閑話 キセラ2
「あら! あんな所に可愛い赤ちゃんが」
「どれどれ、本当だ! あんな所に放っておいては死んでしまうね。人種は弱いから。ふむ、龍魔人の女の子だな」
「ねえ、あなた、可愛そうよ。龍魔人なら育てられるんじゃない?」
「そうだな、基人族や、魔人族ではあそこで生きるのは難しいが。ふむ、少し前に子供が巣立ったことだし、育ててみるか?」
夫婦が暮らす、臥竜山脈の頂上付近は気温も低く空気も薄い。
「はい、あなたありがとう」
「よせよ照れるじゃないか」
高位龍の夫婦は臥龍山脈頂上付近に良さそうな洞窟を見つけそこで育てることにした。
二人の高位龍には名前が無い。
それは魔力の差で個体認識が簡単に出来るからだ。
臥龍山脈にほど近い田舎町の片隅にソレガシは捨てられていタ。
後で色々知って思ったのだガ。
あの辺りに龍魔人はいなイ。
しかし、人種には突然、他の人種が生まれることが有るらしイ。
運命のいたずらにもほどがあるだろウ。
勘弁してほしい物だナ。
基人族が中心の小さい町ダ。
爬虫類の顔と黒い羽を持っているたメ、悪魔の子にも見えるソレガシは気味悪がられて捨てられたのであろウ。
ソレガシを拾ったのは臥竜山脈頂上付近に幾頭か住む高位ドラゴンの中の二頭。
人に化けて町で入用な物を買い出している夫婦だっタ。
高位ドラゴンは生え変わったおのれの鱗を売れバ、いくらでも儲ける事が出来るのデ、実はお金持ちダ。
そしてとんでもなく強イ。
そのせいで人種に畏れられているのダ。
おかげでドラゴン達は人種を避けて暮らしていル。
まあ、昔は人化も出来ず言葉もわからなかったらしいのデ、人種は他のエサと変わらなかったらしいのだがナ。
長い時の間に人種は知的生物だと解り、中位の一部から高位以上の知恵あるドラゴンは人種の言葉と人化を覚え人種を食べるのを止めたそうダ。
だが、人化には身体的にも魔力的にもかなり無理があり殊の外窮屈らしイ。
長時間の人化は無理なので夫婦は交代で人化しソレガシを育ててくれタ。
物心の付いた頃のソレガシハ、龍魔人に人化する両親を見テ、自分も育てばドラゴンの姿になることが出来ると思っていタ。
「父ちゃん、わたシ、父ちゃんみたいに大きく強くなりたイ」
両親はかなり困惑していたようダ。
しかし、ソレガシが強い方がいいと判断したらしク、次の日から動けなくした魔物を捕まえて来てはソレガシに止めを刺させタ。
最初は怖かったガ、魔物の止めを刺すたびに強くなっていることが実感でき次第に楽しくなっていっタ。
そして七歳になる頃には今とあまり変わらない強さまでになっタ。
その辺りの魔物を倒してもさほど変わらない事に気づキ。
自分が両親と違う龍魔人である事にも気づキ。
その度に絶望したことを今でもはっきり思い出せル。
その頃から両親は人の生活をソレガシに教える為、町のドワーフ族の戦士夫婦、ローとイラにソレガシを預ける事が多くなっタ。
元勇者の二人はソレガシの強さにびっくりシ、剣の使い方ヲ、戦いヲ、人の生活を優しく教えてくれタ。
ソレガシに名前が無いと不便であろうト、イラがソレガシにキセラと名前を付けタ。
「ドワーフに古くから伝わる言葉で"最強娘"という意味なのよ」
イラはソレガシに名づけの理由を教えてくれタ。
ソレガシハ、この名前を甚く気に入っていル。
二人にやさしく接してもらいドラゴンでない悲しみを吹っ切る事が出来タ。
ソレガシがソレガシ言うのはその戦士ローに習ってであル。
10歳になるころには冒険者ギルドに所属シし活躍しタ。
天才だと騒がレ、あれよあれよと言ううちにS級冒険者へと上り詰めタ。
慢心していたのかもしれヌ。
ソレガシが少し遠くの仕事に出向いている間にホームにしていたその町は魔獣に落ちたドラゴンこと邪魔龍に襲われタ。
その日、高位ドラゴンの夫妻は町に来ていた。
おどろおどろしい姿の邪魔龍がもうどうにもならない程町に近づいてからやっと夫妻は気づいた。
“ギャ――ス”
ドラゴンの鳴き声が町に轟く。
「なんと、おどろおどろしくて禍々しいドラゴンだ。こんなに接近されるまで気づかないとは我々も平和ボケしていたな」
「この町はあの娘がいつくしむ町。あなた、守りましょう」
「ああ、我々二頭で戦えば勝てるさ。それ程までには強さは変わらない」
そうして、町の外で、大型トラック5台分は有ろうかと言う巨大なドラゴン同士の壮絶な空中戦を含めた戦いが始まった。
町民の中でも戦える者達が町の外周あたりに集まり始める。
「おおっ、あれを見ろ、二頭のドラゴンが、町を邪魔龍から守てくれているぞ」
巨大なドラゴンが三頭も戦う姿は街中からもよく見えた。
「がんばれー」
「たのむぞー、我々ではどうにもできん」
そう人種で勝てるのは亜種のワイバーンくらいまでで、龍種には下位種にすらほぼ勝てない。
ましてや今戦っているのは高位ドラゴンだ。
人はその前にはすべてを諦め立ち尽くすのみしか許されない。
隠れてもドラゴンの強力な魔力による探知からは隠れる事は出来ない。
逃げる事も不可能だ。(転移を除いて)
人が走って逃げれる範囲など高位ドラゴンにとってはブレス一吹きのなんでもない距離なのだから。
生きる者すべてに憎悪を燃やす邪魔龍は見逃してなんかくれないのだ。
そんな恐怖がこの世界の人類には長い期間を掛け本能に刻み込まれている。
初めは二頭で翻弄する事によって比較的有利に戦っていた。
しかし、気づくのが遅すぎたのだ。
町が近すぎたのだ。
そして、それが防げないほどには個体としての力の差があった。
“ガアアーーーー!”
夫婦ドラゴンの動きに翻弄される事無く邪魔龍のブレスが町に向けて放たれる。
高位ドラゴンはブレスを避けることなく自らのブレスで相殺するしかない。
町をかばっていることを邪魔龍に気づかれてからは一方的だった。
邪魔龍はとにかく町を攻撃すればよかったのだ。
すると、高位ドラゴンは避けられない。
”こいつ邪魔龍のくせに頭が働く”
”あなた、危ない!”
“グギャアーーー!”
ブレスを相殺しそこね、夫ドラゴンがブレスの直撃を食らう。
“アグガアア~~~!”
夫をかばい間に入った妻ドラゴンは邪魔龍に噛みつかれ大きく傷つき、二頭の動きに精彩が無くなった。
町から遠ければ多少大きな傷を負っても二頭なら勝てたかも知れなかった。
だが、町に押し込まれ、身動きが出来なくなり、邪魔龍のブレスを何度も食らい瀕死になった末に倒され、邪魔龍に食われ始めた。
「この野郎、町を守ろうとしてくれたドラゴンになんて事しやがる! くそーみんな総攻撃だ! イラよ行くぞ」
「おーよ、ロー! うちに任しときー。邪魔龍がなんぼのもんじゃーい!」
「勇者ローが行くぞ! 皆続けー!」
「おーよ! それがしに続け!」
彼らは本能の底かあらあふれる恐怖に打ち勝ち反撃に出た。
しかし、邪魔龍もかなりの傷を負っていたが、町にいる者達では、人種ではどんなに頑張っても邪魔龍にかすり傷すら負わせられなかった。
いや、主力級の勇者がいたなら少しは傷を負わせられたのかもしれない。
だが、多少の傷一つだ。
それ以上は無理なのだ。
それほどまでにドラゴンの防御力は高い。
周りからの攻撃など意に介しもせず邪魔龍は、夫婦ドラゴンの遺体をある程度食うと町のすべてをブレスで焼き払う。
元勇者でもドラゴンのブレスで、魔法障壁ごと声を上げる間もなく一瞬のうちに蒸発していく。
邪魔龍の存在が分かった時点からすぐ開始したの一般人の避難も間に合わず殲滅されていく。
何もなくなった町で、邪魔龍はある程度満足したのか。
“ギャオ―――”
と一鳴きし、飛び去った。
両親モ、ドワーフ族の戦士夫妻モ、町を守るために戦い死んダ。
ソレガシが駆け付けた時には町は灰になリ、人は誰も残っておらズ、食い散らかされた高位ドラゴンの死体が二体残されていタ。
ソレガシは両親の亡骸に縋り付き泣いタ。
そしテ、遥か彼方にゆっくりと飛び去って行く傷ついた邪魔龍が探知出来タ。
仇をすぐにでも討ちたかっタ。
だが、ソレガシでは全く勝負にならないことも探知で解ル。
その時町にいれバ、ソレガシも間違いなく皆と一緒に死んでいタ。
悔しかっタ。
辛かっタ。
天才だと持ち上げられていい気になっていた自分がひどく馬鹿に見えタ。
挫けそうにもなっタ。
だがソレガシは復讐の道を選ビ、強くなるためにその方法を探しテ、当てのない修行の旅を続けタ。
ゲレナンドの首都でモ、セント・ブレイブでモ、あちこちの国を渡り歩き噂を聞き歩いたガ、強くなる手掛かりは無イ。
人種最強の蒼天の剣を遠目に見て探知し自分とそれほど変わらない事が分かった時、ソレガシは絶望しかけタ。
デモ、それでもと探し続ケ、もしかしたらの思いに一縷の望みをかけ今回のゲレナンドの武闘大会への参加を決めたのダ。
そこで邪魔龍にも勝るとも劣らない魔力を持つタカに出会っタ。
ソレガシは今まで信じたこともない神に感謝をささゲ、必ずタカの弟子になる事を心に決めタ。
ソウ、強くなれるならソレガシはすべてを奉げてもかまわなイ。
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