0149.初詣
年の瀬も深まり、12月30日、俺達は母方のじいちゃん家に帰省しお仏壇に手を合わせる。
いやー今年は本当に色々あり過ぎだった。
来年はもう何もないといいな。
仏壇には曾じいちゃんと曾ばあちゃんともう一人母さんのお姉さんの嘉子伯母さんの遺影が置いてある。
ここに来れば毎回手を合わせていて、いつも見ている写真だが。
今日はなぜか嘉子伯母さんの写真が気にかかる。
なんだろう? おかしい。
嘉子伯母さんの事を考えようとすると頭がくらくらする。
吐き気すら催す。
ひどく気持ち悪い。
『タカ様、大丈夫ですか?』
『ああ、ケイ、大丈夫だ何ともない』
そうだ、何ともない。
俺は嘉子伯母さんの事は知らないはずなんだ。
だから平気だ。そう思うと気分も落ち着いてきた。
だが、余り調子はしっくりこない。
明日は地元神社に2年参りに行く話で盛り上がっている。
今晩はゆっくり寝よう。
それがいい、俺は疲れているのかもしれない。
次の日も何故か伯母さんの事が頭にちらついて、どうも調子が出ない。
アンは夜の間、家に帰っていたようだ。
やはり、幼馴染のニノの事は気にかかるのだろう。
優しい子だなアンは。
俺は朝少し早く起きてミルスに会いに行く。
「タカ私いつも一緒に居たい」
「ごめんね一緒に居れなくて」
「ごめん。私の仕事のせいだものね。タカは悪くない。……何か調子悪い?」
「いやなんでも無いよ」
しっかと抱きしめあいお互いを感じあう。
こんな場面でも俺の淫欲はミルスの躰を感じむくむくと元気になりミルスに当たる。
「きゃっ! 何?」
ムードもへったくれもないな。ミルスに凄く申訳がない。
「こんな子はお仕置きですね。そこに立ってなさい」
なのにミルスは機嫌良さそうだ。
「私にだって出来るんだからね。まかせてよ」
シュッシュッシュ
ミルスは慣れなさそうに手を動かした。
「じゃあね。明日も会いに来てね」
「ああ必ず」
ミルスに会って少し気分が良くなったが、こちらに帰ってくると元の感じに戻る。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、杏子、大丈夫だ。俺が簡単にダメージを負う訳ないだろう?」
「ならいいんだけど。疲れたのなら、留守番していた方が」
「2年参りだろ。せっかくだから行くよ」
皆で年越しそばを食べ年の瀬の気分も盛り上がって来た。
「じゃあ、行こう」
父さんが率先して皆に声を掛ける。
「ああ、行っておいで。私らは年なんで行けないけど。私とじいさんの分も拝んできておくれ」
俺はウズラを肩車し、アンの手を引いて出発した。
もちろん俺達の後ろにはケイとガウもついてくる。
素朴で平和な感じがしてとてもいい感じだ。
その頃には俺も調子を取り戻しており、楽しく出発する。
「ぼくねえ、こんな時間にお外に出るの初めて。ワクワクするう」
とウズラが最も盛り上がっている。
普段はもう寝ている時間なのに元気だなあ。
神社はそう遠い訳ではないので、寒い中歩いて行く。
ウズラは肩の上ではしゃいでいたが、神社に付くころには俺の頭を抱えて寝ていた。
その様子に気づいた母さんがウズラが寒いだろうと持っていた毛布を掛ける。
その神社は人気があるのか、わいわいがやがやと、すでに多くの人でごった返していた。
「きゃー! ひったくりよー! 誰か捕まえてー!」
と前方から助けを求める声が響き、俺は悪意を持って走っている輩の進行方向へと進む向きを変えた。
「退けどけどけー、邪魔をする奴はただじゃおかないぞ」
とナイフを振り回して、わめきながら走る犯人の襟首を捕まえ後ろに引き倒し、持っていたナイフをバキッと蹴壊し。
そして、みぞおちに軽くつま先で蹴りを入れる。
「うがっ」
犯人はお腹を抱えて悶絶するのを横目に通り過ぎていく。
すると、その辺に居た誰かが。
「神社の境内でひったくりとは、ふてえやつだ」
と抑え込む。
犯人を追ってきた被害者さんにお礼を言われていた。
レベルが上がり敵の撃つ謎の光弾をかわすことが出来るようになった今では、この位朝飯前である。
「お兄ちゃん、かっこいい」
いかん、妹の目がハートになっていて、気にはなったが俺はもう諦めかかっている。
「はあっ」
だがついため息が出た。
何もないとはいかなかったか。
俺ってこういうのに遭う定めか何なのだろうか?
まあ、趣味に合うから別にいいんだけども。
年の瀬ぐらいは平和でいたいものであった。
そうやって歩いていると、ゴーン、ゴーンとどこからか除夜の鐘が聞こえてくる。
「ウズラ起きろ、年越えだぞ」
「ううん、おはようお兄たん。ぼくも歩くう」
年相応よりもよく寝るウズラだが、実は鬼人なので体力はその辺の大人よりあり、偶に徹夜でアンとゲームしてもけろりとしている。
ウズラは屋台などの周りの賑わいに目を光らせていて。
ウズラだけでなくアンもうずうずしているのがわかる。
「おっ、12時を回った」
「あけましておめでとうございます」
周りで新年のあいさつの大合唱である。
「いやあ、無事年を越せてよかった」
と父さんがしみじみと言う。
心配ばかりかけてすみません。
「ウズラ、アンと見て回るニャ」
「うん」
アンも探知が使えるので迷子にはならないだろう。
「アン、気を付けるんだぞ」
「分かったニャ」
アンも小遣いをもらっているが二人では心もとないだろうと五千円札を渡しておく。
「わーい」
と二人が駆けだすと。
「えっ私を置いて行かないで!」
と妹が後を追う。
「タカ様、わたくしが付いて行きます」
『ケイ、助かる。よろしくな』
「はい」
ひとしきり屋台を回って帰ってきた三人の手には、ジュースとグルグル巻きの変なウインナーが握られていて、頭にはお面が付いていた。
祭りと言う訳では無いのだが……。
神社を詣でて、各自おみくじを引く。
「お兄たん読んで」
「ウズラはっと、小吉だな」
「わーい」
無邪気に喜ぶウズラはほほえましい。
「きゃー、やったわ! 大吉よ」
「アンは末吉ニャ」
そうか、妹は大吉か、いいな。
さて、俺のみくじはと。
「凶……」
なんの負ける物かと、おみくじを木の枝に結び、厄払いをしてから帰路に就き多少歩くと。
「お兄たん、しっこ」
とウズラに緊急事態発生。
「父さん、この辺トイレないよね」
「そうだな、無いな。ウズラ男の子だしそのあたりの奥でさせてやりなさい」
「じゃあ、あっちでしよう」
「うん、お兄たん」
「アンは父さん達といてくれ」
「分かったニャ」
田んぼの横の草が少々生えてる所で、ウズラは座ってしっこを始める。
立ちションじゃないんだね、ウズラはまだ幼いんだな~。
『……ジ……ジッジジ……コ……ジィ、ジ』
なっ、なんだ、何が聞こえるんだ?
カエルの鳴き声じゃないよな?
「ケイ、ガウ聞こえたか?」
「いいえ、わたくしには聞こえませんでした。タカ様を通して聞きました」
「ポキもだビャ」
俺は、聞こえて来たと思える方角を見据えた。
次回更新は金曜日になります、よろしくお願いいたします。
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