0141.聖と一緒に
さあ、とうとう待望の冬休み。ギリシャへの旅立ちの日である。
まあ、一度行けば転移による往復も問題ないので、旅券を忘れないようにする以外は特別な用意はない。
何も持ってないのは不審かもしれないので、リュックに多少の着替えを入れてある。
いや、あった。
俺はこの日の為に翻訳用の腕輪を開発していた。
相手のイメージを読み取り言語として組み立てる機能を持たせたので、相手が何語で話しかけて来ても分かるようになっている。
念話を応用したガイダンスによりつたないながらこちらからも話すことも出来るはずだ。
よしこれを皆に配っておこう。
会話が出来るだけで様々なトラブルを回避できるはず。
まだ字は読めないし、相手の魔力が大きすぎると機能しないが、地球でなら大丈夫だろう。
魔力防壁を突破出来ないのでキセラみたいな奴には使えない。
そうそう、キセラはあれから問題なくダンジョンにて一人で魔物狩りを続けている。
第一階層から第四階層へのドアを作ったのが特によかったのかもしれない。
「強くなってル! 強くなっているゾ~!」
と叫びながら魔物と戦い、非常に機嫌よさそうだった。
角を隠すとか、肌の色を変えるとかは魔道具で出来ても、顔の造形を変える魔道具まで作りきれなかったので日本の街に出たりは一度もしていない。
だが不満は全くなさそうだ。
「じゃあ、タカ行こうか。二人っきりで、むふ」
「ポキもいるビャ」
「わたくしもいますわよ」
聖は二人の話などまともに聞いてはいない。
最近、聖は俺への好意を隠さなくなってきた。
まあ、俺としてはとてもうれしい。
すでに巨大ハーレムがある以上、何人でも掛かって来いなのだ。
もうとっくに恋人と二人で甘い生活など諦めたのさ。
1対多。
問題が発生せず可能なら、全男性の夢と言っても過言ではないかもしれないんだ。
なのに不安だけが募るのはなぜなんだろう? 不思議だ。
「タカどこへ行くのかよく分からないけど、遠くなのね。気を付けてね」
そうだな、異界の人であるミルスにはギリシャと言っても分からないよね。
「ほたらな、タカ。迎えを待っとるからな」
「お兄ちゃん気をつけてね」
「ああ、行ってくるよ」
と言う訳で4人で空港へと急いだ。
といってケイとガウは飛んで行くのでまるで別行動の様な物だったが。
なので、空港に行くまでの間、聖がまるで恋人のように寄り添い腕を絡ませ甘えてくる。
あっ胸が当たってるって。
俺がいつも抑え込んでいる欲望が心の奥でずっと暴れ、それを抑えるため俺は素数を数え、同時に円周率を1000桁くらいまで何度も思い出し続ける。
俺にはもう恥ずかしいとか考える余裕もなかった。
「ちょっとタカいいかな? こっちに来て。それを何とかしよう。流石に恥ずかしい」
いったい何かな?
俺は円周率を思い出すので忙しいんだが。
聖の顔はなぜかほんのりと赤い。
「いいからこっちのレンタルスペースへ」
淫欲に支配されそうで余裕のない俺はあまり考えずに聖に引っ張られれるままに付いて行った。
「わっ! 凶悪な形だわこれ。エロ妖怪に勝るとも劣らないわよ。もうタカったらこんなにしちゃって。そんなに僕に感じた? いや別に嬉しくなんて無いんだからね。(普段きもいだけのこれもタカだと思うとなぜか愛おしいな)教えては貰ってはいるけど経験ないんだ下手くそだったらごめんね。タカ以外にこんな事しないんだからね。感謝してよ。あむっ」
気がつくといつの間にか飛行機の搭乗手続きを終えシートに座っていた。
あれっこのシートやたら広くてシートごとにモニターがあるぞ?
「これが噂のファーストクラス?」
「タカ何聞いてたの! ビジネスクラスよ! 18時間はかかるからゆっくりしてね。あっそうそう、モスクワで乗り継ぎが有るのよ。これも聞いてなかったでしょ」
聖が席の仕切りの上に顔を覗かせクスクスと笑った。
「あっああ、ありがとう」
うへっ恥ずかしい無知をさらしちゃったよ。
でもスゲーな。
たしか、大分高いんだよなビジネスでも。
こんなの乗る機会なんか無いから知らなくても当たり前だよね?
まあ、前に乗った飛竜便の個室ほどじゃ無いね。(震え声)あれっていったい、如何ほどしたのか想像もしたくない。
窓の外を見ると後ろに翼が見える。
翼の上にはケイとガウの姿が見えこちらに手を振っていた。
そして一路飛行機は、ロシアに向かって飛び立った。
ケイもガウも苦も無くジェット旅客機と並走する。
二人には高空の低圧低温など関係ない。
まてよ、そうだな。俺だって別に飛んで行っても問題は無い(法律上は有る)のだな。
次からはそうしよう。
今は、きっとその方が速い。
別に眠くもならないので映画鑑賞をしながら過ごした。
ご飯も豪華で美味しい。
何事もなくロシアのシェレメーチエヴォ国際空港に到着し乗り換えようとラウンジで待っていると、魔力を持つ人たちの集団が近寄って来る。
その中の変に澄ました若い男性がさらに近寄って来た。
「おおっ、そこに見えるは、今や世界一の魔力を誇る東洋の降魔師、瑪瑙家の聖さんじゃないか。愛しているよ。このメーのプロポーズは受ける気になったのかい」
中々流ちょうな日本語で話しかけてきた。
なに、プロポーズだとー!
見ると、小太りな金髪野郎だ、かなり若そうだな、小学生?
聖は困惑しながら「誰だっけ?」と返す。
知らないのかよ、おい。
「はっはっはお茶目が過ぎるよ聖さん。ロシアが誇る降魔家、パドリーシュ家の次期頭首オーランだ。思い出したかい、ミラーヤ」
「えっと、パドリーシュ家はわかるけど~」
「2年前にイギリスで逢った時にプロポーズしたじゃないか。ミラーヤ」
「あっ、そう言えばそんな変なガキが居た」
「変なガキとはお言葉だねー聖さん。まあいい、今度は覚えておいてくれ。未来の旦那なのだから、結婚しよう聖さん」
「いやです。ごめんなさい」
「おー、にべもない。でもメーは諦めませんよ」
「諦めて僕にはこのタカが居るんだ」
と俺の手を引っ張りオーランの前に立たせた。
「んー、何だこいつは? 魔力のかけらもないじゃないか~。こんな無能とミラーヤはつきあってはいけないよ」
「ねえ、タカ。魔力見せてやって」
「え~」
見せると言ってもな~。
加減が難しいよ?
あんまり強いと正体ばれるし~。
『こいつ殺してもいいビャ?』
『そうね、殺しましょう』
『いや待て、殺すんじゃないガウ、ケイ』
『……』
危ないな。
分かったよ何とかしてみよう。
要はこいつより強ければいいんだよね。
少しずつ結界を解くんだ。
ほんの少しでいい。
どのくらい解けばいいのかさっぱり分からないが、すこーし解いてみた。
「わあっ! なんだこいつ突然魔力が? ばっ化け物か? っく、今日はこれぐらいにしておいてやらあ。いくぞ」
「へい」
魔力を持った数人がオーランと一緒に少し離れた席に戻っていった。
「やっぱりタカは魔力調整がうまいな。あいつの丁度倍くらいだったぞ」
いや、少しだけ上を狙ったんだが失敗だったようだ。
「あいつもそのデビルアタックフォースなんたらに出るのか?」
「多分そうだと思う」
「はあっ、面倒ごとにならなきゃいいが」
ロシア語はエセです。真に受けないでね。調べてもよく分からなかった(´・ω・`)
次回更新は水曜日になります、よろしくお願いいたします。
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