0138.キセラ
俺は異界の洞窟に作ってある部屋にキセラを案内すると、そこから探索ベースに接続されているドアをくぐっていく。
すると、その向こうに見える居間で妹たちがまったりしていた。
「と言う訳で弟子になった龍魔人族のキセラだ。皆仲良くしてくれ。キセラ自己紹介を頼む」
俺が皆に説明をしている間キセラはケイと話をしていた。
「ソレガシは、キセラ、ダ。よろしク。ふむ、ここには魔力がほとんど感じられヌ。異界カ?」
「そうや、ここは異界やで。うちは美香よろしくやで」
と皆鳥人族を見た後なので、誰も驚くこともなく、次々に挨拶を済ませた。
いや、俺はさすがにこの容姿には驚くんじゃないかと思っていたが。
皆、異世界に凄く順応していたようだ。
初めに俺はキセラの顔をカエルと言ったが、よく見れば結構びしっとした爬虫類の怖い系の顔だったのに。
まあ、最近は俺もいろいろと慣れたのか、ある程度平気なんだけどね。
キセラの性格は一本筋が通った感じでさばさばしていて好感が持てる。
しかし、顔は完全に違う生物感が強すぎるので流石に女性としての美しさを感じたりするなどの意識するなどは無い。
こうしてみると異形の他種族との恋愛はかなり敷居が高いように感じるな。
どう取り繕って見ても恋愛に姿かたちは重要なのだ。
だが、実戦で鍛え上げられ寸分の無駄もない引き締まった体は、何故かすこぶるセクシーなので俺の奥底からまたぞろ性欲が沸いてくる。
セクシーな体ならいつでも誰にでも発情するのか俺は? 余りにも節操がない。
どうにか抑えられない物だろうか。
俺の体は高揚しているが、逆に気分は落ち込んでくる。
「ソレガシに何カ?」
しまった、キセラの体をじっと見つめてしまった。
「発情したのなラ、すまないガ、今は待ってほしイ」
うわっなんかばれてる。
何でもかんでも欲情する深部の俺、勘弁してほしい。
発情とか恥ずかしすぎるだろ。
「いやなんでもない。鍛えに行くかい?」
「異存などあろうはずもなシ。師匠よろしく頼ム」
「いや、俺は師匠と呼ばれるほどの腕は無いので友達として付き合わないか? そして、タカと呼んでくれ」
「了解しタ。タカ、よろしク」
どうやら、その辺の事は解っているみたいで、弟子になりたいは言葉の綾だったのだろう。
「じゃあ、皆行こう。キセラも付いて来てくれ」
ダンジョンへの扉を一緒に潜っていった。
「ここハ、先ほどとは全く違うナ。魔力が溢れていル。ここハ、オーバス(異界の名称、地球の様な意味合い)でも無いナ。魔力濃度が違いすぎル」
「ここは、俺が見つけたダンジョンさ」
「何だト、ダンジョンだト。フム、理解しタ。ここの事は絶対漏らさなイ。誓おウ。だが、ダンジョンではソレガシ程の強さ以上になりにくいと、知り合いの主力から聞き及んでいたガ、タカはどのようにしてそこまでの強さを得タ?」
「シンディさん曰く得られる魔力が勇者協会のダンジョンよりかなり多いとの事だよ。それと、種族進化したらしいのも強さの理由らしい」
「なんと進化だト? 人種の進化は超人族が昔したとの言い伝えのみ聞き及ぶ。だがただの絵空事だと思っていたゾ」
「そうだな~、進化は体への負担が大きすぎるからなあ。少々じゃ出来ないと思う。たぶん俺が進化して無事なのは、強い再生能力を待っているからなんだよ」
そう言って、手に剣で傷をつけてみせる。
「いつっ」
切り傷が中から身が浮いてくるように治るさまを見て。
「ホウ、まるでオークのようだなオヌシ」
うっ!
あれと一緒なのか?
確かに言われてみるとそうであった。
考えてみればやたら欲情するのもオークのように感じるよ。
実は俺、吸血鬼? じゃなくてオークだったりして?
いやいや、さすがにそれは無いと思いたい。
「再生力が有る人虎では再生力が足らずに、死にかけるほど進化は危険なんだ」
「なるほド、でその人虎はナゼ助かっタ?」
「それは、その、俺が再生魔法で治療したからなんだけど、そのせいで眷属になってしまって」
「それは、アンの事だニャ」
「ほう、アンお主も存外に強いナ。確かにただの人虎ではないナ。眷属なのか?」
「そうニャ、アンは兄ちゃんの眷属ニャ」
「ふむ、では進化するためには、眷属になることも視野に入れる事としよウ」
えっそれが視野に入っちゃうの?
「アンは魂が崩壊し始めて本当に死の一歩手前まで行ってたニャ」
「それでもダ」
どうやら何としても強くなりたいようだな。
「なぜそこまで強くなりたいのか聞いても?」
「よかろウ。タカには聞く権利も有るだろウ」
キセラは話し始める。
「ソレガシは、臥龍山脈にほど近い村に捨てられていたらしイ。それを、ドラゴンであった両親に拾われたのダ」
あっ、かなりシビアな話になりそうだ。
「おっと、話はあとにしテ、まずは鍛えたイ」
シビアな話に向け気持ちの準備をしていたので拍子抜けしてしまった。
「ムウ、その顔はどうしても聞きたそうだナ。フウ、仕方なイ。魔獣になった高位ドラゴンに両親の高位ドラゴンが殺されたのデ。仇が討てる強さになりたい。それだけダ」
これは後から聞いたのだが。
人魔や魔獣に堕ちると、理性や、やさしさなどを失う代わりに、1.5倍から種族によっては10倍の魔力を得るらしい。
まあ、強くなってるなとは思っていたが。
そこから進化する(または堕ちる)と、その10倍とかになるらしいのだ。
高位のドラゴンは安定しているので堕ちることなどめったにないが、中にはいるらしい。
だから一般人が堕ちて人魔になってもさほど強くはならないが、勇者が堕ちるととんでもなく強くなると言う事だ。
だから闘技会で殺されかけたんだな。
「あの、魔獣めガ。あれを討てるならこの身の全てを捧げよウ」
大雑把な話だが辛かった事が分かる。
「伝説によると人も獣も堕ちることなく進化出来れば一度の進化で100倍とかそれ以上になれるらしい、ヌシのようにな」
なるほどオークキングは猪から3段堕ちの段階だったんだな、猪から猪の魔獣、オーク、オークキングとな、強かった訳だ。
それと高位ドラゴンは人化の魔法も使えて、普通に街中を歩いている場合もあるらしい。
「蒼天の剣はこの先の第四層で鍛えていたよ」
「ありがたい、ソレガシも頑張るとしよウ」
だが、キセラは吹雪舞う第四層に入ってすぐに戻って来た。
「なんだ、あの気温ハ! 一瞬で凍え死ぬかと思っタ」
体中が凍り付いてガチガチ震えながら。
ああ、キセラ、龍魔人は状態異常に強いのかと思っちゃってた。
装備が通常装備だし。
夕食の味付けにキセラが感激する一連の流れと第三層でのキセラの戦いに付き合いその日は終わった。
キセラもブーツには状態異常対策がされた物を履いていた。でないと第三層でも戦えないよね。
ちなみに両親も諦めたのか、慣れたのか。
「よろしく」
程度のあいさつで終わっている。
まあその内色々話して打ち解けるだろう。
次の日の早朝
「ソレガシの馴染みの装備屋に行ってくル」
「お金は?」
「ソレガシこれでもS級冒険者ダ、蓄えは有ル。なに、転位を繰り返せばすぐにつク」
「この外は、ボード王国かセント・ブレイブ公国だ」
「田舎だがボード王国の方が近いナ」
と装備を買いに出かけていった。
「あっ、もしお店がゲレナンド王国なら送ってあげればよかったかな?」
いや、行けても帰ってこられないか、それじゃあ。
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