0144.罠
キュランは結界の中心部の館上空で探知しタカの状況を探っているが、行方が特定できない。
「どこにいるのかよくわからんな。狩りとしては面白くもあるが、なんとものう」
キュランとしてはしっかり位置を特定したうえで追いまわし、追い詰め恐怖に震え泣き叫ぶ様子を楽しみたかったのだが当てが外れて機嫌が悪い。
真祖など強力な種族には脅威になる敵がほぼいない。
その為探知などは苦手な部類の魔法なのだ。
それにしてもタカの恐ろしいほどのステルス性に感心するとともに、戸惑いの色を隠せなかった。
しかし、何とか捉えているそのわずかな反応も真祖としての長い経験でも推し量れない変化を見せていた。
「ふむ、反応が変わった様じゃな。妙な魔力の流れじゃの。人数が減ったのかこれは? もしかして逃げられないと見てあの少女の幽霊を吸収したのか? ほっほっほ。酷い奴じゃな。流石は悪気を持つだけの事はあるの。じゃが、変な奴じゃ。悪魔でも、吸血鬼でも、人魔でもなさそうじゃが。いったい何であろうのう? 興味深くも有るな」
俺はケイを結界の外に送り出して、出来るだけばれないようにキュランに接近していく。
確かにここの結界はよくできている。
真祖を封じ込めるあたり凄い性能だ。
だが、いつまでも結界の性能を保てると思うのは早計だ。
全く魔力を補給できない状態で奴がいつまで存在できるかは分からないが、この結界もいつまでもつのかが俺にはわからないのだ。
ここでもし俺が倒せる可能性があるなら倒しに行くのが正解だろう。
たとえ俺が負けても結界がある限り奴はここからは出られない。
ここは逃げて再度挑戦というのも考えられるが、次回奴はこんなに油断してはくれないだろう。
今倒すしかない。
奴は掛けねなく強い。
長い監禁状態で力が落ちているはずなのにな。
あれで男爵だっていうんだから、公爵ってどれほど強いのか嫌になるな。
いや、公爵と闘いたい訳では無いよ。ホントダヨ。
さて、まずは奴の物理障壁と魔法障壁を突破しないとね。
その為にはやつに接近する必要があるな。
奴が空にいては発見されやすいので接近が難しい。
不味いな。
これでは発見されずには近寄れない。
ケイの様に存在自体が不可視に成れればいいのに。
まあ、見えない程度の隠蔽が出来ても、あの広い何もない空中であればやっぱり見つかるか。
微妙な魔力の揺らぎまで隠しきるのは難しいのだ。
さて、どうする?
……まてよ、いい考えがある。
「ぬっ、近づいてきたかと思えば反応がもっと薄くなった? なぜじゃ! どこへ行ったと言うんじゃ?」
キュランは精細に探知を繰り返すがまるで広範囲にいるような反応しか返ってこない。
「むむむ、仕方ない。降りて直接探すか。めんどくさいのう」
キュランは段々高度を下げながら探知を続ける。
結界の中心にある屋敷はすでにボロボロで石壁以外は風化を始めていた。
もはや触るだけでぱらぱらと崩れ風で飛んでいく。
奴はどこに住んでいたのだろうか。
奴が生気を吸収しているからなのか、この屋敷の周り半径100mは草一本生えていない。
おっ奴が屋敷の前の開けたところに段々降りてくる。
降りきる少し前が勝負だ。
着地まであと5m、4m、2m、1m、50cm、30cm、今だ!
俺は霧水化して薄く広域に広がって潜んでいた地面から飛び出し、フレッドが使っていた物理障壁破壊をさらに強化改良した魔法陣を展開。
その魔法陣をキュランの物理障壁に転写し魔力を流してやった。
「むおっ! 貴様どこにいた?」
するとバリーンとまるで音がしたようにキュランの物理障壁が破壊した。
壊れてしまった物理障壁を再度発動しようとするキュラン。
だが俺は魔法障壁の中まで手を入れ。
「もう遅い! 轟雷!」
ゴバァーーー!
俺の魔力のほとんどを使った勇者の超至近距離から炸裂したのだった。
さすがのキュランもこれにはたまらない。
「ウガガガガ!」
キュランは絶叫し立ち尽くす。
体中の肉が焼け溶け、頭蓋やそのほかあちこちに骨が見えるほどのダメージを負っている。
勇者の攻撃魔法の怖い所はダメージ個所の再生や再構築が極端に遅くなる所だった。
たとえ真祖であれど回復にはかなりの時間を要するのだ。
やばい倒しきれなかった!
追撃をしないと!
しかし魔力を限界まで振り絞った俺はその場にぐったりと倒れる。
「くふっふっふ、やってくれたな少年! タカと言ったかの。ほっほっほ」
キュランはそれでも不敵に笑い。
「貴様から生気を吸収し直せばよい事だ。まさか、悪気を纏う振りが出来る勇者とはな。分からなかったぞ。十分楽しめたわい。轟雷は確かに強いが、もう反撃する力など残ってはおるまい。ふっふっふ。まだ、これ程の力を持った。古代文明期ほどの強さを持った戦士と再び相まみえる日があろうとはな」
そう言ってキュランは生気吸収を発動し手を伸ばしてくる。
「掛かったな!」
「なに?」
「焼失の炎」
俺の体から蒼い炎が舞い上がる。
「おおおっ! あ、熱い? 苦痛など感じぬはずのワシが熱い? なんでじゃ? 魔力を使い切ったはずなのに、何でこんな強力なわけわからん魔法が使える?」
「確かに、轟雷を撃ったあと魔力不足で倒れかけたさ。俺も駄目かと覚悟をしかけたが。しかし、俺には頼れる仲間の支援があったって事さ」
そう、ケイが別れ際に俺に託したケイの魔力。
轟雷でケイの魔力は使われなかったのだ。
「なな、何のことだかさっぱり分からんぞう~! あががが! まさか、真祖のワシが! こんな、秘境で! こんな若造に燃やされるとはな。見事じゃ、タカ。ワシを滅ぼしたことは誇ってもよい」
キュランは満足そうに微笑み燃え尽きていく。
フシュー!
俺の体から今までに経験した事の無いほどの煙が吹き出し死にそうな眠気が俺を襲う。
「せっかく勝ったのに、まさかレベルアップに耐えきれないのか?」
いやただの眠気か?
俺の意識はよく落ちるな。
そう思いながら意識を失った。
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