい」
「ウズラいい子にしていろよ。行ってくる」
俺はしっこの終わったウズラをケイに預け少し離れた所に見える切り立った山に向かって走り出した。
『ジジジ…………イソ……ジカン……ジジジ』
進めば進むほど声は明瞭になっていく。
何だってんだいまったく。
新年早々俺単発の事件だな。
そう、まだ午前2時にもなってない。
山は近そうに見えたが結構な距離だ。
「ガウ、転移するぞ」
「了解ビャ」
ビュン。
俺達は飛び上がり見える山肌にまでやって来た。
『ビビビュー、ガガガ、ジッジジ……ジジ』
どうやら、転移したことであちらが俺を見失ったようだ。
「しまった。通り越してしまったようだ」
謎音声? が聞こえる方向は後ろの様だった。
転移では着けそうにないのでそこから走り始める。
余りにも木が生い茂り、走りにくいので木から木に飛び移りながら進む。
まあ、こんなのできるの人外だけだよね。
間にある道路を2つほど飛び越え、こんもりと盛り上がった古墳の様な所にたどり着いた。
ガウは飛んでいるので楽そうだ。
蝙蝠になった方がよかったのかな。
そうか今は車載カメラが多く流通してるっぽいから道を飛び越える姿が撮られているかもしれない。
毎度考え足らずだな。
ま、誰かなんてわからないだろうけど、騒ぎになると嫌だな。
さてこの古墳だがすっかり荒れていて人の手など入ってなさそうだ。
探知で調べるとと中に入る入り口など、どこにも見当たらないが、内部には通路や部屋などが有る事が分かる。
探知妨害の障壁もあり遠くからは分からなかったが、近づいた今なら内部に魔力反応が有る事が分かる。
ここだなきっと。
鬼が出るか蛇が出るか?
前回ルーマニアでの真祖遭遇の例もあるので、ドキドキしながら霧水化して古墳にしみこんでいった。
ボトン
古墳内の通路に落ちるように侵入する。
中は真っ暗だが俺には見える。
荘厳な石造りの通路だ。
すごいな。
「タカ殿、せっかく眷属のポキが居るビャ。危険そうな場所にはポキを先行させてほしいビャ」
ガウは俺の後から抜けるように侵入してきた。
「それは危ないだろう?」
「タカ殿が危ないより何倍もましビャ。タカ殿が健在なら、ポキらはどのようにも復活出来るビャ」
復活って! そうなのか?
眷属って復活可能なの?
「いろいろな物体の再構築が出来る今のタカ殿なら眷属復活は魂の完全喪失からもきっとできるビャ。眷属の魂を含めたすべてのデータがタカ殿の中にはあるビャ」
「ええー! それってコピーの様な物だよね。それでは別物なんじゃないか?」
「魂が寸分違わず再構築されたなら、それは本人ビャ」
本当にそうなのだろうか?
でも、彼女らを先に進ませて危険回避なんてしたくないな。
だが、ガウの言うのも、それを望んでいるのも痛い程わかる。
悩ましい所だな。
しかし、息が苦しいな。
酸素少ないのかな。
ガウは平気そうだが。
「ガウは息苦しくないのか?」
「ポキも、タカ殿も宇宙空間ですら活動可能ビャ」
そうなんだ、俺も宇宙空間大丈夫なのね。
きっと放射線の類も防げるのだろう。
宇宙飛行士になろうかな?
「特にダンジョンは危険ビャ。ポキを先頭に少し離れてくる事をお願いするビャ。第五層は熱だけじゃないビャ。タカ殿の言う放射線も吹き荒れているビャ。ポキは生身で入っているから分析できたビャ」
そんな地獄だったのか、あそこは。
「あの防具を着ていれば、普通の人でも少々は大丈夫ビャ」
なるほどね。
「わかった、ガウ。次からはお願いする」
「任されるビャ」
通路の分岐点に出たので少し大きい部屋のある方へガウが先行していく。
「祭壇の様な物があるビャ」
『ビビ、ガガ、ソコニオルノハ、カミヤマ・タカシ、カ?』
「いえ、木戸貴志ですけど」
『カミヤマ・ヨシコノ、コデハナイノカ?』
ワンテンポ、いやツーテンポ遅れる話し方や音質が、まるで、電子音のAIと話してる感じだな。
そして、こいつは何を言っている。
俺はどんどん気分が悪くなっていく。
「いや、神山嘉子の妹の紀子の子だ」
『ジ…ソウカ、イモウトガ、ヒキトッタノダナ』
引き取るってなんだ?
何が言いたい!
くっ頭が痛い。
「タカ殿、大丈夫ビャ?」
ガウが心配し声を掛ける。
『アクマノコ、ヲ、ケンゾクニシタカ。シンカマデシテオルノカ。サスガハ、ワガコ。フム、キオクガロックサレテオル。イマトコウ』
ぐっ、ガッ、んん。
強烈な衝撃が頭にきたと思ったら、急に頭が梅雨の晴れ間の様なすっきりした感じになっていく。
しかし
「ママ……」
俺の目からは涙があふれる。
そうだ俺はママを救えなかったんだ。
あの日、いとこの杏子をママが預かり、面倒を見ていたせいで俺の機嫌は斜めだった。
いつもは俺がママを独占できるのに、ママは杏子を抱きっぱなしで俺のことなどあまり見てくれていなかった。
当時、俺は2歳になる前で杏子はまだ0歳、ママの妹から今日だけ預かっていたのだ。
そこは台所と小さな食事用テーブルが有り、テレビもあり居間も兼ねているような小さな部屋だった。
そして、ママは幼い杏子を抱いて椅子に座っていた。
「タカちゃん、すねないで。ニコッとしないとママ悲しいな」
「ママ抱っこ」
「ごめんね二人は抱けないの」
とママは悲しげな顔をする。
ママの悲し気な顔が嫌だったので何とかニッコリして見せ、食器棚の前に転がっていた車のおもちゃで遊び始めた。
「ブーブーブー」
「いい子ねタカちゃん」
その時だった。
ガタン! ガタガタガタ、グラグラ、グーラ、グーラ
結構大きな地震が発生してしまったのだ。
「きゃあーー! 地震だわ貴志、早くこっちへ」
そう言われても小さい子供の俺は動けない。
グラッ!
俺の後ろにあった大きな食器棚が俺に向かって倒れてきたのだ。
食器棚に収納してあった皿などがガラス戸を割って飛び出してくる。
俺は割れたガラスの破片が降り注ぎ、食器棚が倒れる先に居たのだ。
俺はもちろん自力で逃げる事は出来ない。
「貴志―!」
ママは杏子を抱いたまま飛び出してきて、俺に覆いかぶさると食器棚の下敷きになったのだ。
俺は恐怖とショックから気が遠くなり、目が覚めた時には周りは煙か埃かでもうもうとしており、一面血だまりの中だった。
俺にかぶさっているママはもう冷たくなってきていて、一緒に下敷きになってしまった杏子はぐったりとしていた。
だが、杏子を救える気がした俺は、杏子に手を伸ばし無意識に気気を流し込む。
体力の限界まで流し込むと、俺はまた気絶してしまう。
ママは俺がすねて離れていなければ死ななかった。
そう考えた幼い俺はその真実に耐えきれず、記憶を魂の奥底にこれまた無意識のうちにガチガチに封印した。
次回更新は月曜日になります、よろしくお願いいたします。
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