0133.騎士団長との闘い
今、闘技会の試合が始まろうとしている。
俺も騎士団長のジョグさんも剣を構えてにらみ合う。
いろいろ隠蔽しているようで魔力の詳細は分からないが強そうだ。
「始め」
「き、やーーっ!」
気合の入った声とともに、猛然と切りかかってくる。
そうそう、今使っている剣の事なんだが開会式の後に剣を配布されたのだ。
この剣は今大会からから新たに使用され始めたらしい。
刀身部が魔法による疑似体で剣同士又はパンチや魔法などの攻撃なら反発し跳ね返すが、実体が無いので体等はすり抜け斬った後に赤い線が浮かび上がる物だった。
ただの木剣から安全なハイテク剣に変更されていたのだ。
いったいあの手加減の練習とは何だったのか?
まあ、役立つこともあるだろう。
魔法は広域魔法は禁止で、単発の魔法を使うが。
これも疑似的な魔法を当てる事で、当たった場所の色が変わる安全なシステムだった。
剣戟、魔法ともに予想される傷の深さで色の変わり具合で判定され勝敗が決す。
これ剣の威力とか魔法の威力あんまり関係ないよね!
ほぼ剣技と体裁きだけの戦いだよね!
パワーはあまり関係ないこのテクニカルな勝負で俺勝てるのかな?
ジョグの渾身の一撃が振り下ろされる。
カシューーン!
俺は剣で軽く受け流す。
「うぬう! うおおお」
ジョグは怒涛の連続切りを見せるが、俺には一太刀としてかすりもしない。
主力と言ってもシンディさんより大分弱いな。
俺は難なくすべてバックステップで左右に剣戟を避けながら思った。
遅い!
第五層に居た炎の獅子の魔物より少しだけ強い位だ。
第五層の魔物などすでに俺の敵ではない。
まあ、数倒せばまだ眠くはなるがな。
だが、何かジョグの使う剣がおかしいな?
俺と同じものとは思えない。
ガキイン!
ジョグの剣が床に当たり跳ね返る。
俺はうまく奴の剣の軌道を変え、床を叩かせたのだ。
あっ! これ物ホンの剣だ!
当たれば切られる。
俺を殺しにかかっているな。
切られても死なんけど。
しかし何で俺が狙われるんだ?
さっぱりわからんだろ。
「くっ、(遠雷)」
おっと、至近距離からの遠雷って。
何とか避けたが、床と壁に黒く溶けた焼け跡が残る。
ひええっ! すでに手段を択ばないようだ。
「おっとー! 騎士団長のジョグ氏。禁止魔法である殺傷力のある魔法を繰り出したー! これはいったい!」
「あれは、遠雷ですね。勇者の必殺魔法です。あんなものが当たったらただじゃ済みませんよ。それにしてもあの近距離からの遠雷よく避けましたね。木戸氏は凄いですよ」
「くっ、あれを避けられるとは」
試合だと思ってたから探知使わなかったけど使って調べてやる。
おおっ! こいつ外面は良いが中身は最悪だな。
どうも左手にはめている腕輪でばれないようにしてるな。
ジョグの脳内は残虐に弱い者を殺したり犯したりしたいと言う欲望にまみれていた。
「せいっ!」
俺は手刀で左腕を腕輪の上から切り落とす。
「うぎゃあ!」
すると、正体がはっきりと見えた。
人魔だ人魔になってやがる。
腕輪が外れた瞬間から奴の魔力が今まで感じれれていた魔力量よりもっと遥かに大きい事が分かる。
腕輪で抑えていたんだな。
「うわああ! 人魔だ~!」
観客も叫び始めた。
どうやら周りにもはっきりと認識できたようだ。
「えっ? 騎士団長が人魔だって! そんなバカな! 僕は騙されていたのか!」
王子マーロウはがっくりと膝を落とした。
「皆の者あの痴れ者をとらえよ!」
ハムが素早く指示を出す。
「くっまさか、俺達でも気づけないなんて」
「シンディはん行くなましに」
「おう!」
「くっここまでか。死ね。轟雷」
それは、遠雷の上位魔法。
勇者のみに許された一発必中の必殺技。
おのれの魔力のほとんどを消費して放つ。
この轟雷を避ければ後ろの観衆が危ない。
うおう! 魔法障壁最大!
ゴン太で威力も半端ないビームを包む大きさの魔法障壁を張るが、防ぎきれずに直撃を食らい、俺は焼け焦げ意識を失った。
後ろにそらさないように魔法障壁を漏斗の様な形にして轟雷の威力を内側に絞ったから余計威力が上がってしまったのだろう。
「タカ殿ー」
ガウの叫ぶ声が遠くに聞こえる。
シューっという音とともに体が修復されるのが解る。
そして、ガウが俺にかぶさり、その自慢の毛並みがボロボロに焼け焦げていた。
「タカ殿、無茶が過ぎるビャ。体がすべて蒸発したら蘇れる保証なんかないビャ。物理的なダメージと違って、魔法によるダメージは体が無くなれば魂に直接ダメージが入る場合があるビャ」
(そうか、俺は蒸発しかかっていたんだな)
「ポキがやっと間に合ったからよかったビャ。あれは、勇者の最終兵器。上級悪魔でも避ける代物ビャ。あれが有るから人類は持ちこたえているビャ」
(そうか、ガウが体を張って助けてくれたんだね)
「ポキの魔法障壁も長くはもたなかったビャ。なので多少やられたビャ」
ガウもシューっと再生を始めた。
(ありがとうガウ助かったよ)
「ポキはタカ殿の眷属ビャ。守って当たり前ビャ。礼などいらないビャ」
(それでも言いたい。ありがとう。それで、ガウ何で真っ暗なんだ?)
「タカ殿の全身再生を観衆に見せるわけにはいかないビャ。ポキが周りから見えないように障壁を張ってるビャ。見られたら吸血鬼じゃないかと勘ぐるやつが出てくるビャ」
(そこまで考えてくれるのか。ガウ、何か欲し物は無いか?)
「眷属は何も求めないのが普通ビャ。だけどそう言っていただけるなら、一度だけ不敬だビャがお願いがあるビャ。眷属全員をタカ殿に……欲しいビャ。無理を言ったビャすまないビャ」
(ああ、わかった、そうする)
「うっうう」
「どうやらかなり再生出来たビャ」
「ああ、心配かけたなガウ」
「大丈夫ビャ。ああは、言いましたが、タカ殿はタカ殿の思う道を行ってほしいビャ。我々は全力でサポートするビャ。すぐに結界を解くビャ」
スーッと周りが明るくなってきて、様子が分かるようになる。
「タカっ!」
「タカはん!」
シンディとマリーが一番に声を掛けてくる。
近くにいたようだ。
「タカよく生きてるな? 轟雷は真祖ですら滅した記録がある奥の手だぞ? 凄いぞ! まあなんにしても無事でよかった」
「心配かけたようだがもう大丈夫だ。それより奴は?」
「ああ、ジョグは隠し持っていた魔爆玉で自爆して死んでしまったよ。魔力を使いつくしたのでもう逃げられないと悟ったのだろう」
腕輪!
「そうだ奴の腕輪残ってますか!」
「んっ、あの腕輪がどうかしたのか?」
「あの腕輪で奴は正体を隠ぺいしてたんだ」
切り落とした手首は近くに転がっていた。
「なっ、なんなし? 何にも感じなかったなまし!」
「これだな?」
「はいそれです」
マリーが腕輪を精細に探知する。
「これは巧妙に隠された魔道具なし、こんな物が……」
シンディとマリーの顔が青ざめる。
「すぐ、本部に帰るぞマリー! タカ悪いが俺達はこの腕輪の調査に至急はいる。終わればまた休暇を取っていくよ。陛下いいかな? これはもう覚えたので置いて行くからしっかり調査してくれ」
「あい分かった。しっかり調べるとも」
「では、またなしに」
そう言って蒼天の剣は去っていった。
あわただしいな、あの二人は何時も。
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