0010.退院と再考察
明けましておめでとうございます。
本年度も宜しくお願い致します。
午後、母さんが会社を中抜けして迎えに来てくれたので、会計を済ませて病院を去る事になった。
廊下の窓からあの金髪看護師がとろんとした目つきでこちらを見ている。
ああ、俺はなんて迂闊な!
遠くから見る分には美人で可愛いな、なんであんな性格なのかね、ああいうのを残念美人って言うんだよね。
なのに性欲が盛り上がって来るので困ったものだな。
見かけたついでなので探知を掛けてみると状態異常は無しと頭の中に浮かんだ。
あれっ! 無しってどういう?
魅了の状態異常では無いのに、何でこっちを見ているんだろうか?
訳が分からない!
俺は混乱しながら母さんと家路についた。
この場所は家からバスに乗って15分と言った距離だ。
母さんと金木犀の香りの中、静かで景観のいい道を並んでバス停まで歩いていく。
久しぶりに、日の下を歩けるのはとても気持ちいい。
この当たり前の光景がある事に感謝した。
家に帰ると母さんが怒りながら俺にお小言をくれる。
「貴志、色々するのもいいけどあまり無理をするんじゃありません!」
「は~い、母さん」
「それとコンビニには父さんと行ってしっかり謝って来たわ。バイトも解雇になってたからもう行かなくていいわ」
「はい」
「次からは何かする前にせめて一言でも欲しいわ」
「……」
それでは対処が出来なかったり遅くなったりするじゃないか。
母さんは俺をじっと見ながら少し待って。
「もう、いいわ! 勝手にしなさい」
「ごめんなさい母さん」
コンビニにも迷惑をかけてしまったな、そうは言ってもやっぱり後で謝りに行くことにするか。
妹が階段の途中で見ていたので、探知を掛けてみたら状態異常無しと浮かんだ。
しかし、じっと見てやると顔を赤くして部屋に戻っていった。
あれっ? なぜ無しなのにあんな反応するの?
「じゃあ母さんは仕事に行くからね。家でじっとしてるのよ」
母さんが出かけたので、俺は部屋に戻って今回の事態は何故起こっているのか、悪い頭をフル回転させ2時間程悩んだ。
結果、幾つかある仮説を立てるに至った。
1つダンジョンにて魔物を倒した為に身体変質、強化が起こり体に負担が発生。
2つ再生や探知、異界への移動には魔力の様な物が必要でそれが異常に枯渇した。
3つ魅了効果は一時的な物だが記憶が無くなる訳ではないので好意は残る。
4つ体は体温を持ち鼓動もある、人に近づいたのでは?
1つ目はただの予想に過ぎない、が当たってる可能性は高いんじゃないかな。
2つ目は魔力の量を把握しないと対処が難しいかな。
今回は1つ目と2つ目が同時に起こったので倒れた感じかな。
対処はここまでひどくなる前に寝て休む事だよねきっと。
疲れを感じないからと言ってほぼ寝ずに頑張ってしまったからな~。
そりゃ疲弊もするよね。
3つ目は記憶を消す能力にでも目覚めない限りどうにも出来ないな。
時間が解決してくれるのを待つくらいか。
まあ最後のは願望だな。
蝙蝠にも霧水にも今までよりスムーズになれたし。
本能も最後のは、違うと言ってる気がする。
ならば、そろそろ魔法とか使えるんじゃね!
おっと本能が否定し無い。
これは実験だ、実験するしかない!
バイトも無くなって暇になったしね。
おまえ高校生だろ宿題は? と諸兄の皆様は思ったでしょう。
ふっふふ、俺は夏休みをエンジョイする為にさっさと終わらせる主義なのさ!
大事をとって明日から実験だ。
次の日、俺は椅子のある洞窟の広間に来ていた。
「よし、魔法だ魔法を使うんだ」
さて、どうしよう?
全くのノープランだった。
昨日はパソコンで動画見たり、サバゲーの仲間とチャットしたりで遊んでしまった。
よく読むラノベだとまずは体内の魔力を確認だっけ。
それで行ってみよう。
探知で自分を精査し、魔力と思われる物の量をと念じてみる。
すると現在の魔力量が思い浮かぶ、その力を自動化してやると、なんかよくある横の棒グラフがイメージできた。
時間とともに段々増加するグラフ。
これは回復してると見ていいだろう。
ある程度たつと伸びが止まった。
これが、最大値かな一度家に帰ると全体の約2%ほど減っている。
今の魔力量だとその位、異界移動に使うようだ。
また回復を待って異界に移動する。
やはり2%減っている。
今度は遠くを探知してみる。
そうだなダンジョンの入り口辺りがいいかな?
長距離の探知を始めるとじりじりと魔力が減り始めた。
魔力の使用量が回復量を超えたようだね。
そりゃあの広いダンジョン全体の探知をし続ければ魔力無くなるよな!
映像であんな広い世界を探知できていたフレッドの魔力量って膨大だったんだね。
それを遥かに超える勇者と聖巫女、想像も出来んわ。
魅了の力を最大で使ってみる。
しかし、魔力の増える量は全く変わらない。
魅了の力は魔法ではなく行動の様な物つまり、えーと。
スキルみたいな物で体力か何か別の力で発動させているのだろうたぶん。
もしくは、ほんの最小の分からない程少ない魔力を使うのか。
探知であれば見えるあたりを軽く探知しても、回復量より少ない魔力使用量でも、微量でも増減が分かるのだが魅了はさっぱり分からない。
そう言えばレベルが上がると魅了の能力も強くなっていたな。
無関係ではあるまい。
魔力が無ければ発現してなかった可能性すらある。
ミルスもニノもだがそれまでは魅了されている感は無かった気がするからだ。
思い出してみるとニノと一緒に行った狩りの時に殴ったら消えた黒い獲物。
確かあの時眠くなったよな。
あれを倒してから殴られて腫れた痕も治った気がする。
それまではきっと魔力なんて無かった。
もしくは本当に使用不能なほど微量だったのだと思う。
次は、再生力か俺は軍用ナイフを出し左手に押し付けてみた。
「いつっ!」
血が出るが触ると傷も痛みも無い。
この位の軽傷であれば治るのは一瞬であまり魔力は使わないようだ。
これは体力と魔力を使っている感じがする。
体内の魔力の流れを何と無く掴んで来た所で、お楽しみの魔法だ。
まあ考えてみたら探知も魔法の一種なのだが、魔法は使えないと感じていた割には意識もせずに自然に使えたし地味なので魔法と言う感覚少ないし。
では火魔法を一つ。
魔力の流れを探知しながら操作の感覚を覚えていく。
何故かやり方がまるでもともと分っているかのようだ。
魔力は結構思い通りに操れ、体の中で自在に動く。
体の中の魔力を外へ外へと導くと、段々と体の周りに俺の魔力がたまり始める。
自分の魔力とダンジョン内の魔力は微妙に違っていて、ダンジョン内にあふれる大量な魔力を今は操作できない。
体の周りにたまった俺の魔力を体の少し前に集め、火の燃え上がるさまを、イメージする。
火のイメージをもっと具現化するために声を出してみた。
「火よ!」
と、トリガーに代わりにつぶやいてみた。
すると、ボっと前に小さな蒼い火の玉が出て消えた。
「やった~~!」
案外簡単だ、俺は天才じゃなかろうか?
続けて、魔力を集めて空気の振動をイメージして叫ぶ。
「超音波カッター」
何も起こらない。
よし、蝙蝠になれ。
フッシュー
”超音波カッター”
ヒュンと前の岩に小さな傷が出来た。
大して、魔力操作もしていないのに出来た。
これは吸血蝙蝠の能力と言った扱いなのだろうか?
両方とも大した威力は無いが使える。
両方とも威力に比例するのか使用魔力は少ない。
”飛べっ! とべっ! 飛べよ~”
そしてまだ飛べない。
人の姿に戻って、‘それ’を試すのか? どうしよう。
‘それ’とは、何故か使える気がさっきからする、あの聖巫女が使っていた聖浄化魔法の聖光だ。
いわゆる聖属性魔法かな。
あの光を見たからかな名前まで分かるなんて、フレッドが食らったから、もしくは名前を聞いたからかもな。
ピピピ、スマホが鳴った。
「お昼かな、後は午後にしよう」
次話 6時 更新予定
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