閑話 デビルアタックフォース世界会議
ギリシャのミトロポレオス大聖堂にある機密性が優れた地下巨大会議室に、僕ら降魔師など、現在の国家機関などでは対処が難しい怪異現象の解決を生業とする世界中の民間組織の代表が約600人程度、まあ粗方だが集まっている。
僕ら瑪瑙家も日本の有力降魔師として父上と共に参加していた。
ここにはまるでタカが作ったかのような高度な翻訳の魔法が掛かっている。
考えてみれば誰がこんな複雑な魔法を掛けているのだろうか?
議長はいつもと変わらない。
デビルアタックフォース共同体の会長を永年務めるイヒタス氏。
デビルアタックフォース共同体の発足したと言われる500年程前から会長を務めるという妖怪じじいだ。
今までの僕では分からなかったのだがダンジョンでのレベルアップの効果なのか、イヒタス氏の事が少しだけ分かる。
イヒタス氏は自分の魔力を隠蔽しているが、今の僕より魔力が高い事が分かったのだ。
ダンジョンで鍛える事であり得ない程高まっている僕の魔力よりだぞ。
タカ程は魔力が大きくはないと思うが。
なるほど500年以上生き続けるわけだと、僕は変な納得をした。
イヒタス氏からは聖属性の神気を感じるので賢者といった所らしい。
つまり、異界人の可能性が高いと言う事だ。
そうだよな異界に迷い込む人がいるなら、こちらに来る人もいるのだろう。
500年以上もの長き間、地球の怪異と戦える癖の強い異能者をまとめ上げてきた功績は認めざる得ない。
きっと素晴らしい人なのだろう。
「皆そろっているようなので始めるとするか」
厳粛そうな声と共に会議は始まった。
「先ずは直近で小悪魔の襲来、その前には吸血鬼の発生。我々の魔力では対処が難しいと想定される難敵を迎え、それを見事に退けた。その偉業を達成した日本の瑪瑙家から話せる分だけでよいので報告をお願いする」
そう、イヒタス氏の言う話せる分と言うところが重要だ。
こういった重要案件は依頼者が国家であることが多いので、どうしても機密事項が発生してしまう。
それをどうしても話せとなると会議自体が瓦解してしまうのだ。
「……と言う訳で、一体の吸血鬼は聖が倒しましたが、残りの吸血鬼は不明な能力者達によって倒されています」
「なるほど、情報があまり伝わってこないと思ったらな、そんなイレギュラーな存在が」
「我々といたしましてはその者達は今は邪悪ではない。そしてまだ若い不安定な存在と断定し静観の構えです。敵に回して良い存在だとは思いません。自身たちの力を自在に隠蔽できる様なので実際の力は予測不能です」
その様子をオーランが神妙な顔で聞いている。
これは奴にもある程度ばれていると思った方がいいのかもしれないな。
「分かった、ではその存在について、我々の対応で他に意見がある者?」
「はいっ、パドリーシュ家のオーランです。その者たちはそこまで強いでしょうか? 本当に予想できませんか? それほどの力があるのなら強引にでも魔物退治をさせるべきでは? その辺りのイヒタスさんの意見が聞いてみたいです」
「では、色々と不明瞭な点が多いのだが、私の所感でよければ述べさせてもらおう」
「よろしくお願いします」
「ふむ、報告の中にあった小悪魔を眷属として使役したというのが本当であるなら。その者はとても人とは思えない、神か悪魔に類する能力を持つ人知を越えた存在だ。と推測し、いやできてしまう。その者が邪悪でないのであれば、放っておいても世界の危機には何か手を打って来る。だが万が一邪悪な場合。我々が全員で命を賭けて封印する必要が有るだろう」
「封印する方法があると?」
「無い訳では無いと言っておこう。だが、簡単ではない。誰も生き残れない、それを覚悟し実施する必要が有るだろう。私の予想ほどの力だとすればな」
「それほどまで、ですか! 分かりました。ありがとうございます」
うわー、さすがイヒタス氏だ。
結構真実に近い。
タカを封印するなら、それ相応の覚悟が必要だろうし、僕はそれでも無理だと思う。
タカが邪悪な存在になる事は僕も身命を賭して、防ぐ必要が有るだろう。
ケイは凄い!
こういう事態を最初から見据えて緻密に計画を進めているのだろう。
僕も頑張らねば。
「では採決に移る」
タカの事は静観し探らない事を決め、その他の話し合いが引き続き行われる。
そして今日の会議が終わった。
現状が善良であるなら、下手に能力者がちょっかいを掛ける事によって起こる可能性がある事象。
権力による押さえつけと感じて反発などが起こり、ストレス等で属性が反転し邪悪になるのを防ぐ為である。
その為には情報の隠蔽が正しいとの判断だ。
大人たちはこの後酒宴の席があり、そちらに向かう。
明日は、最新技術研修会になる。
僕は今日もう用事がないので、帰ろうとしているとイヒタス氏に呼び止められた。
「ちょっといいかね、瑪瑙聖さん」
「はいどうぞ」
おっと、一体何の用だろう?
イヒタス氏について少し小さな部屋に入る。
「ここなら、情報が漏れることは無い。単刀直入に聞こう。ルーマニアで何があった? 結界に変更が加えられている。君が知っているのではないか? 心配はいらない。私は異界人だ。君の変化も分かる。ダンジョンを見つけたのだな。その情報が洩れる事の危険性は分かっている。私から漏れることは無いしダンジョンの事を私に教える必要もない。私はあの結界の中にいる真祖の事が気になるのだ。たのむ後生だ教えてくれ」
そっか、あの結界の関係者なんだね。なら、今回の事を聞く権利が有るだろう。
「わかった。信を得るために私の事を包み隠さず教えよう」
それは気になる所かな。
「それを、聞いてから判断させてもらいます」
「それでいい。私はアトラタという世界から1000年程前にこの世界に迷い込んだ異界人だ。魔法具技術者だった私は魔力を高めるため、元の世界のダンジョンで限界まで鍛え上げている。魔力の高さは分かるだろう?」
イヒタスは自身の魔力を隠す隠蔽を解いた。
その魔力は蒼天の剣のシンディさん達に近い程もある。
これほどの力であれば、この世界で自由自在に権力を得ることも出来ただろう。
それをやってないと言う事はきっと信頼できる。
「あの結界はイヒタスさんが作ったのですか?」
「やはり知っていたか。ああ、此方の世界で出会った別の異界、オーバスから来たという、この世界での師匠と一緒に作った。師匠がその身を捧げて真祖を罠に嵌め、あそこに真祖を閉じ込めた。私はあそこの管理を任されているのだ。いったい何が有ったのですか?」
この人は700年以上あの結界を見守って来たんだな。
「お察しの通り、日本で吸血鬼を倒した者がかかわっています。あの結界内から一時的に出られなくなりました。しかし、あの者は真祖を下し、その後、結界を改変しました。あの者には悪気もありますが、それを上回る強い神気を持っています。まだ不安定ですが、その善性は強いのできっとこの世界の守護神へと至るでしょう。僕にお任せください」
「そうか、あの結界を改変でき、真祖を倒せる程の力がある者に私は何もできない。君に任せていいんだね? それはこの世界の未来の在り様に責任を持つと言う事だよ?」
「微力ながら信頼できる心強い仲間もいます。必ず善神へと導きましょう」
「出来るだけ力になる。それほどの者に制御をしようと不用意に近づくと、必ずバレて悪い方向に向く。自然に味方になり、信頼をされた者にしか出来ない事だ。私にはもう出来ない。まだ若きそなたに任せるざる得ない私を許せ」
「必ず成功します!」
僕は決意を新たに、デビルアタックフォース会議を終えた。
そして、そう言う事は皆に相談しなさい! と後でケイにしこたま説教されるのだった。
明日も公開いたします。