プロローグ・猪熊五姫
「酒井先輩ってビリヤード好きらしいよ」
友達の一人から聞かされた情報、酒井先輩と言うのは1コ上の先輩でインドア系のイケメン。
前に「うちの学校でイケてる男子は誰か?」って話題になった時アタシが名前を上げた先輩だ。
アタシと先輩は全然違うタイプだし、先輩は合コンとかに参加するようなタイプでも無いから、どうにかなるとも思えないけど。
ビリヤードねぇ。
「ねえねえ、話し合わせるためにチョットやってみる?」「やっぱり共通の話題がさぁ」
大体こういう話は本人以外が盛り上がる、まあアタシも人のそういう話で盛り上がるのはスキなのでメッチャわかるけど。
___________________
「うわ、やりやがった」
今入ったLAIMには「ごめーん、コー君に頼まれごとされちゃって行けなくなった~」と言う文章と「ゴメンね」っという可愛いスタンプが表示されている。
「やっぱり友情より男か、まあそりゃそうだよねー」
半ば強引に誘われたビリヤード場の駐車場、ドタキャンで一人ぽつんと考える。
「どーしよっかなー・・今から他の子に連絡してもなぁ?」
考えていると、店に入っていく一人の女の子が見える。その子には見覚えがあった。
「あの子同じクラスの・・・名前なんだっけ?」
廊下側後ろの席で、一人で本を読んでいるイメージしかない。しゃべったことも無かった思う。
えー、マジ?あの子がビリヤード場に一人でとか意外過ぎるんですけど!
ハッキリ言って似合わない、意外過ぎる組み合わせに興味を持ったアタシは、後を追ってそっと店に入り中の様子を伺った。
と、小柄な店員と目が合う。
何か見た事ある、確か隣のクラスだったような?やっぱりこれだけちっちゃいと目立つから。
こうなると回れ右してすぐ出ていくというのも気が引ける、少し話した結果分かったのは空いているテーブルが1つしか無い事、それに対してお客が二人。
「おんなじ学校だし、一緒にやったらどうですか?」
「すいませーん、相席お願いしまーす」みたいなノリで店員の子が提案してきた。
先に入っていたクラスの子は「無理!!」って感じの表情で固まっている。
なんだよー、そんな嫌がらなくてもイイじゃん。興味半分、意地悪半分。
「え~!?マジそれ良いかも!、確かおんなじクラスの人っしょ?いいじゃん、いいじゃん」
強引に話を纏める。
ツレにはドタキャンされたけど、コレはこれで面白い事になりそうな予感!!
_____________________
その子の名前は百合園多磨って言うらしい。
いいなー、アタシなんて猪熊だよ、猪熊。マジ無くない?と思ったら、百合園サンは百合園サンで自分の名字嫌いみたいね、まあ確かにぎょーぎょーしいと言えばそうかもしんないけど、猪熊よりはマシじゃない?
そんで、「名前でいい」って言うから名前で呼んでみた。
じゃあ「タマ!」
「プっ、くくく、タマっ、タマって」
イメージされるのは、白い猫。ヤバいツボった。いや可愛い、可愛いんだけど!
流石に笑いすぎたのか、タマっちが冷たい笑顔でこう言った。
「五姫さんも・・ちょっともじってニックネーム風の方が可愛いかな?、五姫さんとかどう?」
ゴ・・ゴキ!?
うわ、今気づいた!アタシの名前って読み方しだいじゃゴキになるじゃん、ヤバっ!名字が猪熊で名前がゴキとかマジ最悪、そんでこれってツレの前で呼ばれたら大爆笑される奴!!
真っ青に引き攣ったアタシはひたすらタマっちに謝り倒した、名前でからかわれる嫌さは良く解るんでマジ反省した。
タマっちも本気で怒ってる訳じゃ無かったみたいで、おかげで何か良い感じに仲良くなれそうだった。
って言うか、もっと暗くて喋んない子なのかと思ったけど結構言うなぁ、面白いかも。
「準備できましたよー、どーぞー」
沙樹ちゃんが呼んでいる。
ツレにドタキャンされた時点で帰ろうかとも思ってたんだけど、せっかくなんでもうチョット遊んでいくことにした。
タマっちも緊張が解けたのか、最初ほど嫌がってない・・と思う。
そんな感じで、ビリヤード場に来た当初の目的などすっかり忘れてアタシはテーブルに向ったのだった。