0135.大会二日目
翌朝、俺は目覚めが悪かった。
吸血鬼? になって初めての様な気がする。
轟雷の魔法を食らったのがまだ響いているのか?
それとも、いつの間にか味方に潜んでいる探知でも簡単に分からない敵が怖いのか?
ガウまで巻き込んで、周りを巻き込んで自滅するのが、消えるのは怖い?
夢では見知らぬ女の人が悲しそうにこちらを見ていた。
あれは、誰だったのであろうか?
騎士団長を死にまで追い込んだ俺を責めているようにも感じた。
だが、どうしろと言うのだろうか?
俺も消えかけたのだから。
そうか俺は慢心していたんだな。
そう、どうしても救えない存在が有るのは分かっていた事じゃないか。
その実、ただただ、死ぬのが怖い小心者だったのだろう。
なら、目立たなくもっと平凡に生きていくか?
いや、俺は……どうも、目立ちたがり屋の性分は変わりそうもない。
これからもこの言い知れぬ恐怖と闘っていくのだろう。
「タカ様、おはようございます」
いつもの様にケイが起こしに来る。
「お兄ちゃん、おはよう。今日もハムの国に行くの?」
「ああ、約束だしな」
「ガウに聞いたわよ。死にかけたんですって」
「ああ」
「ねえ、当分ダンジョン以外の異世界に行くのは止めにしない? どう考えても組織的にお兄ちゃんを狙ってるような気がしてならないの」
そうかも知れない。
指令系統はバラバラかも知れないが”俺を殺す”その一点が貫かれているような気もする。
特に今回の件は脈絡がない。
何故だか全く分からない。
なにかが裏で糸を引いていたりするのだろうか?
それとも俺達が疑心暗鬼なだけで、実は全くの偶然なのだろうか?
いや偶然にしても騎士団長に殺される理由が見当たらない。
しいて言えば俺が有名なのが気に入らないとかかな?
でもそんな事で自爆覚悟で俺を襲うだろうか?
人魔である事がバレる危険まで冒して。
最良でも現在の立場を捨てる事になるのに。
さっぱり解らない。
「そうだな、今回の大会以降は控えるとするか」
だが、それで済めばいいが、いやな予感ばかりする。
「タカ、よく来てくれたな。もう来ないかもと思っていたよ」
「やあ、ハムおはよう。そんなはずは無いだろう。俺は約束は、まあ、守る方なんだ。ハハハ」
「昨日は本当にありがとう。おかげで王宮に潜む人魔を6人も見つける事が出来たのじゃ。いずれも重要な部署だ。すべて抑えられていたら我が国はおしまいだった。なんと言って礼をしたらいいかわからないぞ」
そこまで張り巡らせた、企みが全てバレる危険を冒してまでの俺の殺害未遂。
本当に何だったんだ。
「王宮内の掃除は終わり、各国に警告を出したところじゃ。勇者協会内でも調査が疾風のように行われ幾人か見つかったらしいぞ」
「それは良かった」
シンディたちも頑張っているんだな。
「あの、魔道具に対する対策は完璧じゃ。警備も倍に増やしてある。安心して観戦していってくれ」
「ハム、大丈夫か? 寝て無いんじゃないのか?」
「何を言う。吾輩はまだまだ若いぞ、一週間は寝ずに仕事ができるんじゃ」
「わかったわかったってそんなに必死でアピールするな。ハムは若いよ」
こっちの人間は魔力がある分タフだなあ。
「ふむ、分かればよろしい。じゃが、気を付けよ。タカを狙った目的はまだ全く分かって無いのじゃからな」
「分かったよ。ありがとう」
「吾輩はまだ仕事がある故。また夕刻な」
ハムはそう言って貴賓席から出ていくと入れ代わりに、また、王妃と姫が入ってきた。
「今日も、タカ様、一緒に観覧いたしましょう。あら、今日はガウ様はおられないんですのねえ」
「そうなんですよ今日は一人なんですよ」
実は今日ケイもガウも気配を消してついてきている。
何でもいろいろ探るそうだ。
ケイは探知能力に特化していて俺を上回るほどだ。
何か見つけれるかもしれない。
L.T会の予定は一日ずらしたそうだ。
アンも来たがったが、ケイにニノの監視をまだするように言われ諦めていた。
「でも何かあったら必ず呼ぶニャ」
「分かったわ、でもね、こちらにも眷属が一人はいた方がいいのよ。今回の事は油断よ。もうこれ以上、隙は見せられないわ。これからわたくし達は本来の探知されにくい気配で出来るだけ動く」
「それは、分からないでもないニャ」
と、そんなやり取りがあった。
この前やられたときもそうだが段々と緊張感が増していってる。
だが、余り張りつめてもよくない気もする。
難しいな。
今日はモーラ姫もモリー王妃も普通に席に座り歓談しながら試合を見る事が出来た。
『あれビャ、普通に押して落ちなかったんで長期戦のつもりビャ』
ガウいたのか。
『二人の内どちらかが大体いるビャ』
そうなんだ?
よく調べると後ろにいた。
かなりしっかり探知しないとその存在が分からない程に気配が消えている。
まあ、俺の眷属なので繋がりをたどればどこに居るのかはだいたい調べれるのだが。
ガウは進化してから透明化と壁抜けも覚えたのでどこにでも自由自在だ。
『上位悪魔でもこんな能力持ってないビャ』
と嬉しそうだったのを覚えている。
つまり、ケイとガウに秘密を作ること自体が非常に難しい。
味方でよかった。
「さあ、この大会も残すところあと二戦。決勝とエキシビジョンマッチのみとなりました。決勝は順当に勝ちぬいてきました前年度優勝のチュン氏と今大会ダークホース勇者協会所属履歴の無い龍魔人のキセラ氏に決まりました。解説のアダさん決勝はどんな風になるでしょうか?」
「そうですね、私にはもう二人の実力は測れません。二人とも二次戦力を逸脱していますね。非常に楽しみな一戦です」
「そうですね元主力は、ほぼ各国の機密重要戦力なので普通は大会には出ません。つまり一般で見られる最高の試合がこれから始まろうとしています」
「まあ、次回は見られませんね。二人とも勝っても負けても、どこかの国に仕官するでしょうから。それ程の戦いです」
「さあその世紀の戦いの火ぶたが今切られます」
次回更新は月曜日になります、よろしくお願いいたします。
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