0101.封印されし記憶6
俺がダンジョンに銃の試し撃ちに行っている間、残った者たちが話している。
「タカ様、嬉しそうでよかった」
「そうやなあ、落ち込んで鬼気迫る感じやったもんなあ」
「僕もほっとしたよ」
聖はほっと息をついた。
「聖さん。あなたは命拾いしましたね」
「えっ、僕殺されるとこだったの? 僕のせいじゃなかったんだ! 許して、ケイ」
「冗談ですよ」
「冗談きついよ、ケイちゃん。心臓止まるかと思った」
「はっはっは、なに、聖。そのビビりよう」
「うるさい! 美香も狙われてみればわかるよ。って、ケイちゃんタカに憑いて行ってないの?」
「はい、料理の手伝いがあったので、ガウとアンが付いて行ってます」
「お兄ちゃん遅いなあ、お腹すいちゃった」
「今日、芽衣ちゃんは塾だったっけ?」
「美香さん、そうそう、芽衣って、お兄ちゃんと同じ高校に入りたくて頑張ってる」
「杏ちゃんはせんでええの?」
「うん、私ってこう見えても勉強できるのよ」
「はー、優秀な兄妹やな。あそこの高校ってごっつう難しいやろ。うちも聞いたことあるで。東大や京大に進学する生徒多いって」
「レベル上がってから、もっと出来るようになっちゃって」
「ミルスは、なんやら祭りの準備とやらで忙しいって言っとって最近こんし。うち、ちょっと寂しいなあ」
「美香、僕は平気だよ」
「聖は冷たいなあ」
「そっそんな事無いよ!」
「ただいま~、遅くなっちゃってごめんね。ごはんにしよう」
「お兄ちゃん、お帰りー」
「そういやー、タカが勉強しとるの見る事無いなあー」
「俺? そう言えば、レベル上がってから、授業聞くだけでテストほとんど満点取れるようになっちゃったなあ」
あれだよね、勉強できても考えたらずは相変わらずだし、頭の良さにもいろいろあるよね。
「うちもっとダンジョン頑張るわあ」
「僕も頑張ろ」
「美香、聖、二人とも、無理はするなよ」
「分かっとるがな」
「僕も肝に銘じておくよ。これ以上タカに迷惑かけたら僕の心臓がもたない」
「えっ、心臓って?」
「タカには関係ない事だよ。あっ、お腹すいたなー。今日のご飯は何かなあ?」
何か誤魔化したな。
まあいいけど。
食後ダンジョンに行き、皆が第二層で戦っている間に俺は第五層入り口にまで来ていた。
「さて、焼失魔法はあいつらに効くかな?」
俺はアサルトライフルを構えサイトをのぞき込む。
どうやら、炎の鳥がこちらに向かって来る様子が見え、照準を合わす。
射撃モードをア(安全)からタ(単発)に合わせ、焼失魔法を込めた弾を装弾する。
狙いを確認し引き金を絞り込む。
ターン!
大きく響く銃声。
ボフウッ
遠くで焼失魔法の青いきらめきが揺れる。
「おおっ! 一発撃破だ」
射撃モードをレ(連射)に切り替え、大量にやってくる炎の鳥の連続撃破を狙う。
タッタッタッ……
一発一発で確実に葬っていく。
「よし、すべて落としたぞ。って、あれれ、力が入らない!」
体中から大量な煙が出ていて、凄い眠気が来た。
「ああ、眠い。こっこんな所で寝ちゃいかんンんン……ぐー」
「ああ、兄ちゃん、寝ちゃったニャ」
「タカ殿はどうしても無茶は止められないようだビャ」
「ふう、今回は酷い目に遭ったなあ、フレッド」
「ああ、イムス。まさか、吸血鬼のアジトだったなんて分からないよな」
「まさか、真祖が、仕返しに来ないわよねえ」
メリッサは渋い顔でつぶやく。
ああ、俺は久しぶりにフレッドの記憶の封印を解けたんだな。
漆黒の槍の面々だが、勇者協会で報告の後で食堂で飲食しながらくだを巻いているようだ。
「でもなあ、行ってみないと分からないだろう。運が悪かったのさ」
「イムス……まあ、蒼天の剣から、忠告はあったんだけどね」
「でも、フレッド。断れないよなあ、協会の仕事」
「うん、そうだね」
彼らは、仕事を無事終えたと言うのに、まるでお通夜の様だ。
そう彼らは、調査に行った洞窟に巣くっていた、女吸血鬼とその眷属を殲滅して帰ったばかりだ。
その後数日間は何もおこらなかったが、新たな仕事で他の国の街を3人で歩いている時そいつらは現れた。
「だから言ったろ! 大丈夫だって」
「いや、イムスが一番ビビってたじゃない」
「メリッサほどではないよ」
「ムキー!」
「まあ、まあ、往来で喧嘩は」
と、フレッドが仲裁に入ろうとしたとき。
真っ先にイムスが気づいた。
「むうっ、何か変だ!」
「こっこれは」
「ひいっ!」
「はあっはっは、お初にお目にかかる。某は吸血公爵ブラドと申す。しがない真祖よ。以後お見知りおきを。この度はなかなか良き愛妾であった、リコの仇を討たせてもらおう」
突如現れた吸血鬼は簡単には測れないほど強大な魔力を内包していた。
記憶を見ているだけの俺も背筋が寒くなり逃げ出したい。
「散開、離脱」
「おう」
「ふふふ、逃げられるとでも思っているのか、いけ」
「はっ、バインド」
「うっ動けない!」
イムスは、逃げ出そうと足を上げたままだ。
「おっ、お前は、数年前に行方不明になった、勇者だった、ラングーノフ、まさか主力が吸血鬼になっているなんて」
「なんだって、フレッド。貴様がラングーノフ、裏切り者め! くっ、くうっ、おおおおっ、うおりゃああ」
ドン!
おお、イムス凄い! 気合でバインドから抜け出した。
「くらえ」
イムスは魔力を纏わせた剣をラングーノフに向かって振りかざす。
「ほほー、俺のバインドから脱出するとは、優秀だな。だが遅いな」
ズバン、何が起こったのか、俺には分からなかったが、イムスの両腕が手首から切り落とされ剣とともに地面に落ちた。
「ぐわああっ」
「イムス!」
「いやー」
ズバンッ!
見えない斬撃は続きイムスの両足首が切断されイムスは崩れ落ちた。
「ぐうっ、くそおっ」
「あああっ、イムス!」
こっこれは、分からない。
いったい何が起こってるんだ。
「ラングーノフ下がれ」
「はっ、閣下」
「エターナル・フリーズ」
「ぐぁあ、よせ、やめろー」
「イムス~!」
イムスがどんどん氷に閉ざされていき、最後には氷柱になってしまった。
「ふむ、つまらんの。多少落ちるがそこな女を代わりの愛妾として飼うか」
「やめろー! この野郎メリッサに手を出すな!」
「ふむ、そこな女。この勇者、まだ生きているが。某の思い一つでいつでも砕ける。そして、この氷は某を滅ぼさねば解けん」
いったい何が言いたいんだ。
「自分で、衣服をすべて脱ぎ、こちらに来て足にキスをしろ。そして、某を永遠に愛すると言え。ああ、心からでなくていい。言うだけでいいとも。くっくっく」
メリッサはバインドが解けると。
すっと服に手を掛けボタンをはずし始める。
「メリッサ、やめろ! こんな奴らを信じるんじゃない! やめろ、やめてくれー!」
フレッドは半狂乱で泣き叫ぶ。
しかし、メリッサは服を脱ぐのを止めない。
そして、その瞳にはある強い決意がこもっているようにも見える。
「たまには、魅了もしていない眷属でもない女もよかろう」
「はっ、閣下」
間髪入れずラングーノフは答える。
「ほほーその殺気がこもった視線、おもしろいの」
メリッサはすべての衣服を脱ぎ、その美しい裸体を周知に晒すと、ブラドに近づいていく。
「メリッサ、考え直せ、逃げる事に注力するんだ。奴らの言う事など信じてはいけない!」
「私は、閣下を永遠に愛します」
メリッサはそう言うと、ブラドの足元にひざまずき足にキスをし恭順の意を示す。
「うおおっ! 許さんぞ! きさまー!」
「くっくっくいいぞ貴様。次はここだ。より丁寧に気持ちよいキスをせよ」
ブラドはボロンと出し指さして見せた。
「うおおー! 止める! 止めてくれー」
メリッサはさらに表情を固くこわばらせたが、躊躇なく深く咥えるようにキスをした。
「うむ中々に気持ちよいぞ。ふふふ。良い拾い物かも知れんの。そこな、うるさい男はいらん。記憶を消して低位な吸血鬼にでもしておく。その辺の洞窟にでも放り込んでいれば、他の勇者にでも滅せられるであろう。それもまた一興」
「はっ、ではそのように」
その間もメリッサは何かをごまかす様に一心不乱にキスを続けるのであった。
ブラドから巨大な魔力がフレッドに向かって放たれる。
「あががが! ぶ、ぶら、ど~~!」
フレッドは必死に叫び抵抗したが、ブラドの強大な魔力の前には無駄だった。
そこで記憶は終わったが、フレッドの無念の思いが俺に強く伝わった。
「許すまじ、ブラドの野郎」
と。
次回更新は月曜日になります、よろしくお願いいたします。
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