0007.魅了の効果
俺は自室でフレッドの記憶を見ていたが目が覚めた。
半年近い長さのフレッドの辛い記憶だった。
だが時間は大して経っていない。
過ぎた時間は数十分ほど。
かなりの速度で追体験していたようだ。
まあ、ある程度ダイジェストでもあったようだが。
どうやら俺は勇者と聖巫女と闘うために呼び寄せられたらしいな。
だが超音波カッターとか火魔法とか使えないぞ。
まあアンデッドになっていないので出来ないのかもね。
いやアンデッドになってなくてよかった。
なってたら死、いやアンデッドだから消滅? だな。
消滅させられていたな。
これは俺が出来損ないだから今も生きてる。
出来損ない万歳だ!
食事できないとか最悪だろう。
他の行方不明者は絶望的だな。
もうお昼か、いつになくありがたく母さんが用意してくれていたカップ麺とおにぎりを食べるのだった。
夕日を浴びて酷いやけどにはなるが灰にならないことに感謝してコンビニに向かった。
今日は店長は居なかったが、はす向かいの荒瀬のおばさんは居る。
だがこれはチャンスだと思う。
その機会が訪れたのはコンビニに着いてすぐだった。
就業前に荒瀬のおばさんとバックスペースにて出会ったので、いい機会到来と慌てて魅了を掛けてみた。
荒瀬さんはこちらをじっと見て、ぽんと手を叩き。
「どこかで見た事があると思っていたけど。君は近所の木戸さんちの息子だね」
ぐっ! ばれていなかったのか。
無駄な魅了だったかな?
などと考えていると、荒瀬さんは俺の前に立ちふさがり、俺の手をつかむと胸に俺の手をあてがったのだ。
「なっなにを!」
俺の言葉など聞えない様な感じで。
「あの小さくてかわいかった子がこんなに大きく育って、どう? おばさんの胸きもちいい?」
「えっ、あ」
あまりの事態に気が動転してしまって何も応えられない。
なのに俺の手はいつの間にかゆっくりと胸をもみ始めていた。
すると荒瀬さんの手は俺のパンツの中にいつの間にか侵入し股間を軽く握り擦った。
「あっ、やっやめて!」
「あら可愛い反応」
ふわぁっ!
さっ逆らえない気持ちよすぎるー!
言葉とは裏腹に俺はされるがままに流される。
「ふふ、すごいわ、あなたのここ誰よりも立派よ」
じゅるりと舌舐めずりして荒瀬さんは微笑む。
「すみませーんヘルプお願いですー」
「はーい」
店のレジから声が掛かると、あっという間にいつもの顔の戻った荒瀬さんは急ぎ手洗いしてヘルプに向かった。
あっ危なかった。
危なく荒瀬さんに篭絡されるところだった。
1時間ほど仕事の時間は被ったが、その後はなにもなく終始笑顔で仕事を終えて帰っていった。
「ふう!」
「あっはっは、何ほっとしてんねん。あのおばさん苦手なんか?」
おっおう! びっくりした。
荒瀬さんがどう行動するのかが怖くて、今日の夜勤の相棒に気が回って無かったよ。
「ああ、近所のおばさんでね、ちょっと気まずい事があったもんで」
「あっはっは、若いのに気苦労が多いのう、お主!」
女性にこんな気楽に話しかけられることは無いので緊張するな。
しかし、若いって、麻生さんも女子大生なんだから若いだろうに。
「あはは、そうですかねえ」
こんな明るい感じの女性にもこのままだと無視されるかと思うと気が重くなる。
今話しているのは今日のバイトの相方で女子大生の麻生さん。
すらっとしていてモデル体型。ちょっと男前っぽいきりっとした綺麗系。
関西弁で話すのがチャームポイントだ。
「いらっしゃいませー」
麻生さんは、はきはきとお客様に挨拶をする。
横顔がきりっとしていてかわいいな。
「なにしとるん? ほら、木戸君もちゃんと挨拶せな」
「はい」
「ええ返事やなー」
おっと横顔に見とれていたぜ。
ちゃんと仕事しなければ。
「木戸く~ん、唐揚げの補充お願いしてもええ?」
「はいっ。お任せください」
「そんなに鯱張らんでも、もっと気楽でええんやで」
でも砕けた言葉遣いで優しげで年上の包容力あるお姉さんって感じが素敵だ。
さて今日は魅了の能力テストを予定している。
男相手に魅了テストは、あまりしたくないので麻生さんはちょうどいい。
魅了が俺の好きな子に無視されるという体質に効果があるかもわかるだろう。
きっと効果あるよね?
無視されると仕事にも支障が出るしね。
仕方ないんだ。
さてお客も少なくなってきたしテストを始めるとするか。
魅了の力を今できる最低出力まで制御し、掛け続けたらどの位でぽわぽわしだすか確認する。
では、ストップウォッチオンで魅了開始。
感覚としては1/200程まで出力を下げれるから、約5時間から6時間で効くと予想している。
探知で場所を外さないように、なんとなく思考の枠外で魔力操作して自動追尾にできた。
麻生さんが品出しや片付けをしている間も外すことなく魅了できている。
自動追尾完璧だ。
俺が掃除しているときも外さない。
と言っても会話する必然性は無いのでどう効いているのかよく分からん。
しかし、3時間ぐらいすると少し麻生さんの様子が変わって来た。
俺の方を見てニコッとすることが多くなって来て、どうやら少しだけ俺が気になるようだ。
「木戸君、まだ2日目なのにテキパキしてんねえ。他にバイトの経験があんの?」
おおっ! また話しかけられたぞ。
「バイトじゃないけど食堂の手伝いとかしたことあるよ」
「ほう、手伝いとは感心な若者じゃのう」
なかなかいい感じに魅了は効いてきているようだ。
約5時間ぐらいで少しぽわぽわ感が出てきたので魅了の効果がやっと表れたとして魅了を停止、ストップウォッチも停止。
麻生さんは心なしか頬を赤く染めもじもじと内股で膝をこすり合わせるようなしぐさを見せていた。
うわーいろっぺえ。
さすが年上のひと。
「あの、木戸君いつもは何してるん?」
頬を薄紅色に染めながら、麻生さんがもじもじと話しかけてくる。
「よくサバゲーに参加したりしてますよ」
効いてる効いてる。
「サバゲーか、うちもしてみようかな」
「今度誘いますよ」
やった完璧だ。
年上の美人女友達ゲットだ!
「本当! よろしゅう頼んますで」
麻生さんはこれまでにましてまぶしい笑顔を見せた。
これにはさすがの俺も罪悪感を感じる。(麻生さんテストに使ってしまってごめんなさい)
それから30分くらいで、麻生さんもぽわぽわしなくなり普通に戻った。
「さあもう少しでバイトも終わりや。もうひと頑張りするで。木戸君」
麻生さんの言葉に特別な抑揚はみられない。
「はい。麻生さん」
軽い魅了だとこれくらいで切れるようだ。
さて、バイトも終わりの時間だ。
魅了したことが功を奏したらしく麻生さんにバイト中無視をされることもなかった。
やったね大成功だ。
制服の上着を脱ぎ。
「おつかれさまでしたー」
と挨拶をしていると。
ふわっと麻生さんが背中に抱き着きながら耳元で囁く。
背中に当たる柔らかさが俺を戸惑わせる。
「サバゲー誘ってね、約束やねんよ」
と麻生さんは顔を真っ赤にして去っていった。
あれっ! 麻生さんにぽわぽわ感が戻ってる?
おかしい何か重要な勘違いをしている。
まさか!
まさか!
まさか!
魅了は永続効果、または、長期効果なのか?
魅了なんて一時的な状態異常だと思ってたから、効果はすぐ切れ、切れれば無効だと思い込んでいたよ。
そう言えば俺いまだにフレッドのことを主様言うし、再度魅了を掛けたらすぐぽわぽわ状態になるのも説明がつく。
そうか、いくら魅了されているからと言っていつまでもぽわぽわはしないと言う事か!
しまった、やっちまった!
どうしよう。
とりあえず魅了は封印だな。
でも便利だよな魅了。
よしっ、もし必要に駆られても掛けるのは慎重に厳選し強弱を調整せねば。
なんだかんだ言って全くこりていない様子のタカであった。
ふむ、こまったなあー、これでは、いとせず、はーれむ、もしくは、しゅらば、になってしまうよー、こまったな、でへへ。
と、喜んでいる時点で最悪である。
が、許してほしい!
今まで女性に無視こそされどモテる事なんかまったくなかったんだ。
舞い上がるってこんなの。
人助けが趣味なので沢山の人を助けて来たが、可愛いなって思う女性は、皆よく話してくれたとしても、“ありがとう”と言葉短く挨拶だけし、視線をそらし変な表情を浮かべるのさ。
そして急いで去っていく。
これが定番だったんだよ。
家に帰り朝日を浴び激痛地獄を終え、妹が来るのを食卓に座って待った。
流石に妹を魅了したままではまずいからね。
「あ~お腹すいた~」
杏子が来るのを見て魅了解除を試みた。
「あっ、お兄ちゃん待っててくれたの? うれしい」
ができない。
ハートマークが幻視できるほど嬉しそうにする妹。
本能的に今の俺では魅了解除できないことがわかる。
もっと経験を積んで強くならないとできないらしい。
経験ってなんだ? どうすればいいのだろう。
定番では怪物との戦闘か? しかし怪物なんて吸血鬼の奴らしか見たことないぞ!
主様の記憶でもだ。
たとえ吸血鬼を見つけても勝てないなあれには。
じっと杏子を見ていると、杏子は赤くなって視線をそらしぽわぽわの状態になっていた。
これは、何としてでも経験を積んでレベルアップ? あるのかな? いや無くても強くならないと杏子は重度のブラコンになって結婚もできない!
恥ずかしいがあれをやってみよう。
「ステイタスオープン」
……何も起きない。
ううっやってしまった。本能的にもそんなのないと感じる。
まだ朝食を食べていた杏子の目が異様に冷たい。
せめて自室でするんだった。
もしかして魅了解けたかとも思ったが、俺には探知を使っても分からなかった。
ステイタス表示なんてできなかった。
残念だ、出来れば便利なのにな。
吸血鬼の本能で感じるそれが俺のステイタス確認だ。
地球上の怪物の居場所は知らない。
強くなる当てが地球にない以上あちらの世界で探すしかない。
しっかり装備を固め、この前忘れたリュックを背負い行こうとしたが、行く前に気づいた。
あっちも昼じゃね!
しかし、バイトを始めた都合上、夜時間がないので日が当たることのない洞窟探査から探索を始めることにした。
フレッドは洞窟には全く興味なくて、近辺だけ軽く調べて探知すらしてなかったようだから、何かある可能性もある。
改めて一人で洞窟を歩くと、とても怖い。
あっ今気づいた! 俺って暗視能力もある。
洞窟って真っ暗なのによく見えるよ。
ボケボケだね。これってどうやって見えているのかねー。
蝙蝠だから超音波? でも色も見えるのはなぜ?
などと悩みながら、探知で地形を調べ進む。
この洞窟、思ったより構造が複雑怪奇で、ぱっと見では分からないように隠れた入り口も沢山あってとんでもなく広いぞ!
人が入れない大きさの穴も蝙蝠になる事で通り抜ける事が出来た。
調子に乗って探知で分かる行けそうな所をどんどん進むと、巧妙に隠された岩の割れ目の先にとても広い空間が探知で見つかった。
近づくと薄明るい。
覚悟を決めて、薄明るい空間に手を出しても陽光では無いようで痛くない。
そこは天井が薄く輝き、木などの植物すら生えている異質な広い空間。
これは有名なオープン型のダンジョンではないだろうか?
テンションマックスだぜ!
ピピピッここで水を差すようにスマホのアラームが鳴った。
もう、夕方なんだな。今日もバイトか。
洞窟の探索って探知で構造を調べながら進んでも結構時間が掛かるものなんだな。
次話 20時 更新予定
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