彩5
走り終わった僕らが、日陰で休んでいると、とたとた、女子が走ってきた。
その顔が、
一瞬、彩に見えた。
「元原先生、」
死んだよ、とその唇が動いた。
僕らは、(クラスの男子は)少し、考えた。
そして、(空気を読んだ)僕が皆を代表して、
「もう一回、言ってくれる?」
とその子にいった。
元原先生は、本当に死んでいた。
硬いコンクリートに叩きつけられた箇所は、原形を留めておらず、
顔に至っては、(恐らく)眼球やら頬の肉やらの飛沫が、毒々しさをました血の海の中に飛び散っていた。
それでも、それが元原先生だとわかったのは、彼がいつも首にかけていた、ネックレスが、その死体にもかけられていたからである。
血液検査はまだだったが、身につけている服とアクセから、ほぼ間違いない、とされたが。
警察の判断は、自殺の可能性が高い、だった。
新任で、ストレスが溜まりやすい職場に、嫌気がさした。
というのが見解だった。
僕らは、そうは思わなかった。
彩、がやったのだと。
そして、その確信が、僕を苦しめていく。
これは、彩がやったんじゃない。
そう言えない臆病者は
教室の隅に膝を抱えて、現実から逃げ出した。
その日から、彩は学校に来なくなった。
何日、何ヶ月経っても、僕の横はぽっかりと、空いたまま、無言で陳列していた。
それでも、クラスメートは彩を忘れなかった。
本来、忘れるべき存在の筈の彼女を、恐らく全員が覚えていただろう。
語弊が、あるから訂正しよう。
クラスメートは、忘れられなかった。
忘れたくても、それを許されなかった。
なぜなら、僕が、皆に彩を忘れないようにしたからだ。