0131.凄い威力だ
あれから数日掛けて剣の扱い方の基本を教わっていく。
今日は第三層でホブゴブリンを相手に探知を止めて剣をふるっている。
足元はぬかるみで素早く動くのが難しい。
音、息遣い、配置などを総合し相手の動きの予測しながら、ホブゴブリンの棍棒の届く範囲に踏み入る。
ジャーー!
横殴りに振るわれる棍棒を一度剣で頭の上に切り流しながら剣速を落とさず高威力の剣戟をホブゴブリンの首に走らせる。
そのまま片足を軸に回転し剣を円の軌道に乗せ、後ろから棍棒をふるってくるホブゴブリンの胴に叩き込み両断する。
攻防一体の動きを瞬時に頭の中で組み立てトレースしていく。
「ふう、殲滅だな」
「タカ、やるな! もう基本の動き自体は覚えたようだな」
「すごいなましね、こんな短期間でシンディにそこまで言わしめたのは、タカが初めてなし」
いつもは少しけだるそうなマリーさんが眩しい笑顔を俺に向けた。
「そ、そうですか? 照れるなあ」
そんなに持ち上げられると勘違いしてしまいそうだ。
まあ、普通は痛撃を食らえば再起不能になったりしておしまいなので、こんな実戦を利用したきわどい訓練は出来ない。
普通の物理攻撃であればもし食らっても死ぬ事の無い体だから出来る荒訓練だ。
だが、失敗すれば死ぬほど痛い目を見るので体が確実に無駄のない動きを覚えていく。
「後は動きの精度を上げ、寸分たがわず動ける事。そのうえ無意識でも技を使える状態で、臨機応変にその場の状況に応じて変幻自在に変化できれば達人だ」
「まだまだ遠いですね」
「だから達人と言うんだよ。ちなみに俺もまだその域にはたどり着けてはいない」
「あはは、なるほど奥が深いですね」
「何事もそうだ」
「そうですね」
「まずは、手加減を覚えるなしね」
「第二層のゴブリンを消滅させずに気絶させられれば、人を殺すことなく無力化出来るさ」
そうか、第二層か。
「じゃあ、行ってみます。二人はどうしますか?」
「もう、基礎の動きは覚えただろ。あとは、繰り返し鍛えて、正確さを増す事だ。俺達は第四層へ行ってレベルを上げさせてもらうぜ」
「あちしらも、もう寝たりするようなへまはしないなしに、安心して修行してきなし」
「じゃあ第四層まで送りましょう」
「いやいいぜ、自力で行ってみるさ。じゃあな」
「行って来るなし」
そう言って二人は駆けて行った。
やる気満々だねえほんと。
俺も負けてられないな。
さっそく第二層へ行こう。
やってみてわかった。
手加減、これが結構難しい。
今までと剣速が全く違い、ゴブリンなんかちょっと掠るだけで頭がぶっ飛んでいく。
切る必要すらなかった。
ちょっと威力があり過ぎて困る。
だか掠りもしないと流石にほぼダメージが入らない。
どの位掠らせれば死なないのか知り、その上で本当に微妙に気絶させられる所にピンポイントで掠らせる。
ほぼ人型のゴブリンだから狙う場所も変わらないのでいい練習になる。
しかし、これは大変だぞ!
と言った感じで試行錯誤の繰り返しで特訓をやっていたら、あっという間に一週間がたっていた。
最高速での手加減は無理だが、ちょっとは出来る位になってきている。
しかし、まだまだ先は長い。
顔に日が射しこんできて、眩しくて目が覚める。
「ふぁ~あ、さて、今日は闘技大会の日だな」
「タカ様おはようございます。今日はガウをお連れ下さい」
「おはよう! なんか久しぶりだな、ケイ」
「すみません。お傍にいられませんで。ご無沙汰しております。タカ様は悪魔を眷属にしてないと疑われている。とシンディ様に聞きました。ガウを連れていかれれば疑いを晴らしやすいでしょう」
「でもいいのか、L.T会の方が大変なんだろ?」
「今日明日は美香さま妹様に手伝っていただく手はずになっていますのでお気遣いなく連れて行ってください」
「そ、そうか? なら、ガウ行くか」
「はいビャ、タカ殿」
あまり表情の無いガウもどこか嬉しそうだ。
「もちろん、俺達も付いて行くぜ!」
「そうなまし、あの王子が狼狽する所を見るなしに」
「俺達を詐欺師扱いしてくれたからな」
人類最強にケンカ売れる稀有な人物だからね。
どんな反応をするのやら?
ま、楽しみではあるな。
これで、改心して洗脳解ければいいのだが。
悪くなったりしないよね?
でもまあ、言われっぱなしは性に合わないので、きっちり強さを証明してやる。
王宮内に準備されている部屋に転移し、ハムの元に向かう。
「よおっ、タカこの前は失礼したの。うちのガキの為に学校まで休んできてもらって、悪いな」
「いやいいさ、言われっぱなしには出来ないさ」
「おや? そちらに居るのはもしかして、あの時の小悪魔か? ずいぶん格好が違うのだが」
「ああ、ガウは進化したのさ」
「なんと、進化とな! うむ、研究したいの。いやすまない。研究は吾輩の命な物でな。蒼天の剣もよくいらした」
「ああ、お邪魔させてもらうよ」
「その後王子様はどうなし?」
「すっかり他の家族とも仲たがいしてしまっての。調べてはおるんじゃが。敵もさることながら尻尾は掴ませてくれん。困った物じゃの」
ここまで何事もなかったかのように話していた流石のハムも顔が若干曇る。
「御心の内お察しいたします、陛下」
「まあ、よい、王族は狙われてなんぼだからの。それよりもタカ。主の対戦は最初と最後じゃ。じゃがの済まんが空き時間も貴賓席で観覧を願いたい」
「空き時間もってなんで?」
「じつは、一目タカを見たいと、国民が地方からも集まってしまっての、時間で入れ替えするのじゃ。吾輩は国民の願いを出来るだけ叶えたくての。お願いするしだい。なにずっといなくても入れ替え時だけでいいので手でも振ってもらえればOKじゃの」
まあ、途中で学校に戻るわけにもいかないからいいけどね。
俺って人気者だなあ。
でへっ。
「分かりました」
「そう言ってもらえると吾輩も助かる」
「最初と言う事は、対戦相手はもう決まっているんでしょ。どんな方なんです?」
「元勇者協会主力で我が国の騎士団長ジョグだ。新聞にはタカは三次戦力並みだと書かれているので、負けても問題は無いが。今のタカなら負けんだろ? 普通に勝ってもらってかまわんよ」
「えっ、そんな立場の人が負けたらまずいんじゃ?」
「いや、異世界人は、埒外の存在じゃからの。騎士団長が負けてもさほどの問題にはならん」
なるほど。
「そして最後には優勝者との試合じゃ」
「分かりました。好きにやります」
「まあ、タカは俺達が鍛えたし、魔力はとんでもないからな。負けようが無いよな」
「そうなましね」
「はっはっは、吾輩は楽しみに見させてもらうよ」
うっわー、凄い重圧来た。
俺がシンディさんに剣を習ったように、相手の技術で負けるとかもあると思うんですが?
「そうか、元主力がどれほど強いか分からないが。まあ、がんばってみるよ」
俺は虚勢を張って見せた。
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