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0108.懐かしい瞳

「アンこの祭りの最大の見せ場ってなんだい?」


 俺達は露店で買った串焼きのお肉を食べながら、色々なお祭り用の飾りなどを見て回っている。


「聖女様が中央広場で山車の上から小麦の穂を撒くニャ。それを取ってパンに使って食べると、豊作に加えて無病息災と言われてるニャ。赤い小麦が時々混ざっていて、それが最高と言われているニャ。取り合いの喧嘩がよくあるらしいニャ。後は、聖女様が豊作祈願の踊りを山車の上で踊りながら練り歩くニャ。街は広いのでたぶんもう始まってるニャ」


 それはミルスが忙しそうだな。


「後、そうニャー。魔獣を捕まえて来て戦わせる闘魔獣もあるニャ。賭けでそうとう盛り上がるって聞いたことが有るニャ」


 へー、この辺りさほど魔獣なんか居ないのにどうやって調達しているんだろう?


 しかし、魔獣か。

 確かに邪悪だが元は獣だ。

 あまり感じいい物ではないな。


 だが、ここの人たちにとっては恐怖の象徴だろうからな。

 致し方ないか。


 むっ、向こうから来るあの大きな影が山車なのだろうか?


 おおっ! ミルスだ。

 天辺で派手な衣装を着て、ゆっくりとした踊りを披露している。


 いやあれは踊りと言うより舞だな。

 神舞を舞っている。


 なかなかの物だな綺麗だ。


 しかし、巨大な山車だな。

 大勢の人が担ぎ歩いてくるが魔法で重量軽減か無しになっているんだろうな。

 でないとさすがに担げないと思う。


「お兄ちゃん、顔が緩んでるわよ」


 えっそうか? では、きりっとしよう。

 段々と山車が近づいてくると人出も多くなってくる。


 おおっミルスがこちらに気づきウインクしたぞ。

 手を大きく振って笑顔で声援を送っていると。


 スーッと誰かの手がポケットに忍び込んでくるのがわかる。

 ああ、よりにもよってこの装備のポケットに手を入れるなんて。

 運の無い奴。


 この装備、防犯もしっかりしていて、こういうスリを捕まえるために他人が入れた手が抜けなくなる様に出来る仕組みがあるんだよな。


 財布を掴んで逃げようとするが。


「(えっ、抜けない。なんで?)」


 そして俺は多少引っ張られてもびくともしないんだなこれが。


「えっ? えっ? ええ~!」


 非常に困惑しながら逃げようと必死で引っ張っているが、ピクリとも抜けはしない。

 俺は目も落とさずその行為を無視したままミルスに手を振り声援を送り続けている。


 すでにスリの逃走方向には前方にケイ、後方にアン、横にガウの三人が囲う様に立っているので逃げられはしない。

 山車が遠ざかって行って人混みが空いてくると。


「コラ! 離せこの野郎!」


 何か聞いたような声がするなと見てみると。


「うんっ? どこかで見たような頭だな」


 そこには、大きく膨らんだような髪をした、子供に見えるほどの背の女が顔を真っ青にしていて。

 ガウとアンに捕まりさわいでいた。


 誰だっけ?

 えっと……翡翠色の瞳、あっ思い出した!

 ニノだ!


 小ぎれいな格好をしているから気づかなかったよ。

 まさか、こんな所でこんな風に再会するなんてね~。


「よおっ、ニノ。久しぶりだな。覚えているか? ほら、吸血鬼の洞窟傍の村で一緒に狩りしたじゃないか。タカだよ」

「うそだ、タカは崖から落ちて死んだはずだ」


 ニノは、はたと自分の失言に気づき口を押えた。


 ほ~俺は殺されかけていたのか。

 そう言えばあの崖結構な高さがあったような? 


「(うっうそだ! タカはあの崖に確実に落としたはず。あの高さから落ちて助かるはずねえべ)」


 殺意がありありだな、おい。


「お兄ちゃん、その女と知り合いなの?」

「ああ、吸血鬼の洞窟の近くに寒村があっただろう。あそこで、帰る前に一緒に狩りをしたんだ。……なあ、ニノ、なんで俺は崖に落とされたんだ?」

「えっ、あ、あれは……(そっそっただこと、本人以外知らねえべ。あれで死なないなんて。やっぱりタカは吸血鬼だった?)」


 ケイが凄い形相でニノを睨んでいた。

 ニノはあまりの恐怖に震えている。


「タカ様、殺した方がいいと思います」


 ケイの発言を聞いたニノはドジャーと派手に失禁した。

 あ~あ。

 いや、確かに殺されかけたけど死んではいないし、殺すのはしたくないな。


 甘いと言われようと今まで日本人として培った“殺人はダメ”という良識がここで頭をよぎる。

 俺は悪人にはなり切れはしないようだ。


 えっ、魔物や魔獣は良いのかって? 

 理性無く襲ってくる人外には適用なしで。

 それでも最初は罪悪感でいっぱいだったしな。


 だが、だからニノが許せるかと言うと話は別だ。


「その辺りを警備している騎士に突き出そう」

「そうですか、命拾いしましたねこの女。お優しいタカ様に感謝しなさいよ」

「いーやーだー! はーなーせ~!」


 とニノが騒いでいると、警備中の騎士がやって来て。


「何を騒いでいるか!?」


 騎士も俺のポケットに入っている彼女の手を見るなり。


「スリか。こんな装備のポケットから盗もうなんて。捕まって当り前だろ」


 とあきれていた。

 騎士はどうやらこの手の装備の機能を知っていたらしい。

 この世界では当たり前なのかな?


 そして、共々警備詰め所に連れていかれ、ニノを魔道具で調べると何件もの盗みが発覚した。


「これは酷いな。殺人未遂まであるよ」


 ああ、それ、俺を崖に落としたやつ。


「それは兎も角、あなたの身分証明書を確認したい」


 と言うので、ハムにもらった証明書とシンディさんにもらった証明書を見せると。


「むっこれは、失礼いたしました。どちらも凄いですね。ありがとうございました。で、こいつの刑罰ですが、犯罪奴隷として3年の刑に確定しました」


 おお、裁判もなしに早いな。

 魔道具による判定に信頼があるんだな。

 でも殺人未遂ありで3年って短くない?


「あなた様の奴隷として登録させていただきます。もし、いらないのであれば、おっとこれ犯罪奴隷取り扱いの説明書です。こちらに載っている犯罪奴隷商へ売ってください。それ以外に売ると罪に問われます」


 そう言って詳細が書いてある冊子をもらったのだった。

 ええ~こんなのもらっても困るんですが。


 しかし、なるほど、こうすれば囚人収監する必要がないので経費が浮くわけか。

 よく考えられてるな。


 被害者への補填にもなるし。

 というか俺は貰っても困るけど、人身売買にも抵抗を感じるので売りにも行きたくないし。


 騎士はテキパキと魔道具から発行された首輪をニノにつけて、俺に魔力を流すように促した。

 仕方なく魔力を流すと首輪が光り、ニノの首の中に消えていった。


「これでこいつは、あなた様に危害を及ぼすマネは出来ませんし、その冊子に載っている範囲の命令であれば逆らえません。ガンガン働かせる事が出来ますよ。ただし、最低限の衣食住は用意が要ります。虐待も駄目です。間違えると犯罪履歴となります。後でその冊子をよくお読みください」


 そのガンガン働かせる仕事がないんだが……。

次回更新は金曜日になります、よろしくお願いいたします。

「ブックマーク」「感想」もいただけると本当にうれしいです。

皆さん覚えておられましたか? 1.5話の彼女です。

やっと再登場させられました。

えっ、もう一人出てこないのが居るんじゃないかって?

もう誰も覚えてないんじゃないかな?

さてどうなりますやら、もし覚えていてくれる方がおられればなんですが、もう少しお待ちください。

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