プロローグ
現代社会の日本では、女性の自立を謳い、女性が仕事に生きることもさほど珍しい事ではなくなった。
ここ30年そこそこでの変化ともいえる女性を尊重する社会だ。
何百年と遡れば、意見を主張する女なんてものは魔女と吊し上げられ、処刑されるなんて事がまかり通る世界だったと思えばとても住み心地良い世の中になったであろうと心から思う一方…
橘 幸乃37歳独身。
何度か転職しつつ事務仕事をちまちまこなす行き遅れ女はこの世を恨む。
37歳で一度も結婚経験はないが、別に交際経験が無いわけでも処女というわけでもない。
10代後半から20代の間は昼は事務、夜はスナックで働きつつ、その時その時にハマっていたアイドル、若手俳優、声優もろもろにつぎ込み、イベントで本人に会うためそれなりに美容や服装に拘り…順風満帆に生きていた。
彼氏を作らなくても潤う生活はとてもとても楽しかった。
同志の仲間もいた。
合間に彼氏がいたりもしたし、いろいろ経験したけれど、自由とはとても甘美で残酷なもの。
30歳を過ぎてから、実家の親が孫孫孫孫…と、うるさくなり。
弟が結婚して孫が出来たにもかかわらず、私にも孫孫孫孫…
たしかに田舎は結婚して一人前的な考え方は残っているだろうが…
そんなに焦る事ない!
なんて思う時もありました。
たしかに自分自身が楽しいだけならば、このままずっと独り身でいる選択もアリかもしれない。でも、かつてファン活動を共にした仲間も次々と結婚していき、ずっと独りは寂しいだろうな…なんてふと思ってしまったり、せっかくだったら自分の子供が欲しいな…なんて欲がでてきたり。
35歳を過ぎた頃から、もし子供が欲しいなら30代のうちに産んだ方いいかな〜なんて気付いてしまったが最後。
あれ?
今から出会って、お付き合いして、結婚してもいいかなーって人だったら結婚する…
あれ、今から?
今から出会う?
37歳の大してキャリアもない私が?
なんて、めんどくさい…
もう、結婚するまでのプロセスがめんどくさい。
そう思ってしまったのだ。
嗚呼、ひと昔前なら、勝手に親がそれなりの人見つけて来てくれて、そのまま結婚して、それなりの人生歩むことになったのに。
今思えば、恋愛を経てからの結婚って非効率でめんどくさくないか?
この自由な世の中が私の結婚を遅らせたといっても過言ではないだろう。
楽な方楽な方へと流された自分自身が一番悪いのだろうが、
この歳になったからこそのお見合い結婚の楽さを知る。
人間とは、ない者強請りなのだ。
自由があると束縛が恋しくなるもので、好きに恋して好きに結婚できる世の中だからこそ、決められたお見合い結婚が羨ましくなるのだ。
はぁ…来世では真面目に婚活しよ。
そう心に決めたその時…
幸乃の視界は暗転した。