0104.焦り
さて、第五層だが、まずはレベルアップによる眠気が起きない程度にはなっておかないと進めないと言う事だ。
この層は今までより一体から得られる魔力量が桁違いに多いからだ。
たぶん中ほどにも届かない位置で皆動けなくなってしまうだろう。
なので、銃の使用権を俺が書き換えられるように設定しなおし、アンやガウにも撃たせて、自分も含めて少しずつレベルを上げさせていくことにした。
アンもガウも最後まで一緒に来ると言うのでレベル差があり過ぎると危険だからだ。
前に俺が煙吹いて倒れるまでやっちゃったから、大分差が開いちゃったのよね。体が熱くなる程度まで魔物を倒してから、交代する。
2人とも射撃に慣れないので最初は外すことも多かったが、すぐコツをつかんだようで外さなくなった。
くっ悔しくなんかないよ。
身体能力が高くなれば銃を揺らすことなく引き金を引き撃てるんだから当たって当り前なのさ。
と言う事にしてよ、悲しくなるから。
小さい男だなあ俺は。
細かい事をうじうじとほんとにもう。
もっと、大きい男になりたいな。
俺が撃っている時に二回りほどデカい炎の鳥が出て来て、焼失魔法弾二発ほど倒すのにかかった。
すると俺の体から煙が出始める。
「にいちゃん、大丈夫ニャ?」
「ああ、大丈夫だ、アン」
なんだ? あんなの今まで出た事なかったぞ!
ボーナスチャンスか何かだったのか?
体がほぼ動かなくて探知も使えず眠くなるが、銃をアンに預けて眠気に必死で耐え何とか眠らずにいられた。
それからどの位の間眠気と戦っていたのか分からないが、煙をもうもうと上げながらこんな所で寝るわけにはいかないと、ずっと眠気を耐えていた。
すると不意に楽になり体も動く。
おおっ! ぐっと魔力が多くなった気がする。
今までと何か違うぞ?
うまくは言えないがレベルが上がったと言うよりも種族的な何かが、そう、まるで全く別の存在に進化したような? そんな感覚だ。
今までとまるで比べ物にならない鋭敏な感覚が、自然属性の力の覚醒を俺に示唆した。
おおっ! ずっと使ってみたかった自然属性!
そく試してみよう。
俺はワクワクしながら自然属性の赤い炎をイメージして唱えてみる。
「炎よ」
ボォウっと、手のひらに赤い炎を発生する。
やった! 自然属性の魔法が使えるぞ! 俺はきっと進化したんだやったぞーー!
って、まさか? 人間から一段と離れた変な存在になってないよね?
大丈夫かな?
「ビャビャビャ」
おや? ガウが変だ!
いったい何が起こり始めたんだ?
『あの、タカ様、わたくしもなぜか全体が熱いんですけど?』
「えっ、二人とも大丈夫か?」
「アンは平気だニャ?」
「すまんアン、平気でなさそうなのはアンでは無くて、ケイとガウだ。アンは平気でよかったな」
「二人はどうなってしまうニャ! ガウ!」
アンはガウの肩を揺らしよびかける。
だがガウは目の前で段々と白い殻の様な物に包まれていき返答はない。
「なにが、起こっているニャ?」
「俺にも分からない」
『ケイ大丈夫か?』
つい俺が問うてしまった為ケイは無理にこたえる。
『何か、体が変です。熱くて、何かに変わっていってる気がします』
これは! 俺が進化したから眷属まで、と言う事か?
ガウはすっかり卵のようになっていた。
「アン、どうやら、俺と眷属の二人は進化したのかもしれない」
「アンも進化したいニャ」
「えっ、人虎って進化するの?」
「分からないニャ」
「しかし、困ったな。この卵、転移しても構わないのだろうか?」
転移するにはどうしても物質変換が伴うから、それが卵の中で変異中のガウにどんな影響が有るかさっぱりわからない。
危険が伴う可能性も否定できない。
転移を意識すると俺の部屋や今ケイたちのいる第二層の位置情報が今までよりはっきりとわかる。
いや、今までダンジョンの中から外は分からなかったはずなんだ。
空間を隔てる膜の様な物の詳細が分かり始め、今までその膜の隙間を潜り抜けていたのだが、膜に穴をあけ固定したり動かす事も可能に感じる。
いや、出来る!
こっこれは凄い!
開けた穴を接合することで転移する物の分子化の必要がなくなり、開けっ放しにすることで俺が居なくても、だれでも移動が可能だ。
分かり易く表現するならば、どこ〇も〇アだ。
これなら卵の状態のガウも安全に連れて帰れるな。
ダンジョンの奥につなげようと思ったが出来ない。
まあ、さすがに行った事の無い所には繋げられないか。
劣化ど〇で〇ドアだな。
本家には勝てないらしい。
が、便利だ!
卵を持ってケイ達の元に空間を接続し穴をあけ転移した。
「ケイっどんな具合だ?」
皆がケイの周りに心配そうに集まっている。
「タカ様、ご心配おかけします。大丈夫です。悪い感じはしません。それどころか強くなってきている実感があります」
「そうか、ならいいが。ケイ、ガウは卵になってしまった」
「その白いの、ガウなんけ? びっくりやな。それからタカが出てきたその穴、なんや?」
「美香、どうやら、転移がバージョンアップしてな、空間連結みたいになったんだ」
「ほへー! するとその先に見えるんは第五層ちゅう訳やな。凄いんなあ」
「高温なので顔を出して入ると火傷するぞ。入るなら、装備の帽子をしっかりかぶってからにしてくれ。そして長くいると何が出るか分からんので、覗くならちょっとだけにしろよ」
「分かったで」
「僕も気を付けるよ」
聖は分ったげだが、本当に分かっているのかな?
「私はまだそんな所に行きたくもないわ。ねっ芽衣」
「そうね、杏ちゃん私たちは止めときましょうね」
「あれ? アンはどこだ?」
「そう言えば、そうやな」
おかしい!
一緒に第五層から帰ってきたと思ったんだが、アンの姿が思い浮かぶ。
『アンも進化したいニャ』
その姿はどこか寂し気だった事を。
「はっ! まさか一人で五層に行ったのか? 俺見てくる」
「タカ様、一人はいけません。わたくしがお供します」
「しかし、ケイはまだ体調が悪そうだが」
「いえ、それでもタカ様一人で行かせるわけにはいきません。こんな風でも生気吸収位できます」
「……分かった。一緒に行こう」
まさか、ここでアンが暴走するなんて。
今行くぞ! 無事でいろよアン。
第五層に入って探知すると、そう遠くない所でアンが魔物と闘っている反応があり、その中には先ほどの巨大炎の鳥並みの魔物がいる事が分かる。
アン、無茶だ!
そいつを倒せてもお前はただじゃすまないぞ。
急ぎ走り寄っていくと体に焼失の炎を纏い戦うアンが見えてくる。
あれはなんだ?
あんな戦い方をすれば自分が焼失するんじゃないのか?
走り寄るうちに巨大な炎の獅子をアンが倒し終わってしまう。
そしてアンは盛大に体から煙を出し前のめりにれ始めた。
「アンーー!」
俺は力の限り走り、倒れていくアンをささえ抱き上げた。
次回更新は月曜日になります、よろしくお願いいたします。
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