多磨の休日1
私は今ネットカフェに来ている、今日の目的は2シリーズの漫画を読むこと。全部合わせても20冊くらいだから1日で読み終えられるだろう。
あいうえお順に並んでいる棚の間を調べていくと、最初の一つを見つけた。
流石に私の生まれる前の漫画だけあって、絵は汚いというか古臭いというか・・・私はその本のとりあえず①~⑤巻までを手に取って自分のスペースに戻る。
さーて、内容はどんなのかな?
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数時間後、クロスロードのカウンターでは沙樹と話すタマの姿が有った。
多磨:「ちょっとあれは無いな~って思っちゃいました、明らかに物理法則おかしいし(笑)」
沙樹:「まあ漫画ですしね、でもビリヤードの漫画って他に全然ないから、ビリヤードにハマってる人はみんな知ってたりしますよ」
話の内容は今日読んだビリヤード漫画の話。
多磨:「昔の少年漫画のスポーツ物って、熱血魔球漫画ばっかりなイメージ有りますよね、野球でもサッカーでもやたらボールが燃えたり光ったり消えたりするし、あと人間を吹っ飛ばしたりコンクリートにめり込んだりとか『一体そのボールは何で出来てるの?』って聞いてみたくなる感じ(笑)」
今日読んだビリヤード漫画も「主人公が魔球を使ってライバルを倒す」みたいな内容ばかりだった。その魔球の内容が明らかに物理法則を無視していて笑っちゃう感じだったのだ。
多磨:「巻末に○○プロ監修とか書いてあっったんだけど、流石にプロの試合が本当にあんな感じってことは無いよね」
沙樹:「いやさすがにそれは無いですよー」
多磨:「だよね、でも悔しいのがジョークみたいな内容だって解るのに、結構面白くて最後まで読んじゃった事かなw」
沙樹ちゃんも読んだことあるみたいなので、その内容について盛り上がっていると入り口のドアが開き、ドアベルが澄んだ音を立てる。
「いらっしゃいませー・・あ、イツキさんいらっしゃい」
「こんちゃー、、ってタマ!?」
そこに現れたのはイツキさんだった、なにもそんな「げぇっ、多磨!」みたいに驚かなくても。
「ナニ?タマも練習に来たとか!?」
「私はネカフェ帰りですよ、今日読んだ漫画の内容を沙樹ちゃんに話したくて。イツキさんは練習ですか?」
「ゔ・・・まあ、この前アタシだけ勝てなかったし・・・」
なんか小さい声でごにょごにょ言ってるんですが、言っていいですか?
「何このカワイイ生き物!」
「今日はこのまま帰るつもりだったんですが、イツキさんが来たなら話は別です、沙樹ちゃん、私もレッスンお願いします」
私がそう言って立ち上がると、イツキさんは凄く微妙そうな顔をした。
「えー」
それとは逆に沙樹ちゃんは凄く嬉しそうな顔で、じゃあ二人とも次のレベルにいっちゃいますか!!ってノリノリだ。
そんなわけで今、私達は沙樹ちゃん先生の指導の下、45度以上角度のある、薄めのボールのシュートに挑戦していた。
「あーもうっ!入んない!!」
沙樹ちゃん先生のお題はサイドポケットへのカットシュート、角度は60度くらいだろうか、10球ほどチャレンジした後、そのことごとくを厚く外したイツキさんがイライラしたように言う。
沙樹:「前に言った角度のあるボールの狙い方を覚えてますか?」
イツキ:「覚えてるよー、的玉を走らせたい方向の真逆に当てればイイんしょ?ちゃんと狙ってるって」
沙樹:「多分イツキさんは当てたい場所に対して真っ直ぐ狙っちゃってるんですね」
イツキ:「そうじゃないの?」
「えーとですね」そう言って沙樹ちゃんはメモ用紙に絵を描き始めた。
沙樹:「コレが的玉でコレが手玉、狙う場所がココ、でそこを真っ直ぐ狙うとですねぇ」
「実際に当たる場所はココになるんですよ」
沙樹ちゃんがシャーペンの先でグリグリと絵に印をつける。
「あ、そっかぁ。手玉の幅って言うか大きさの分かー」
そう言って再び練習を始めるイツキさん。
「あ、なんかわっかってきたかも」たったあれだけの説明で明らかに狙い方が良くなってる気がする。
沙樹:「まあ後はひたすら慣れって言うか、感覚なんですけどね。よく言う例えで『一つの角度のシュートを5000回成功させたら、その角度のシュート率50%になれる』って言う位ですから」
「「5000回!」」
そう考えるとスポコン漫画の「勝負の前に特訓してパワーアップや新必殺技を編み出す」パターンもそうバカに出来ないのかな?
そう思いながら私も別のテーブルでサイドカットの狙いをつける、実はさっき沙樹ちゃん先生が説明してくれた内容は、ネットで調べて知っていた。そのせいで知識的にイツキさんより一歩リードしてたってところもあったんだけど・・・
「おりゃ!、、あ、今度は薄すぎ!?じゃあもっと厚く・・よーし入った!!」
イツキさんは実際プレイしながら技術を吸収していくタイプっぽい。
「むむ、負けてられない」
さっき言った狙い点に正確にショットするためのコツ、イメージボールを意識してショットする。よし、入った、これを繰り返して覚えれば!
今までは喋りながらワイワイやってた感じだったけど、今日は何だか部活の練習っって感じの雰囲気だ。黙々とショットを繰り返し、手玉と的玉の当たる音、ポケットされたボールがブーツゴムに当たる音、その合間に沙樹ちゃん先生ののアドバイス、それだけが響く。
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しばらくして沙樹ちゃん先生の声。
「じゃ、また最後に1回ゲームしましょうか」
「ゲーム、また隠し玉ですか?」
「よおぉし、今日は負けないかんね」
今までと同じく隠し玉かと思いきや「今日は『ネオ・ナインボール』をやってみましょうか」と言うお題が出た。
「ネオ・ナイン??」
イツキさんが訝しげに繰り返す、たぶんナインボールの一種なんだろうけど「ナインボールはまだ早いみたいな感じじゃなかったっけ」思わず口をついて出た言葉に、沙樹ちゃん先生が答えた。
「そうなんです。ナインボールはやっぱり1から順番に狙う関係で『次に狙わなきゃいけないボールが決まってる』って言うのが初心者には難しいんですよね」
「何しろ遠かろうが薄かろうが隠れていようがそのボールを狙わなきゃいけないんですから・・・・まあ、ある程度上達するとそこが面白いんですけど」
ニヤリと笑って一言付け足す沙樹ちゃんは喋りながら凄く楽しそうだ。
「そんなわけで、ネオ・ナインはナインボールの『直接9を狙うのは最後・9を入れた人が勝ち』と言う所はそのままだけど、それまでの1~8まではどれから狙ってもOKと言う、ストレスのない簡単ナインボールになります!!」
沙樹ちゃんが「ドヤァ」って感じで発表してくれるんだけど、イマイチぴんと来ない。イツキさんも同じようで「??」って顔してる。
「あはは、つまり本格的なナインボールをやる前に、お試しでどんな感じか雰囲気だけでもやってみませんかって事で」
「ん~、良く解んないけど、おっけ~。とりま沙樹ちゃんに聞きながらやってみればいいんじゃね?」
そんな沙樹ちゃんの言葉にイツキさんは前向きな返答。
私も特に反対する理由も無い。
「私もOKです、ちょうど今日読んだ漫画もナインボールだったし・・まあ参考にはならないだろうけど」
「絶対参考にならないですから(笑)」
笑いながら返してくれる沙樹ちゃんとイツキさんの居るテーブルに移動する、そして・・
「ちょお、アタシの事リムるの止めてくんない?」
なんか拗ねているイツキさんと、今日は「ネオ・ナイン」で勝負だ!!