0134.闘技会は続く
「それでは、闘技会を再開する」
ハムは高らかに宣言した。
へえ、色々あったのに中止じゃないんだな。
「タカはこのまま、貴賓席で大会を見ていってくれ。吾輩はこの腕輪を調査する。それと、マーロウ。お前には言うことが有るんじゃないか?」
王子は悔しいのか、恥ずかしいのか幾分か顔の色が明るい緑になっていて目をそらしながら言った。
「木戸殿、私の間違いであった。すまなかった。許してほしい」
とソッポ向いた。ツンデレかい?
男がやってもかわいくないぞ。
まあいいか、王子だしな謝った事なんか無いのかもしれないからな。
「分かった謝罪を受けよう」
「マーロウ、ちゃんと謝らんか! タカ、すまない恩に着る。じゃあ、ゆっくり見て行ってくれ。マーロウ行くぞ! お前は説教の後地獄の勉強じゃ」
王子はゴツンと頭を叩かれ二人が貴賓席から出ると、代わりに王妃と姫がやって来て一緒に大会を観戦することになった。
「はい、騎士団長が人魔で木戸氏の命を狙うと言う未曽有の事件の片付けも終わり、やっと再開になりました」
実況がけたたましく会場内に響き渡る。
結局2時間遅れ位で第一試合が始まった。
おお、俺の後ろでごちゃごちゃ言ってた二人だ。
あれって、登場順に並んでいたんだな。
ジンとキセラだっけ。
おーおー二人とも眼飛ばしまくってるな。
「始め」
「死ねー! キセラ!」
まずは、ジンが物騒な雄たけびを上げ飛び出した。
いや、あの剣でいくら切っても殺せないはずでは?
「うるさい奴ダ」
キセラは全くその場から動かずにジンの突進を片手持ちの剣で軽く受け流した。
「ふっ、実力差が全く読めない愚か者ガ」
「なっなんだとう! ちっ」
剣技だけでは通じないと分かったジンが魔法も突きも混ざった複雑な連撃を繰り出す。
「確かにそれなりに技は切れル」
だが、キセラは余裕で躱し。
「しかし、魔力の精密さが足りなイ。その程度の実力だから、木戸氏の実力も分からんのダ。馬鹿メ」
「なんだと、お前には分かったとでも言うのか?」
二人とも話しながらでも全く隙など作らない。
「当たり前ダ! 魔力の重厚さが違ウ。だから、あれほど強いのダ。隠しても隠し切れないナ!」
キセラがシュッと振り上げおろした剣の軌跡が、ジンの体に肩口から股間まで刻まれる。
ブーッ
「試合終了。キせラの勝ち」
「実剣でなくてよかったナ」
少し遅れてジンが恐怖にかられた情けない叫び声をあげる。
「うわああーーー!」
「最後まで騒々しい奴ウ」
「タカ様、凄かったですねえ」
モーラ姫が腕に抱き着きながら言う。
あっ、あの、腕に当たっているんだけど!
「ああそうだな。キセラは強かったな。まるで主力クラスに見えるな」
なんで、抱きついてるんだ姫様は?
腕にぐっと押し付けられた胸が心地よい。
だがここは、武闘大会会場内の貴賓席。
周りにはとんでもない数の観客が居て見えないわけでは無い。
しかし、入れ替え毎の挨拶時間を除けばここは魔法による拡大表示は禁止されているので細かい事までは分からないらしい。
それでも、こんな所では流石の俺の淫欲も盛り上がってはこなかった。
なので俺はその弾力ある気持ちよさを心行くまで楽しむ事が出来るのであった。
思わず顔がにやけてしまう。
「うふふ、仲がいいですわねうふふ」
モリー王妃は柔らかい笑顔だ。
親としては娘のこの行動は気にならないのだろうか?
ガウは何も言わず俺の後ろに立っている。
そう言えば寝る時も休む時もガウは立ちっぱなしだ。
ほぼ座る事も寝転ぶ事もない。
習性なのか何なのか知らないが、よく疲れないな?
「もう、タカ様ったら、こっちを見てくださいな」
「ああ、悪ぃ……」
振り向くと、大きな胸が、胸元の大きく開いたドレスの間から見える胸が目の前に迫っていた。
「タカ様?」
モーラ姫は腕にそのたわわな胸を押し付けながら上目遣いで迫ってくる。
「おほほほ、年寄りはお邪魔ですね。この貴賓席は入れ替え後のタカ様が手を振る10分間以外はまるで見えているような映像を表示する事もできるので、今は外から全く見えませんのよ。おほほほ」
王妃様は、そう言って貴賓席から出ていかれた。
えっええ~! 聞いていたのと違うんですが?
機能自体はどんな来賓がいらっしゃるか分からないので、あれば便利な事は解るが。
これはいったいどういう状況なの?
『タカ殿、もうきっと逃げられないビャ。きっと、陛下も王妃も公認ビャ。この国の姫には継承権は無いビャ、政略結婚とかもなく自由恋愛ビャ。だから安心するビャ。ポキの事は置物とでも思うビャ』
えっええ~ガ、ガウー。
そっそんなー……。
周りから見えていないと分かると淫欲が急に燃え盛ってくる。
「あらまあ! お元気」
えっだめ! 姫様どっどこをおさわりにいいいっ。
「あ~~っ!」
その後大会は順調に進み、俺は何度か観客に向けて手を振った。
見た所キセラの強さは頭一つ抜けており、高確率で明日の対戦はキセラかなと予想できた。
今日の夕食はハムが忙しそうだったのでやんわりと辞退して家に帰った。
なぜか手を振っている時以外の記憶にあいまいになっている部分がある。
なぜだろうか?
「そっかー、シンディさん仕事かー」
と聖はさみしそうだったが、概ねなるほどと言った反応だった。
聖、シンディをリスペクトしているからなあ。
時は少し戻り、ハムは闘技会場から帰って王妃と姫を送り出してすぐ行動を開始した。
「(誰ぞおるか?)」
ハムはマーロウを執務室で魔法をかけて寝かせ呼んだ。
「(陛下お呼びでしょうか?)」
「(ふむ、今来られる者を休みの者も入れて全員呼べ)」
「(御意に)」
しばらく待つと20人程集まった。
「(緊急事態じゃ、全員そこに立って裸になり両手両足を広げ見えやすい体勢でゆっくりぐるっと回れ)」
「(御意に)」
中には女も数人いたが、皆躊躇なく裸になり全身を見やすい姿勢になり回った。
ハムはじっくりと探知しながら観察した。
女達のたわわな胸が揺れ普段は隠されている秘部まですべて見える。
だがハムは全く意に介さないので、そんな所にはまるで興味がないかのようだ。
「(全員、良し。服を着て座れ)」
「(御意に)」
「(皆この腕輪の魔力の特徴や波動を覚えよ、同じ特徴で波動を持つアクセサリーなり、なんなりを着けている者は人魔である。まずは間諜内にいない事を確かめるのじゃ。もしいれば拘束しろ。反抗するなら殺しても構わん。気を付けて五人以上で行動しろ、相手は人魔だ油断するな。終われば報告にこい。次の指示を出す。腕輪は覚えたか?)」
少し間をおいて。
「(御意に)」
「(すまんが休みは無しじゃ。当分忙しいが許せ。国の危機じゃ。では行け)」
「(御意に)」
皆スッと去っていった。
「ふう、厄介なことになった。これを着けられるとこれの事を知らないと人魔であることが全く分からんとはな。次は近衛だの。まさか騎士団長までが人魔とはの。油断じゃったのかの。だが、今回分かってよかった。これもタカのおかげじゃな。体を張って国まで救ってもらってはの。簡単には借りを返せぬな」
魔法で昏倒しているマーロウに見向きもせず近衛の資料を出し、ちりんっと呼び鈴を鳴らすハムだった。
次回更新は金曜日になります、よろしくお願いいたします。
「ブックマーク」「感想」もいただけると本当にうれしいです。