0109.犯罪奴隷
「あきれた、お兄ちゃん。それでその女連れて来たの?」
皆の元へ帰るなり、俺を待っていたのは女性陣からの冷たい視線であった。
「いやーでもそれが決まりだって言うし。ほら、俺、人身売買とかしたくないし」
「奴隷連れてりゃ、似たようなもんだと、僕は思うがな」
「そうやで! うちらがいるんや! そんな子いらんやろ」
「危なくないのかしら?」
芽衣だけははなぜか論点がずれているようで、目がキラキラしている。
そう言えば、奴隷って、ラノベあるあるだものな。
「それがね、どうやら、持ち主の感性に首輪が魔力でつながっていてね。持ち主が不利益になる感情や行動が首輪装着者に働きそうになると、その感情や行動を打ち消す力が作用するらしいんだ。だから、家族や友達まで誰にも悪い事は出来ない。なので、安全だとは思う。魔力のつながりが切れると、解呪しないと生命維持に最低限必要な行動以外なにも出来なくなるらしい。そして、何でも無いのに解呪するのも罪らしい」
まあ、まるでロボトミー手術か強力な洗脳みたいな、人権なんかガン無視したひどい扱いだが、これがこの異世界の決まりなのだ。
「皆さん、彼女は3年間タカ様の‘物’になったのです。そう思い矛をお納めください」
「まあ、ケイがそう言うんやったら」
「そうだね」
「彼女はドワーフビャ。寿命も長いビャ。タカ殿にやったことを考えれば。3年位軽い刑のうちビャ。我々、眷属からすれば殺してもいいくらいだビャ。タカ殿に再生力が無ければタカ殿は死んでいたビャ」
そうか、そうだな。
あの崖って結構切り立っていて高かったからな~。
アンはじーっとニノを観察し続けているし。
「ニノ、何であの時、俺を崖に落としたんだ?」
「はい、おらは、高価な魔石を見つけたので、独り占めしたくてつい、崖に誘導して、土魔法で落としました、です」
それまで、様子をじっと見ていたアンがおもむろに言った。
「あっ、やっぱりニャ、近所に住んでたニノねーちゃんニャ、言葉遣いが変わっていて気づかなかったニャ。棟梁の娘アンニャ。覚えていないかニャ?」
「えっ、あの行方不明になったアンなの? よかった生きていたんだね」
「うん、にいちゃんに助けられたニャ」
「おらの親もあの後すぐ行方不明になっちゃって、生きていけなくて、ううっ、アン!」
そう言ってアンに抱き着いて泣き出したのだった。
えっ、なに、知り合いなの? 世の中広いようで狭いな。
まさか、親の行方不明って、フレッドの仕業なのだろうか?
まあ、それでも不思議は無いな、たくさん殺したり攫ったりしたみたいだし。
「にいちゃんが、許すならアンも許すニャ。ニノねーちゃん、にいちゃんに謝ってニャ」
「ごめん、ごめん許してー、ごめんな~」
そう言って泣き崩れていった。
こりゃ、毒気も抜かれてしまったな。
ニノの悪口を言ってた面々も、どうしたらいいのか分からないって顔になってるね。
「にいちゃん、アンからもお願いするニャ。アン、ニノと一緒に居たいニャ」
「わかった。しかし、許すけどまだ信用は出来ないし、刑罰でもあるし、奴隷ではいてもらうよ」
「はい、分かりました。粉骨砕身の思いで働きます」
いや、まあ、そんなに仕事ないんだけどね。
「アンもそれでいいか?」
「いいニャ。にいちゃんを殺そうとしたのも、また事実ニャ」
「おらもいいだ。罪を償うだ」
「そうか」
あれっ、言葉遣いが違うような? まあいいか、張っていた気が緩んで元に戻ったのだろうきっと。
しかしまた、人数が増えたな。
肉などの食材はこちらで買って差し入れたりした方がいいかな?
流石に両親に悪い。
あちら(日本)のお金はないが、こちら(ボード王国)のなら、少々では無くならない程にはあるからな。
もうこちらの人になろうかな? なんてな。
ただ、このままニノを連れて回るわけにもいかないのでホテルにいったん帰ることにした。
ウズラも相当退屈だったようでいつの間にか俺の肩の上で船を漕ぎ始めたし。
「ウズラ、帰って寝ようね」
「うん、にいたん、かえる~」
ホテルに付くと両親がとても興奮していた。
「山車すごかったなあ、ミルスさんの踊りも綺麗だった」
「そうよね~素敵だったわ~」
「で、貴志、そのお嬢さんは?」
「それがその~」…………
「なるほど、犯罪奴隷か」
「アンちゃんのお友達なんでしょ。アンちゃんよかったね~」
「うん、アンうれしいニャ」
「お初にお目にかかるだ。おらニノって言うだ。おらの種族はドワーフだ。これからよろしく頼むだ」
「あら可愛い。さっそく家に帰ってきれいにしましょうね」
「おら奴隷だからそっただ事、気にしてもらう必要ねえだ」
「そうはいきません。女の子はきれいにしてないとね~」
母さんはニノを洗うと譲らない。
「ウズラおいで。とうたんと帰ろうね~」
「うん~」
「そろそろ、昼食時だし皆もお昼食べに帰らない?」
「賛成」
「そうだな、一度帰ろう」
家に帰り、ニノを杏子がお風呂に入れてから昼食となった。
「おら、こんなに高そうな物食べていいんだか? おら奴隷だべ」
ニノの前にも昼食の親子丼が置かれているのを見て、ニノは恐縮そうに言った。
「ここではこれが普通だ。気にせず食べればいい」
「ありがたいだ。おら、こっただふうに良くしてもらったのは、おっとう、おっかあが居なくなってから初めてだ」
ニノは泣きながら一心不乱にご飯を食べている。
よほどお腹が空いていたのだろう。
それを横目で見ながら、次にどこを回るか話し合った。
「そうやな、うちは、その闘魔獣ってのか、演劇とか、観たいね~」
「なら、どこかの会場で演劇を見てから、闘魔獣でも見に行くか?」
「お兄ちゃん、私もそれでいいわ」
「僕も闘魔獣には興味あるねえ」
「うちは、恋愛ものの歌劇とか観たいわ~」
「冒険物のお芝居もあるかしら?」
「じゃあ、皆、今日は劇をはしごして、明日、闘魔獣を見に行くのはどうかな?」
「それええわ」
「僕は劇なんかどうでもいいけど、付き合うよ」
色々な公園の様な所にこじゃれた特設の芝居小屋の様な物があり、あちらこちらの公園で色々な演劇をみて回る事が出来た。
「あそこで、あれはおかしい。理不尽だ。そうは思はないか? 美香」
「ああ、そうやな。それ何回も聞いたで」
「いや、あの劇はあの二人が結ばれるべきなんだ。それを何だ途中で出てきた姫と結ばれるなんて」
「そうかそうか、聖。ちっとは静かにならんのか?」
「そうは言うがな、あの場面はなあ……」
午後、劇を一番必死で見て、感化されたのは聖だった。
美香に真剣な表情で感想を熱く語り続けている。
面白い奴。
その夜ちょっと疲れた感じのミルスがやって来て。
「祭りどうだった? 私のウインクに気づいた?」
ニノは、ミルスを見ると固まってしまった。
「ああ、気づいたさ。すごく綺麗だったよ。大変だったね。お疲れ様」
「うふん、明日もやる気出た~。って、その、ドワーフの子だれ?」
「ああ、この子はね、……」
再度説明を繰り返す俺であった。
「犯罪奴隷ね~、なら、ウズラの面倒を見てもらえばいいんじゃないかしら?」
おおっ! それはグッドアイデア!
今はアンが見ているが学校へ行く予定だしね。
次回更新は金曜日になります、よろしくお願いいたします。
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