0147.真龍魔人
ダンジョンの第四層極寒地獄の中でキセラが涙を流し俺に縋り付いてくる。
キセラが着ている防具はヘルメットも帽子もないタイプだから顔もよく見える。
「お願いだタカ。ソレガシを眷属に加えてくレ! ソレガシを育ててくれた両親の高位龍は邪魔龍に殺され食い荒らされていタ。住んでいた町も一緒に滅ぼされタ。帰る所もなイ。ソレガシが邪魔龍を滅ぼさねば救われなイ!」
俺はフウとため息を吐いた。
キセラはずうっと悩んでいたのだろう。
彼女の決心は堅そうだった。
「わかった。だからもう泣くな」
「それではタカッ!」
「そうだ、今日からキセラは俺の眷属だ」
気合を入れて言ったが、俺はちょっと恥ずかしくなった。
「ポキはキセラを歓迎するビャ」
「アンもニャ。仲良くするニャ」
今まで静かに見守っていたガウとアンがキセラを歓迎する。
「ガウ殿、アン殿、ありがとう」
「いいニャ。これからはアンニャ」
「ポキもガウと呼ぶビャ」
俺はキセラの丹田辺りに触れない程度に両手を添える。
「始めるぞ」
「頼ム」
俺は集中し、添えた手から魔力、気をキセラに送り込んでいく。
送り込みすぎると拒絶反応を起こすのでゆっくりとだ。
「オオ、オオオオッ。熱イ、熱いゾ! 入ってくるソレガシの中にタカが入ってくるゾ。感じるゾ、タカの力。アアッ、気持ちいゾ。おうン、オッオッオッ。そっソレガシもこれデ」
キセラの中に俺の気が魔力がなじみ循環し始め魂の内側まで侵食する。
キセラは俺の魔力も気もすべて受け入れたようだ。
キセラは最強クラスの勇者だ。本人が望まなければこのように魂の奥底まで侵入する事は真祖でさえ難しいはずだ。
相手が反抗的でも魔力差が相当大きくて長い時間を掛ければ可能だとは思う。
心底眷属になりたかったのだなキセラは。
二人の間に強い眷属の絆が結ばれた。
「フォオオ! タカが体の中で暴れているゾ。だがそれが気持ちいいゾ。アアッ体が熱イ! もう意識を保っておれなイ! アア、熱イ!」
シュウーっと体から煙を出しながらキセラは俺から離れ膝を抱え座り、背に生える翼で体を包んでしまった。
なんでキセラはなんとなくエロく言うのだろうか?
恥ずかしいだろ?
「どうやら、進化が始まったようビャ」
「キセラはどんな感じに変わるかニャ。楽しみニャ」
そうか、姿形が変わる可能性もあるのか、ガウみたいに。
と見ている内に爬虫類風の尻尾がキセラのお尻辺りから伸びてくる。
なるほど、もっとドラゴン寄りに力強く変化を起こしているように見える。
ワイバーンやドラゴンみたいに大きくなったらどうしよう?
極寒の吹雪をとかすほどにキセラの周りの温度は上がっているようだ。
これ大丈夫なんだろうか死なないよね?
探知で調べてみるが高速再構築中進化中との答えが何と無く分かる。
確かに俺の中の魔力がどんどんとキセラに流れていく。
ここは魔力溢れるダンジョン内なので俺は問題ない。
これ高速再構築できないとやはり死んでしまいそうだな。
進化って簡単じゃないな。
俺の中の悪気も減っていくから、他の眷属の皆と同じ存在になっていっているようだ。
段々煙が出る量が少なくなってきて、俺からの魔力と気の放出も終わった。
いつの間にか一回り以上大きくなっていたドラゴンの翼をバサッと広げ、キセラは立ち上がる。
キセラはバーバリアン風の立派な角を備えた野性味あふれる美女になっていた。
もう、なんとなくカエル調だった顔の面影はない。
ヒューっと大きい翼と新たにできた尻尾がキセラの体に収納されていく。
あの大きな翼と尻尾はどこに行ったのか、全く分からない。
「オオ、ソレガシ恐ろしく強くなっているゾ。早速試してくル」
そう言って魔物の気配のする方へキセラは走っていく。
んっ? ものすごい速さで走り去っていくのに小さく見えていかない?
目がおかしくなったのかと、目をこすりよく見ると。
キセラは走りながら巨大なドラゴンへとその身を変化させていっていた。
「あれは真龍ビャ、高位ドラゴンの上位種ビャ」
ガウ、聞く前に解説ありがとう。
「フレイム・バーストー」
強大な魔力がキセラの口付近に集中し、大きな蒼い火球が生まれ。
彼方へと飛んでいき爆ぜた。
あれは焼失魔法の火によく似ている。
爆ぜた広さが半径1kmはある様に見える範囲丸ごと焼失していた。
キセラから収得魔力が流れ込んで来てあの辺一帯の魔物はすべて消えた事が分かる。
強固なダンジョンの地面もかなり削られていた。
ドラゴンの時の顔にはどことなく元のキセラの顔の面影が残る。
それを感慨もなく眺めていたガウが口を開く。
「あれはポキらと同じように、知識に中のみに理論的には存在し得ると考えられていた種族。真龍魔人ビャ」
キセラがアンギャ―スと、遠くで雄たけびを上げる。
その姿を眩しそうに見ながらアンがつぶやく。
「キセラ姉ちゃん凄いニャ」
「元が限界近くまで強くなっていたからビャ。ポキらも負けてはいられないビャ」
アンとガウも負けじと魔物の反応へと駆けていく。
俺も負けられない。
俺も魔物の中に走っていった。
ひとしきり魔物を狩った後、キセラは言った。
「この力が有れバ、邪魔龍など恐るるに足りヌ。タカ、ソレガシに邪魔龍退治に単独で赴くの許可をくレ」
俺は眷属の支配がどこまで意思を縛る物なのかを知りたくなったので、つい意地悪な返答をチョイスしてしまう。
なぜか最初から従順で私欲が薄いかったケイ達では試せなかった事だから魔が差したのだろう。
後から考えるとキセラにはかなりひどい発言だった。
「もし、俺がダメだと言ったらどうする?」
キセラは別に怒ったりせず。
「それガ、主の決定なら従ウ」
あれ程思い詰めていたキセラがまさかの反応である。
てっきり激昂するかと思ったのに。
ここまで意思を曲げて支配できるとは思わなかった。いったいどうやって感情に折り合いをつけているのだろうか?
やっぱり眷属化はかなり不味い。
それなのに俺は又眷属を増やしてしまった。
「いや、悪かった。試しに言ってみただけだ。行って来いよキセラ。俺達の力が必要ならいつでも呼んでいい」
「ありがとうタカ。ソレガシはタカにソレガシが存在している限り忠誠を誓ウ。ソレガシの命もいとわなイ。あわただしくて済まないガ、一分一秒が惜しいのでもう行かせてもらウ。終わればすぐに帰還すル。タカの許がソレガシの新たな居場所」
キセラはその大きい翼を広げ飛び立つと、転移にてこの場を去っていった。
キセラ無事仇を撃てることを祈っているぞ。
「そう言えば、キセラは何故基人よりの容姿になったんだろう?」
「亜人の元は基人だビャ。亜人は強くなるために外見が基人と違うビャ。でも基人に近い姿で強さを保てるなら、容姿は基人に寄っていくビャ。価値観だって基人に沿っていてその上に自分たちの価値観があるビャ」
なるほど、ガウは本当に物知りだな。
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