沙樹ちゃん先生のファーストレッスン
鉛筆書きですがちょっとしたカットを入れてみましたw
「じゃあお二人ともビリヤードの経験はほぼ無しと言う事ですね?」
「そうでーすっ」
「一応、基本的な事はネットで見たけど、実際やるのは初めてです」
「了解です、それじゃあまずブリッジの組み方ですけど、人差し指と親指で輪を作ってそれを中指の腹に・・・」
沙樹さんの説明を聞きながら左手でブリッジを作っていく。
どうしてこうなった(15分ぶり2度目)
ゲームイベントの様なシックで大人の雰囲気を味わうために、わざわざネットカフェじゃない本当の『ビリヤード場』に来たはずなのに、なぜか同級生三人とミニビリヤード教室を開いている私。
しかも沙樹さんの身長や雰囲気から、完全に「少年少女ビリヤード教室」の雰囲気が滲み出ていて、大人の雰囲気とはまるで正反対だ。
一応周りに大人の人も沢山いるけど何か普通のおじさんばっかりだし、「薄暗い店内にテーブルの上だけ明るい照明、バーカウンターの後ろに並ぶウイスキーの瓶、漂う煙草の煙」と言ったイベントスチルになりそうな雰囲気は全くない、まあ実際そんな雰囲気だったら入れないだろうけど。(バーカウンターは辛うじて有るけどお酒を飲むというより食事処兼休憩所って感じだ)
ビリヤード教室は進んで行き、一通りキューやチョークなどの器具の説明からブリッジの組み方までを終え、基本フォームの話になった時にイツキさんが「早くボール打ちたい」と言い出した。
沙樹さんは「じゃあちょっとこの配置を入れてみましょうか」とテーブル上にボールを配置する。
「いやさすがにコレは舐めすぎっしょ??」
イツキさんは自信満々、正直私から見ても凄く簡単そうに見える。確か基本練習としてネットに載っていたセンターショットっていう練習ですらもっと距離が有ったと思う。
「ふふふー、そう見えますよねぇ。でも初めてでコレが50%、そうですねぇ・・10球やって5球入ったらセンスあると思いますよ?」
「じゃあイツキさんから交代で10球ずつやってみましょうか」
「りょー!まあ余裕っしょ」
イツキさんが構えに入る。口は強気だけれど、何だか構えに安定感が無い・・しばらくピコピコとキュー先をストロークさせた後「おりゃ!」と言う掛け声と共に打ったボールは1番にを元気良く弾いたけれど、1番はポケットから外れ、クッションに跳ね返る。
「あれぇぇぇl!?うそ、ありえないんだけど(笑)」
何が面白いのかイツキさんは爆笑している。
次は私の番、見た目より難しいって事なんだろうか?慎重に手玉を撞いてゆっくりと転がす、1番に当たると1番はポケットに向かいそのまま転がり落ちた。
「ナイスショット」沙樹さんが小さく拍手してくれ「え!?マジ?タマっち上手い」イツキさんも褒めてくれる、正直悪い気はしない。ふふふ、実は才能有ったりして。
それから交互にショットしていった。イツキさんは相変わらず引っぱたく様に強いショット、10球中4球ポケット、シュート率はあまりよくない。私は上を撞いて慎重に転がすようにショットして結構いい感じにポケット出来ていた。
「ぐぬぬ」イツキさんの悔しげな顔にちょっと優越感を感じつつラスト10球目、これを入れれば10球中7球、シュート率70%だ。そんな事を考えながらキューを振ると「カシュッ」と言う音と共にキューの先が手玉に乗り上げた。
キューの上に乗り上げそのまま止まっているキュー先、その光景を見た沙樹さんがポツリと呟いた。
「『ちょんまげ』ですね・・・」
「ぶはっっつ!」
一瞬の静寂の跡、イツキさんが吹き出した。
「ちょwwwんwwまwwげwwww、何ちょんまげって!?チョーウケるんですけど!!」
手玉が人の顔だとすると、その上に棒状のものが乗っかってるから「ちょんまげ」か、なるほど。
言いえて妙だとは思うけど「・・イツキさん流石に笑いすぎ」
「ゴメン、ツボった、ははははは」
イツキさんは笑いの沸点が低い。沙樹さんも半笑いだけどそこは先生、「ちょんまげを含めて、キュー先が手玉を捕らえきれなくて滑ってしまう事を『キューミス』って言うんですけど、それを防ぐにはしっかりチョークを塗る事、これが大事です!出来れば1球ショットする毎に塗り直した方が良いです」
そう言いながら沙樹さんは慣れた動作で、キュー先にチョークを塗って見せた。
キュー先を小指と薬指でホールドして、残りの3本の指で持ったチョークを「シュッ、シュッ」っと塗っている様子は中々サマになっていてカッコいい。
そうそう、私はこういうカッコいいのが見たくて来たんだよ!!
「へー、チョークの穴に先っぽ入れてグリグリするんじゃないんだー、って言うかそっちの方がカッコいいねー、でもチョークみたいなサラサラの粉付けたら余計滑るんじゃね?」
笑い終えたイツキさんの疑問に沙樹さんは、タップにチョークの粒子が刺さって摩擦がどうとか説明している。
「まあ、あれですよ。野球のピッチャーってロージンバックで手に白い粉付けるじゃないですか、あんなようなもんだと思ってくれれば」
思ったんだけど、沙樹さんってよく物を野球に例える。ついさっきも、「野球だって初めてだと近い距離のキャッチボールから始める、いきなり遠投はしない」とか言ってたし。イツキさんも思ったようでズバリ言いやがりました。
「沙樹っち例えがオヤジ臭いww」
「・・・・お、オヤジ臭い!?」
ショックを受けている沙樹さん。
イツキさんの声のボリュームが大きかったせいか、周りのテーブルの大人のお客さんから笑い声が起きる。「沙樹ちゃんはその見た目で中身オヤジだからなあww」とかヤジが飛び、店の中が笑いに包まれた。
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しばらくして立ち直った沙樹さんが、スマホ画面を私たちに見せてきた。
「これがはさっきお二人に10球ずつ撞いてもらった時の動画です」
私たちが、交代でショットしている所を沙樹さんはスマホの動画で撮っていた。ちなみに私が10球中6球成功、イツキさんは4球成功で、勝ち負けで言えば私の勝ちである(ニヤリ)
それには当然、私達が実際ボールをショットしている際に、端からどう見えているかが映っていた訳だが、一言で言うと『カッコ悪い』それに尽きる。
イツキさんが打っている間それを見ていたので、何となく自分もそうなんじゃないかと言う気はしていたけど、まさに予想通りだった。
逆にイツキさんは自分ではイケてると思っていたらしく「え!嘘、これアタシ!?」と、ショックを受けている。
私たちの構え方やショットは、何て言うかもう「THEへっぴり腰」と言うのがピッタリだった。スタンスが安定してなくて体はグラグラ動くし、中途半端な中腰がアヒルみたい(しかもイツキさんはスカートが短いので角度によっては際どい感じだし)ストロークも何だかブレブレで他のお客さんとは全然違う。
その動画を見せられた上で、沙樹さんが言った
「正しいフォームを身に着けるのはシュート力を安定させるのも有るけど、何より正しいフォームは『カッコイイ』んです!!」
力のこもった主張である。
「ソレ!超重要!!、そしてさっきの動画は消そう!」
両手で沙樹さんを指さしながら即同意するイツキさん。サラッと黒歴史になりそうな動画の削除を要求するのも忘れない。
じゃあちょっとフォームチェックやっちゃいましょう。
沙樹さんは、イツキさんの良い所として「女の子にしてはしっかりと力強いショットが出来る事、逆に良くない部分としてショットの瞬間目をつぶって頭が上がる癖が有る」と言う所を指摘。
私はその逆で「正確に撞こうとするのは良いけど、ちょっとショットが弱すぎるのでちゃんと振れるようにしよう」と言う課題をくれた。
同級生とは思えない位見た目幼いのに中々よく見てる、何だか「沙樹ちゃん先生」って感じだ、うん、これからはそう呼ぼう。
そして始まったフォームチェック、文字通り手取り足取り教えてもらう訳だが「痛い!沙樹ちゃん私の腕そっちには曲がんない!」「多磨さん体固いですね~、後身長に対して台が少し高いですかね」とか私が苦労している横で、「んー、こんな感じで後もっと屈めばいい?」イツキさんはあっさりとカッコいいフォームが出来ていた。
まあ私の身長が154cmなのに対して、イツキさんは170近く有りそうだし、その分足も長いからやりやすいんだろう。身長に関して言えば沙樹ちゃんの方が‥と思ったらよく見ると沙樹ちゃんは凄い厚底の靴を履いていて、それで台の高さを克服していた、ズルい!
そんなやり取りをしているとイツキさんが言った。
「あ、でもこれキュー振る時、胸がすっごい邪魔なんだけどどうすればいい?」
「胸が邪魔になる?」
自分がフォームチェックを受けていて、ソレが気になった事は全く無かった。っていうかこんな漫画みたいなセリフ、実際に聞くことあるんだなあ。
沙樹ちゃんと目が合う。
目線を少し下げる。
平らだった。
少し親近感を感じた。
沙樹:「あーその辺は私は良く解んないのでアドバイスできないですねー(棒)」
うん。心の中で沙樹ちゃんに同意しておいた。
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それからしばらくフォームを気にしながらショットの練習、狙い方のコツなんかを教えてもらっているとそれなりの時間が経過した、元々2時間ぐらいの予定なのであと20分くらいと言った所で、沙樹ちゃんから1つの提案。
「じゃあせっかくなので、最後に二人でゲームをしましょう」
「「ゲーム!?」」
「もしかして9ボールとか?っていうかそれ以外知らないし」
私もそれしか知らない、と言うか9ボールも細かいルールとか知らない。
「確かに1番有名なのは9ボールですかね、でもあれは結構難しいので初心者だと時間もかかるし、中々シュートが決まらなくてストレスも溜まるから。今回はもっと簡単で何人ででも出来る、遊び要素の強いゲームにします」
「そのゲームの名はズバリ『隠し玉』今準備するからちょっとまってて下さいねー」
そう言うと沙樹ちゃんは、何かを取りにカウンターの方に向かった。
「聞いたことないけど、初心者向けのゲームなら大丈夫なんじゃない?何かコツつかめてきた気がするし」
そう言ってこっちにに笑いかけてくるイツキさんは相変わらず自信満々だ。しかーし、最初の練習では私の方がシュート率良かった訳だし。
「なんかちょっと楽しみになってきましたね」
私がそう返すとイツキさんは「そう来ないとー、ヤバ、メッチャ楽しみ!」と言って挑発的に笑った。
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以前使っていた配置図ソフトは使い勝手良かったんですが事情によりお亡くなりに。新しいソフトは配置図は作れるんですが、矢印を引いたりする機能が無いため、PCに送ってからマウスで手書きと言う情けない事になっています。ご容赦下さい。