0004.リキャストタイム
どうやらここは主に寝所だったようだな。
主様、寝る必要があったのだろうか?
「元の場所で皆を待つか」
この場所を教えればミルスさんは喜んでくれるだろう。
そう思いながら入り口に近づくと足元に穴が開いた。
これは不味い霧にっ!
とっさに霧水化したのは正解だった。
そこには体を貫通する長さの刃物が立ち並んでいたからだ。
「完全なデストラップだな。霧水化が無かったら血の海だよ今頃。霧水化が無かった時、それで俺が死ぬのかは、あまり検証したくはないな」
穴の中には棚の様にくぼんだ所があり、そこにはボロボロな手帳大の紙束が一冊と金貨らしき貨幣の入った箱があった。
俺は現状を探る鍵となるだろう手帳と調査にこの世界の街などに繰り出せば資金もいるかもと金貨の幾らかを拝借する。
さてどうやって脱出するかなと思い周りを見回してみる。
すると、ここから出やすいように壁に梯子状のヘコミがあったので思いの外簡単に脱出できた。
穴から出ると落とし穴は見えなくなっている。
探知にも反応はない。
俺すらも忘れてまた落ちるとか有りそうで危険だ。
主様はどうやらこの穴によく出入りをしていたんだな。
大事なものは隠したい気もちも分かるが、主様健在の時、誰がこの寝所を見つけるんだ?
たぶんなんだが俺が蝙蝠だからここに入れた気がするし。
そこを突っ込まれたら何と言い訳していいのかわからない。
それに、危ないのでこの穴を塞ぎたいが、何も持ってないので諦めて皆にはここを教えないことにした。
俺は寝所から出たが、皆が帰るにはもう少し時間がかかりそうな気がする。
他にも何かないか壁やら天井やらをしっかりチェックするが何も見当たらない。
天井を見ているとあそこあたりに俺もぶら下がっていたんだなと変な感慨を感じて涙が流れた。
周りに居た吸血蝙蝠達と俺にどんな差があったのか分からないが、俺はアンデッドでは無く生き残り、彼らのほとんどは聖巫女の放つ聖なる光で焼かれ消えた。
俺は多分アンデッドの反応が無かったので小動物か何かだと思われて見逃されたのだろう。
皆すまない俺は皆の分も頑張って生きるから! とまあ自分に都合の良い解釈をし精神の平穏を保つのだった。
この場所は調べつくしたと感じたので座って待っていようと思い椅子の前にまで来たが、主様の椅子に座るのが何と無く嫌だったので結局椅子の前に座って皆を待っている。
この場所から枝分かれして伸びる洞窟の一つから光が漏れ、がやがやとさわがしい音が聞こえ始める。
「全く何も見当たらないとは我々の見張りは無駄だったかな? おお、キド殿待たせました。が皆が集まるまでもう少しお待ちください」
何やらぶつぶつ言いながらミルスさん達が一番に戻って来た。
ミルスの態度は平坦で魅了の効果の跡はまったく感じない。
「ああ、お帰りなさいミルス様」
そうか何もないか。
まあここが中心だろうから、一番怪しいのはここなのだから。
でもこの洞窟は思うよりも入り組んでいて取りこぼしがありそうな気がするので、後で来て自分で見て回ってもいいか。
考えてみれば今他に探すところもないし。
探索に出てた皆も帰って来た。
洞窟の安全が確認されると皆居なくなっちゃうよね。
それじゃこの世界の情報源、いや知り合いが誰もいなくなってしまう。
それは不味い。
何か手を打ちたいな。
俺がこの先発生するであろう予測される中で最悪の事態に対処していくためには、異世界の情報を知る必要性があると感じる。
ミルスにもう会えなくなるのも嫌だな。
「ミルス様!」
俺は魅了の力を込めた。
「はひっ!」
おお真っ赤になって皆ぽわぽわし始める。
これは一撃で先ほどの状態に戻ったな。
一度掛けたら掛かりやすいのか? それとも意識的に使ったので強いのか? 検証が必要だぞ。
「私はこの後所用がありますので失礼させて頂きますが。ミルス様とはまたお会いしたいですね。どちらにおいでかお教え願えますか?」
ミルスはぐっと俺に近寄ってくる。
むっ胸が俺に当たりそうだ。
近い近い! 俺、欲望を抑えきれなくなるよ!
がんばって欲望を押さえつけミルスの肩を押し少し離す。
「あら私としたことが。うふふ、私たちは北にあるアンスラルドと言う町の聖北教会横の聖北騎士団アンスラルド本部に普段は居ます。気軽に訪ねてきてください」
とすごくいい笑顔だ。
「はい、寄らせていただきますね」
「うふ、お待ちしてますわ」
洞窟の調査も終わったのでごつごつと険しい洞窟の坂を出口に向かって歩く。
やっと通れる狭い場所やまるで崖の様な急な登り坂も有り帰りは特に大変だ。
「はあっ、はあっ、ふう、帰りの方がきついですわね。キド殿」
「そうですねミルス様」
そう言いつつ歩いていると、洞窟の出口についた。
「では、皆さんごきげんよう」
「ああ、キド殿またお会いしましょう」
そう応えるミルスの顔が、すでに魅了効果が消えているずなのに寂しそうに見えたのは、俺の妄想が生んだ見間違いだろうか?
分かれてキャンプ地から見えない所まで行くと直ぐに部屋へと転移した。
そこには朝日が差し込んでいて体を焼く。
「うぎゃ! 痛たた」
転がるように陰へと移動した。
馬鹿か俺はもっと考えて転移場所を決めろよ。
まさか朝になっているとは。
これは時計がいるな。
スマホなんか異世界にもっていっても役立たずと思ってすみません。
待てよ? 初めての陽光と比べて痛みも火傷もほんの少しだが少なくなっていた気がする。
もしかして何度も日差しに当たることで耐性を得るんじゃなかろうか?
試してみる価値はありそうだ。
そう思い日差しの中に出てみる。
「うぎゃーやっぱり痛い!」
陰に転がり込んだがいつまでも痛い。
「痛い! 痛い! う~う~」
全身火傷である。
俺このまま死ぬのかな?
などと考えながら悶え苦しんだ。
永遠にすら感じる時を痛みに耐えていると段々痛みが引き火傷も治って来た。
「ふ~」
良かった本当に治り始めてよかった。
どうも一時間ぐらいは悶えていたようだ。
これはいわゆるリキャストタイム。
再生の連続使用は出来ないと言う事だね。
まだ痛いし治りきっていないから一時間以上は間をあけないと。
その間何をするかな。
お腹もすいたしいい時間だ朝食を食べよう。
1階の食堂に顔を出すと、丁度妹が食べ終わった所だった。
「ちょっと、お兄ちゃん! あそこの棚にあったチョコ食べたー? あれ私楽しみにしてたのよ! 今すぐ買って来てよ!」
妹は食品棚を指さし激怒して金切り声を上げている。
いつもの事だがすごくうざい。
とっとと解決して黙らせたいが今の俺は日中買い物にも行けない。
ふう、こんなのに欲情できるなんて俺は本当にどうかしているな。
「すまん、だが、今はちょっと無理」
日が暮れてからじゃないと。
「まあ、いいわ、必ず買ってきておいてね。ふんっだ」
そう言って自室に上がっていった。
怖い妹だ。
またチョコは要るかも知れないので予備も買ってきておこう。
ミルスも喜んでいたしまた土産に使うのもいい。
そして傷が癒えて2時間後。
またまた日差しの下に突貫。
「ぎゃ~痛い! 痛い! 痛い~!」
いつまで痛いんだ~!
もんどりうって3時間程でやっと回復し始めた。
「ふ~ふ~、気が狂うぞこれ」
予想が外れたようだ。
回復開始までの時間もちゃっかり伸びちゃってるし。
だがリキャストタイムを知らないと通常生活が送れない。
頑張れ俺。
その後、数日かけて実験し何度も地獄を見た結果。
陽光による全身火傷なら9時間から10時間程度とわかった。
うん1日2回だね分かり易い数値だな。
俺は朝一と夕焼け時に痛い思いをすることが決まった。
俺はよく頑張ったよほんと。
検証時にも段々陽光に強くなっていく感じがあり、そのせいでやる気が続いたのだろう。
そうだ、リキャストタイム段々長くするテストじゃなくて短くするなら地獄の時間が少なかったのか! 馬鹿は死んでも治らないな。
よし次は昼間寝ていても怪しまれないよう夜中のバイト探しだ。
後は他の能力にもリキャストタイム有るのか検証だな。
パソコンで深夜のバイトを調べるとたくさん出てきたよ。
こういった仕事は人手不足とは聞いていたけど本当っぽいな。
だが、高校生も可能となると、よく見ると18歳からとなっていて見当たらない。
高校生だと無理なのかな?
だが、諦めずに探していると偶然にもわりと近くのコンビニで俺の年でも可能な深夜のバイトを募集していたので、電話すると即OK。
20時~2時の仕事を確保できた。
事後報告したら親には怒られたよ。
父さん曰く。
「せめて相談してから探せ」
だそうだ。
バイトは翌日からとなったので、今日は他の能力のリキャストタイムを調べるぞ。
そう言えば吸血鬼? になったおかげですごく元気。
なんなら寝なくても問題ないくらいだ。
寝るのは好きだから寝るけど。
試す能力は“霧水化”“蝙蝠化”“魅了”“探知”かな。
探知は半径500m位まで、何と無くだが集中した付近の人の位置、地形、建物の作りが分かるので、ずっとランダムに探知しっぱなしにしてみた。
おっとあそこの部屋の兄ちゃん昼間っから一人H始めたよ。
映像が見えるわけでもなく細かくは分からんが、なんとなく分かっても嫌なもんだし興味もない。
あっ、これ、女性だったらなおさらまずいな。
と思う傍から女性の一人Hが探知に引っかかる。
こっこれなんだかすごい。
完全に密室なので器具まで使って凄く大胆にやってらっしゃる。
彼女の気持ちよさそうな思いが何と無く伝わって来てエロさ満点だ。
探知を止めないといけないが、俺の奥底から欲望がまたあふれ、自制が出来ず探知を止められない。
自制どころか探知の精度もそこに集中してしまった事により上がってしまい、事細やかな動きまで分かるようになっていく。
息遣いが直ぐそばであるような、その淫靡な様子につい我を忘れごくりと唾をのみじっくりと探知してしまう。
「あっあんなことまで! すっ凄い」
理性がどこかに飛んでしまった俺もその人を探知しっぱなしで同じく始めてしまい最後まで付き合ってしまった。
ふーきもちえかった。
一人では余り解消できなかったぬたっとした欲望が幾らか解消されたような気もしてスッキリだ。
いや、いかんいかん!
動きや雰囲気だけで姿形までは分からずそのせいで誰だかまでは分からないのだが女性の一人Hなんてとても知りたいが知ってはいけない。
ましてや部屋を特定して顔を見に行こうなんてもってのほかだ。
凄く興味はあるが我慢だ。
まあ、今回はかなり知ってしまったのだがな。
何とか探知を中断することに成功する。
広範囲な探知は詳細な部屋の中の様子は分からない程度にしなければ。
そう、人が居る居ない位が分かる位までには制限し調整しなければならないと堅く決意した。
残念だが広範囲詳細探知はどうしても必要な場合を除いて封印する。
エロい目的での使用などは絶対厳禁だ。 必要な場合など無い。
さて次に試すのは魅了にしよう。
俺の今後の為の重要能力だ。
魅了は部屋の中では人に向かって試せないので、壁に向かって魅了の力を放出し続けたがこれがまたいつまでも使える。
指向性も強さもおおざっぱだが制御可能だと思う。
要実地テスト。
最後に霧水化と蝙蝠化だが交互に行うテストをしてみた。
10回もやると結構疲れることが判明し、10分も休めば元通り使える。
なるほどこれはリキャストタイム有りで10回につき10分無理に使うことも可能。
なんだか分かり易っ!