0142.結界
モスクワから目的地アテネまでは4時間とちょっと。
大して長くもないのでエコノミーの席に座ったら、オーラン達の姿は見えなかった。
この飛行機に入っていくところは見えたから、きっといい席の方に行ったのだろう。
ふーっと一息つく。
よかった。
ずっとあんな奴らに睨まれてたんじゃ落ち着けやしない。
飛行機はアテネに向け飛び立つ。
アテネか楽しみだな。
パルテノン神殿とか見られるのかな? と思っていると。
「ただいまからウクライナの国境を越えルーマニア国内にに入ります」
とのアナウンスが。
「ルーマニアと言えば吸血鬼伝説だよね」
と聖が明るく話し始める。
「あれだよね。実際吸血鬼いたんだから、ただの伝説じゃないのかもね」
と話していると旅客機の横を飛んでいるケイから。
『タカ様、前方の航路上に結界が有ります。物理障壁ではなさそうですが、詳細が分かりません。確認に向かいます。が脱出準備を』
へっ、なんだって?
『ジジジッ、別に何の反発もなく通れました。ガガ、一体なんでしょうか。ガー、あれっ戻れない。ザー』
「聖すまない。ちょっと行って来る」
「えっどうしたのタカ?」
「変な結界が有った様だ。ケイが閉じ込められたかも」
そう言って俺は旅客機の外へ転移した。
「タっ、タカちょっと、て、行っちゃった。忙しい人。あ~早く帰ってこないかな~」
うっさむい!
だがダンジョンの第四層ほどじゃない。
ビョウーっと風を切り裂き下に落ちていく。
おっとこのままじゃ落ちるだけなので蝙蝠の姿になる。
バァブフゥッと蝙蝠の羽が風を含み、羽から自動で発生する半重力魔法と合わせて減速していく。
半重力魔法を練習すれば蝙蝠形態はいらなくなるかもしれないな。
でも羽の様な広い物から半重力を制御する方が圧倒的に扱いやすそうだ。
羽だけ出せないかな。
いや、それだとまんま吸血鬼に見えるではないか。
するとガウが凄い速度で寄って来た。
「タカ殿、ケイはあっちだビャ」
見ると今、旅客機が通過する少し離れた空の下に降下してくるケイが見える。
探知では分からない。
上空を飛ぶ旅客機には何の影響も出ていないように見えるな。
まあ、ここらは普段から航路の様なので大丈夫だとは思っていたが。
よかった。
『ヴヴゥ、ケイあちら側には出られないのか?』
『ヴゥヴ、ぐるっと下の土地の半径4km位から、とんでもない高さの円錐になっています。ザザァ、上空にも出られません』
なんか、雑音が入るな。
『ザザザ、異世界転移は?』
『ヴヴ、まるで、ダンジョンのようなザー、異相が有り転移できません。わたくしにはまだ解析できませんが、ザザ、タカ様であれば解析できると思いますので異相データを送りますヴヴッ』
『ザアッ、分かった解析してみる』
しかし、ほんと外から見るとかろうじて結界が有る事が分かるくらいで、あとは何も分からない結界だぞ。
凄いな。
ケイから受け取ったデータを解析していく。
データの受け取りにも多少時間かかるな。
なるほど、悪気のみに反応し入れるが出られない仕掛けか。
あのまま飛行機に乗って通過していたら、結界と椅子にはさまれて俺はぺちゃんこだったな。
強い吸引力で魔力を集めてる?
なるほどこれと椅子にはさまれ潰れていたら体に守られず魔力を吸収され回復は出来なかったかもしれないんだな。
俺はぞおっとした。
もし俺が飛行機より頑丈なら、飛行機は空中分解し落ちる事になっていただろう。
ケイ、ナイス判断。
魔力を吸収する以上、普通の魔法ではこの結界を破ることはできないな。
焼失魔法なら穴が開けれそうだが。
この結界が何を閉じ込めているのか? それがひどく気になるからとりあえずやめておく。
眷属の繫がりは強いな、これほどの結界でも切れない。
ああ、魔力ではなく魂が次元を超えつながっているから影響が少ないのか。
ただ、この異相、世界のずれを全部計算するのは少々骨が折れるぞ。
えらく複雑だ。
何時間か掛かるかもだな。
『聖なかなか帰れないかもしれない。許せ』
と一方的に念話を送っておく。
その際相手の居場所も周りの状況も詳細に分かる。
こっこれは、知り合いの居る場所には転移可能と言う事だよね。
「えっタカ、なかなか帰れないって? ねえ」
ああ、僕って念話まだ使えるようになってなかったわ。
「何やってるんだか」
旅客機は順調に飛行を続け、アテネ国際空港に到着する。
飛行機の着陸は何回経験しても気持ち悪い。
頭痛くなる。
だが以前より大分軽減された気がする。
レベル上げの成果だろうか?
降機したら普通預けたに荷物を受け取る為に待つが、僕らは手荷物として持ち込んだリュックだけだし、降魔用の特別パスポートのお蔭であっという間に手続きも済み到着ロビーでタカが来るのを待つとした。
すると、一人三つくらいトランクケースをひこずったパドリーシュ家の面々ががやがや騒ぎながらやって来た。
「早く荷物を出せと言うのにあいつらときたら、無理ですの一点張りで詰まらん奴らだ」
「そうですよね。若の荷物なんですから優先でおろすべきです」
そんなことできるか!
積んだ順にしか降ろせないだろ。
魔法が使えたって難しいだろ。
しかもなんだその仰々しい荷物は。
飛行機なんだぞ気を使えよ。
と心の中で突っ込みつつも僕は出来るだけ知らん振りをした。
だが。
「そこに見えるは、メーイミラーヤ」
僕は気配は消せても姿は消せなかった。
どこかのカフェへでも入って待てばよかった。
「ミラーヤ、君を一人にするなんて、ひどい男だね~。メーに乗り換えないか? いつでもウェルカムだよ」
オーランはタカが居ない事をいい事に強硬な態度を崩さない。
全くあきらめた様子もなく、ウインクしながらにこやかに話しかけてくる。
オーラン達は紳士そうな態度こそ崩さないが、目と口元がいやらしく笑い僕の体を舐め回すように見ている。
背中がぞわぞわして気持ち悪いったらない。
こいつ本当に見かけ通りの年なのか?
確か出会った時は10歳位だったはずだが。
怪しい奴め。
早熟にもほどがあるぞ!
まるで中年のいやらしいおっさんが目の前にいるみたいに感じる。
あの年で元々の僕より高い魔力を有していたんだから、おごるのも仕方ない気はするが、もっとこう何とかならなかったなかな。
会議は確か明日からだ。
今日はこいつらも暇に違いない。
「どうだい、ミラーヤ。メーたちのホテルに来ないか?」
もし付いて行けば会議の時まで軟禁されそうだ。
その間に何されるか分かったもんじゃない。
「いえ、遠慮させてもらいます」
「オー」
いかん、こいつらタカが来るまでここにいるかもしれない。
タカ~! 早く帰って来てくれ~!
と、その時ポンッと肩を後ろから叩かれた。
「ひいっ!」
「お待たせやな、聖」
びっくりして変な声が出てしまったが。
そこには美香とガウがいた。
やった! これで逃げられる。
「連れが来たもので。失礼」
「おい、ミラーヤ待ってくれ!」
と叫ぶオーランに対し、僕は振り向きもせず、その場を足早に去るのだった。
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