隠し玉
戻ってきた沙樹ちゃんが持ってきたのはプラスチック製の壺のようなもの。沙樹ちゃんが軽く振って見せると中からカラカラと言う音がする。
「じゃあ今から隠し玉をやりまーす。ルールーは結構ファジーなんですけど、今回はハンデ無しってことでお互いの持ち球5個、外れ5個でいいかな」
そう言うと沙樹ちゃんは茶色の壺をアタシに手渡してきた。
「この壺の中に1~15までの数字が書いてある玉が入ってるんで、一人5個ずつ引いて、それでその数字を他の人に知られないように確認して下さい」
これビンゴとかで使う奴かな?
適当に壺を傾けると中から玉が出てくる。その玉は一部分がそぎ落とされていてそこに数字が書いてある、アタシが引いたのは1,2,8,12,15だった。
アタシはその数字を確認した後その数字が書いてある方を下に伏せてテーブルの上に置く。1,2,8,12,15.よし、覚えた。
今はタマっちが同じように壺の中の玉を引いて、こっちを気にしながら数字を確認している。
ヤバい、この「相手に知られてはいけない」って言う時点でなんかテンション上がってきた!!
そんな中沙樹ちゃん先生からのルール説明、って言ってもそんなに難しい事じゃ無かった。
つまりお互い1回ずつ交代で自分の持ち球以外のボールを狙ってショットしていく、ボールが落ちるたびに自分のボールが落ちたら申告、持ち球が減っていく、持ち球がなくなったらゲームオーバー、テーブルの上の残りのボールが最後の1球になった時自分のボールが生き残っていれば勝ち。
つまりビリヤード版バトルロワイヤル、自分以外のプレイヤーを全部殺せば勝ちのサバイバルゲームって事じゃん!
向こうではタマっちが「つまりこの持ち球がシューティングで言う残機とかRPGで言うHPみたいなモノって事ですね?」って沙樹ちゃんに話してる。その例えは良く解んないけど「相手を殺せば勝ち」とかメッチャ解りやすいじゃんw
「それじゃあ、ブレイクショットが上手く散らばらないと面倒な事になるんで、最初のブレイクは私がやりますね」
そう言って沙樹ちゃんが変な形のフィルムの様なモノの上に15個のボールを並べていく。15個ってビリヤードのボール全部だから結構な量だよ、これを1個のボールでちらばらせるのなんて出来んのんかな、ボーリングみたいにボールがでかくて重いのならともかく。
沙樹ちゃんはボールを並べ終わると、なんか常連さんとかのキューが置いてある場所から真っ黒なキューを持って戻ってきた。
「じゃあブレイクだけは私がやりますから、その間に先攻後攻を決めといてください」
ジャンケンの結果はアタシがパー、タマっちがグーでアタシの勝ち。
よーし先行取れた。
「じゃあブレイク行きま~す」
のほほんとした声とは裏腹に沙樹ちゃんの表情は真剣、軽く息を吐いて精神統一、素人目に見ても滑らかな動作でブレイクを繰り出すと、15個のボールで構成されたラックをブチ割った!
その小さな体のどこにそんなパワーが有るのかってくらいの迫力。「ズガーン」ってすごい音がしてボールが飛び散っていく、衝撃波みたいのが来た気がして思わず後ろにのけ反ってしまう。
「うわ、、沙樹ちゃん先生ヤバすぎ、軽く引くわ」
「引かないでよ!?素直に感心しようよ!!?」
ナゼか涙目になっている沙樹ちゃん先生が可愛くて笑えるw
今のブレイクで入ったのは2番と13番って!・・・え?いきなり2番死んでる!
しょうがないので申告「2番おちた~」2番の籤玉を表にして壺に戻す、13番は外れだったみたいでいきなり4-5とブレイクで差がついてしまった。こっちを見ながらニヤニヤしてるタマっち、チックショー。
でも私が先攻なんだよね、見ると私の持ち球じゃない14番が穴の前、簡単に入れられそうな場所にある。
じゃあとりあえずコイツを入れとこう。
アタシが14番をポケットすると、タマっちが悔しそうに14番を申告して壺に戻す。
よっしゃ!アタリだった! ヤバ、なにコレ超楽しい!
次はタマっちのターンで狙ったのは1番ボール、ヤバッって思ったけど外れ。
でも1番は穴前に残っちゃったから次で死ぬかも・・ぐぬぬ。
気を取り直して3番を狙う、「おりゃぁぁ!、、チッ、外れか」って外れたボールが何回かクッションに入って1番当たって1番が落ちちゃった、、、え?これって1番死んだことになるの?
沙樹ちゃんに確認したら有効だってさ。
「1番落ちました~」ってタマっちを見たら声を押し殺して笑ってやがる、肩が震えてるよ。
くっそー今に見とけ!!
右利きだと打ちにくいボールを、前テレビで見たみたいに背中越しに打とうとした。その時レールの部分に座る様にして打とうとしたら「片足は地面について無いとファール」だって。だけど理由を聞いたら納得した。
タマっちも「ノークッションファール」ってのを取られてた、初めて聞くルールばっかりだけど、何でそれがダメなのか、沙樹ちゃん先生は丁寧に説明してくれた、なるほどねー。
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それからさらにプレーを続けていきいよいよ残り3球。
そして手番ア・タ・シ♥
8番が私のボールなのは解っている、そしてさっきから解ってるんだよタマっち。
9番が動く度にすっごいイヤそうな顔したり、落ちそうになるとビクッてしたり、そんなんじゃバレバレだからw
9番がタマっちの残り1球なのは間違いないけど、ちょっと角度が有るし難しいかも。さっき沙樹ちゃん先生に教えてもらった狙いを再確認する「えーと、ポケットと真逆の方向に手玉が来るようにするんだから、だいたいこの辺」イメージボール?ってのを意識してじっくり9番を狙う。
「よーし、ここだ!!」
てぇい!と放ったショット、9番がコーナーポケットに何とか入って「いえ~い!アタシの勝ち!!!」っと思った瞬間、コールされる無慈悲な沙樹ちゃんの声。
「9番は・・・外れですね、タマさんの番です」沙樹ちゃんが外れの籤玉の最後の一つ、9番をオープンする。
「は??」
あっけに取られてタマっちの方を向くと、さっきまでは「キャー、止めって」て表情だったタマっちが不敵に笑っていた、その表情が雄弁に物語ってっている。
「掛かったな、アホが」
つまりさっきまで9番を入れられそうになった時のリアクションは全てブラフ・・つまり演技だったって事!?
「信じらんない!!性格悪い!」
タマっちが死刑宣告のように言う「まあ8番ですよねw」
手玉はさっきの練習配置とほぼ同じ様な配置、フォームチェック前ですらタマっちは6割成功してた、タマっちはフォームチェック時より更に洗練された構えで8番に狙いを絞って、8番をポケット。
ここで8番を仕留められたアタシが死亡。
最後に残った3番のオーナーであるタマっちが勝者となった。
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「もう一回!!」って言いたいところだけど、流石にそろそろ時間も遅くなってきたし、予算的にもこれ以上はムリ・・・
店を出た後悶絶する。
「うううぅぅぅ!!悔しいぃぃぃ!」
シュート率では大体同じ位だった「最後9番じゃなくて3番入れてたら勝ってたのにぃ!!」
あの時のタマっちの勝ち誇った顔が脳裏を過ぎる。
「掛かったな、アホが」
「ヤバい、超ムカつく(笑)」
もう酒井先輩とか関係ない、タマっちにリベンジを果たしたい、そう考えたアタシの心に有るのはうす暗い復讐心では無くて、もう一回タマっちとビリヤードしたいという楽しみだった。
「フッフッフー、タマっち、次は覚悟しろよ?」
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気持ちよかった・・・、
ゲームの途中から、このゲームは自分のボールがどれなのか相手に判らないというのがポイントなんだと思った、だから途中でちょっと小細工してみたんだけど・・
9番をポケットした後のイツキさんの、ドヤ顔が絶望に変わる瞬間のあの表情「あ、なんかマズイ。新たな世界に目覚めてしまうかも」と思ってしまうくらい楽しかった。
でもあっちはスクールカースト上位の殿上人、こっちはスクールカースト下位の陰キャだし、今回は相手がドタキャンに会って偶然ご一緒しただけだし、もうこんな事は無いよね。
でも楽しかったな。
帰り道、ちょっと残念に思ってしまった。
隠し玉のいい所は2~5人くらいまで何人でも出来るところですね、特に初心者同士のパーティーゲームとしておすすめです。壺は店の人に聞けば貸してくれると思いますし、無かったりネットカフェの場合はトランプのカードとかを引いて代用できます。